【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
わざわざ隠し水路から侵入しただけあって、潜入は極めて順調だった。
何せ、出会う衛兵たちが揃ってこちらに背を向けているのだ。そんな状況、俺と五ねぇにとっては誘っているようなもの。なのですんなり、背後からきゅっ、とさせてもらった。
そんな風にしていたら、俺たちは気付けば大仰な扉に遭遇していた。顔を見合わせる。
「多分これ、だよな」
「だろうねぇ」
鍵穴に触れる。複雑な造りで、ピッキングで突破するなら苦戦することだろう。
だが生憎、俺たちは偉そうな衛兵も落として、鍵を拝借していた。みんなでカギを囲ってニンマリ笑いあい、ガチャリと扉を開く。
ギィィイイイ……と鈍い音。押し開くと、いつもの秘密倉庫よりも、ずっと多くの財宝が貯めこまれていた。
「うぉおおおおおお! これすっげぇな!」
やっぱりこういうのを目の当たりにすると、思わずテンションが上がってしまう。パンテラも「あのクソ正妃、随分と貯め込んじゃってねぇ!」とご機嫌だ。
一方、血の気を引かせているのは五ねぇである。
「……え? こ、ここまで貯め込めるようなターゲットなの? 本当にただの反社?」
「だから言ったじゃん。ジェノーヴァ領主の正妃だって。そいつが表も裏も操って悪さしてるから、秘宝を奪ってやろうぜって」
「え、えぇぇええええええ!? きっ、聞いてない! 聞いてないよぉ!」
半泣きで俺に縋りついてくる五ねぇである。俺は「ちょっ、あの、水着でくっつかれると」と抵抗するが、正面の力比べでは、男は女に敵わない。
すると五ねぇを、パンテラが引き剥がした。
「女の癖に男々しいことを言うんじゃないよ、ヴィー。それよりほら、雌々しい女なら、財宝に夢中になって漁るもんじゃないかい?」
「でもっ、あのっ、ぱ、パンテラさ」
「さぁ行くよぉ! 全部は持ち帰れないからね! 狙うのは小さくて高いもんだよ! あと」
パンテラが、少し語調を落として続ける。
「青い宝石があったら、あたしに見せておくれよ? これだけの警備だ。ここならあっても不思議じゃないからねぇ」
―――青の宝玉。パンテラが奪われた宝石。俺も入り口を閉め、秘密倉庫を漁りだす。
「確かに、ここなら遭っても不思議じゃないもんな。早く見つけてやりたいもんだけど」
言いながら、ガサゴソと探る。出てくるのはほとんど金銀財宝。中々目当てのものは見つからないな、と唸っていると、行き当たった。
バチッ、と触れた手がしびれ、俺は手を離す。
「うぉっ?」
「ッ! テクト、何かあったかい!?」「テッ君!?」
俺の声を聞きつけて、素早く二人が近づいてくる。俺は「いや、ちょっと妙なものを触ったみたいで」と苦笑しつつ、直接触れないように注意して、それを引きずり出した。
それは、金色の魔物の尻尾のようだった。落とされて久しいのか、肉自体はカラカラに乾いている。注目すべきは毛皮の方。時折視認できるほどの光が、バチッと弾ける。
「……何だこれ」「んー?」
俺と五ねぇの姉弟は、二人揃って首を傾げる。
一方でパンテラは見覚えがあったのか「おお、掘り出し物だねテクト」と笑った。
「こいつは雷獣の尾さ。極めて貴重な超危険魔物、雷獣。その尻尾だね。こいつを使用した武器は、雷の力を纏うと言われてるよ」
「へぇー、そんなのがあるんだね~。……テッ君?」
パンテラの解説に、五ねぇが感心している。他方、俺は思わず震えていた。
「……雷獣? 雷? つまり……電気の力ってことか?」
「ああ、そうだよ。にしても、色々探ったが、ここにもなさそうだねぇ。ま、監禁用の財宝は見繕ったし、あんまり長居する前にここを出よ―――」
それを遮って、俺は言っていた。
「―――こ、これだ……ッ!」
バレないように声は殺しつつ、俺は満面の笑みで雷獣の尾を掲げた。
「……どうしたんだい? テクト」「わ、テッ君めちゃくちゃ笑顔~」
キョトンとした目で俺を見る二人。それに俺は「これだよこれッ」と目を輝かせて訴える。
「俺が今まで悩んでた不殺武器、強敵にも通じて、無力化速度も速いッ。俺の悩みを全部吹っ飛ばす不殺武器の素材はこれだッ」
俺は雷獣の尾を掲げて、見入ってしまう。
「電気……! そうかそうだよそうだよなッ。前世の防犯グッズって言ったら電気だよ。スタンガンテーザー銃スタンロッド! これこそ俺が求めていた物……!」
インスピレーションが湧きまくる。わざわざこのために新しい武器を作る必要はない。既存の武装にこれを組み込むだけで、俺の課題は達成される。
そんな時だった。
『道途中に仲間が倒れていた!』『妙な胸騒ぎがして、早めに様子を見に来てみれば……!』『侵入者だ! 秘密倉庫に入り込まれてるぞ!』
「やべっ」
なるべく素早く動いていたつもりだったが、特に理由のないイレギュラーで大ピンチに陥る俺たちである。妙な胸騒ぎとかホント止めて欲しい。
そんな俺の頭をポンポンと叩いて、パンテラが苦笑する。
「まったく、仕方ない子だね。悩んでると思ったら、そんなことかい。それでまぁそんな、素材一つで目を輝かせちゃって。少女みたいな子だねテクトは」
「パンテラ?」
「安心しな。この程度のピンチを打破できないほど、あたしは未熟じゃあない。それに、前に伝え損なった話もしたかったしねぇ」
倉庫の外に、追手が集まる気配がする。『まだきっと中にいる! 袋のネズミだ!』と、閉ざされた扉越しにくぐもった声が聞こえる。
「ん~、やっぱり実践の潜入って、イレギュラーに悩まされがちだよねぇ~……で? パンテラさん、何か秘策がありそうだけど、大口叩いてるだけだったりしないよね~?」
「安心しなって、ヴィー。テクト、前にあんたは聞いたね? 爆弾でも握りこんでるのかって。けどもちろんそんなものは持ち合わせちゃいない。あたしはこの通り素手さ」
倉庫の向こうで、『おい! だれか鍵!』『これでもない、ええと、これか!?』と試行錯誤しているのが伝わってくる。
「けど、あたしは前見せた通り、爆弾並みの破壊を拳一つでもたらすことができる。その秘密だけどね、あたしには『モノの弱点』が見えるのさ」
「……いや。弱点ってだけで、あんなことにはならないだろ」
渋面で返す。建物ぶん殴って破壊できるのが弱点を突いたからなら、それは欠陥住宅だ。
しかしパンテラは「本当さ。ウチの、豹族特有の力なんだけどね」と語る。
「獣人はみんな信仰深くてね。熱心に神に祈り、一人前になる頃には何らかの形で神と通じることができるようになる。その内あたしの豹族はね、欠点を補う力を求めたのさ」
「欠点?」
「力がなくてねぇ。獅子族とかと比べるとまぁ弱い。代わりに速いんだけどね」
非力、と聞いて、他の獣人ってどんだけ力自慢なんだよ、と俺は半眼になる。
『お! これか!? これじゃないか!? よし、行くぞ! 扉を開けるぞ!』
「ぱ、パンテラさん。も、もう、もう時間がないよ~!」
外の喧騒。五ねぇの情けない声。それらを無視して、パンテラは続ける。
「だから神に願ったのさ。弱点を補う何かを。それ以来、豹族は見えるようになった」
「何が?」
「『破砕の啓示』。あたしら一族がそう呼ぶ、とある光をね」
パンテラは拳を構える。ついに閉めていた倉庫が開く。「見つけたぞ賊ども!」と衛兵たちが殺到する。
その瞬間に放ったパンテラの拳が、アレだけ頑強だった倉庫の壁を、バラバラに破壊した。
ドゴォォオオオオオンッ!
轟音が響く。衝撃に衛兵たちが倒れこむ。吹き飛んだ瓦礫が、衛兵数人を吹っ飛ばす。見ればパンテラの砕いた壁には大きな穴が開き、そこから外の景色が見えている。
「……マジかよ」「ぱ、パンテラさん、すご……」
俺たちは感嘆するしかない。パイルバンカー並みの威力を、拳一つで成し遂げるとは。
「この通り、あたしらは『ここを突けば砕ける』って点が見える。神の啓示さ。一定以上の力で確実にそうなる。もちろん人間相手には、破裂しない程度に手加減するけどね」
「……すげーな、そりゃ。まるで血統魔法だ」
一族に伝わる特別な力。それは女性に伝わる血統魔法を想起させる。
そんな風に言うと「確かにねぇ。男は啓示が見えなかったし」なんてパンテラは納得する。
「ま、ともかく、これがあたしの話さ。何日もあたしのワガママに付き合ってくれたテクトには、教えておきたくてね」
パンテラは言いながら、飄々とした笑みで俺たちに手を差し伸べる。
「さ、脱出だよ。掴まりな」
俺と五ねぇが、パンテラの手を取った。パンテラは俺たち二人をまとめて背負って「じゃあ行くよぉ!」と壁の穴から飛び出した。