【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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パイルバンカーと血薔薇の杖

 これは、後にウィズの口から聞いた話。

 

「『魔導博士』の血統にとって、『魔導博士』という二つ名は、実のところ忌み名に近いんです」

 

 とある静かなひと時に、ウィズはこんな風に語りだした。

 

「本来、このコンスタンティン王国にとって、独自の魔法とは研究や開発の対象ではありません。血統の中で、連綿と鍛え上げるものです」

 

 その話は、別の人から聞いたことがあった。

 

 ウチの領地のお姫様。『小さな要塞』の血統の少女より、同じことを語られたのだ。

 

「その意味では、『魔導博士』とは、『血統の中で独自の魔法を確立せず、魔導兵器の開発を主とする異端者たち』という意味があります」

 

 故に、『魔導博士』は忌み名となる。血統の義務をはき違えた愚か者。そういう性質を現した二つ名だからだ。

 

「でも、そんな忌み名としての側面がすべてであったのは、二十代前までの話」

 

 ウィズは語る。

 

「『魔導博士』の血統の女は、忌み名の下に歪みました。他貴族から向けられる嘲り、鬱憤。私みたいに陰気で、人道に重きを置かず、研究以外に興味のない女が増えました」

 

 いわゆるマッドサイエンティスト的性質。そういったものを、『魔導博士』の血統は受け継ぎ始めた。

 

「この二つ名が全国に広がったのは、この血統のご先祖様が、とある戦争で、()()()()()()敵軍数千人を鏖殺した、二十代前、大体五百年前のこと」

 

 ウィズは、感情の窺えない頬笑みを浮かべて、こう続けた。

 

「それ以来、『魔導博士』の血統は、警戒と期待の目で見られるようになったんです―――」

 

 

 

 

 

 ウィズはバラを構えて、こう言った。

 

「啜れ、滴れ。そして、花開け――――血薔薇の杖(ブラッド・ローズ・ワンド)

 

 ウィズはバラの茎を握った。

 

 バラ。その茎には棘がある。棘だらけの茎だ。握れば当然、痛みが走る。手のひらに棘が刺さり、血が流れる。

 

 ウィズの血が、バラの茎を伝い、地面へとしずくを落とす。

 

 その、血と地面の接触の瞬間に、おどろおどろしい深紅の魔法陣が、接触点を中心に広がった。

 

「っ!? ウィズ、これは」

 

「私が開発した魔導兵器、血薔薇の杖です。未完成品なので、ちょうどゴブリン程度しか殺せませんが……ゴブリンなら、例え何十匹居ても殺し尽くせます」

 

 その言葉に、俺はゾクリとくる。っていうか、兵器って言った? 兵器ってどういう事?

 

 しかし、そんなことは知ったことではない奴もいる。

 

「そこまでの大口を叩くなら、この森中の手下を戦わせてやるよォ!」

 

『ギィー!』

 

 知性オークの号令を受け、茂みから、大量のゴブリンたちが飛び出してきた。

 

 ざっと見て、二十程度の数のゴブリンだ。しかも、茂みに隠れたまま隙を窺う気配も残っている。この感じなら、五十を超える数を従えていても不思議じゃない。

 

「マジかよ。思ったより大物か? お前」

 

「おれはこのオークの森の主だァァアア!」

 

 襲い来る石斧。それに俺は集中し、鋭く息を吐くと共に刀で受ける。

 

 捌き。

 

 キィン! と刀で石斧の側面を押し、その一撃を無力化する。「何だァテメェェエエエ!」と知性オークはブチギレだ。

 

「っ! テクト君、刀一本で、今のを受け流せるんですか……!?」

 

「母さんの一発に比べたら軽い軽い! いいから、ウィズは魔法!」

 

「はっ、はい!」

 

 ウィズは深呼吸する。そして血薔薇の杖を握り、詠唱を始める。

 

「第一の花言葉、『あなたしかいない』」

 

 その魔法の効果は、劇的だった。

 

 対象は、俺とウィズを除いた、魔法陣を踏む者すべてだった。ゴブリン七体に、知性オーク。

 

 その足元から、とてつもない勢いで真っ赤な極太の茨が生え伸びる。

 

「ギィっ!?」「ギギャッ!」

 

 ゴブリンは、その攻撃にひとたまりもなかった。小柄な体躯を握りつぶすように、茨がゴブリンに巻き付き血を搾り取った。

 

 オークは、ダメだった。片足の太ももまで思い切り巻き付いたが、大きく血を流させる前に、「邪魔くせェッ!」と蹴り払われてしまう。

 

 だが、目的はオークじゃない。ゴブリン相手は一網打尽なら、完璧だ。

 

「ナイスだ! ウィズ!」

 

 これを繰り返せば、ゴブリンたちは近づけない。オークの隙も作れる。

 

 そう思っていたら、ウィズは言った。

 

「いいえ。これだけでは止まりません」

 

 潰されたゴブリン七匹の足元に、その血が垂れる。血が魔法陣に変化し、更に広範囲を魔法の範囲に捉える。

 

 そうか。この魔法、犠牲者を糧にして、拡大するのか。

 

 俺は戦慄する。

 

 何という燃費、何という拡張性、―――何という、殺意!

 

 こんな恐ろしい魔法が、先祖代々のモノでなく、ウィズ一人のものと言うのだから恐れ入る。改良を繰り返せば……いずれ都市の一つでも落とせてしまうのではないのか?

 

「チィッ! 妙な技を! ―――ゴブリンどもッ! 先にザコオスを殺すよォッ! 挟み撃ちにしちまいな!」

 

「ギギィッ!」「ギャギャギャ!」

 

 知性オークが正面から大降りに石斧を振りかぶり、背後からゴブリン数匹が迫る。

 

 本来ならば、まずい状況だ。俺一人なら逃亡一択。

 

 だが俺は、すでにウィズに背中を預けている。

 

「第二の花言葉、『この世界には、あなたと私二人だけ』」

 

 十匹を超えるゴブリンが、血の茨によって絞り潰される。再び血の魔法陣が展開され、視界外にも拡大していく。

 

「何ぃぃいいいいいい!?」

 

 振り下ろされた石斧を、やはり俺は捌いた。返す刃で、オークの横のゴブリンを一刀両断にする余裕すらある。

 

「ウィズ! すごいなこの魔法! オーク! もっと魔法陣の上にゴブリン呼べよ! 一気に殺し尽くしてやる!」

 

「クソッ! クソクソクソッ! ゴブリンども! 逃げな! あの魔法陣を踏めば、あんたらなんか一網打尽だよォッ!」

 

 知性オークの号令を受けて、ゴブリンたちが一斉に退いていく。

 

 ウィズが、「っ」と歯噛みした。

 

「ごめんなさいっ、テクト君! 魔法陣を踏んでる相手にしか、血薔薇の杖は届きません! これでは、ゴブリンたちはッ」

 

「いいんだよ、ウィズ! ゴブリンたちが邪魔だったんだ! 知性オークが一人になるのを待ってたんだ!」

 

 言いながら、俺は魔石を仕込み、パイルバンカーの魔法回路を起動した。

 

 パイルバンカーの周囲に、火花が散る。火炎が内燃機関で吹き荒れる。火が燻り、発射を今か今かと待ち焦がれだす。

 

「なっ、何だぁそりゃあ! どういう、く……っ?」

 

「オーク、お前そんな血だらけでよぉ、長々と戦ってご苦労様だよなぁ! 石斧までぶんぶん振って―――そろそろ血が足りなくなってくる頃じゃないか!?」

 

 オークの体が、ガクンと傾く。四肢に力が入らず、よろめき出す。

 

「な、ザコ、オス、お前、それが目的で、おれを煽って」

 

「ああ、そうだ! 一発しか撃てない必殺技を、ゴブリンに撃つわけには行かないからな。ゴブリンの邪魔を引きはがす必要があったんだよ」

 

 俺はオークに踏み込む。オークは石斧を振るうが、今まであった勢いは失せ、俺は歩法一つで回避する。

 

「俺の思う通りに動いてくれて、ありがとよ! ―――さぁ、一発行くぞォッ! 食らいやがれッ!」

 

「やっ、やめっ、やめろぉおおおおお!」

 

 オークは石斧を落とし、素手で抵抗しようとするが、もう遅い。

 

 俺は拳を握りこみ、一撃を叩き込む。

 

「パイル、バンカーぁぁああああ!」

 

 パゴォォオオオオオン! と軽快な金属音が響く。空中に火炎の花が咲く。

 

 発射口から豪速で放たれる杭。そこからあふれ出す火炎。

 

 杭の直撃はオークの胴体に、さらに大きな穴をあけ、火炎が周辺の肉を炭化させる。

 

 知性オークの体は、まるで軽石で出来ているかのように、森の中で砕け散った。

 

「ギィっ!」「ギャーギャー!」「ぎぎぎっ、ギャギャッ」

 

 その、あまりの威力に、ゴブリンたちは恐れをなして逃げていく。知性モンスターの統率を失った、というのもあるだろう。

 

 俺は腕を振るう。パイルバンカーの中に燻っていた火種が、宙に舞い消える。赤熱した杭が、鈍色に戻っていく。

 

「ふぅ、これで一件落着ってところかな」

 

 高純度魔石で慣らしを終えた以上、あとはゴブリン程度のモンスターの魔石でも、パイルバンカーを打つことができるようになる。これにて完成、というところだ。

 

 俺は杭を引っ込めてから、声をかける。

 

「ウィズ! 大丈夫か?」

 

「は、はい! テクト君も、大丈夫ですか?」

 

「ああ、こっちは完璧だ! パイルバンカーも完成! 敵も全員散っていった!」

 

 俺は満面の笑みでウィズに近づいていく。ウィズも緊張が解けて、こちらに歩み寄ってきた。

 

 そこで、ウィズが顔色を変える。

 

「てっ、テクト君!? そんなっ、け、怪我してるじゃないですか!」

 

「えっ、どこ?」

 

 俺は全然気づいてなくて、身をよじる。胴体からぴゅっと血が噴き出る。そこかぁ。

 

 多分、どこかでゴブリンの投げ道具がかすりでもしたのだろう。傷も浅い。

 

「ま、この程度の傷なら、唾つけときゃ治る治る……ウィズ?」

 

「う、うぅ、ううぅぅぅうう……!」

 

 しかし、ウィズはぎゅぅうとこぶしを握り締め、歯を食いしばり震えだす。

 

「自分で自分が、情けないです……! 私が、弱かったから。もっと早くに覚悟を決めていれば、こんな怪我をさせる事はなかったのに……!」

 

「あの、ウィズ? 俺も喰らった瞬間覚えてないような小さな傷だし、全然気にしなくていいんだけど」

 

 俺が苦笑気味に言うと、ウィズは顔を上げる。

 

 そこには、悔し泣きにポロポロと珠のような涙をこぼす、ウィズの泣き顔があった。

 

「……ウィズ」

 

「女は、男の子を守って、当然なんです。そんなことできて当たり前、やって当たり前で、全力で男の子の望みを叶えなきゃいけなくて、それだけ男の子は大切な存在で、なのに」

 

 ウィズが、ぎゅっと目をつむる。

 

「私は、私はテクト君に、守られてしまって。女なんだから、守らなきゃいけないのに」

 

「……。……いいや」

 

 俺は男泣きならぬ女泣きするウィズに、言葉を紡ぐ。

 

「守ってもらったよ。あの量のゴブリンたちは、俺の手には余った」

 

「でもっ、オークはテクト君がいなければ、私じゃ勝てませんでした!」

 

「ならさ」

 

 俺は、肩を竦めて笑いかける。

 

「お互いに守り合って、どうにか無事に勝てたってワケだ。なら、それが一番いいじゃん。だろ?」

 

「あ……」

 

「ほら、そんな泣くなよ。女の子の涙に、男は弱いんだ」

 

 俺はウィズの涙を拭う。それから手を取り、立ち上がらせた。

 

「ほら、帰ろう。思ったより大冒険になっちゃったし、早く帰らないと寮の夕飯に遅れるぞ」

 

「あ、うん、……はい。でもその、保健室には行った方が良いと思います」

 

「飯食ったら治るだろこのくらい」

 

「えっ!? い、いや、ダメですよ? 保健室には絶対行ってくださいね!?」

 

 そんな風にやり取りしながら、俺たちは歩き出す。

 

 夕暮れに沈むオークの森を抜けると、真っ赤な夕暮れが、俺たちの帰路を赤々と染めていた。




オリジナル日間1位及び週間1位ありがとうございました!
この手のランキングで一位を取ったのは人生初めてだったので、大大大大大感謝です! 愛してるぜみんな!

次話で一章は完結、そのまま二章に突入予定ですので、是非まだまだ楽しんでいってください!

次は月間1位目指して頑張りますので、お気に入り、評価もよろしくお願いします!!!!!
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