【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
夏休みが終わり、二学期が始まった。
夏休みでは大冒険が目白押しだったが、学校が再開すればそれもおしまい。平穏な日常に戻ってくることとなった。
とはいえ、夏休みで起こった変化は無論あるモノで。
「テクト、聞いて! アタシ、晴れて血統の次代第一席になったわ!」
二学期の初めに、幼馴染のお嬢様アイギスがそんなことを自慢しに来たり。
「テクト、私も一緒に昼食を摂っていいか? カノンも共になるが」
「第一席殿、次は負けん」
中庭で昼飯を取るイツメンに、第二王子ことチャミー、その婚約者カノンが追加されたり。
「……な、何ですか。ワタクシはイリューシア様にお付きをやっているだけで、別に仲間に混ぜて欲しいだなんて思ってないんですけど!」
特に断りなく、しれっと王女シアの取り巻きリーフィが、イツメンに混ざっていたり。
そんなこんなで、新しい変化もありつつ、俺の新しい日常が始まりつつあった。
「にしても、賑やかになったよなぁ……」
俺は改めて、中庭で昼食に集まるメンツを見て数える。
「イリューシアも見なさい! ほら! 『小さな要塞』の第一席証よ!」
「いや、凄いですわ。凄いですけれどね? あなたに負けて第二席になった方が、そこにいらっしゃるのですから……」
幼馴染の暴力お嬢様アイギス、テンパリ赤ちゃん第三王女シア。
「メイちゃん、あの、乗っかってくるの止めてくれるかな~? ご飯中だよ~?」
「ヴィー、メイと遊んで。スリル満点なのがいい。アレして、アレ。ぴょーんってやつ」
俺の一つ上の姉の五ねぇことヴィー、人間に変身できる俺の愛刀の聖剣メイ。
「ええと、つまり、今後はリーフィって呼べばいいので? ……うう、その、ちょっと気が引けるというか、ぼく元々ただの平民だし……」
「そんなの、気にしないでいいんですけど! この集まり、上から下まで身分差あるし、もう気にしない方がいいんですから!」
主アンチの聖女候補筆頭セラフィ、王女の取り巻きの百合風ツンデレリーフィ。
「待て、カノン。何をするつもりだ」
「第一席殿が挑発している。女たるもの、乗らずにいては沽券にかかわる」
蠱惑的な第二王子チャミー、その婚約者の偉丈婦カノン。
そしてここにはいないが、血統関係でしばらく公欠している同じクラスの優等生ウィズ、という具合だ。他にも……ここに混ざりようはないが、親しくなった無頼の豹族パンテラも。
騒がしい一方で、いないメンツを考えると寂しさが募るというもの。
これだけの面々で、中庭で昼食を取っていると、流石に目立つというか、上から下まで錚々たるメンツ過ぎて俺の居心地が悪いのだが、それは今度の課題に取っておこう。
ともかく俺は、新しいイツメンに少しソワソワするような気持をしつつ、昼食を済ませて自分の教室に帰るところだった。
廊下を一人で歩いていると、途端に静かに感じてしまう。特に夏休み前は、ウィズが俺にべったりだったから、それも相まって寂しく思ってしまった。
「思ったより俺、ウィズの事好きなのかもなぁ」
無論友達としてだが。ウィズですら身分差が大きく、俺の婚活の射程範囲外と考えると、俺の婚活は前途多難だ。何で結婚できそうな人とまったく仲良くなれないのだろうか。
そんな風に考えながら教室の前に着た時、ふと見慣れない影が見えた気がして、俺は「ん?」とそちらを見た。
視線の先には、チラと白い影が尾を引いて、隣のクラスに入って行くのが見えた。「何だ?」と目を凝らすも、もうその影は消えている。
「……幽霊?」
白い尾を引く影というと、連想するのは幽霊だ。だが、こんな真昼間から? と俺は肩を竦める。もしや五ねぇか? 夏休みも幽霊扱いされてたし。
ひとまず俺は気に留めず、そのまま教室に入って行った。自分の席に一直線に歩き、途中で「おや、寂しそうだねガーランド君?」と煽ってくるナルシスの椅子に蹴りを入れる。
それから席に座ると、すぐに授業が始まった。
真面目に授業を受ける。しばらくは普段通りの、ただの授業だった。ちょこちょこ脳に直接、メイが『ご主人。ここの意味は?』とか『ご主人、構って』とか言ってくる程度。
だから、ふと教室前方の扉がガラガラと開いた時には、目を引かれた。
『~♪』
そこに居たのは、真っ黒で真っ白な少女だった。
褐色肌にホワイトロリータを纏った少女。夏休みに敵に追い詰められた時、助けてくれた人物。確か―――ブランとか言っただろうか。
「ッ……!?」
そんな、俺の知る中でも一番にミステリアスな少女が、普通に授業に乱入してきたものだから、俺は絶句して硬直した。
『? どうかした? ご主人』
メイが不思議そうな声で聞いてくる。見りゃ分かるだろ、という言葉を俺は飲み込む。
『さて、この教室にはいるかな~? ……あ! いたいた!』
するとそこで、ブランが俺を見つけ、歩み寄ってきた。
とうとう俺は動揺する。突然現れた謎の授業の闖入者。それに何故か絡まれる俺。明日から俺のクラスでの扱いはとんでもないことになる―――
そう危惧したが、不意に気付くのだ。
周囲の誰も、ブランの登場に騒ぐ様子を見せない。あれだけ目立つ容姿で、どんな人でも注目を浴びざるを得ない状況で、しかしブランは誰にも見られずに俺に近寄ってくる。
俺は眉をひそめながら、ブランを見た。ブランはクスクスと笑いながら俺の傍に立ち、それから俺の机に腰掛け、俺を至近距離から覗き込んでくる。
『やぁ。半月ぶりだね、テクト。このボク、「着飾った魔女」ブランのことは、覚えていてくれたかな?』
俺は冷や汗をだらだら流しながら、顔があまりに近いブランと見つめ合う。
長いまつ毛、金色に輝く瞳、形の良い小さな顔に、すべすべで艶やかな褐色肌。
久しぶりに至近距離から美少女を浴びた俺は、ようやく力を振り絞って、ノートにこう書き記した。
『授業が終わるまで待ってくれ』
俺が書くと、ブランはクスクスと笑いだし、『そうだね。君が困るタイミングで来てしまったみたいだ。ごめんね?』と言う。
一方、ブランの姿が見えないのか、『? ご主人、このメモはどういうこと?』とメイは不思議がるのだった。