【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
魔獣島に上陸した俺たちは、船員たちを残して六人で、魔獣島の獣道を進んでいた。
「ぜぇっ、はぁっ、ま、まだ、ですか……!? くっ、うぐぅ……!」
「確かにまぁまぁの悪路ではあるけど、陰キャアンタ、体力ないわねぇ……」
「うるさいですよ……ちびっこ……! ちびっこ2なんか、ぜぇっ、早々に飽きて、テクト君の指にっ、収まってます、し……っ、はぁ……っ」
アイギスに言われ、睨み返すウィズである。アイギスが「はいはい。ほら早く行くわよ手伝ってあげるから」「ひっ、引っ張らないでください転びまぎゃあ!」とウィズを引きずる。
そうしていると、ついに目的地に到着した。
「……ここが」
石で作られた見上げるほど巨大な建造物。精巧な造りは、作られた当時の建築技術の高さを窺わせる。―――これが、話に聞く古代遺跡か、と俺は息を飲む。
するとそこで、チャミーが俺たちの前に歩み出た。
「では、この遺跡調査について、改めて確認しておこう」
俺たちは立ち止り、チャミーを見る。チャミーは不敵な笑みを浮かべ、こう続ける。
「この古代遺跡は、コンスタンティン王国建国前より存在する、極めて古い建造物だ。建国前の文献を当たってもすでにあるものとして扱われていて、築造した記録が見当たらない」
つまり、とチャミーは続ける。
「これだけの建造物でありながら、作られたのは恐らく先史時代だ。全世界的に歴史が残っていない、古代文明によるものであると推測されている」
それを聞いて、俺はワクワクがぶち上がる。
失われた古代文明で作られた遺跡。そんなのを前にして、ウズウズせずにはいられない。
「こういう遺跡はまぁまぁあるんだがな、そのどれもが極めて危険であるとして、近づくこともできなかった。ここも同様で、それを解決したのが―――そこにいるテクトのワケだが」
あっ、おい。バラすな。
初耳の情報で、ウィズ、アイギスの二人が俺に振り返る。
「テクト君!? また危険なことしたんですか!?」「初耳なんだけど、テクト~!?」
「いや、その、色々あってさ、アハハ……」
無用な心配を掛けてもと思って、二人にはひと夏の大冒険(×2)については秘密にしていた。仕方ないじゃん。無人島は事故だし、秘密倉庫は恩返しだったのだ。
そんな俺たちのやり取りを黙殺し、チャミーは続ける。
「早速入ろうか。カノンが先頭を務める。
「アタシ? ……まぁいいけど」
アイギスが殿か。まぁ適切な割り振りだろう。防御力高いし。
「では、出発だ。カノン」
「ああ。行こうチャミー」
チャミーに促され、カノンが歩き出す。その後ろを、俺たちはついていく。
古代遺跡の中は、分厚い石の壁が熱を遮るからか、驚くほど涼しかった。
苔むした壁や蔦の絡まる道々に、ひんやりとした石の通路。洞窟のようで人の手が入っている、不思議な感覚に襲われる。
「ふむ……。見ろ、テクト。早速壁画が描かれているぞ」
「え? あ、ホントだ」
チャミーに促され、俺は壁に注目する。
壁画には、エジプトのそれとはまた雰囲気の違う人々やモノが書き込まれていて、それらが賑やかに行きかっている。当時の騒がしさが伝わってくるようだ。
「まだ判断しかねる部分も多いが……昔は、この遺跡には多くの人々が居たらしいな。遺跡のサイズからも、さもありなんと言うところだが」
「確かに、少人数でこの遺跡は建てられないだろうしな」
面白い。俺一人では分からない情報を、チャミーが言語化してくれる。
そう思うと、不意に俺は気になった。つまり、チャミーのことだ。
「……チャミーってさ、不思議な奴だよな」
「? いきなりどうした」
歩幅を合わせて歩きながら、俺は言う。
「普通さ、男ってこう、ダメな連中が多いじゃんか。周りから甘やかされっぱなしだから。でもチャミーはしっかりしてるし、かなり知識もあるだろ?」
「そうだな。座学では学年主席だ」
「頭良っ」
俺でもウィズとかには敵わないので、マジで頭いいんだな、とか思う。
一方チャミーは、流し目で俺を見た。
「だが、それはテクトもだろう? お前は特に、魔導工学、戦闘に長けるが、それらは本来男には不要なものだ」
「……まぁ、騎士の息子だからな。得意の一つでもないと、どうにもならないし」
俺が謙遜半分、自嘲半分に言うと、「私も同じだ」とチャミーは言う。
「第二王子の私には、領地継承権がない。あるのは兄上のスペアとしての義務と、兄上に歯向かわないように、という抑圧だけだ」
特に、後者が難しくてな、とチャミーは続ける。
「あまり人脈を広げたり、方々に顔が利くと『何を企んでいる?』と詰問される。兄上を生んだ正妃殿下としては、私が反旗を翻さないかと気が気ではないらしい」
「おぉ……そりゃ大変だな」
そういうのは、俺にはなかった。そうか。頑張りすぎても睨まれる、というのはキツイな。
「それで、人目につかない特技を身に着けるようになった。勉学はその一つだ。もっとも、兄上も優れているから、こちらはさほど隠してはいないが」
「第一王子なぁ……」
考えるだけアレなので、言及は避ける。くわばらくわばら。
「その意味では……そうだな」
チャミーが、独り言のように呟く。
「今回のように、騒がしく何かをするという事は初めてで、少し落ち着かない、かもな」
俺は目を丸くしてチャミーを見る。それから、ニッと笑った。
「なら、目いっぱい楽しまなきゃな」
「そうだな。これだけの古代遺跡調査は、貴重な機会だ」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「? どういう意味だ?」
そんなことを話しながら廊下を進むと、大きな空間に突き当たる。吹き抜けで一階二階と広々とした空間だ。他の道に繋がる入り口も、無数に確認できる。
「大広間のようだな。これだけ広いと、固まって動くのは非効率か」
チャミーが振り返る。アイギスたちも遅れて出てきて「うわっ、めっちゃ広い!」「わー! え、こんな大きかったんですか!」と感心している。
「おい! ここらで二手に分かれるのはどうだ? 戦力的には、分けても十分と思うが」
「あー、そうね。良いんじゃないかしら。班分けは?」
「私はカノンと行く。他の面々は仲が良いだろう。それで問題なければそうしたい」
「いいわ。あたしもそれに賛成。他に異論ある奴いる?」
アイギスの促しに、誰も答えない。「決まりね」「ああ」とアイギス、チャミーが頷く。
「では、私たちはあっちだ。行くぞ、カノン」
チャミーが歩き出す。カノンはそれに何も言わず、チャミーの隣を進んだ。
それを見送って、俺たちは言い合う。
「チャミーも結構ワガママだよな。カノンを好き勝手振り回して」
「ああいう関係性は、憧れないでもないですけどね」
「シチュとしてはね。でもあたしはテクトのがいいわ」
何か想定した反応と微妙に違う。
俺は貞操逆転フィルターに掛ける。ええと、チャミーとカノンをそのまま性転換させると?
……あ、そうか! ワガママ聡明お姫様と、それに付き従う武骨な騎士みたいな感じか! そう考えると分からなくはない。そうか。あのワガママは信頼の証なのか。
やっぱ外見と実態が違うから、理解がワンテンポ遅れるな。とか思いつつ、みんなに聞く。
「じゃあ俺たちはどう進む?」
「テクトが決めていいわよ♡」「はい! テクト君はどっちに行きたいですか?」
「……じゃあ、あっちで」
貞操逆転フィルターに掛けた直後に露骨な態度取られると、何かヤダな。
歩き出すと、メイが「そろそろワタシも歩く」と人間の姿になる。それで勝手に前に行こうとするのを、ウィズが「ちょっ、一人で先に行くのは危険ですよっ」と追いつき手を繋ぐ。
「あの二人も仲良くなったよなぁ」
「ウィズは何だかんだ面倒見いいからね。陰キャで照れ屋だから認めたがらないけど―――」
そんな話をしている時だった。
前を歩く二人が、ガクンと沈んだ。考えるより前に、俺は駆け出した。
罠。罠がある遺跡なのか。二人は深い落とし穴に落ち始める。俺は駆け出して素早くウィズの手を掴む。けど遅かった。このままだと、みんなまとめて落ちるだけだ。
だから、俺はぐい、と強くウィズを上に投げ上げた。
「っ!? テクト君!?」
ウィズが上がる。反転して俺は落ちる。だが、これでいい。俺は空中でメイに触れ「メイ! つっかえ棒になれ!」と命じる。メイはハッとして輝きの中に姿を変える。
そう思った瞬間、光が地面から立ち上った。見れば落ちた先には、トゲではなく魔法陣。落下を防げても、これでは意味がない―――
そう覚悟を決めかけた時、アイギスが降ってきた。魔法で、体に岩鎧が纏わり出している。
「テクト! しがみつきなさ、え!?」
「アイギス!?」
光が俺たちを包み込む。上で助かったウィズが、「テクト君ッ! みなさんっ!」と叫ぶ。
それを聞きながら、俺たちは魔法陣の中に取り込まれた。
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