【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
グリーディアは、この期に及んでも観念するつもりはないようだった。
「本当に、うっとおしい子供たちねぇ!」
振り向いて杖を掲げる。秤のような意匠の杖を構え、睨みつけてくる。
「私を不快にした罪、償ってもらうわよ」
「ッ」
グリーディアの言葉の直後、パンテラが飛び出した。腕を振るう。すると、バギンッ、と鈍い破壊音が響く。
「なっ? チィッ!」
それに、グリーディアが歯噛みした。パンテラも「っ。今の」とよく分かっていないのか。
「パンテラ、今何した!?」
「分からない! けど、いきなり空中に破砕の啓示が光ったのさ! それで殴ったら、何かが砕けた!」
俺は考える。グリーディアの魔法か? グリーディアは「本当に、うざったい!」と杖を振る。するとパンテラがまた駆ける。
俺たちが駆け抜ける倉庫街は、今にも落日が迫っていて薄暗い。その中で、パンテラが腕を振るう寸前、俺は何か違和感に気付いた。
暗視ゴーグルを、被る。
すると、俺の視界に、浮き上がるものがあった。鈍色の球体。直後パンテラが打ち砕く。
これだ。俺は暗視ゴーグルの、予期せぬ機能に震える。
「お前、こんな力もあったのか。やるじゃんかよ」
ほくそ笑む。そんな俺の変化に気付かず、グリーディアは高笑いを上げる。
「おーほっほっほっ! 嫌よねぇ! 近づけないわよねぇ! 不可視の攻撃が迫っていると知ってしまえば、それだけで動きにくいものよねぇ!」
勝ち誇りながらも、グリーディアは密かに重力球を飛ばしてくる。パンテラは破砕の啓示に頼るしかなく、一定距離まで近づかないと気付くのに遅れるのか反応しない。
だが、俺はとっくに気付いている。
「何言ってんだよ、クソババア」
右腕を構える。氷の魔導回路が走る。
「? 何よ。その攻撃は通じないって―――まさか」
「そのまさかだよ! マシンクロスボウッ!」
重力球目がけて、ボルトを放つ。ボルトが重力で撃ち落されるのは、グリーディアの至近距離。迎撃に使う分には、十分に使える!
果たして、ボルトは重力球を簡単に打ち抜き、破壊せしめた。バギンッ、という音が響く。
「――――ッ! 本当に、本当に面倒な子!」
「パンテラ! グリーディアの攻撃は気にするな! 俺が潰す! 仕掛けるなら合わせる!」
俺が言うと、パンテラは「頼もしい相棒だよぉっ!」と加速した。メイが「ご主人の相棒はワタシ!」と対抗している。
グリーディアの魔法で軽くなっているのか、馬は通常のそれよりもずっと速い。だがそれでも、加速を始めたパンテラは、ぐんぐんと距離を詰めていく。
倉庫街を抜け、ついに海岸に差し掛かる。海沿いを走りながら、俺たちは肉薄する。
「クソッ! クソクソクソクソクソクソッ! パンテラ! パンテラァッ!」
グリーディアが叫ぶ。カァンッ、と杖の底で地面を叩く。
「あなた、己の罪を忘れたの!? あなたが余計なことをしなければ、今でも豹族はみんな生きていたのに! あなたが余計なことをしたから、それが原因で滅んでしまったわ!」
「っ」
パンテラが目を剥く。直後、パンテラの動きが急激に鈍る。―――重力。罪の重み。
「あなたは善行をしたつもりだったのでしょうね! でも私という邪悪を助けてしまった! それがすべての狂い! あなたは良いことのつもりで村を滅ぼしたのよぉ!」
「ぅ、ぁ、ぐ」
パンテラの速度が落ちる。パンテラは歯を食いしばる。苦悶の表情になる。
「みんな、ごめん。ごめん、なさい」
うわ言のように、パンテラが言う。焦点が合わない。幻覚を見せられている?
「母さん、ごめん。言う事を聞いていれば。宝玉の話をしてごめん。秘密にしていればよかった。みんな、ごめん。あたしがみんなを死なせた。あたし、あたしの、せいで」
パンテラの足が止まりかける。まずい、と俺はパンテラに近寄り、パンテラをバイクに乗せた。明らかにパンテラ以上の重みがバイクに掛かり、速度が落ちる。
高笑いするのはグリーディアだ。
「おーっほっほっほっほ! そうよ! あなたが全部悪いの、パンテラ! あなたさえ! あなたさえいなければ! みんな幸せでいられたのに!」
「――――」
それに、俺は叫ぶ。
「お前の所為だろ、グリーディア! 全部、全部お前がやったことだ! パンテラに罪はない! パンテラはお前を助けたんだぞ! そのすべてを踏みにじったのは、お前だろうが!」
パンテラの目が見開く。グリーディアが慌てて「そんなの」と言い返そうとするが、それよりも大きな声で俺は押しつぶす。
「パンテラは何も悪くない! 何もだ! すべて、すべてお前が悪いんだグリーディア! 命を助けられたのにその恩を踏みにじって、殺して、奪って! お前以外の誰が悪いんだよ!」
「だから、そこの」
「パンテラはお前以外を助けていたら何も悪くなかった! むしろお前が改心する機会を与えた! それは良いことだ! 善行だ! その機会をふいにしたのは、お前だグリーディア!」
パンテラの体が軽くなる。バイクの速度が上がる。俺はエンジンを吹かし馬力を上げる。
「それは詭べ」「詭弁はお前だ! お前の詭弁が悪い!」
「だから」「パンテラは良いことをした! 悪行は全部お前だ!」
「ちょっ」「黙れ! お前に喋る権利があると思ってんのかあ゛ぁ!?」
「喋らせなさいよぉ! ふっざけんじゃないわよッ!」
グリーディアが一喝する。だが、俺は知ったことじゃない。
「グリーディア。お前の罪を数えろ。それとも今まで食べたパンの枚数と同じように、数えきれないか? ならもう話は終わりだ。断罪の時だ」
「ひっ」
俺の気迫に、グリーディアが息を飲む。「パンテラ!」と呼ぶと、パンテラが「……ああ」と微笑する。
「そうだね、終わらせよう。―――いくよっ、テクト!」
パンテラか飛び降りる。と同時、思い切り震脚した。
破砕の啓示だったのだろう。足元を起点に走った亀裂が、俺を通り越してグリーディアの足元を割る。グリーディアの馬がまごついてたたらを踏み、バイクが急接近する。
そこに、俺はグラップルを飛ばした。グリーディアに刺さる。そこに、電流を送り込む。
「グギャァアアアアアアア!」
感電したグリーディアが、落馬して地面を転がった。だがそれでも戦闘経験豊富で、すぐに立ち上がり杖を構える。
「こんなッ、こんなところで負けていられないのよ! 私には! もっと大きな野望が」
「うるせぇよ、老害!」
俺もバイクから飛び降り、バイクよりも早く、グラップルで地面を駆る。靴でガリガリと地面を削り、グリーディアが杖を構えるよりも速く駆け抜ける。
構えるは明鏡止水。メイの金属がバイクをうまく停止させる。さぁ、終わりだ。
「な――――」
一閃。振るった聖剣が、グリーディアの杖を腕ごと斬り落とす。