【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
翌日、俺は早朝から、ジェノーヴァの教会に赴いていた。
理由は、もう一つの当ては午後の方がスムーズであるだろう、ということ。もう一つは、こちらの説得はスムーズに運ぶだろうな、と思っていたからだ。
「ごめん下さーい」
教会の戸を叩くと、そこの司祭らしき初老の女性が、「あら、男性の方ですか。珍しいですね。お入りください」と笑顔で迎えてくれた。
中に入る。すると、ブツブツとやさぐれた顔で掃除するセラフィを発見した。
「何が悲しくて旅先でも教会で働かなきゃなの。ありえないので。最悪。主よ呪われよ」
「そんな小さなことで主を呪ってやるなよ」
「てっ、テクトさんっ!? あっ、その、あの、主に感謝なので!」
「やっすい感謝だなぁ」
夏休み序盤の船上パーティー以来だが、元気そうで良かった。
俺と対面するなり、毛先や身だしなみを整えだすセラフィである。それから赤面がちに、「あっ、あの、テクトさんは、その、どんな用事で来られたので?」と問うてくる。
「ああ、ちょっとセラフィに頼みがあってな。前に出した手紙は見たか?」
「手紙……? そんなの来てな、ハッ」
セラフィは何かに思い至ったようで、燃えるような怒りの目でジェノーヴァの司祭にツカツカ歩いていく。
「司祭! ぼく宛の手紙! また検閲した!?」
「あら、お友達からのお手紙でしょうか? あなた様は聖女候補筆頭。夏休みだからと現を抜かさないように、私の方で夏休みが終わるまで預かっておりますが」
「あー! もう! ホント最悪なので! 掃除やめた! ぼくが聖女になった暁には、ここの聖教会から撤去させてもらうので!」
「ぼく、ではございません。わたくし、と自身をお呼びなさい、セラフィ聖女候補様?」
「ぼくが聖女になると思ってるのか思ってないのか、どっちなのその態度!?」
箒を投げ捨てるセラフィに、的外れなお説教をする司祭。ここの司祭ズレてるな。
「テクトさん! 行こ! 話は外で聞くので! べーっ、だ!」
「お、おう。じゃあその、司祭さん、セラフィお借りします」
「はい、お気をつけて。あなたのような可愛らしい男性のお誘いでしたのね。セラフィ様には可哀そうなことをしてしまったわ」
クスクス笑いながら、セラフィを見送る司祭である。俺はセラフィを伴って教会を出つつ、ひとまず自宅に向かいながら説明する。
「……つまり、魔獣島の古代遺跡の調査に、ぼくの知識が必要、ってことなので?」
「平たく言えばそうだな。協力してくれるか?」
ちょうどチャミーの屋敷に戻る頃に説明が終わって、セラフィは俺の説明を要約する。
「もちろんなので! うふふっ、やっと旅先らしい事ができそう」
嬉しそうなセラフィである。「でも、よかった」とセラフィは遠い目で笑みを作る。
「最初のパーティは爆破騒ぎでうやむやになるし、テクトさんはしばらく見つからないし、見つかっても連絡つかないしで、今年の夏も灰色なのかなって半分諦めてたので」
「それは、マジでごめんな」
「心配してたので、久しぶりにちゃんと顔を見れて安心したかも」
ちょっと意地悪な顔になって、セラフィは俺を見上げてくる。俺は困って話を変える。
「と、ちょうどいい時間だな。どうせなら、まとめて話しちゃうか」
「はい? どういうことなので?」
「もう一人、連れて行きたい奴がいるんだ。一緒に来てくれ、セラフィ」
首を傾げるセラフィを連れて、俺はシアの寝室に向かった。
「入っていいか、シア。もう一人客人もいるんだが」
「テクト? ええ。大丈夫ですよ」
返事を受けて、俺は扉を開いた。すると、ベッドに横になるシアと、その傍らで果物の皮をむくリーフィがいた。
「あ、薄情テクトじゃないですか。シア様が床に伏せってるのに、ろくに看病もしないで」
「うっ」
そしてリーフィに刺された。そうか。シアの分の恩をパンテラに返してたが、外向きはそう見えるよな。
「ぱく」
「おい」
と思ったら、皮を剥いた果物をリーフィが食べてしまった。シアのじゃないんかい。
そんなリーフィに、シアが諫める。
「リーフィ、あまりそういう事を言うものではありませんよ。テクトはわたくしが寝静まった深夜に良く様子を見てくれていましたし」
「ぶっ」
裏の所業を容赦なくバラされ、俺は噴き出す。色めき立つのは二人だ。
「はっ? テクト!? そんな深夜に何してるんですか!? そんなの不埒なんですけど!」
「テクトさん!? 聞き捨てならないので! えええ、エッチなことしてないよね!?」
「してねぇよ思春期どもが!」
俺はシアを睨む。シアはクスクス笑って「わたくしが不安な夜に良く来てくれましたものね」と追撃してくる。
そうか。そっちがその気なら、俺にも考えがあるぞ。
「……不安な夜? ぐずってる夜だろ?」
「っ?」
俺の反撃に、シアはビクリと震え、セラフィリーフィの二人はキョトンとする。
俺はシアの下に近づき、その耳元で囁く。
「寝起きに俺がいないから、最近夜にぐずるようになったもんな? この年になって夜泣きして、それでも俺が来ない日は俺の部屋に泣きつきにくるもんな? ん?」
「あ、あの、テクト、そ、そこまでにしてもらえませんでしょうか……?」
シアが顔を真っ赤にして、涙目で降参する。ふん、親に敵うと思うなよ。
と、そんなことはいいんだ。俺はリーフィに話しかける。
「シアの件は置いといて、今日はリーフィを呼びに来たんだ」
「はい? ワタクシですか?」
自分を指さすリーフィに、俺は頷く。
「ああ。今チャミーの誘いで、俺たちが遺跡調査してる話は知ってるだろ? それで、リーフィの手を借りたいんだ」
「えぇ……、魔獣島のですよね。もう飽き飽きなんですけど。シア様の看病もしたいですし」
渋面になるリーフィである。ま、想定通りだ。セラフィは乗ってくるだろうが、リーフィは簡単にはいかないと思っていた。
なので、俺は提案する。
「シアの看病だが、暇してる当てがある。そう暇はさせないはずだ」
「あら、どなたです?」とシア。
「五ねぇ」
「ひっ」
シアが顔を青ざめさせる。まぁ気持ちは分かる。世話には向かない人材だ。
だが、ここは押しどころ。俺はシアを説得する。
「前の五ねぇ奪還作戦で、何だかんだ認め合っただろ。ここで仲良くなっておこうぜ。五ねぇはピーキーだけど、雑に敵陣に投入しても落ちずに戻ってくるぞ」
「……仲良くしたい相手ではありますね。でも、盗賊に掴まっていたでしょう?」
「アレは、パンテラっていう上澄みに負けて凹んでたからだよ。拘束も甘かったし、凹んでなければ自力で脱出してきたはずだ」
「えっ? ……やっぱりテクトの家族っておかしくないですか?」
知らん。知らんけど家族の中で、俺は一番五ねぇを敵に回したくない。何でもするから。
とりあえずシアは考え込んだので、説得できたものとみなす。俺はリーフィに向かう。
「シアの世話人は決まったから、リーフィはいつでも魔獣島に来られるぞ」
「ちょっ、何で勝手に決めるんですか! そんな強引にされたって、言う事聞くと思ったら大間違いなんですから!」
リーフィは腕を組んで「ふん!」と抵抗の構え。どうしたものかな、と俺は考える。
すると、セラフィが口を開いた。
「じゃあテクトさんはぼくが貰っていくので」
「「「えっ」」」
セラフィが俺の腕を抱く。俺、シア、そしてリーフィが目を丸くする。
すると、セラフィはすっとぼけて続けた。
「あれ? そういうことじゃないので? テクトさんのお願いに応えたのはぼくだけだから、ぼくが貰ってくってことになったと思ったのに」
「えっ、ちょっ、ちがっ」と慌てるリーフィ。
「ぼくに出来ないことってほぼないし、テクトさんは大船に乗った気持ちで居て欲しいので」
どん、背丈の割に巨大な胸を叩くセラフィ。まぁ、セラフィは確かにそうか。
「じゃあ、まぁ、それでも……?」
「ちょっ、ちょっと待って欲しいんですけど! 行く! 行きます! 行けばいいんでしょ!? もう! テクトは本当に世話が焼けるんですから!」
ふんっ! とリーフィはセラフィの思う壺。俺がセラフィを見ると「リンドホルムさんは単純で助かるので」と悪い顔をしていた。
そんなこんなで二人に段取りを付けて三人で出て行こうとすると「わ、わたくしも行きたいです……」とシアが寂しそうに手を伸ばしていた。
病み上がりだし仕方ない。暇つぶしに五ねぇ連れてくるから、二学期沢山遊ぼうな、シア。