【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
機織りの夢
見慣れない空間だった。
木造の、みすぼらしい小屋の中のようだった。田舎の、人が住んでいるとは思えないような、寂れた小さな建物。
その中から、絶えず音が聞こえていた。
シュインッ、ギィ、トントン。シュインッ、ギィ、トントン。
俺は自然と、その音に吸い寄せられるようにして近づいていた。すると、その音に紛れて、人の泣き声が聞こえてくる。
そしてその部屋に入り、そこにあるモノを見た。
それは、大きな機織り機だった。布を作るための機械だ。だが、前世の現代日本のような完全機械の物ではなく、人が操作しないといけないタイプのそれ。
特徴的なのは二点。
まず、機織り機の上に、蚕蛾が止まり、ゆっくりと羽を動かしていたこと。
その機織り機の前に座って、泣きながら作業している少女が居たことだ。
「うぅっ、う、うぅ、ぅぅぅうう……!」
浅黒い肌に、短い黒髪の少女だった。服はボロ着で、孤児や奴隷のようだった。
少女はすすり泣きをしながら、それでも絶えず手を動かしていた。
シュインッ、ギィ、トントン。シュインッ、ギィ、トントン。
上下に交差する縦糸の間に、横糸を挟んだ木船を走らせる。足踏みをして縦糸を交差させ、トントンと枠で押し固める。
そうすることで、少女は機織りをしていた。
そんな姿が何だか可哀想に見えて、俺は何となくそちらに近づいて、少女に話しかけた。
「何してるんだ? ……何で泣いてるのか、聞いてもいいか?」
「……あのね? みっ、みんながねっ。ぼ、ボクみたいな奴が作った布切れなんか、き、着たくないって、言うの……!」
少女は涙をポロポロと流しながら、そんなことを言った。
「ぼ、ボクは汚くて、みすぼらしくて、だから、要らないって。だから、ボクが頑張って織った布なんか要らないって。ボクが作った服なんて着たくないって」
俺はそれを聞いて、ただ、素直に酷い話だと思った。
だから、何の他意もなく、提案していた。
「なら、俺が着てもいいか?」
「え……?」
少女が機織りの手を止めて、俺の顔を見上げた。小柄で、まだあどけない少女だ。こんな年なのに働かなければならないなんて、とそんな風に感じる。
だからせめて、俺に出来る範囲で少女に寄り添ってあげたいと思ったのだ。
「せっかく君が作った布、服にするなら、俺が着てもいいか? ちょうど最近、服が足りなくなってきててさ。ちょっと色を付けるから、俺に売ってくれよ」
「……ボクの作った服、着てくれる、の……?」
信じられない、という目で見る少女に、俺は「ああ」と微笑みかける。
「だって君、すごく頑張ってるじゃんか。それに、手つきがプロって感じで、キビキビしてて格好いい。きっと、君が作る服は質が良くて、とっても着心地がいいんだろうな」
俺がそんな風に言うと、少女は目を輝かせ、涙を拭った。
「本当? ボク、機織り上手だった?」
「ああ! 上手だったよ。にしても君、服まで作れるのか? すごいな。機織りもプロ級なのに、服まで作れるなんてさ。尊敬するよ」
「ふふっ。そ、そうかな? うふふっ、嬉しいな。ボク、そんな風に言われたの初めてだったから。だから、……だから、とっても嬉しい」
嬉しそうに少女は笑って、少し頬を赤く染めた。それから「あの、じゃあ、じゃあね?」と俺に言う。
「
「あははっ、いいよ。じゃあ、約束だ。君が服を作ったら、俺が買って着るよ。このことも忘れる。それでいいか?」
「―――ううん、ダメ。約束じゃなくて、
「え……? いやでも、それじゃ」
「それでいいの。お金になんか、ボクは興味ないから。だからね、
じっと俺を見つめる少女の目は、いつの間にか不思議な引力を有するようになっていた。
今まではか弱くて何も持たない少女という目をしていた。だが今は、何か深い考えがありそうな、ミステリアスな、そんな魅力を有した目で、俺を見ていた。
それに俺は、何故だか惹きつけられて、「じゃあ、うん」と頷いた。
「
「うんっ! ありがとう、テクト。じゃあ、契約ね。『着飾った魔女』ブランと、『守護と技術の子』『いま最も王に近い騎士の息子』『異世界からの転生者』テクトの、契約」
少女が、俺に小指を差し出してくる。俺はそれに倣って、自らの小指を差し出す。
そうして小指を絡ませ、指切りの形を作りながら、ふと俺は少女に聞いていた。
「……アレ? 何で君、俺の事を知ってるんだ? それに、異世界からの転生者って」
「―――ここに魔女と王の契約は成った。ボクは君の服を編み、君はボクの服を着る。それが原初の契約。『着飾った魔女』ブランと王候補テクトの誓い」
少女が、妖しく微笑む。俺はそれに目をぱちくりとまばたきする。
次の瞬間、その少女はみすぼらしい姿ではなく、ひどく着飾った姿に変わっていた。
褐色の肌に、ホワイトロリータファッションを身に纏った少女。ボブカットの黒髪、爛々と輝く金色の目。白いヘッドドレスには白薔薇が飾られている。
『着飾った魔女』ブランは、悪戯っぽく舌を出す。
「君は優しいね、テクト。可哀想なほどに優しいよ。ボクみたいな悪い魔女に、引っかかってしまうだなんて」
直後、俺は記憶に靄が掛かるように前後不覚になる。視界が黒く霞み、何も分からない。
「夢から覚めたら、君は何も覚えていない。けれど契約は健在だ。これからよろしくね、テクト。ボクの王候補。ボクの服を、着てくれる人」
そんな言葉を聞きながら、俺は夢から浮上する。