【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
数日後、再集合するなり、チャミーが薄いカバンを手渡してきた。
「そら、お望みのものだ」
「マジで!? こんな早く作れたのか!?」
俺が驚くと、チャミーは肩を竦める。
「お前がすぐに必要な人材を集めたと聞いて、急がせた。凄腕の魔導服飾店でな、文句を言っていたがどうにか数日でやってくれた」
「うぉおおおおおすげー! 遺跡調査終わったら紹介してくれ!」
そんな話をしつつ、俺たちはみんなで船に乗り込み、再び魔獣島に向かった。
魔獣島に辿り着き、古代遺跡へ。足を踏み入れると、セラフィ、リーフィの二人は感心に声を上げる。そうそう分かる分かる、とアニメの同時視聴みたいな気持ちになる。
ひとまず俺たちはルートが分かっていたので、二人を、詰まっていた碑文と木の根のところまで連れていく。
「あー、こういう感じですか。確かにこの木の根、色々支えてますね。けど」
リーフィは木の根を見ただけで諸々把握し、合図を出すようにポンポンッ、と二回叩いた。
すると、木の根か意志を持ったように木の根を動かし、道の脇に寄せる。ツルツタのカーテンも、まるで暖簾のように開いた。
「専門ですから。魔獣島は浸透済みだし、余裕なんですけど」
「うぉぉおおおおお、流石リーフィ!」
ドヤ顔のリーフィに、みんなして拍手する。やっぱすごいよなリーフィ。準備期間とフィールドが揃えば無敵だろこいつ。
「……リーフィルテ、イリューシアの取り巻きなんかやめなさいよ。アンタ『ヤドリギの魔女』っていう名血統の第一席なんだから」
「どんな場所でも安定して最強の、『小さな要塞』次席のアイギス様に言われると、流石に恐縮しちゃうんですけど……」
「そんなこと言ったら第一席がそこに居るわよ」
「カノン様は……まぁ……」
軍事血統同士、アイギスとリーフィで何か言い合っている。そういや同じクラスか二人。
「こっちだ。聖女候補筆頭殿に、この辺りの碑文を確認してもらいたい」
「分かりましたので」
チャミーの案内に、セラフィがついていく。俺もその後についていき、碑文を覗き込む。
無論、碑文は古代文字で、俺が読めるような代物ではない。読めるのはウィズ、チャミー、セラフィも多少は、という感じのようだ。
「ここで出てくるのが聖教会関連語でな、解釈に困っている」
「ああ、確かにこれはウチの言葉なので。……え、でも、ううん……」
セラフィが眉を顰める。ウィズが「手伝いますか?」と割り込み「助かるので。ここなんですけど、これって」と三人で解読を始める。複数の碑文にわたって読んでは唸る。
俺はもうお手上げで、邪魔にならないように距離を取った。アイギス、リーフィ、離れてカノンも同様で、俺はアイギス、リーフィに近づく。リーフィはお菓子をつまんでいる。
「頭いい組には、こういう時敵わんな」
「アンタも魔導工学ではあんな感じよ? テクト」
「マジで?」
「無人島サバイバルの時は、何で男がこんなに魔導工学に長じてるのって思ってましたけど」
「あ、あの、リーフィ。その話は、アイギスの前では」
「あっ」
俺とリーフィは、ギギギとぎこちない動きでアイギスを見る。アイギスはにこやかに言う。
「あ、そうだわ。この二人が当事者じゃない。じゃあいい機会だし、ゆっくり事情を聞かせてもらおうかしら」
「ひ」「ひゃ」
俺とリーフィがアイギスに詰められていると、「そんな」「何ですかこれ……!?」「これは……」と切羽詰まった声が、解読組から上がる。
「どっ、どうしたみんな! 何があったんだ!」
「あっ、テクトが逃げた!」
アイギスの追及をすり抜けて、俺は三人の下に戻る。それは誤魔化し半分の行動だった。
だが、三人が一様に顔を青ざめさせているのに、俺は動きが硬くなる。
「……本当に、何があったんだ?」
「……順を追って、話すので」
セラフィが言う。アイギス、リーフィたちも俺の後ろに並んで、不安そうな顔になる。
こほん、と咳払いをして、セラフィは話し始めた。
「まずここに書かれていたのは、殿下の言う通り、ここが『とある存在』と戦う、当時の前線基地であったことなので」
「この一帯を支配する、この辺りでは最も大きな国の管理するものであったようだ。文明レベルは、今と同等かいくらか上。だったな? デルフィア」
「はい。建築技術の一部に、失伝したものがありました。ただ、当時にそんな大国があったという歴史書は、私の方では把握してないですが……」
不穏。コンスタンティン王国よりも優れた文明が、かつてこの地で滅んでいた?
「……続けてくれ」
「はい。『とある存在』と戦うために、この前線基地では、様々な施策が行われたようです」
ウィズが歩き始める。次の碑文を撫で、軽く目を走らせ話し出す。先日解読済みの碑文か。
「例えば、この地に住まう神、『地龍』をぶつける、という作戦ですとか」
「地龍? っていうと、アレか」
俺は壁の隙間から見上げる。そこには、以前の攻防から再び大人しくなった地龍が、じっと動かずにそこに屹立している。
「地龍って、神なのか?」
「聖教会で教えられた『土着信仰における、「神」「精霊」に分類される存在』らしいので」
つまり信仰による、ということか。思えばパンテラの豹族も神を信仰していた。あれもまた、別の土着信仰という事なのだろう。
「神って、結構色々あるので。強大すぎる魔物が神として崇められるパターンとか、その土地の原住民が素朴に信じている土着信仰とか。聖教会だけじゃない、……ので」
妙に歯切れが悪くなったセラフィに、俺は首を傾げる。
「ただ、そちらはうまくいかなかったようだ。『とある存在』が強力すぎて、地龍はけしかけられてすぐ抵抗を止めた。『とある存在』はそれで地龍に興味を失ったと」
チャミーの説明に、俺は眉を顰める。
「地龍が即戦意喪失? マジで?」
どんだけの敵ならそんなことになるんだ、と思う。リーフィの網で捕えても、しばらくは暴れてたぞあいつ。
「ただ、それはこの前線基地の主流戦略ではなかった。普段は、別の神を用いてその存在に抗っていたそうだ」
「別の神?」
「異界より呼び出した神―――海神を意味する古代文字『マレデウス』」
チャミーが、そう語る。海神? と俺はどこかで聞いたような気がして引っかかる。
「そう呼ばれる神に祈りと生贄を捧げることで、『とある存在』と戦わせていたようだ」
「生贄……」
俺が顔をしかめると、「安心してください、テクト君。ここはさほどグロテスクな話ではないですよ」とウィズが捕捉する。
「生贄、という意味の文字で説明されていますが、生贄は毎回固定の人物だったようです。恐らくは海神の司祭みたいな存在だったんじゃないかと思います」
「そうなのか。ってことは、碑文はその海神と『とある存在』の戦闘の記録、みたいな?」
「ああ。あらましはその認識で合っている」
「へー! 面白いな。神と侵略者の戦いか。新しい神話的な感じだ」
俺が面白がると、解読組が顔を見合わせる。何だよ。
「そういえば、アンタらが顔を青ざめさせてた理由を聞いてないわ。何で?」
アイギスの問いに「確かに。そこがいまだに分からないままですけど」とリーフィが続く。
「……神話では、基本的に神は勝つものだ。神話だからな。崇める神は勝者であり、正しいものであると語るのが普通だ」
「まぁ、そうだな?」
チャミーの語りに、俺は頷く。
「でも、この碑文の最後と思われるものには、こう書かれているんです」
ウィズは離れた場所の碑文に近づき、口を開く。
「『海神は破れ、×××が勝利した。こんなものがこの世界の終焉なのか。これで終わりなのか。呪われよ、×××よ。×××が支配する後の世に災いあれ』」
ゾワ、と背筋に嫌なものが走る。それで大国が滅んだのか。ウィズは顔を上げて続ける。
「この前の碑文には、前線基地以外の地域が、『とある存在』に汚染されていく様子が記されていました。人々は洗脳され『とある存在』を崇めだした。遺伝形質に異常をきたしたと」
「遺伝形質……」
奇形が生まれた、みたいな話か? 嫌な話でもあるが、『遺伝』なんてワードが出るあたり、確かに相当発達した文明だったのだろうと納得する。
「まぁ、そこまではいい。問題は、その『とある存在』が何であるかだ」
「そうだよ。結局その『とある存在』って何なんだよ」
ウィズとチャミーが、揃ってセラフィを見る。セラフィは言い辛そうに、口を開いた。
「『とある存在』とは、主のこと、だったので」
「……は?」
俺はポカンとする。意味が分からない。
セラフィは続ける。
「主は、現代語では、
セラフィは目を伏せる。
「ここの碑文が正しければ、かつて突如現れた侵略者とは、聖教会が崇める『主』のこと、なので。つまり、今のこの世は、旧人類が『主』に敗北して、支配された世界っていう……」
静寂。痛いほどの静寂が、張り詰めていた。
理解が、及ばない。異世界ファンタジーが、いきなりコズミックホラーに書き換わったような、そんな気持ち悪さが、俺の中に渦巻いている。
そこで、俺の思考に、引っかかるものがあった。
「……『歪んだ魔女』」
口の中で呟く。歪んだ魔女。シアの幻影騎士が、かつて世界を支配して塗りつぶしたと語った、恐ろしい存在。それがきっかけで、この世は今のように男が生まれなくなったと。
一致する。主は人々を洗脳し、遺伝形質に異常をきたした。それは奇形などではなく、つまり男がほとんど生まれない遺伝子に塗り替えた、という事ではないのか。
俺の中で、パズルのピースが嵌まり始める。主。歪んだ魔女。だが、それだけではない。
魔女と呼ばれる存在は、他にもいる。グリーディアの一件で出会った不可思議な少女も、魔女と呼ばれていた。『着飾った魔女』と。
そしてもう一人、特定条件下に限定されるものの、神とされた存在を拘束してのけた存在がここに居る。
リーフィ。リーフィの血統は『ヤドリギの魔女』と言ったはずだ。また。また魔女だ。
なら、何だ。神とは、主とは―――魔女とは、何だ。
だが、その問いに答えるモノはない。ただ、知ってはならないことを知ってしまったという感覚だけが、拭えない。
しかし、だというのに、俺は言っていた。
「……なぁ、みんな」
我ながら、きっと、歪な笑みを浮かべていたと、そう思う。
「とりあえず、行けるところまで、調査を続けない、か? 危険だったら、引き返す感じで」
「……そう、ですね」「うん。……行きましょ」「賛成、なので」「分かりましたけど……」
誰ともなく、俺の提案に頷く。そうして、無言のままに歩き出す。
俺たちはきっと、真実に酔っていた。好奇心に、手招きをされていた。
まるでハーメルンの笛吹きに連れられる子供たちのように、奥へ奥へと進みだす。