【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
合流した俺たちは、分散鍵を組み合わせて、一つの鍵を作り出すことに成功していた。
「こっちだ」
チャミーが、カノンと共に歩いていく。この先に危険がないとでもいうように、のびのびとした足取りでチャミーは進んでいく。
アイギスは、努めて明るく振る舞っていた。いつも通りウィズとじゃれ合いながら、俺の後方を歩いている。
俺から今掛けられる言葉はないと分かっていたから、無理に近づくことはしなかった。
そうやってみんなで進んでいると、再び俺たちは、開けた場所に出た。
どこか薄暗い場所だった。日の光が入らない、魔力灯りが薄く照らすばかりの場所。
特徴的なのは、道の突きあたりにある、あまりに巨大な扉だった。
全長百メートルに届きそうな、そんな高さの扉だ。仕掛けがなければ、ほとんど壁と変わらないような造りのそれ。
組み合わせた鍵を持ったチャミーは、鍵穴に鍵を差し込んだ。そして、捻る。
だが、扉は開かなかった。「ふむ」とチャミーが呟く。
「やはりか。想定はしていたが……」
「え、開かないのかよ。せっかく集めたのに」
アイギスの件を気にしつつも、それとは別問題で海神とやらを期待していた俺は、肩透かしを食らってそう言う。
そんな俺に、チャミーは振り返った。
「テクト、力を貸してくれるか?」
「力? 強引に破壊して進もうって? 試すのは良いけど、ここの材質だと厳しいんじゃないかって思うが……」
この辺りは造りが堅牢で、ひどく頑強な素材を作っているのが見て取れた。パイルバンカーでも怪しいほどだ。だからそう言いながらチャミーに近づいていくと、「違う」と言われる。
「テクト、お前は何が足りないピースであるかを知っている。違うか?」
「は? 足りないピースって何だよ」
「足りないピースは、足りないピースだ。海神に至る鍵。その足りないピース。お前には、覚えがあるはずだ」
キョトンとする。海神、鍵。組み合わせた鍵を差し出され、丸いくぼみを見て、再びチャミーを見返した。
すると、チャミーの目に、今まで見たことがないくらい、青の光が瞬いているのが分かった。俺は瞬時に察して、懐を探る。
パンテラが語った、彼女の過去。グリーディアが言ったこと。チャミーの知る『鍵』。
―――青の宝玉。海神の鍵。
「……」
俺は、まさかと思いながら、お守り代わりに携帯していた青の宝玉を取り出した。
受け取った鍵のくぼみに、嵌め込む。そして俺は、扉の鍵穴に差し込んだ。
捻る。カチッと音がして、巨大な扉が、奥へと開き始めた。
「―――――ッ」
マジかよ、と思う。いや、確かに、情報としては繋がる。繋がるが、まるで、これでは。
運命が、この帰結に至るように、差配したかのような、そんな錯覚さえ、抱いてしまう。
「……!」
俺は、動揺に歯噛みしながら、正面に開く扉を見た。ここよりももっと暗い道が、先へ先へとつながっている。
それを見て、チャミーはポツリ、こう呟いた。
「やっと、ここまで来られた、か」
「……は?」
俺はチャミーを見る。チャミーは俺に視線を返す。そのほくそ笑む表情は、まるですべてを画策していたかのようで。
それで俺は、ふと気付いて、聞いてしまった。
「―――チャミー。もしかしてグリーディアの船を爆破したの、お前か?」
「―――――」
その問いに、チャミーは目を大きく見開き、
そして、爆笑し始めた。
「ぷっ、ふ、ははっ、あはははははははは! あっはははははははっ!」
チャミーが、腹を抱えて笑いだす。薄く開けられた瞳の奥で、青の光が爛々と輝く。
チャミーのこんな顔を見たことがなくて、俺は思わず呆気に取られてしまった。
チャミーは「くっ、そうか。ははっ、き、気付かれて、しまったか」と笑い涙を拭う。
「よく、ふふ、気付いたな。どうして気付けた?」
「……グリーディアのこと、最初からずっと、狙ってたんじゃないかって。チャミーが消えたのも、爆発の寸前だったし。俺がグリーディアを叩いてた時、協力してくれてたし」
それに、と俺は続ける。
「これ、青の宝玉。これを狙ってグリーディアを追い詰めてたなら、辻褄が、合う」
「ふふっ、そうだな。いや、驚いた。驚いたぞ、テクト。バレるとは露とも思ってなかった」
チャミーは笑って、俺を見る。
「流石だ。お前はただ者ではないと思っていたが、ここまでとは思わなかった。見直したぞ。お前は、どこまで私の期待を超えてくるんだ」
ふくく、とチャミーは笑う。しかし、今までのような、どこか親しみを感じられる態度からは、遠のいていた。
だって、チャミーは自白しているようなものだから。
全部仕組んでグリーディアを陥れ、俺の行動をうまく利用したのだ、と。
「さて、ならばもう、取り繕う意味はないな」
チャミーは俺に手を差し出してくる。
「その鍵を、返してくれ」
「……」
俺は鍵から、青の宝玉を外そうとする。それにチャミーは「いいや、外すな」と言った。
「その宝玉は、鍵の核だ。それごと、私に寄越してくれ」
「……嫌だ。これは、俺がパンテラから受け取ったものだ。チャミーにはやれない」
「借りるだけだ」
「嘘を吐くな。お前の顔は、そう言ってない」
チャミーはひどく悪辣な顔で、俺に笑いかけている。チャミーはくくっと独り言ちた。
「私は、嘘が得意なつもりだったんだがな。いや、楽しくなりすぎて、吐けていないだけか」
俺は目を細める。それから、こう告げる。
「……なぁ、チャミー。様子がおかしいぞ、お前。今まで、そんな風じゃなかっただろ」
「そんな風? テクト。お前が私の、一体何を知っているというんだ。このひと夏の短い期間で、たまに私と談笑する程度だったお前が」
嘲るようにチャミーは語る。だが俺は、反論した。
「……グリーディアを狙ってたのも、その過程で爆発事故を起こしたのも、多分チャミーの企み通りだ。お前の手回しには慣れたものがあった。俺を利用したのもそうだろ。けど」
俺は続ける。
「お前は典型的な、身内に甘いタイプだろ。騙して物を奪おうだなんて、そんなことはしない。本来のお前なら、目的も理由も全部俺に話して、俺ごと抱きこもうとしたはずだ」
けど、今のチャミーはそうではない。
「そうしないのは、お前の目に宿ったその光―――この宝玉の光で、おかしくなってるからだ。チャミーは今、きっと正気じゃない」
目の中に宿る、青い光。それは、宝玉に対する欲望に呼応するように、過激な行動を取らせるものなのではないか。
パンテラの昔話でも、グリーディアやその従者たちが、目に光を宿していたと言っていた。だとするなら、ありえない話ではない。俺に光が宿らなかったのは謎だが……。
「――――テクト、お前は」
それにチャミーは、何か言いかけ、結局口を閉ざした。それからくるりと踵を返し、ツカツカと歩く。俺から距離をとって、告げた。
「カノン、奪え」
「分かった、チャミー」
「はっ?」
殺気。俺は反応するが、しきれない。カノンが俺に肉薄し、固めた拳を胴体に打ちこむ。
「ガッ、ハ……!」
俺は絶息して、吹っ飛ばされた。気付けば鍵はカノンに奪われ、俺は地面を転がる。
「――――カノンッ、アンタ、テクトに何してくれてんのよッッッ!!!」
それに激昂したのは、アイギスだった。
「来なさいッ! リトルフォートレス!」
「来い、リトルフォートレス」
呪文で瞬時に岩鎧一式を纏い、ハンマーをカノンに肉薄、殴り掛かる。だがそれを、カノンは同じく呪文で纏ったハンマーで撃退した。
「がぁっ、ぐ……!」
アイギスが吹っ飛ばされ、地面を足でこする。一拍遅れて俺の下に、ウィズを初めとした面々が集まり、介抱してくれる。
そして、カノンを除く全員から鋭い視線を向けられ、チャミーはなお泰然と口を開いた。
「テクト、私はお前を、高く買っている」
俺を指さし、こう続ける。
「お前はすごい奴だ。ジェノーヴァで出会って以来、お前をずっと見てきた。お前は無人島から無傷で生還し、私の長年の悩みだったグリーディアを下して見せた」
だから、とチャミーは目に青い光を輝かせる。
「だから、ケンカをしよう。ここで叩き潰すような真似はしない。やるなら正々堂々、準備をして全力でやろう」
そして扉の向こうに歩き出し、俺たちに背を向けたまま、手を振った。
「私はこの先に用がある。私が気に食わないなら、殴りにこい」
チャミーが、カノンを連れて奥へと進む。それをみんなは苦々しい顔で睨み、「大丈夫ですか、テクト君っ」「安静にして欲しいので。今聖魔法で回復を」と口々に言い合う。
そのすべてを無視して、俺は立ち上がった。リーフィが慌てだす。
「はっ? てっ、テクト!? あの、カノン様から殴られて、男の子がそんな、無事なワケ」
「痛くねぇよ。それよりあいつ……! 正気を失って、青の宝玉を奪いやがって」
俺が唸ると、全員が呆気に取られていた。生憎と、昔から回復力は高いのだ。骨を折っても数日で完治したことすらある。
にしても、何だこの展開は。パンテラから貰った思い出の宝物が、人を狂わせる欲望の宝玉だと? それにチャミーは魅入られ、カノンもカノンで婚約者を盲信しやがって!
「バカどもが、上等だ。二人まとめてぶっ飛ばす!」
怒りと共に、俺は奥へと進みだす。