【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
翌朝、ブランは俺に引っ付いて、しつこく食い下がっていた。
『ね~え~、テ~ク~ト~。王になりなよぉ~。せめて試練だけでも受けてよぉ~。先ちょだけ~。先っちょだけだから~!』
昨日散々ならないと言ったのに忘れてんのかこいつは、と不機嫌になる俺である。あと下ネタまがいのことを言うな。
まだ朝の早い時間。登校中の事だった。
例によって、訓練を済ませ、シアの朝の世話をして、帰ってメイに朝飯を食べさせての登校だ。
早朝訓練前のガチ早朝に起きると、ブランは宙にぷかぷか浮きながら、丸まって眠っていた。精霊みたいな存在らしい魔女も寝るんだな、と思いつつ、俺は部屋を出た。
戻ってくると、ブランは『お帰り、テクト。君は朝から多忙だね』などと、まるで見てきたように言うのだから、こいつも底が知れないな、と思うなど。
ともかく俺はそんなブランを変わらず無視して、通学路を歩いていた。
『まったく……。テクト、君は対応力がやたら高くて困ってしまうよ。人前では絶対に、ボクの呼びかけに答えないんだから』
まぁメイで慣れてるしな、と俺は思う。思いつつ無視だ。こいつも魔女というのなら、会話を介さない念話も出来て良い気がするのだが。
そんな風に歩いていると、「あっ、テクトさんっ」と声をかけてくる者がいた。
「お、セラフィじゃん。おはよう」
「おっ、おはようございますっ。えへ、奇遇なので。いつもこの時間に登校してるの?」
「ああ、大体な。セラフィはこの時間に会うのは珍しいな」
「あ、えと。えへへ、朝の聖務が終わったら、ギリギリまでいつも二度寝してるので……」
とんだ不良聖女候補である。
そんな会話をしていると、ブランがすいーっとセラフィの背後に回りこむ。そこには、昨日にも見た悪戯っぽい笑顔。
俺は何だか嫌な予感に襲われる。
『テクト、王になってよ。うんって言わなきゃ、悪戯しちゃうよ?』
言えるワケがない。そう思いながらも無視を続けると、ブランはニンマリと笑った。
『言わなかったから、悪戯ね。じゃあ、えいっ♪』
直後、俺の両足の靴紐が解け左右の両脚で結ばれる。
「っ!?」
いくら器用な俺とて、そんな素早い足取りに対応なんてできなくて、思わずつんのめって倒れこんでしまう。
「っ! 危ないのでっ!」
そこに咄嗟に助けてくれるのはセラフィだ。俺が倒れこんだ方向に割り込んで、俺と一緒に倒れてしまう。
「っ、つつ……、っ! ごめんセラフィ! 大丈夫、か……?」
俺は慌てて起き上がり、セラフィに謝った。しかし手の平にやたら大きくて柔らかい感触があって、戸惑ってしまう。
そして、見下ろして、愕然とした。
俺の手が、セラフィのド巨乳を揉んでいる。
「大丈夫なので……っ。むしろ、テクトさんが怪我をしなくてよかっ」
俺の下敷きになっているセラフィも事態に気付いて、目をパチクリとさせる。
ヤバい。前世では憧れたラッキースケベ。しかし実際に、起こってしまうと、かなり焦るものがある。俺は今にも飛びのいて土下座をかまそうとする―――
―――前に、「えっと、あの、なんて言うか」とセラフィが照れ気味に言った。
「お、男の子も、意外に女のおっぱいに興味がある、みたいな噂はまことしやかに聞いたことがあるけど、テクトさんもそうなので……?」
セラフィ?
「だ、だったら、触りたいだけ触ってもいいので……。その、自分で言うのもアレだけど。ぼくのおっぱい、多分学年一くらいにはサイズがあると思」
俺はものすごい勢いで飛びのいた。
「ごめんっ! 本当にごめんセラフィ! この償いはいつか、いつかするから!」
「あっ、テクトさん!? いや別に、あのっ、ぼく全然おっぱい触られたくらいで何も思わないって言うか」
「ごめんっ! セラフィ、マジでごめんんんんんん!」
「てっ、テクトさん―――!?」
俺は思考がキャパを超えそうだったので、全力で逃げ出す。
そうだ! この世界は貞操逆転! 現代日本の男が胸板をちょっと揉まれたくらいでは気にしないのと同じように、こっちの女の子は何ならちょっと喜んでしまう!
そうなると俺は理性的に色々と限界なので、全力ダッシュでその場を脱出だ。だが精神的に不安定になっているだけあって、足取りがおぼつかない。
そしてそんな隙を、ブランは逃すワケもなく。
『もう一回、えいっ♪』
「うわぎゃ」
メンタルがぐちゃぐちゃの俺に、冷静な状態でも引っかかるような罠(即時靴紐両脚結び)を回避なんてできなくて、俺は再びぶっ倒れた。
またも、もう一人巻き込みつつ。
「きゃあっ!? ちょっ、誰です、テクト!? いきなり走ってきたら危ないんですけど!」
「わっ、ご、ごめんリーフィ! いやちょっと焦って、て……?」
俺は柔らかな感触のする場所にうずめてしまっていた顔を、慌ててあげる。
すると、そこはリーフィの尻だった。
俺の思考は宇宙に飛んでいく。
「もーっ。男が女に突っ込むくらいなら、別に怪我の一つもしませんけど。それでも危ないんですから、あんまり学内で走ったりしちゃダメなんですからね?」
うつ伏せで倒れつつ、怪我一つせずに身をよじって俺に振り返り言うリーフィ。あんまりそういう発想がないのか、安全面にしか言及がない。
一方で、俺は勝手に追い詰められ、飛び跳ねて駆け出す。
「ごめん! リーフィもごめん! 本当にごめんんんんん!」
「あっ! だから走っちゃダメって話してるんですけど! 謝るくらいなら走るの止めてください!」
リーフィに言われながらも、俺はパニックになって走るしかない。そんな俺にブランは背後から接近して、悪戯な笑みを浮かべる。
『トドメの~、えーいっ♪』
俺は三度靴紐を結ばれ、思い切りスッ転んだ。
「っ!? テクト! 危ない!」
そこに割り込んだのは、聞き慣れた声。俺は小柄な影を巻き込んで、派手に転びまわった。
「お、ごご、むぐぐ、ぐぅ……!」
俺は物理的にも精神的にも目を回していて、自分がどんな状況であるかを理解できない。
が、頭上から「んっ♡ ちょっ、喋らないで……♡」という色っぽい声が聞こえて、俺は顔を蒼白にして視線を上げた。
そこにあったのは、アイギスの顔だった。金髪のツインテールを揺らして、僅かに頬を紅潮させている。
何で? 何が? と思いながら、俺は口元にある柔らかな感触に気付き、視線を下ろす。
そこにあったのは、アイギスのパンツだった。
俺の思考は完全に停止した。
「ふー……まったく、いきなり目の前でテクトがぶっ倒れたの、ギリギリ助けられたのはいいけど……」
ちょっと恥ずかしそうにしつつ、アイギスが小さな手で俺の脇の下に手をやって、ひょいっ、と軽く座り直させる。
それから、何とも言い難い顔で、こう言った。
「何ていうか、逆じゃない? 男女」
―――逆じゃねぇよ! と思ったが、そんなことを叫ぶワケにもいかず、俺は頭を抱える。
そんな俺の背後で、ブランは腹を抱え、口元を押さえて、爆笑を堪えているのだった。