【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
俺はその後も、ブランの悪戯に悩まされていた。
ブランの悪戯は多岐にわたった。
例えば普通に靴下と靴を履いて学校に行くと、帰る頃には靴と靴下が縫い付けられていたり。
例えば普通に制服を着て出かけたら、昼頃までにこっそり襟をフリルに刺繍され、昼食時にみんなから「それどうしたの? イメチェン?」と指摘されたり。
例えば朝起きたら、所持品が全部豪華なレースと模様が付いた布張りに変わっていて、すべてに王冠マークの刺繍が入っていたり。
『どう? 素敵じゃない? この柄はボクもお気に入りでね。王になるのなら当然、質素な造りではなくこのくらい華美でないと』
ブランはしたり顔でそんな風に語っていた。
まぁ、それはいい。ギリギリ許せる範囲の悪戯だ。
だが、だがである。人間には当然、譲れない一線というものがあるモノで。
そしてそれは、俺の場合、自分で作った特殊装備がその領分に入るらしくて。
「……」
平たく言えば、俺は花柄ファンシーフリルフリフリに刺繍されたパイルバンカーを見て、俺の心は極めて自然に、こう呟いていた。
「ブランを泣かせよう」
穏やかな笑みで、俺はそう呟いていた。その後ろで、いつものようにクスクス笑っていたブランが、『えっ?』と初めて戸惑いの声を上げた。
時間は夜。メイを先に風呂に入れ、俺はその隙に武器の整備をしようと考えていた時の事だった。
くるりと、俺は振り返った。そんな俺を見て、ブランは「ひっ」と顔を青くした。
何故だろう。俺は極めて穏やかな笑みを浮かべているはずなのだが、不思議なことにブランを警戒させてしまっている。
おかしいな。笑顔に油断しているところを刈り取ろうと考えていたのだが。
『て、テクト? あれ? き、気に入ってもらえなかった? その、なんて言うか、結構可愛い出来になってたと思うんだけど』
「うん。そうだな。気に入ったよ。気に入ったから、お礼をしようと思ってるんだけどさ」
俺は一歩ブランににじり寄る。だがブランは冷や汗を垂らして、ふわりと魔法で浮きながら近づいた分だけ距離を取る。
「何で、遠ざかるんだ? 離れてたら、お礼ができないだろ?」
『い、いやぁ。お礼くらい、離れてても出来ると思うな……? そんな、無理に近づかなくても』
「いいや、ほら。とっても嬉しかったからさ。だから直接、思い切り、全力で感謝を伝えたいなって思って」
『えと、あの、ほら! ぼ、ボク、恥ずかしがり屋だから、そんな全力で感謝されたら、逆に困っちゃうって言うか。だからその位置から感謝を伝えてくれればそれで』
「いやいやいや、そんな水臭いこと言うなよ。ほら、こっちに、ブラン―――」
『いやいやいやいや……ほんと、良いって言うか、なんて言うか―――』
じりじりと距離を詰め、俺はブランを部屋の隅に追いやるように迫る。ブランは追い詰められながらも、手を背中に回して、何かを準備する。
そして、その時は来た。
「―――観念しろ、ブランッ!」
『―――ごめんだね、テクトッ!』
俺が飛び掛かると同時、ブランは体に結び付けた糸で急速に俺の頭上を潜り抜け、そのまま扉を開けて逃げ出した。
「あっ! テメ、くそ! 逃がすかぁッ!」
「ご主人、お風呂あがっ、……ご主人~?」
裸にバスタオルを羽織っただけの姿で出てきたメイの横を通り、俺は全力で男子寮を駆け抜けた。
『うふふふふふっ! テクト! どれだけ優秀と言っても、男の子程度に掴まるボクじゃあないよ~だ!』
「ふざけろ絶対捕まえてやる! 捕まえて泣かせる! 魔女とか言う設定に似つかわしくないくらい号泣させてやる!」
ブランは廊下の先の窓を開けて、そのままそこからふわりと飛び去って行く。俺はすぐにその窓に追いつき、そこからグラップルを放って夜の学園内に飛び出した。
ブランは宙に浮ける。浮けると言っても高高度を飛ぶのはできないらしく、窓から飛び降りるとすぐに、緩やかに地面へと降下していった。
俺はそれを見て、グラップルで木の頂点から弧を描くような動きで、地面スレスレを高速で追った。俺に振り返り、ブランは笑う。
『うふふふふっ! すごい! 速いねテクト! でも、これならどうかな!?』
ブランが、指をパチンと鳴らした。すると、俺の服がひとりでに動き出し、俺の動きを妨げようとする。
『うふふ、この「着飾った魔女」であるボクが、ずっとそばで魔力を浸透させてきた服なんだ。特別なことを何もしなくても、それらの服はボクの支配下なんだよ、テクト!』
「だから何だオラァッ! この程度脱げないとでも思ったかぁッ!」
俺はするりと、身のこなし一つで瞬時に服を脱ぎ捨てる。
『えぇっ!? おっ、男の子がそんな、恥じらいとか無いの!?』
動揺するのはブランである。だがそんなモノ知ったことではない。
「うるせぇッ! こちとらお前を捕まえるのが最優先だボケがぁ!」
幸いにもグラップルは魔法の対象外のようで、俺は全裸にグラップルだけで夜の街路樹を飛び回る。
『くっ、流石に男の子を裸にして恥をかかせるのは、ボクの趣味じゃないものでね!』
ブランが懐から布を投げ放つ。それは俺を包み込み、特に妨害もせず俺の服に変貌した。邪魔にならないのなら、俺も脱ぎ捨てる必要はないが。
『けれど、簡単には捕まらないよ!』
再びブランは懐から布を投げ放つ。ただし方向は俺の方ではなく、前方。
投げられた布は、自ずと広がってピンと木々の間に張った。そこにブランは飛び込み、上空十数メートルの高さまで、トランポリンのように跳ね上がる。
「なぁっ!」
『うふふふふっ、ほうら、ついて来られないだろう? その紐は木よりも遥かに上には飛べないはずさ。そして!』
空中で、布を落下傘のように広げて、ブランはふわふわと浮く。
『この高さで、ボクはこうしてずっと浮いていられるというワケさ。さぁ、実力のほどが分かった、大人しく―――』
直後俺は、グラップルの強度を最高に引き上げ、ブランよりも高く飛び上がってから、パラグライダーを展開して、空中でブランに迫った。
『え?』
「さて、ブラン」
俺は瞬時にパラグライダーを仕舞い、空中でブランに抱き着いた。
「お仕置きの時間だぜ」
『ひ―――』
ブランの顔が真っ青になる。同時落下傘になっていた布が力を失い、俺たちはまとめて落下した。
が、その程度で戸惑う俺ではない。ブランを確保したままグラップルで地面に緩やかに着地し、にこりと微笑む。
「さて……今までに積もり積もった悪戯の分、どうやって清算してやろうかな……?」
『ひ、そ、そんなふうに脅したって無駄だよ? だって君、そんなことを言ったって、結局は男の子じゃないか』
ブランは、悔し紛れに俺に言う。
「ボクは華奢だけれど、りっぱな女だ。君がどれだけ力を入れても、魔力補助がボクを守ってくれる。君の腕力ではボクに痛い目は見せられないという事さ」
それとも、とブランは余裕ぶって続ける。
『まさかあの特殊な武器で、ボクを木っ端微塵にするワケもな、ない、ないよ、ね?』
「……」
『あの、む、無言はやめて欲しいなぁ……ぼ、ボクだって、不老不死ってワケじゃあないんだよ……?』
俺は無言でブランに微笑みかける。
だが、ブランの言うことも正しい。男の俺では、ブランをひっぱたいてもさしたるダメージを与えることはできないだろう。
かと言って、いくらムカツク悪戯をされたとしても、パイルバンカーを叩き込むのはやりすぎだ。そんなことをするつもりは毛頭ない。というかそもそも持ってきてない。
なら、どうするか?
俺はグラップルのワイヤーを取り出し、左手に巻きつける。
『ん……? それは一体……?』
ブランは俺に対してどの程度知識があるのかないのか、キョトンと首を傾げている。そんなブランに、俺はにっこりと笑みを作った。
「ブランを、俺の腕力で痛い目を見せられないのは分かってた」
『う、うん。そうだよね? じゃあテクトのいじらしい(笑)反撃はこの辺りとして、二人で仲良く部屋に戻』
「が、これなら話は別だ」
俺はグラップルのスイッチを押しこむ。するとワイヤーに電流が、バチバチと走りだす。
『ひ……!?』
「これは雷を操る魔物の素材を使ってるから、女相手でも全然通じる。不殺で気絶させることも簡単だ。だが気絶させちゃあ面白くないから、出力は最低にする。で」
俺はブランを腰の辺りで拘束しなおし、左手を高く掲げた。その先には、ブランの尻が。
「あとは、分かるな?」
『や、やめ。ごめっ、ごめんなさい。もう二度としないから、だからゆ、許して?』
涙目で、媚びるような笑みで、ブランは言う。
そして俺は、笑みを修羅の表情に変え、こう言った。
「許すかバカタレがぁ! 歯を食いしばれぇ!」
『ひぃぃいいいいいごめんなさぃぃいいいいいい!』
俺は力いっぱい左手をブランの尻に叩きつける。十回のお尻たたきでブランは泣き出し、二十回で号泣した。