【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
意識を取り戻す。目を開き、素早く立ち上がって周囲を見回す。
周囲は薄暗いが、直ちに危険な環境では内容だった。変わらずの石造り。気になるのは、今までは遺跡内に差し込んでいた日の光が、なくなっていること。
時間が経った? あるいは、いつかの鏡の中のように異次元に飛ばされた? 俺は考える。
「……風を感じない。時間が経った説よりも、地下に飛ばされたと見るのがいいか」
異次元なら、元々の遺跡に近づける必要もない。恐らくはこれだろう。見れば、岩鎧を纏って倒れるアイギスに、メイなのだろう鉄の棒が転がっている。
俺はメイを回収して指輪にしながら(メイは意識を失っていても、撫でると癖で指輪になる)、アイギスの鎧を叩く。
「おーい、アイギス? 大丈夫か~?」
「ん、んん……はっ! テクト! 大丈夫!? 怪我は!?」
「ない。アイギスも無事そうだな」
というより、怪我をさせる意図の罠ではないように感じた。分断が目的なのか。
「んー、見誤ったな。道中に罠がなかったから油断した」
迷宮だったら、もっと悪意と敵意マシマシだから、そういうものだと覚悟できるのだが。ここに来ていきなり転送罠、というので隙を突かれた形になる。
せめて先頭を俺かアイギスにすべきだった。ウィズとメイでは対応できなかっただろう、と渋い顔をしつつ、アイギスが立ち上がるのを助ける。
「テクト、ここは」
「分からん。が、多分地下だろうな。風がなくて薄暗い」
メイはまだ意識を失っているが、今勝手に行動されても危険だから、このままで居てもらおう。最悪大声で呼べば、すぐに刀になれるよう訓練はしてある。
「上に戻る道がないか探そう。落ちたのが俺たち二人で良かった。このメンツなら大丈夫だ」
「……ふふっ、そうね。アタシたちなら何とかなるわ」
アイギスが上機嫌に肯定する。「じゃあアタシが前歩くから」と有無を言わせず歩き出す。
俺はその後ろを進みながら、神経を張り巡らせた。そうしながら、罠の意図を探る。
何というか、悪意に欠ける罠だと思ったのだ。落とし穴ならばトゲで殺しにかかるべきだし、転送罠なら踏んだ瞬間に作動した方が対応する時間が短くなる。
あるいは、先ほどの落とし穴×転送罠が刺さる相手を想定していた? 例えば、大軍相手ならどんどんと穴に落としては転送魔法陣で飛ばして隔離、みたいな―――
そこで、アイギスが足を止める。俺も気付いて、横に並ぶ。
「魔物だな」「そうね。多分デカイ奴」
俺たちは頷き合う。見解が一致したなら、大抵の場合は合っている。
物陰から、曲がり角の向こうを覗き見た。巨大な蜘蛛が、先の一区画を占拠している。
問題は、その向こうに上り階段があることだ。
「ここが地下なら、あいつを倒すのが早いわね」
「だな。で、あの感じだと……知性個体ではなさそうだが」
巨大蜘蛛が一匹、周囲には子供らしき人間の腰くらいのサイズの蜘蛛が十数匹。音で俺たちの存在を疑わないのであれば、通常個体か。となれば、強力な敵ではないだろう。
「アタシがハンマーでぶち抜けば一瞬だと思うけど」
「いや、待ってくれ。……あの蜘蛛の糸、どう思う?」
「え? 糸?」
俺が凝視しているのに合わせて、アイギスも目を細める。俺たちの数倍ある巨大蜘蛛を宙に浮かせるような、強力な蜘蛛糸。
「まぁ、頑丈そうね、とは思うけど」
「いや、よく見てくれ。あの蜘蛛糸さ、ちょいちょい自律的に動いてないか?」
「えぇ?」
アイギスが注視する。その先では、一人でに糸が動き、動物をくるんでいるのだろうミノムシ上の糸塊を蜘蛛の目の前に垂らす。すると親蜘蛛が塊を破り、中身を啜る。
「ホントね。勝手に動いてる。ってことは、表だって戦闘になったら結構強いかも」
「違う。それもそうだけど、そっちじゃない」
「……嫌な予感がしてきたけど、続けて」
俺は、目を輝かせて言った。
「あの糸、所持者の意図を汲んで、勝手に動く魔導素材だよな……! アレがあれば、ずっと前から作りたかった装備が作れるかもしれない……!」
「はぁぁぁぁあああああああ……」
そんなクソデカため息しなくても。
「な、何だよ」
「いえね? まぁいいけど。やるけどね? ハンマーぶん投げれば一発で解決する相手を、糸を回収するために正面から戦って、勝ったらあの量の糸の回収が待ってるわけでしょ?」
まぁ、うん。ハンマーぶん投げたら、多分糸ぐちゃぐちゃになっちゃうし。
「……悪かったよ。じゃあ何か穴埋めするよ」
「ほんとっ? じゃあじゃあ、夏休み中に一回テクトの部屋にお泊りねっ」
「はっ? ちょっ」
「じゃ、行くわよ!」
アイギスは巨大なハンマーを担いで、意気揚々と曲がり角を進み始めた。巨大蜘蛛が俺たちに気付く。俺も「ま、マジでお泊り?」と言いながらついていく。
巨大蜘蛛が「キィッ」と鳴くと、子蜘蛛たちが一斉に俺たち目がけて走り出す。その尻尾には糸が絡んでいる。子蜘蛛も糸を吐くのか、と思いながら、先駆けはアイギスに任せる。
「じゃあ、一発目! 行くわよぉ!」
ぶぉん、とアイギスがハンマーを振りかぶる。その時、蜘蛛たちは一斉にアイギスの脅威を肌で感じ取り、退避に切り替える。
そこに、アイギスはハンマーを振るった。
「一掃するわ! おらぁぁあああああ!」
アイギスのハンマーが薙ぎ払う。かすっただけの子蜘蛛が壁に飛ばされ、ぷちっと潰れる。
だが、それはアイギスの想定よりも少ないものだった。
「あれっ? 避けられたっ?」
アイギスが目を丸くする。俺は「なるほどな」と武装を構える。
「アイギス! 連中、糸を収縮させて一気に退避したんだ! それで避けられた!」
「はぁ~!? ダル! 死んどきなさいよ!」
「いや、逆だ! そんなに糸頼みなら、むしろやりやすい」
「え? それ、どういう」
グラップルを構える。不殺武器として用意したものだが、こういう使い方も出来るのだ。
「エレクトロ・グラップル」
グラップルを巨大蜘蛛の真横、糸の中心に打ち込んで、俺は一気に電流を流した。
「「「キィィィイイイイイイイッ!?」」」
巨大蜘蛛、子蜘蛛たちが、一斉に悲鳴を上げる。俺は流す電力を引き上げる。
そしてグラップルを回収すれば、あら不思議。蜘蛛糸は無事なままで、巨大蜘蛛の一家は焼け焦げて、ポトリと地面に揃って落ちた。
「ふぅっ。こんなに刺さると気持ちいいな」
ニヤリと笑いながら、俺は前に進み出る。さぁ、お楽しみの蜘蛛糸回収タイムだ。
俺がスキップ交じりに蜘蛛の巣に向かう、その後ろ。そこで、アイギスが呟いた。
「……テクト、いつの間に、そんなに強くなったのよ」
不安そうな声。だがテンションが上がり切った俺は、それに気付けない。
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