【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
バイクは馬車よりも速い。だから逃げ出したグリーディアに追いつくのは、そう難しいことではなかった。
「ッ!? 何よその乗り物! 気味の悪い馬ね!」
「馬じゃねぇよバカが! こいつはな、バイクってんだよ!」
逃げるグリーディアに向けて、俺は右腕を構える。スイッチを切り替え、作動するは冷却の魔導回路。展開するは数十発のボルトを収める弾倉。
「マシンクロスボウ」
現代のサブマシンガンを超える速度で、ボルトがグリーディアの馬車に襲い掛かる。
直撃すれば終わりだ。馬車は破壊され、馬は倒れ、グリーディアは投げ出される。
だが、そうはならなかった。
「ダメよ? 加害は罪でしょう?」
グリーディアが杖を掲げる。直後、俺の放ったボルトのすべてが瞬時に地面に落ちた。
「っ!?」
瞬時にマシンクロスボウが無力化され、俺は目を剥く。
グリーディアの魔法。恐らくは、重力に関係があるのか? 先ほど押しつぶされたのも、恐らくはその一種だろう。
そこで、俺の背後に座るパンテラが、俺に囁く。
「テクト、こうなったら仕方ない。説明しておくよ。グリーディアの血統は『重圧の裁定者』。罪と重力を絡めた血統魔法だって話だ」
「罪と重力ぅ? いかにも面倒くさそうな魔法だな」
会話しながら追っていると、俺たちは夕方の広場に差し掛かる。
「何あれ」「正妃様?」「後ろの人たち誰?」「追われてるの?」
通行人が、怪訝な顔で俺たちを見る。そうか。グリーディアは表向き単なる領主正妃。それを追う俺たちは、自然と怪しい人物となるのか。仮面もしてるし。
それにグリーディアは、俺たちに振り返る。ニタァ、と嫌らしい笑み。
杖を、掲げる。
「原罪に圧し潰されなさい」
馬車の上で、杖の底を地面に打つ。カァンッ、という音。俺たちは身構える。
だが、対象は俺たちではなかった。
『――――――キャアッ!?』
通行人たちが、一斉に押しつぶされる。
「っ!? 何を」
意図が分からない。大事な領民ではないのか、とグリーディアを見る。
グリーディアはすかさず、叫んだ。
「衛兵! 衛兵を呼びなさい! 彼らは私を殺し、ジェノーヴァを荒らそうとするテロリストよ! 近づいてはならないわ! あなたたちにも危害を加えるつもりよ!」
「!?」
通行人の魔法が解かれる。民衆が悲鳴を上げながら、「衛兵を呼んで!」「助けて! 助けてぇ!」と退いていく。
「……なるほど、頭の回る」
人払いをしつつ、罪をおっかぶせて俺を悪者にしようという魂胆か。そして衛兵という援軍を呼ばせに向かわせた。一石三鳥の行動というワケだ。
追いかけて進む中で、馬に乗って追ってくる衛兵がチラホラと見かけるようになる。どうしたものかと迷っていると、横道から一気にきて囲まれる。
「あら、ピンチねぇ! でも彼らは正義の衛兵! あなたたちに殺せるかしらぁ!?」
衛兵は援軍であると同時に、盾であるということか。本当に下衆な奴だ。
だが、この程度ならすでに対策済みだ。
「みんな、頭下げろ」
俺は左腕を掲げる。腕を振るいながら、発射ボタン、感電ボタンを押しこむ。
「エレクトロ・グラップル!」
グラップルが放たれる。そのワイヤーを振り回し、俺は衛兵たちに向けてぶん回した。
「はっ、この程度の紐でどうにかできるとは、舐めた真似をギャッ」「ちょっ、おまギャ」
一人目の衛兵に当たり、感電する。そこから他の騎乗衛兵を巻き込み、まとめて落馬させる。そこに感電が伝わり、他の衛兵たちも巻き込む。
気分はまるでドミノ倒しだ。周囲の騎乗衛兵たちを一掃し、俺はグラップルを回収する。
「ッ、あなた本当に男!? 何よその武装!」
グリーディアが目を剥く。俺は舌を出して挑発する。
「よく言われるよ。男舐めんじゃねぇぞ!」
このままグリーディアを狙って、と行きたいところだが、恐らくワイヤーを落とされて終わりだろう。奴を狙うなら、策がいる。
そこで、背後の二人から声が上がった。
「テクト、まだ衛兵の増援が来る。ここからはあたしらに任せな」
「うんっ! 特にわたしは、鉄砲玉みたいな動きの方が、活躍できるしね~!」
見れば、また横道から衛兵が追ってくる。今度は馬車だ。馬車は確かに、エレクトログラップルでは狙いにくい。
「任せていいか」
「うんっ! 多分合流は難しいけど、その代わり全滅させてくるからね~っ!」
「なら、あたしはほどほどのところで切り上げて戻るよ。自慢の足があるからね」
パンテラが自分の足を叩く。俺が「分かった。任せる」と言うなり、二人は跳躍した。
パンテラが少し離れた馬車に飛び掛かる。「砕けなァッ!」と拳を振るうと、それだけで馬車が粉々になる。破砕の啓示を突いたのだろう。相変わらずすさまじい。
一方五ねぇは、近くの馬車に飛び乗り、潜り込んだ。数秒すれば馬車の御者席には五ねぇが収まり、「じゃ、頑張って~!」と言いながら他の馬車へと幅寄せしていく。やってるわ。
さて、俺も集中しよう。俺も前方を見てグリーディアを追うが、残念ながら手がない。
その時、ふと気づく。俺の懐の中で、俺と一緒にハンドルを掴んでいるメイを見る。
「メイ、運転楽しいか?」
「うん、楽しい。速いのすき」
メイの表情は真剣そのものだ。思えば、俺の武装を真似したりと器用な奴だよな、と思う。
……なら、任せてみるのも、面白いか? どうせ手はないのだし。
俺は、メイの耳に口を寄せる。そして、こう囁いた。
「一人でも運転できるか? 届かない足とかは、いつもの金属操作で代用できると思うし」
「! いいの?」
「いいさ。メイのこと、最近構えてなかったからな。頼らせてくれるなら、頼りたい」
メイは目をキラキラさせて、俺を見上げた。
「任せて、ご主人。メイは、ご主人の一番の相棒だから」
「ははっ! じゃあ任せたぜ、相棒!」
あえて少し速度を落とす。曲がり角。グリーディアの視界から俺たちが消えたタイミングで、俺はバイクから跳躍。グラップルで飛び上がった。
メイ一人でバイクが加速する。「せっかくなら、しっかり騙す!」と言って、俺のデコイをメイの背後に出現させる。
「ホント器用な奴だよ。俺も、負けてられないな!」
空中で、俺はグラップルを駆使して飛び回る。このジェノーヴァの港町は、背の高い建物が多い。グラップルの面目躍如だ。
「欲を言えば、そろそろ空を飛ぶ装備も欲しいところだがッ!」
この程度の高度なら、どうとでもなる。俺は建物の上をグラップルで飛び、グリーディアの馬車の移動を予測し、その頭上へと飛び出した。
「ふっ、あの子とガキだけで追っているの? 舐められたものね。なら―――は?」
背後を確認して余裕ぶっていたグリーディアが、俺を発見する。杖を構えるが、遅い。
右腕を振りかぶる。炎の魔導回路が走り出す。内燃機関が燃え始める。
さぁ、ぶっ飛べ。
「パイルッ、バンカーァァァァアアアアアア!」
杭が馬車に直撃する。あふれ出る炎が焼き焦がす。馬車を粉々に打ち砕く!
「っ! まだまだぁ!」
しかしグリーディアは、咄嗟に前に飛び出し、馬の背に乗り上げていた。馬車を失いつつも、巧みな操作で馬の速度を落とさせない。
だが、グリーディアの恐ろしさは、ここからだった。
「良い攻撃だったわぁ♡ でも、リスキーね」
杖を長く持って振りかぶる。マズイ。空中では避け切れない。
「あなたの向こう見ずは、誰かをきっと悲しませる。それは重い重い罪よ」
杖の存在感が増す。下からの打ち上げる一撃。かすった地面の石畳が、杖に撫でられ簡単に砕ける。俺は必死に防御の構え。だが、迫る圧力は―――
「テクトォッ!」
そこに割り込んだのは、パンテラだった。
横から飛び出し、俺をかっさらって回避した。杖を空振ったグリーディアが舌を打つ。
「パンテラ!」
「ギリギリだったねぇ、テクト! そら! あんたの足に戻りな!」
パンテラが俺を、優しく放り投げる。俺は近づいてくるバイク目がけてグラップルを放ち、素早くメイの背後に戻った。
「ご主人、お帰り! 無事でよかった」
「ただいま、メイ! サンキューパンテラ!」
「この程度朝飯前さ! 衛兵たちも、ヴィーが全部相手してるしねぇ!」
五ねぇは今、衛兵相手に跳梁跋扈しているらしい。まぁやる気の五ねぇとか、一番相手にしたくないからな。多分メチャクチャしているのだろう。こわ。
そして、バイクと並走するパンテラである。足の動きが目視しきれないくらい速い。流石は豹の獣人というべきか。最初から下ろして追っても良かったかもな。
グリーディアを見る。グリーディアは馬車を破壊され、馬一頭と共に必死に逃げる。
だが、ここからは港町の繁華街エリアを抜け、無機質な倉庫街に入る。行きつく先は海岸沿い。逃げ場はさらになくなっていく。
「―――さぁ、正念場だ。グリーディアを追い詰めるぞ!」
「応!」「えいえいおー」
「チィッ! 男如きが、野蛮な獣人風情がぁ!」
俺はアクセルを吹かし、更にスピードを上げていく。