【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
扉の向こうには、ひどく大きな通路が伸びていた。
いや、と思う。ここまでも、本来ならばそうだったのだ。メイン通路はすべて、ひどく巨大だった。だが土砂崩れなどがあって、それで狭い道になっていたのだ、と。
それに、奇妙な違和感を覚えながら、俺は武装を確認しつつ歩いていた。
俺が立ち止まらないから、他のみんなも自らの武装を確かめていた。俺を止めようとしていたのは最初の十数秒ばかり。今は全員、覚悟を決めた顔で俺についてくる。
「テクト」
岩鎧を解いたアイギスが、隣に並んで俺を呼ぶ。
「もう行くななんて言わないわ。けど、無理だけはしないで。アンタは、男の子なんだから」
「そっくりそのまま、その言葉返すぞ」
「は? いや、だから……いいえ、こうなったテクトに何言っても無駄ね。つまり」
アイギスが、俺の手を握ってくる。
「アタシが、アタシたちが、テクトにはついてるってこと。一人で頑張りすぎないで。やばいと思ったら、頼って欲しいの。それだけ」
「……そうだな。頼りにしてるよ。アイギスも、みんなも」
みんなに聞こえるように言うと、各々嬉しそうな反応を返してくれる。俺は頷き返して、更に奥に進んだ。
チャミーは、カノンに抱えてもらって爆速で先に進んだのだろう。最奥に至るまで姿を見せなかった。そしてその最奥に至ると、まるで俺たちを待っていたかのように、光が灯る。
だが、まだ暗い。闇の奥から、声が響く。
「待っていたぞ、テクト。お前なら、私を殴りに来ると思っていた」
チャミーの声だ。恐らくは、上の方から聞こえた。俺は舌を打って「偉そうなこと言ってんじゃねぇぞ性悪王子!」と怒鳴り返す。
「はははっ、いいな。表立って罵倒されるなんて、人生で初めてだ。思えば、そうだな。ケンカも人生初か。ふふ、楽しいな」
この空間の闇が、灯る光に払われていく。その度にこの場の全容が露わになっていく。
そして、段々と
それは、巨大だった。
一種のビルのようなサイズ。鋼鉄で覆われた鈍色のフォルム。そこに、『海神』の名に恥じない青のデザインが走る。
アイギスたちが「何よこれ」「嘘ですよね……?」「意味が分からないので」「大きすぎるんですけど……」『ご主人、アレすっごい大きい!』とどよめく中、俺だけが理解する。
「きょ……きょ……!」
「て、テクト、落ち着いて。確かにこれは巨大だけど、でも―――」
「巨大人型ロボットだコレ!!!!!!!!!!!」
俺の絶叫に、みんなが目を丸くする。だが、俺だけは万感の思いに頭を抱えて叫ぶ。
「碑文の逸話ってそういうこと!?!? 異界から呼び出したってアレじゃん! よくよく考えればバイクの奴じゃん! え!? じゃあ別の世界にはあんの!? 巨大人型ロボット!」
俺は何かもう、情報がずっと完結しなくて混乱してしまう。
何で海神とか言われてるのか分かった。このサイズでこの立地で戦えば、海を割って戦うことになるからだ。何故固定の生贄がいるのか分かった。操縦者の事なのだ。
え、じゃあ『主』の正体がなおさら分からないんだが!? 世界観がごちゃ混ぜすぎる。貞操逆転世界と魔法と巨大人型ロボットを混ぜるな!
大混乱する俺をよそに、チャミーが高笑いを上げる。見れば胸元のコックピットにいる。
「ハハハハッ! テクト、お前がそこまで混乱するのなら、苦労して海神を起動した甲斐があったというものだな」
「うるせぇぇええええ! それはズルだろ! ズル! ズルズルズル!」
「卑怯と言われるのは、勝負事では褒め言葉と聞くが?」
「黙れバーカ!」
俺の罵倒の語彙が、あまりの状況に死んでしまう。他の面々も、困惑に動けない。
そこで、ガシャン、と海神マレデウスの足元で音がした。見れば、拘束が外れている。
つまり―――
「みんな! 壁沿いに避難しろ!」
俺の号令に、みんなで一斉に移動する。俺もグラップルで高速移動だ。
直後、コックピットが閉まる。そしてマレデウスの背後で、ブースターが火を噴いた。
『せっかく追ってきてもらったところ悪いが、ここは狭い。地上に出させてもらうぞ!』
マレデウスが、発進する。
火を噴いて、巨躯でありながら爆速で、俺たちが歩いてきた道を進んでいく。俺はその足元にグラップルを打ちこみ、半ば引きずられながら追跡する。
「逃がすかぁッ!」
「テクトっ!?」
「みんなは走ってついてきてくれ! 俺はこのままサシでやる!」
「冗談でしょ!?」
アイギスの悲鳴を聞きながら、俺はマレデウスのスネにグラップルでしがみついた。
マレデウスは瞬時に巨大通路を突破し、瓦礫の山を打ち砕き、巨大な縦穴に辿り着く。
足元のブースターが火を噴く。マレデウスが豪速で地上まで飛び上がる。ここまでの数時間かかった道のりが、たった数分で踏破されてしまう。
そしてマレデウスは、土をまき散らしながら、魔獣島の地に着陸した。
島中の鳥が、飛び立っていく。森がざわめき、地龍がうずくまり身を固くする。
海神、マレデウス。その再臨に怯えているのだ。
『さて、テクト。そろそろタダ乗りは止めてもらおうか』
俺がしがみついているスネが、後方に上がる。「マジかよ」と俺は冷や汗を垂らす。
直後、マレデウスの前蹴りの勢いでグラップルが耐えきれず、俺は空中に投げ出された。
「うぉおおおおおおお!」
グルグル回転しながら、空中を舞う。上空数十メートルは下らない高さ。普通なら即死。
だが俺は、空中戦のための装備を有している。
「開けッ、パラグライダー!」
バンッ、とパラグライダーが広がる。俺は弧の動きをしつつも、最終的にはパラグライダーを起点に安定体勢になる。
そして俺とチャミーは対峙した。片やパラグライダー、片や巨大人型ロボットに乗って。
―――戦力差がありすぎるだろ! いい加減にしろ!
俺はゆっくり下降しながら半ギレである。だが、ケンカである以上やり切るしかない。
『さぁ、やろうかテクト。お前の実力、見せてみろ』
チャミーが、宣言と共に襲い来る。