【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
先日のお仕置き以来、ブランは少し大人しくなった。
よほど電流お尻ペンペンが効いたらしい。その後は俺の所持品に直接刺繍をすることはなくなり、代りに刺繍した布を被せるくらいに留まった。
あとはメイのおやつを勝手に食べたり、寝惚けたシアをこっそりくすぐってからかったり、五ねぇの服にリアルな虫模様を刺繍して驚かせたりしていたが、そのくらいだ。
……思ったよりだいぶ好き勝手してるな? というかリカバリが簡単になっただけで、俺への悪戯もやめてないな?
とはいえ迷惑度合いが下がったのも相まって、大分俺も慣れてしまったのもあり、その後は大きな騒動などもなく、数日が過ぎていた。
『テクトテクト、見て』
何だよ、という意思を込めてブランに視線だけ寄越すと、ブランは俺にスケッチを見せてくる。ブランがいつも着ているような、ホワイトロリータファッションだ。
『これテクトの新衣装ね』
御免被る。
俺は渋い顔で首を横に振る。するとブランは『え~? 絶対似合うと思うのに……。ぷふっ、うふふっ、うふふふふっ』と堪えきれずに笑いだす。
教室、放課後でのことだった。
夕焼けが窓から差し込み、教室を明々と照らしている。人はまばらで、ちょっと独り言を言っても誰にも気にされない時間帯。
メイも嫌いな数学の授業終わりという事で、指輪の姿でグッスリだ。それで俺は、ある程度気を抜いてブランと意思疎通ができる状況だった。
ブランは言う。
『ねぇ、テクト。王にならない? 王になったら、この服着なくていいよ?』
「……」
これはアレだな。明日の朝、起きたら俺ホワイトロリータ服着せられてるな。
俺はとても神妙な顔になる。まぁでも、服を着せられるくらい何だというのか。家族に何度拉致られたか分からない俺だぞ。その程度で屈しはしない。
『むぅ、これもダメ? 仕方ない、じゃあ明日着せて、メイちゃんを早めに起こしておくね……』
ド迷惑、と俺は顔をしかめる。
とはいえ、最近はもう定番のやり取りだ。王になれと要求し、ならないなら悪戯してやる、と宣言して悪戯する。ブランの常套手段である。
正直、もうすっかり慣れてしまった。度が過ぎたら追いかけて叱ればいいだけの事、と割り切り始めている俺がいる。そんな状況に、してやられたな、と思わないでもないが。
と、その時だった。
「アレ? 私のペンがない!」
少し驚くほど大きな声だったから、俺はついそちらを見てしまう。ショックを受けた様子の、大声を上げた女子。そこに友達らしき女子が、近づいて質問する。
「ペンくらい気にしないの。じゃあ帰りがけに新しいの買いに行かない?」
「違うのっ! 親に貰った高い奴がないの! うそ! 大切にしまっておいたのに……!」
女子は慌てていて、よほど大切なものだったのか、今にも泣きそうな顔をしている。
一方、教室内の別の場所からも、同じような声が上がった。
「アレ!? 私の筆箱もなくなってる!」「あ! お気に入りのインク瓶がない!」「私はずっと大切にしてたカバンが!」
次々に教室で、失せ物報告が上がる。俺は慌てて調べるが、そもそも俺の場合は高価なものをほとんど持っていなかった。強いて言えば創作武器だが、アレは全部身に着けてるし。
だから、何だ何だ、という目で見ていると、失せ物があった女子たちが集まり、コソコソと話し始める。見れば、大半が子爵家の家柄だ。
「高価なものだけ狙って盗まれてない……?」「うん。ってことは、犯人は金銭目的?」「金がないって言ったら、騎士家かな……」
ジロ、と騎士家の子女たちが睨まれる。それから「まだ教室に残ってる騎士家は、一回そこに並んでもらえる?」と子爵家の女子が言い始める。
……これは、少しマズイことに巻き込まれつつあるな。
『おや……これはこれは。テクト、君の家は確か』
キョトンとした様子で、ブランは俺に問いかけてくる。指摘の通り俺は騎士家の生まれで、どうやら状況的に、属性で一括りに容疑者の中に入れられてしまったらしい。
どうするか、と思う。動かなければ、後日思い出した誰かに強く指弾される可能性がある。かといって動けば、男である以上確実に目立つ。
だってこのクラス、俺とナルシスしか男居ないし。
「っていうか、そういえばガーランド君って騎士家だっけ?」「あ、そうか。男子にも騎士家がいるのか……」
とか迷っていたら、悩む余地とかなく俺の名前が挙がった。選択肢とかなかった。
「はぁぁああ……」
せめて協力の意思を見せるために、俺は立ち上がる。すると、気付いていなかった女子たちもコソコソと俺を見て話し始める。
案の定目立っている。疑われるのとは若干ニュアンスが違うが、それでも真っ先に容疑を掛けられかねない立ち位置だ。
『おや。おやおやおや。おーやおやおや。テクト。これは困ったことになったね?』
するととても上機嫌で、ブランが俺に近づいて顔を寄せてくる。
『せっかくだし本気で売り込んでみようか。テクト、君が王の試練を受けるのなら、ボクがこの場をうやむやにしてあげよう。試練だけでいいよ。悪い取引きじゃないはずだ』
うぐ、と思う。ここに来てガチで交渉しに来たぞこいつ。そしてちょっと揺らいでいる自分がいる。
というのも、俺はウィズがいないと、このクラスでは友達がいないのだ。実は結構繊細な立ち位置というか、あんまり波風は立てたくない状況になる。
そんな風に考える最中でも、失せ物のあった女子の一人が、今にも「ガーランド君、ちょっとさ……」と俺に声を掛けようとしている。まずいか。取引に乗った方がいいか。
その時、不意にナルシスが声を上げた。
「やめろ、君たち。ガーランド君は無実だ」
鶴の一声に、みんなが一斉に声の下に視線をやる。
「というか、男が盗みをするワケがないだろう。そんなことをするまでもなく、欲しいのならねだればいい。それでなくとも彼は、第三王女や『小さな要塞』に囲われているんだぞ」
ナルシスが言うと、「た、確かに……」「ごめん、濡れ衣着せて」と女子たちが謝りだす。
「……おお」
俺はまさか、ナルシスに助けられるとは思っていなくて、ちょっと感動してしまう。
『むう、絶好のチャンスが』
そしてブランもむくれた顔。俺は、ギリギリで誘惑に乗らずに済んだとホッとする。
俺を抜きに女子たちだけで話を進めだすのを見守ってから、ナルシスに近づいた。
「ナルシス、助かった。フォローありがとな」
俺が言うと、ナルシスはニタァといやらしく笑い、そっと指を一つ立てた。
「貸し一つだ。忘れてくれるなよ? ガーランド君」
「……」
ブランの誘いに乗るの、ナルシスに借りを作るの。どれが一番マシだったのだろうか、と改めて俺は考え始める。