【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
数日後、俺は新しい武器を完成させていた。
造りは簡単。既存のグラップリングフックに、雷獣の尾を仕込むだけだ。あとはスイッチ一つで、ワイヤーに電気が流れて対象は感電する。
俺が人間相手に戦うにあたって、殺さないようにと作った不殺武器。だが、パンテラの話を聞いた今では、どれだけ意味があるのだろうと考えてしまう。
「……いや、今考えるのはよそう」
ここ数日の幹部襲撃で秘密倉庫を襲って、しかし『青の宝玉』は出てこなかった。とするなら、残された幹部は一人だけ。そしてその幹部は、今まで通りの方法では襲えない。
今の時間は朝十時。ガチャ、と扉が開く。そこには出かける準備を整えたチャミーが。
「テクト、出発するぞ。準備はできているか?」
「ああ、万端だ」
俺は部屋を歩み出る。装備は十分。覚悟はとっくに決まっていた。
今から俺は、グリーディアの屋敷に潜入する。
これは、俺の独断だった。
『ジェノーヴァ正妃の査問に、同行させてほしい?』
『ああ』
チャミーに、そう願い出たのだ。チャミーはいくらか考え、こう答えた。
『ダメだ。同行というには殺意がにじみ過ぎている。そんな目の者は連れていけない』
ダメか。そう俺が目を細めた時、チャミーは続けた。
『だから、贈答品の箱にでも身を隠せ。査問でも大貴族同士では贈り物くらい珍しくない。万一見つかっても、私は言い逃れができるからな』
俺は、目を剥いた。そんな俺に『何だ。意図が分かってなお協力してくれるのが不思議か?』とチャミーは言った。
『ま、理由としては単純だ。以前からテクトの夜の活動はある程度掴んでいたのが一つ』
バレてたのか、と俺は口を曲げる。チャミーは肩を竦めて、こう続けた。
『あのクソババアの破滅は、私にとっても都合がいいのがもう一つだ。やるならうまくやれ』
それで今、俺は贈答品の箱に身を隠して、チャミーの馬車に揺られていた。
『むー、久しぶりにお昼の冒険なのに、狭くて暗い……』
指輪のまま、メイが文句を言っている。静かに、という意図を込めて、指輪を指で撫でる。
今出来ることはない。だから俺は半分意識を落として、体力を温存した。そうしていると馬車が止まり、荷物として俺の入る箱が移動させられるのが分かった。
どこかに安置され十数分。周囲に人の気配がしないのを確認して、俺は箱から脱出した。
「……倉庫かね。暗い。何も見えないなこれは」
暗視ゴーグルを装着する。やはり倉庫だ。所狭しと箱が置かれている。
『んぇ、んむ……』
メイは暗い場所に押し込められて、動き出しても眠いご様子だ。
俺は歩き出し、グラップルで換気窓から倉庫を抜け出す。それから屋根に上り、本邸へとグラップルで侵入した。
今頃はグリーディアが、チャミーに査問されているところだろうか。秘密倉庫の情報は、どう聞き出したものかと考えながら、俺は屋敷の廊下を歩く。
すると人の気配がして、俺はグラップルで天井に張り付いた。すると廊下を、ツカツカと進む人物に遭遇する。
グリーディア。醜悪な老女が、付き人を連れて喚きながら歩いてくる。
「ああ、本当にうんざりするわ! 何でこうも立て続けに問題が起こるのかしら!」
グリーディアは怒り心頭の様子だ。荷運びと脱出まででタイムラグがあった。その短時間で査問が終わったのか。
「あのいけ好かない第二王子……! このままなら領地の取り上げになるですって!? よくもいけしゃあしゃあと!」
チャミーは結構イケイケらしく、正妃にかなりのダメージが入る方向に進めているらしい。
「かといって、第二王子を襲うわけにもいかないし……! そもそもあの婚約者とか言う『小さな要塞』のデカ女も邪魔極まりないわ!」
小さな要塞? と俺は首を傾げる。アイギスの血統の二つ名のはずだ。チャミーの付き人、婚約者と言うと、偉丈婦カノンのことだろうか。
「それに、秘密倉庫を襲う、あの腐った強盗ども!」
俺は目を細める。俺たちの話だ。
「どれだけの手練れなら、私管轄のもの以外全滅させられるというの!? 絶対に捕まえてやる。殺すだけじゃ飽き足らないわ。拷問にかけて縊り殺すくらいしないと、気が済まない!」
般若のような形相で、グリーディアは叫ぶ。
同意見だ。この程度じゃ済ませない、と俺は頭上から見下ろす。
「それに……私管轄の秘密倉庫には、アレがあるのよ。絶対に奪われてなるものですか」
グリーディアは歯噛みして、とある一室に入って行く。「アレ、ね」と呟きながら、俺は天井から音もなく降りて、しゃがんで扉に耳を付ける。くぐもった声が扉越しに聞こえる。
『―――魔女様! 「着飾った魔女」様! お茶会をしませんこと!?』
すると突如、グリーディアは不可解なことを叫んだ。
「……魔女?」
俺は戸惑う。すると、部屋の中に突如、人の気配が一つ増える。
『そう大声を出さなくとも聞こえるとも、強欲の子』
『ああ、魔女様! お力を、お力をお借りしたいのです。あの第二王子に、姿も分からない強盗! その二つどちらもどうにかしてしまう策を! 魔法を!』
俺はこっそりと扉を開ける。そこにはグリーディアとその付き人に続く、三人目がいた。
それは、真っ黒な体に真っ白な服を纏う少女だった。
ボブカットの黒髪、褐色の肌。爛々と輝く金色の目。そしてフリフリが特徴的な、純白のロリータ服。白いヘッドドレスは白薔薇が飾られている。
グリーディアよりも明らかに若い、俺と同世代くらいの少女だった。しかし少女は、まるでグリーディアを赤子扱いするような声色で「おお、よしよし」と宥めている。
「それだけ悔しかったんだね。実に愉快だ。ほら、ボクは君のことが大嫌いなものだから」
「――――いいから教えろって言っているのよ! 私に逆らうの!?」
「異なことを言うものだね。逆らうなんてできやしないとも。では策と魔法を授けよう」
真っ黒で真っ白な少女は、グリーディアに言う―――寸前で、ちら、と俺に視線をやった。
俺は息を飲み、扉の陰に隠れる。
バレた? 目が合った。バレたか。
だが、扉越しの声は、俺の存在に触れなかった。
『第二王子が住まう高級邸宅エリアの中に、君が抱える秘密倉庫があるだろう? 必ず強盗を見つけたいというのなら、そこで待ち伏せしていればいい。シンプルだが確実な策だ』
―――そこに秘密倉庫があるのか。しかし、妙に説明口調のような。
グリーディアが少女に噛みつく。
『そんなこと、少し考えれば分かります! 他には何かないのですか!』
『もちろんあるとも。これが強盗を破る策なら、次は王子を破る魔法だ』
不思議な音が扉越しに聞こえる。真っ黒で真っ白な少女の声が言う。
『権力は秘密に弱い。時間はかかるが、第二王子をゆっくりと苦しめる呪いだよ。君が死んで契約が終わらない限りは、待っているだけで第二王子は君の下に跪くだろう』
『ああ、ありがとうございます! 流石は魔女、着飾った魔女様ですわ!』
グリーディアが感謝を述べる。俺は歯噛みして考える。
連中、どうやってかは分からないが、チャミーに呪いをかけたらしい。これもどうにかしなければならないな。グリーディアが死んだら解けるようだが……。
そんなことを考えていると、コツ、コツ、と足音が響く。こちらに歩み寄ってくる音だ。
俺はもう用事は済んだと、グラップルで飛び上がろうとする。だが何故か、体が動かない。
「は……っ?」
マズい。と思う。『魔女様、どちらへ?』と問うグリーディアに、『たまの機会だ。散歩くらい構わないだろう?』と少女は答えて扉を開ける。
当然、逃げられない俺は、少女に見つかった。冷や汗をだらだら流して、少女を見上げる。
しかし少女はグリーディアに告げ口せず、扉を閉めた。しゃがみ、俺と目線を合わせる。
「やぁ、こんにちは少年。見たところ、この家の者ではないようだけど」
「え、ええと、その」
まごつく俺に、少女はクスリと笑う。それから、俺の額を人差し指で突いた。
「っ?」
「ごめんね。契約で、露骨に命令に反するわけにはいかなくて。でも五分にまではもって行けたと思う。あとは君次第だ」
「はっ? お前、何を」
俺の問いに答えず、少女は言った。
「ブラン」
「……え?」
「ボクの名前だ。意味は純白。プロテクルス、いや、テクトと呼ぶのがいいのかな?」
「なっ、何で俺の名前」
俺が大声を上げそうになるのを、少女改めブランが、俺の口に人差し指を当てて止める。
「頼んだよ、テクト。ボクもいい加減、あの醜悪な老人の手先は懲り懲りなのでね」
告げると共に、ブランが俺の眼前から掻き消える。戸惑うが、ひとまずその場を脱出した。