【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
授業後、メイ(指輪)を付けてるとややこしくなるという考えから、俺は急いで五ねぇにメイを押し付けて、ブランと共に人気のない物陰に訪れていた。
『ふむ、ここでなら満足に話せそうだね。にしても、少し不用心じゃないかな? 男の子が、こんな怪しい女の誘いに、まんまと釣られてしまうだなんて』
「流石にスルーできないだろ。つーか誘った張本人が言うんじゃねぇっての」
『うふふふっ、確かにその通りだ。けれど、安心して欲しい。ボクは君に害するつもりはないからね』
ブランはクスクスと笑って、近くの段差に腰掛けた。だが足取りはふわふわしていて、もしかして魔法で浮いているのか? なんてことを思う。
『にしても、ここが君の通うコンスタンティン王立学園か。随分なところに建っているんだね。コンスタンティン王国は何を考えているのかな? ボクは驚き呆れてしまったよ』
ブランはよく分からないことを言って、首を振っている。ヘッドドレスの白薔薇が、首振りに応じて香りを振り撒いている。
『とはいえ、ボクのように古い人間からすれば好都合でもある。秘密は力を宿すものだ。学校の体を成しているのはややこしいけれど、ボクの手に掛かれば―――』
「それで、ブラン、だったよな。まず、自己紹介からしないか?」
よく分からないことを言い続けそうだったので提案すると、ブランは納得して『その通りだね。余談は後々に回しておこう』と微笑んだ。
『さて、改めまして、だ。ボクはブラン。「着飾った魔女」ブランだよ、テクト。前回の逢瀬では、さほどしっかりとは挨拶できなかったからね』
「前回と情報量同じなんだが。まぁ、いいや。俺はプロテクルス・ガーランド。テクトでいい……っていうのは、多分知られてるんだろうけど」
何せまったくの初対面で、いきなり本名からあだ名まで看破されている。何者なんだこいつは、とずっと思っている。
するとブランは『君の考えていることは分かるよ、テクト』と流し目を送ってくる。
『君はボクを警戒している。「何者なんだこいつは」とでも考えているんだろう?』
「まったくもってその通りだけどな。けど、その前に一つ言わせてくれ」
『ん? 何かな。どんな文句でも聞くだけはしてあげるよ』
黒猫のように笑うブラン。俺はそんな彼女に、こう言った。
「前、グリーディアとの戦いの時、俺たちを助けてくれてありがとう」
俺が礼と共に頭を下げると、ブランは目を丸くする。
『……言うべきことって、そのこと?』
「ああ。助けられたんだ、ずっとお礼を言えてないのが気がかりでさ」
『ふふ、うふふふっ。テクト、君は本当にいい子だね。いいよ。こんなバカ男だらけのご時世で、君みたいな子を見つけられたのは僥倖だった』
ブランは可笑しそうにクスクスと笑う。俺は「魔女とか言ってるくせに、俗っぽいことを言うんだな?」と肩を竦める。
「じゃあひとまず礼も言ったし、本題に入ろう。ブラン、お前は何者なんだ? 何で俺を訪ねてきた? あと、ああ、そうか。恩がある以上、しっかり礼をしないとな」
『お礼は良いよ。それで言えば、ボクも君に恩があるからね。ひとまず、順を追って説明しようか』
ブランは首を傾げて、俺を見上げた。
『まず、「何者か」という問いに答えよう。ボクは魔女、「着飾った魔女」だ』
「……そもそも、魔女って何だ?」
『説明が難しいんだけれどね、ちょっと特殊な精霊というか、そんな存在なんだけれど』
「精霊……か」
その説明で、俺は少し腑に落ちる。
例えば先ほどのように、俺以外にブランが見える人物がいなかったことはそれで説明がつくし、他にも、以前得た魔女の情報と符合する部分があったからだ。
すなわち―――歪んだ魔女。
夏休み、古代遺跡の碑文で知った話を信じるのなら、歪んだ魔女≒主は、この世界を侵食し支配したとある。その過程で、マレデウスなど他の神とも戦ったと。
であるなら、魔女とは人間ではなく、神などに近い精霊めいた存在であるはずだ。
まだ分からない点は多々あるが、ある程度は納得できる。俺は頷く。
「それで、その精霊みたいな存在であるところの魔女が、何で俺を訪ねてきたんだ?」
『そうだね。経緯から話すと、元々ボクはここ数百年の間、強欲の子グリーディアの血統に代々受け継がれてきた、契約魔女だったのさ』
「グリーディアの……契約魔女?」
『そうとも。魔女とは王を選ぶもの。逆に言えば、女にとって至上の結婚相手を教えてくれる助言者という事になる。それでボクは、強欲の子の血統に縛られていたんだよ』
けれど、とブランは俺を指さした。
『テクト。君たちは強欲の子を排し、ボクを契約から解放した。先ほど言った恩とは、つまりそのことさ。それで自由になったボクだったけれど、いきなりの自由を持てあましてね』
ふふ、とブランが妖艶に微笑む。
『それでボクを助けてくれた恩人たる君を見守っていたら―――奇しくも、「王になれ」と持ち上げられているじゃないか。これは傍観してはいられないと思ってね』
「……なるほど……」
一番見られたくないところを見られて、一番食いつかれたくないところに食いつかれた、という話らしい。俺は非常に厳しい顔になる。
『ということで、だ。守護と技術の子、テクト。君、王になるんだろう? ならその裁定は、魔女の務めだ。せっかく縁があったのだからね。ボクが見極めてあげよう』
「……」
『もちろん、君とは浅からぬ縁があるボクだ。君の事は全力でサポートしよう。万難を前に魔法を授け、君が乗り越えるのを手助けしよう。道を失えばボクが道しるべとなろう』
さぁ、とブランは俺に手を差し出した。
『ボクの手を取るんだ、王となろうとする者よ。君はきっと王の試練を乗り越え――――』
「結構です」
『王の資格を得ることに、ごめん、今何て?』
キョトンとするブランに、俺は繰り返した。
「結構です。俺、王とかならないんで」
『アレ?』
「じゃあ俺、次の授業あるから」
そそくさ、と俺はその場を離れ、メイを回収しに五ねぇの教室へと歩き出す。
『あ、アレ? ちょっと? テクト? おーい?』
そんな俺を、ブランは魔法で浮きながら、戸惑った様子で追いかけてくるのだった。