【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
雷獣の尾を手に入れた翌日、俺はチャミーの邸宅の露天風呂で、ひとり湯に浸かっていた。
「ふぃ~、極楽極楽……。こういうところにも温泉ってのはあるもんだなぁ」
しかも王族特権、邸宅に温泉を引いてくるという暴挙である。以前から話は聞いていたのだが、最近は無人島に義賊活動ととみに忙しくて、入れていなかったのだ。
「にしても、五ねぇとパンテラが打ち解けてよかったな……」
ピンチからの大脱出で、パンテラが披露したあの力。それで五ねぇは一気にパンテラを見直して、態度がガラッと変わったのだ。まだ『義姉さん』呼びは許していないようだったが。
「あと、雷獣の尾……どんな風にしようか……。襲撃してない幹部も減ってきたし、それまでに完成するように作るなら、テーザー銃をイメージして……」
湯に浸かりながら、構想を膨らませる。アレをこうして、そしたらこう魔導回路が入って。
そんな風にしていたから、気付くのが遅れた。
ガララ、と音がして、露天風呂の戸が開く。王族の邸宅だけあって、男女で風呂が分かれているから、チャミーでも来たのかな、と思いながら戸の方を見た。
そこには、全裸のパンテラが手ぬぐい一つ持って立っていた。
「お、見つけたよテクト」
「ぱぱぱぱぱぱ、パンテラっ!???!??!?」
俺の動揺もおいて、パンテラが俺の浸かる露天風呂に足を付ける。俺は必死に露天風呂の端に避難するが、パンテラはどこ吹く風だ。
あれ!? ど、どういう状況だこれ!? あまりに直のスケベイベントが発生して、俺は貞操逆転フィルターに掛けきれない。何が起こってる!?
「あっはっはっ! 取って食われると思ったのかい? そんなことはしないよ。テクトは大切な仲間だからね。ただ―――何だかんだと言って、男も女の裸は好きだろう?」
ニヤ、とパンテラが俺に悪戯っぽく笑いかけてくる。それで、俺は何となく理解する。
これは、アレだ。前世で言うところの、超の付く強者男性ムーブだ。女の子に拒絶されるなんて微塵も思っていない強者男性の、超強引な混浴大作戦だ!
前世でも今世でも、こんなことをした奴は普通通報されて一発逮捕。だがパンテラは元々、犯罪上等のアウトロー。法が怖くなければセクハラも何のその。
思わず目が行ってしまうのは、その爆乳だ。
湯船に足を踏み入れ、すねまで温泉に浸かるパンテラを見上げる際に、どうしても目に入ってしまう巨大なおっぱい。何もかもデカイパンテラは、胸も当然爆弾サイズだ。
「テクト? おーい、どこ見てんだい? ん……ああ、胸のあたりか」
「……え!? あ、いや、ごめん! そんなつもりじゃなくて」
「あんた思ったよりムッツリスケベだね。ん? おっぱいなんて好きなのか。なら揉ましてやってもいいよ?」
「あ、あああ、あばばばばばばば」
「あははっ。楽しいねぇテクトは」
俺はパンテラに良いようにからかわれ、頭を抱える。俺に、俺にもっと度胸があれば!
「ほら、そんな遠くに居たら寂しいじゃないか。強引に迫ったりはしないよ。一緒の風呂で、楽しくおしゃべりと行こうじゃないか」
「え、お、あ、じゃ、じゃあ、遠慮なく……(?)」
俺は思考がバグり散らかしながら、言われるがままにパンテラの横に移動する。
するとパンテラも「じゃ、失礼して……っと」と身を屈めだす―――その際に、パンテラの尻が、偶然俺の頬に押し付けられた。
「うお……っ」
俺はその柔らかな衝撃に動揺する。
パンテラの体はデカイ。おっぱい同様に尻もデカイ。だが直接触れて、解像度が爆上がりしてしまう。
全身のムチムチ具合に、この重量感。肌触りはすべすべなのに、まるで餅の塊を押し付けられたかのような弾力性と重みを頬で感じて、俺は仰け反った。
「おっと! ごめんよ、ケツが当たっちまったね。アッハッハッハ!」
「あ、アハハ、ハハ……っ」
すごい。すごいものに触れてしまった。重い。柔らかい。すべすべしっとりしてた。表面は温泉に浸かる寸前だからか、ちょっとひんやりしていた。すげぇ。
パンテラは「いい湯だねぇ。忍び込んだ価値があるってもんだ」なんて言って、暢気に肩まで浸かりだす。よく見たら爆乳がお湯に浮いている。
一方俺は衝撃に打ちのめされて、思考がグルグルと回ってしまう。温泉もあって、のぼせるような気分だ。
そんな俺を優しく見つめて、パンテラは続ける。
「力あるご令嬢たちが、揃ってテクトに入れ込む気持ちが分かるよ。飾らず、素直で、人好きのする性格で。世の男どもは酷いってのもあるだろうけど、それ抜きでも魅力的だ」
「……? パンテラ……?」
「何せ、ちょっとした貸し二つで、ここまで手を貸してくれるんだからねぇ。いくつの拠点を襲撃したよ。これじゃああたしは、貰い過ぎだ」
それに、とパンテラは続けた。
「本来は、その貸し二つも、テクトが背負う必要はなかったものだった。聖女候補の嬢ちゃんに、第三王女。二人が返すはずの借りを、あんたは嬉々として支払って」
「……」
「人がいいよ、テクトは。良すぎるくらいだ。いつか痛い目を見る。……そうか。だからみんな、あんたのことを守りたがるんだね」
パンテラが膝を抱える。ちゃぷ、と小さな水音が立つ。「知ってるかい?」と聞いてくる。
「女はね、実は弱い生き物なんだよ。もちろん身体は男よりも強い。魔力があるからね。でも……心は、男よりもずっと弱い。弱くて、脆いのさ」
パンテラが、恐る恐る、俺へと手を伸ばす。それが下心ではないと、すぐに分かった。
だから俺は、パンテラの手を強く握った。パンテラの手は、ゴツゴツして、荒れていた。他の女の子とは違う。正真正銘、誰にも頼らず生き延びてきた、無頼の手だ。
「知ってるよ。だから俺は、弱った女の子が寄りかかれるような、強い男になりたいんだ」
俺が言うと、パンテラの手が震えだす。パンテラはこちらを見ようとしない。それはきっと、今まで出会ってきた誰よりも、弱さを見せることが怖いから。
それでも、きっと、俺に二人きりで、聞いて欲しい話があるのだろう。
「パンテラ」
俺は言う。
「聞かせてくれ、パンテラの話を。俺は、パンテラのことが知りたい」
「……後悔しても、知らないよ」
パンテラの言葉に、俺は笑う。
「後悔するもんか。パンテラはとっくに俺の仲間だ。仲間の過去を知って後悔する奴が、どこにいるんだよ」
「……」
パンテラは、いまだ顔を背けたままだ。それでもゆっくりと、口を開く。