【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
夏休み直前のことだ。
『テッ君! 助けっ、助けて! おっ、お姉ちゃんたちが! お姉ちゃんたちがわたしのこと殺そうとしてるの!』
血まみれで俺に縋りついてきた五ねぇに、俺は言った。
『身内に欺瞞工作をするな』
『う、うぅぅううううう……! テッ君の意地悪! テッ君に通じるなら夏休み遊んでもいいって、お姉ちゃんたち言ってたのに!』
『ああ、そういう……』
血まみれというか血糊を拭って、五ねぇは『わーん!』と地面に伏せた。
俺たち十一人姉妹(兄弟)では、九番目の妹と俺が隠形のトップツーだ。五ねぇはそこに続く三番手。で、姉たちはこう考えたのだろう。弟に隠形でも負けるとは何事か、と。
それで五ねぇはこの条件で夏休みを賭け、晴れて失敗したという事らしい。南無、と俺は両手を合わせる。
『流石に上の姉ちゃんたちが言ったなら、それをひっくり返す力は俺にはない。頑張れ』
『何でぇ! テッ君がねだったらお姉ちゃんたちだって譲ってくれるよ!』
『いや、シンプルに姉ちゃんたちが一気に来たら俺には処理できないから。五ねぇを生贄にどうにか誤魔化そうと思って』
『人でなし!』
仕方ない、仕方ないのだ。だって五ねぇみたいのが、学園だけで上にあと三人いるのだ。一気に来たらキャパオーバーも良いところ。夏休み明けにもう一人挨拶するかどうかである。
そんなやり取りがあって、五ねぇは学園から離れられずに、他の姉と訓練に明け暮れている、と思っていたのが昨日の夜までの事。
「……つまり、アレだ。五ねぇは、二ねぇ、三ねぇ、四ねぇ全員に駄々をこねにこねまくって、訓練代わりの賞金稼ぎで手を打ってもらった、と」
「そゆこと!」
ぺかー、と大変いい笑顔で、五ねぇは答えた。うん。いつもの五ねぇだな。
ひとまず五ねぇを連れ帰っての、パンテラのアジトでの会話だった。
雑然とした倉庫の中で、ぼんやりとランタンが部屋を照らしている。パンテラはベッドに座り、俺は机に寄りかかり、五ねぇは箱を椅子代わりに座っている。
「……で」
だが、珍しく五ねぇは、不機嫌そうな顔になってパンテラを見た。
「テッ君。何でパンテラさんと一緒に行動してるの? 脅されてるなら、お姉ちゃんが」
「違う。パンテラには何回か助けられてて、その恩返しに付き合ってるんだよ」
「恩返し?」
「非合法組織から宝物を奪い返すんだと」
俺が説明すると、五ねぇは絶句してパンテラを睨む。
「パンテラさん、どういうつもり? 人の弟たぶらかして、何がしたいの」
「人聞きが悪いね。テクトは十分以上にやってくれてるよ。危ないシーンなんて一度もなかったくらいさ。
「義姉さんって呼ばないで」
ブチギレ五ねぇの塩対応だ。家族だと中々見れないので、珍しい気持ちになる。
だが、口の上手さでは、パンテラが一枚上手だ。
「心配なら、手伝ってくれてもいいんだよ? あたしも戦力増強になる」
「いっ、言われなくてもそのつもり! テッ君をパンテラさんなんかに託さないもん!」
「おやおや、嫌われたもんだねぇ。悲しいよ」
「うるさい!」
パンテラを毛嫌いする五ねぇに、それをうまくいなすパンテラ、という図だ。パンテラから俺を奪い返す、という流れに持っていかせない辺り、五ねぇは手のひらの上である。
何というか、二人を見ていると、やたらと吠えるポメラニアンを、小手先で遊んでいるヒョウを見ている気持ちになる。無論ポメは五ねぇ、ヒョウはパンテラだ。
「にしても、随分興味深いご家族だねぇ。訓練熱心がすごいというか」
そしてスムーズに替えられた話題に、俺たち姉弟は顔を見合わせる。
「まぁ」
「……ガーランド家だし、しょうがないでしょ~……?」
俺たちは遠い目になる。あの母親がトップに立っているのだ。そりゃあそうなるよ。
と思ったら、パンテラが目を丸くする。
「え? ガーランド家? あの?」
「え、知ってんのかパンテラ」
「前の戦争の伝説じゃないか。単身で戦場を横断して、敵将と一対一の対決で勝利し続けた伝説の騎士ガーランドだろう?」
「母さんってそんな脳筋なの?」
「そりゃそうでしょ。あの母さんだよ?」
「いや、知ってるけどさ」
ドン引きである。何だそのただの最強。伝説すぎるだろ。
「前の戦争は酷かったからねぇ。年の頃を考えるなら、あんたらの生まれる少し前にやっと終わったくらいか。良いタイミングで生まれたねぇ」
パンテラは俺たち二人を撫でる。「年上面しないで」と五ねぇは手をのける。
それにパンテラはくくっと笑って、壁に貼り付けられた地図の前に立った。
「さて、じゃあメンバーが増えたところで、次の作戦の話をしようじゃないか」
パンテラは地図を叩く。そこは、俺たちで話していた次のターゲットだ。
「ここは前にギルティファミリー幹部に
「……丸見えの罠だね~。入った瞬間、衛兵さんたちが駆けつけてきそう」
「あたしらの予想と同じだね。流石義姉さん、良い勘してるよ」
「義姉さんって呼ばないで!」
パンテラが五ねぇをからかう。そこに続けるのは俺だ。
「ただ悩ましいのは、多分『そこが秘密倉庫だ』っていうのは嘘じゃないんだよな。ジェノーヴァの衛兵は正妃の息が掛かってる。話自体は本当なんだろ」
そういう顔だった。大半は本当だが、重要な一点だけを隠している。そういう顔。
問題は、秘密倉庫である以上行かなければならないが、それが罠であるのが確実なことだ。
「下手に直行すれば衛兵たちに囲まれて終わりだ。じゃあそれをどうするのかって話で」
俺は地図の秘密倉庫を睨む。どう忍び込むべきかを考える。
すると、五ねぇが立ち上がった。
「あの辺りかぁ~……よいしょ。ん~」
俺が立地を見て考えている横で、五ねぇが立って地図を至近距離から凝視する。
そして、言った。
「これさ、多分裏の入り口あるんじゃない?」
「え?」「何だって?」