【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
ここ最近、パンテラと共に、グリーディアの秘密倉庫を荒らしまわっていた。
幹部襲撃、その幹部を尋問、そして管轄の秘密倉庫襲撃、という流れだ。それを毎日繰り返して、幹部たち襲いまくり、複数の秘密倉庫荒らしまくりで大暴れの日々である。
そんな風にしてパンテラと秘密倉庫を漁った、帰りの事だった。
「いやぁ、今日も順調だったねぇ! 指名手配されてたって聞いたから構えてたけど、今までとさして変わらなかったじゃないか。んー?」
「いや、一応手練れっぽいのはいたぞ。パンテラの腹パンで沈んでたけど」
「ああ、確かにあいつには『啓示』を使ったね。その分手加減もしたけど」
「啓示?」
そんなことを話しながら、俺たちは人目の付かない森の中の獣道を歩いていた。
倉庫を襲った帰りは荷物が多いから『グラップルで高速帰還!』とはいかないのだ。それでえっちらおっちら、俺たちは獣道を進んでいた。
そうしていると、森の中でも開けた場所に出る。と何の気なしに歩み出ると、月明かりが木々に遮られることなく、俺を照らし出した。
「へぇ、こんな場所があるのか」
「ほー、良い場所だね。お貴族様が、ひそかにピクニックなんかに使ってそうだ」
俺に続き、パンテラが足を踏み入れる。それから「軽く休憩して行こうか」と荷物を置く。
「にしても、今日も鮮やかな動きだったねぇテクト。あたしも多くの悪党と組んできたが、女でもあんたほど動ける奴は居なかったよ」
「そりゃあそうだ。並の女の子に負けてるようじゃダメだからな」
「へぇ? 女勝りだねぇ。誰か勝ちたい女でもいるのかい」
「いや、勝ちたいなんてのはない。ただ俺は『女の子を守れる男』になるのが目標だからな」
「はぁ? ……ぷっ、妙なことを言う子だよテクトは」
くっくっく、とパンテラは喉で笑う。そんなパンテラに、俺も言う。
「にしたって、パンテラも流石の大暴れだったじゃんか。拳一つで建物を半壊させやがって」
「ま、これでも凄腕で通ってるからね」
「実際、アレはどうやってるんだ? ほとんど爆発が起こってるだろアレ。爆弾でも握りこんでるのか?」
と言いつつ、そうではないだろうとも思っていた。爆弾を握りこんで殴りつける、だなんて手が爆散して終わりだ。しかしパンテラの拳には、傷一つない。
聞くとパンテラは「ああ、そう言えばまだ教えてなかったね」と呟く。
「そうだねぇ、そろそろ教えておこうか。あれは―――」
その時だった。
「……ん?」
少し離れた場所。森とこの開けた場所の境目あたりに、ふと俺は人影めいたものを見た。
「ん。テクト、どうかしたかい? 今からあたしの秘密を話そうって時に」
「いや、何かそこに見えなかったか?」
「何かって何だい。追手がここまで来たって?」
「いや、分からないんだけどさ。何ていうか―――」
余裕ぶって笑うパンテラに、俺は見たままの印象を呟く。
「幽霊、みたいな」
「ひぅっ」
「え?」
俺はパンテラとは思えない高い声を聞いて、振り向く。
すると、パンテラが真っ青な顔をしていた。
「……パンテラ?」
「い、いや? 別に? 幽霊とか怖くないけどねぇ?」
「いや、完全に怖がってる奴の反応じゃん。っていうか、本当の幽霊というより」
「幽霊!!??!??! どこっ!? どこにいるってんだい!?!??!」
「落ち着け」
パンテラは瞬く間に俺に抱き着き、必死に周囲を見回している。デッカイおっぱいがぎゅうぎゅうと押し付けられている。うおお圧力。
と思っていたら、パンテラが叫んだ。
「ひぃっ、ゆっ、幽霊! 幽霊が出たァッ!?」
「はっ? どこだ!」
「あっち! あっちぃぃいいい!」
パンテラが俺に、必死に抱き着いて、震えながら全力で指さす。
しかしそこには、何もいない。
「……パンテラ、幽霊はどこに立ってた?」
「えっ!? ひぃっ! いない! ゆっ、幽霊だ! 逃げ、逃げる、逃げるよテクト!」
「答えてくれ。どこに立ってた?」
俺はあくまで答えに執着する。するとパンテラは、涙目でこう言った。
「そっ、そこ! あたしが砕いた岩の欠片の辺り!」
それを聞いて、それが森の近くであると確認して、俺は動いた。
「なら、今だな―――メイ、起きろ! 刀だ!」
『っ!? 分かった、ご主人!』
俺の大声で覚醒したメイが、指輪から明鏡止水、刀の姿に変化する。俺は素早く背後に刀を振るい、
ギィンッ! と金属音が響く。背後から迫っていた『幽霊』と鍔迫り合う。
「なっ、敵かい!?」
「チャミーに聞いた通りの刺客だな、『幽霊』! らぁっ!」
俺が刀の横から前蹴りを放つと、素早く手で受けて、『幽霊』は吹っ飛び後ずさる。
「……」
『幽霊』はフードを目深にかぶり、俺たちをじっと観察しているようだった。
俺は、それに違和感を覚える。何か妙だ。俺に不意打ちを成功しかけるだけなら、かなりの手練れと言うだけの事。
だが、それだけでない何かを、俺は感じていた。明鏡止水を構えながら、息を吐き出す。
「パンテラ、あいつは最近噂になってる賞金稼ぎだ。あだ名は『幽霊』。見た通り神出鬼没な奴らしい」
「……そりゃあ、厄介だねぇ。正面から挑んでくる手合いよりも、どうにかして隙を突こうって奴が手ごわいってのは、あんたら姉弟で学んだよ」
ぴく、と俺は眉をひそめる。引っかかる。『幽霊』の戦い方。パンテラの言葉。
幽霊は得物をフードの中にしまって、手を隠そうとする。武器の種類も、そのリーチも見せないという事らしい。徹底した暗殺者スタイルだ。
じり、と睨み合う。お互いに呼吸を隠す。呼吸はリズム。把握されれば仕掛けるタイミングがバレる。そうしながら、『幽霊』はまるで鏡のように俺と同じ動きをするな、と思う。
次の手は、睨み合いながら考える。『幽霊』は女だ。取っ組み合えば俺が負ける。だから隙を突きたいが、敵はも同じ土俵の人間と来た。ならば―――
俺は懐から、蛍火デコイを放つ。
その時、驚くべきことが起こった。
「「!?」」
『幽霊』は俺と全く同じタイミングで、石を投げ放っていた。だが、単なる石ではない。魔導回路が刻まれた、細工のされている石だ。
それを俺は、知っていた。
「シッ」
一閃。『幽霊』の石を両断する。しながら、俺は仮面を取り払う。
「テクトっ? 一体何を―――はっ?」
パンテラが驚いて言う。だが同時、『幽霊』もまた、フードを取り払っていた。
そして現れるその顔に、俺は苦笑してしまう。
「……道理で、何もかも見覚えがあると思ったら」
俺が言うと、『幽霊』もくすりと笑う。
「お姉ちゃんだってびっくりしちゃったよ~。蛍火デコイは、ウチの秘伝だもん」
俺たちは笑い合う。パンテラは明かされた『幽霊』の顔を見て、「え? は?」と言う。
「……な、なんであんたがここに居るんだい? ヴィー」
『幽霊』―――五ねぇことヴィーは、「その、賞金稼ぎなら訓練扱いしてくれるってお姉ちゃんたちが言うから……」と言いにくそうに、人差し指をツンツンと合わせるのだった。