【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
奥に進んで行き当たったのは、巨大な縦の大穴だった。
「何よこれ……」
アイギスが言葉を失う。他のみんなも、同じようなものだ。
縦穴は下にどれほど続くのかも分からないほど深く、幅も直径100メートルは下らない。
そこに、飛行型の魔物が飛び交っているのだ。大半はザコだが、安全に下に降りるのを想定すれば脅威となる。普通は落下中の戦闘などできないからだ。
「……どうしたものか」
チャミーが腕を組む。というのも、ここ以外に先を進む道はなかったのだ。
他の道は、のきなみ総崩れしていて、少し瓦礫を退かしたからと言って進めるようなものではなかった。それで道を探しに探して、見つけたのがこれだったのだ。
流石にこれは、とも思いつつ、行くとしたらここしかない、というのが俺の考えだ。
というのも、この大穴は明らかに人の手が入っているのだ。巨大だが建造されたもの。下には何かがあるというのは、造りから確信できる。
しかし、各々の能力を超えていて、みんなして顔を見合わせる。みんな高い能力を有していても、ここで通用するスキルセットを持っている者はいない。
そう――――この俺を除いて、だ。
「さて、じゃあ」
俺は肌を守る分厚い上着を脱ぐ。すると、チャミーがくれた薄いカバンが露出する。
さ、出発と行こう。
「待ちなさい」
と思ったらアイギスに止められた。
「何だよ」
「何だよじゃないわよ。何を一人で『俺の出番です、か』みたいな顔してんのよ。テクトの出番だけじゃないことは確かよ。グラップリングフックでも難しいでしょこれは」
そんなイキったことは考えとらんわい。それに頼みはグラップルじゃないし。
「いや、大丈夫大丈夫。ここはマジで俺の出番だから。見ててくれって。大活躍するから」
「陰キャ~! テクト捕まえておくの手伝って~!」
「またですか? もー、テクト君はいっつも無茶ばっかり!」
「ちょっ、ひっ、卑怯だぞ! 行かせろ! 俺を飛ばせろー!」
二人掛かりで押し込まれ、ジタバタする俺である。くっ、女二人掛かりの拘束が解けない! 緩めの拘束なのに、力が俺の十人分くらいある! 微塵も動かない!
と思ったら、チャミーが近づいてきて、俺に問う。
「テクト。今朝渡したあれか?」
「ああ、チャミー。ちょうど刺さるシチュエーションなんだ。行かせてくれ」
俺は自信満々で答える。チャミーは「ふむ」と吟味して、ウィズアイギスに告げる。
「なら、放してやれ。テクトはちょうど秘策を用意していた。恐らくだが、この場を突破できるのはテクトだけのはずだ」
「「……」」
二人が無言で、渋々俺を解放する。「おっ、やりぃ」と俺は自由の身。
「テクト、本当に大丈夫なのね? アンタいつも無茶するから、心配なのよこっちは」
「そうですよ、テクト君。私たちだって、意地悪でしてるんじゃないんですから」
二人の言葉を聞いて、セラフィ、リーフィが「やっぱりいつもあんな感じなので……」「そうですよね? テクトは無茶しますよね?」と共通認識を固めている。止めて欲しい。
「ああ、約束する。下に行けば何か活路は見つかるだろうし、無事に落ちれるなら戻っても来れる。心配しないでくれ」
「……分かったわ。行ってらっしゃい」
「ああ! 行ってきます!」
俺はみんな背を向け、大穴に向かう。そして飛び込む寸前で、アイギスがもごもごと呟く。
「アンタ、凄すぎて、不安なのよ。ほっといたら、どこまでも一人で行っちゃいそうで」
「――――」
俺は、僅かに聞こえかけた言葉に振り返れないまま、大穴に身を投げ出した。
落下。自由落下だ。俺は身一つでスカイダイビングよろしく宙を舞う。身体に受ける風がものすごい。身体の傾ける角度一つで、すいーっと空を滑っていく。
だが、それだけではない。周囲に飛ぶ魔物たちが、俺という餌を見つけて寄ってくる。
だから俺は、舌なめずりをして、言った。
「俺が餌だと思ったのか? その考え、改めさせてやるよ」
背中のカバンに触れる。薄っぺらい小さなカバンだ。触れるだけでいい。そういう素材で、作ったのだから。
「広がれ、パラグライダー!」
バンッ、と俺の背中からパラグライダーが展開される。魔物たちは驚いて身を翻す。
―――パラグライダー。現代日本で使用するものと全く同じ、あのパラグライダーだ。
大きな楕円状の布に糸を括り付け、人間につなぎ滑空するアレである。スカイスポーツの代表の、まさにアレである。
俺の体は広がったパラグライダーを起点にして、空中でブランコのように揺られた。この動きで俺は回転する。
だが、それだけではない。
「戻れ、パラグライダー!」
俺が叫んだ直後、パラグライダーがカバンに戻る。軌道が読めずに怯んだ魔物に、俺は襲い掛かり、明鏡止水で貫いた。
―――これこそが、俺がやりたかったこと。
すなわち、急速展開パラグライダー。意図を汲む魔導素材で、展開、収納、自由自在!
ただのパラグライダーではダメだったのだ。何故ならそれでは、戦闘には使えないから。移動に使えるだけでも有用だが、使い捨てや、かさ張るようではいけない。
俺は魔物を切り捨て、再び落下。そうしながら、右手の氷の魔導回路を起動する。
「メイ! 準備は出来てるな!?」
『もちろんご主人。好きに暴れて』
俺は空中を舞いながら、右手を構える。弾倉にはメイのボルトが溜まっている。
「行くぜ。蹂躙だッ!」
そして、発射ボタンを押しこんだ。
周囲に無限ボルトがバラまかれる。巨大な鳥が急襲してくるから、パラグライダーを展開、回避。からのパラ収納で銃撃!
グラップルの飛行能力は限定的だ。近くに壁や打ちこむモノがないと活躍できない。その点、パラグライダーは完全な空中でも活躍する。
スカイダイビングの移動とは、次元が違う移動ができるのがパラグライダーなのだ。自由落下だが自由落下ではない。
いわば落下の動きに、好きなタイミングでブランコの弧運動を差し込めるようなもの。
俺は急速展開、急速収納を繰り返しながら、近づいてくる飛行魔物を一掃する。俺の落下に合わせて、無数の翼をもつ魔物たちが墜落していく。
「ハーッハッハッハ! お前らの住処と思ったかよ! 残念! これから空は俺のもんだ!」
落ち続けて、大体一分ほど。そうするとやっと地面が見えてきて、俺はパラグライダーを展開して、螺旋の動きで緩やかに降りていく。
着地。俺は「収納」と呟いてパラグライダーを仕舞いながら、最後に襲い掛かってくる五メートル級の怪鳥に向けて、右腕を構える。
起動するは炎の魔導回路。内燃機関で炎が燻る。
「おいおい、地上なら勝てると思ったのか? 地上の方が、お前は弱いんだぜ?」
前に踏み込む。怪鳥を迎え撃つ。さぁ、轟け。
「パイルッ、バンカーァァァアアアアアア!」
パゴォォオオオオオンッ! と軽快な金属音を立てて、俺の数倍ある怪鳥がバラバラになって吹き飛んだ。
無数の魔物の死骸で埋め尽くされる地面の中心で、炎を薙ぎ払い、俺は笑う。
「さ、みんなを迎えに行ってやろう。絶対これだけの大穴じゃないと思うし」
周囲を探る。すると案の定古錆びた魔導回路があったから、俺は修復を始めるのだった。