【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
五ねぇの話はこうだった。
『自分の息のかかった領地の衛兵の詰め所の真隣ってことは、それだけ重要ってことでしょ? 出入りも激しいはず。なのにこの建物、普通の扉が一つしかない。これが第一の違和感』
で、と五ねぇは倉庫近くの道を指でなぞった。
『わたし、この辺りを歩いてる時に、フナムシを見つけたことがあるんだよね~。でもここ、海辺からちょっと距離がある。普通フナムシはいないはずなの。つまり』
『水辺が近いワケだな。地図上には、存在しないはずの水辺が』
『そ~そ~! テッ君大当たり~!』
俺を抱きしめる五ねぇに、『ほぉー……』とパンテラは感心しきりだった。
『ヴィー……あんた、探偵みたいだねぇ。頭がいいのは知らなかったよ』
『ふふん、すごいでしょ~! 母さん仕込みなん……べっ、別に! 普通っていうか!』
パンテラへの反発で、ツンデレみたいになっている五ねぇがちょっと面白い一幕だった。
そうして、五ねぇの鋭い推測を合わせると、自ずと答えは見えてくる。
「ここか」
俺たちは小舟を出し、海辺を探索した。そして今、入り江の洞窟の前にいる。
幹部を尋問して得た情報が罠だと看破した、翌日の夜の事だった。
「おぉ、よくやったねぇ! 流石はあたしの、愛しきガーランド姉弟だよ! ほら来な、ふたりまとめてハグしてやる!」
「もうしてるだろ」「や~め~て~!」
俺は苦笑、五ねぇはガチで嫌がりつつ、大喜びのパンテラにされるがままの俺たちだ。
みんな揃って、水着での潜入だった。
アイギスのような防御主体の戦い方でもない二人は、水場ならいっそ水着で良いだろう、と言いだしたのだ。それで俺は、水着美女に囲まれて小舟に乗り合わせている。
まず五ねぇだが、イメージにそぐわず、ビキニに清楚なパレオを合わせていた。
印象は爽やかながら、何とも胸の成長したものである。大体ウィズと同じサイズだろうか。この二人は脱いだらすごいよなぁとか思ったり。いや姉なんだけど。前世があるからさほら。
で、次にパンテラだが、こっちはもう分かりやすくすごい。
何もかもがデカイ体に、思いっきりセクシー系のヒョウ柄V字水着を着ているのだ。セクシーダイナマイツ! とか昭和表現しか出なかった。胸はおろか尻も太もも背もデカイ。暴力。
なお、一応礼儀として二人の水着を褒めたら、五ねぇが『テッ君もカッコイイよ~!』と褒め返し、パンテラはキョトンとしてから『あ、あんまり見るんじゃないよ』と照れていた。
五ねぇが何も分かっていないのはまぁ良いとして、恥ずかしがるメンタリティでその水着を何故選んだんだパンテラ。身体のサイズ的にそれしかなかったのかパンテラ。ナイス水着屋。
「……にしても、分かっちゃいたが、すごいねぇテクトは。何だいあの胸筋」
「パンテラさん~? 人の弟をエロい目で見ないで欲しいんですけど~」
「いやいやいや、身内から見ても、あの体つきは目を瞠るものがあるんじゃないかい? 素直になりなよ、ヴィー」
「うっ、……まぁ、その、弟ながら、発育がいいなとは、思ったり、思ったり……」
俺が二人の水着姿に感心してる裏で、二人もコソコソ何かを話し合っている。まさか俺のエロい目が気付かれたのだろうか。いや、貞操逆転世界だしそんなはずは。
それはさておき、パンテラが「じゃあ入ろうか」とオールを漕ぐ。船がぐんと前に進む。
それで暗い夜の中、更に暗い入り江の洞窟へと、俺たちは入り込んだ。
潜入だから光は点さない。視界は一気に黒く染まる。聞こえるのも水面の静寂ばかり。
だが、俺は違う。暗視ゴーグルを被り、状況を確認する。
「クリア。進んでくれ」
「了解、テクト」
視界の中には、待ち伏せや監視系の魔法は見当たらない。だからそのまましばらく進む。
いくらか行くと、薄ぼんやりと光が見えた。パンテラの腕に触れ、止まるよう告げる。
「……」
停止。俺は五ねぇに触れると、五ねぇは静かにうなずき、音もなく水面に飛び込んだ。
俺は無言でグラップルを放ち、天井伝いに灯りへと辿り着く。そこには整備された船着き場と、吊るされたランタンに、衛兵が三人。
「ふぁああ、こっちの担当は楽でいいね。だって絶対来ないじゃ、んぎ」
「そうだねぇ……ん? 今変な声出さなかっがぽっ」
俺は天井から首絞め、五ねぇは水面から手を出して沈め、同時に衛兵二人を無力化した。
「……ん? 急に静かになったけど、どうし―――っ!? てっ、敵しゅ」
「させねぇよ」
最後の一人に気付かれかけるが、押し通る。グラップルを鎧に打ち、そのまま飛び掛かり膝蹴りを鼻頭にぶち当てる。女はこの程度じゃ気絶しないが―――
「ぐぁっ! わ、た、た」
「ナイスアシスト、テッ君~!」
「がぽっ!?」
水の方によろめけば、五ねぇが引きずり込んでトドメ刺しだ。「ふぅ」と俺は一息つく。
ちょうどそこで、小舟を漕いだパンテラが、闇の中から現れた。
「うわ、本当にあの短時間で、騒ぎも起こさず無力化してるよ。恐ろしいねぇこの姉弟は」
「五ねぇは水着を着た甲斐があったな」
「ぷはっ。だねぇ~」
水から上がった笑顔の五ねぇが、べしゃっ、と気絶した衛兵二人を地面に投げる。パレオを着た清楚水着美女とは思えない行動だ。
しかし、なんというか、やはり思う。不殺武器の不足を。対人戦の限界を。
特に、今の三人。俺一人では突破できなかった。二人まではどうにか倒せただろう。だが三人目は逃がすこととなったはずだ。今だってミスがあれば、連携も失敗して逃がしたはず。
殺せれば無論話は違う。メイを振るえば一秒と掛からない。だが人間を殺すつもりは、俺には毛頭なかった。そうなるとやはり、速度不足が課題になる。
「うーん……うーん……」
「……テッ君、何で悩んでるの?」
「ああ、いや。ちょっとな」
人に言う話ではない。俺が一人で乗り越えるべき課題だ。だから五ねぇの質問をはぐらかしつつ、俺は先に進む。
「……」
そんな俺を、パンテラが物思わしげに見つめているのだった。