【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
翌日、昼に中庭に行くと、アイギスがムスッとしていた。何故か珍しくポニーテールにしている。
「アイギスが一番乗りか。にしても不機嫌そうだな。どうかしたか?」
「ねぇ~! テクト聞いてよ! お気に入りの髪止めがなくなっちゃったんだけど!」
「あ、だからポニテなのか」
「そういうこと! も~~~! 慰めて! むぎゅ!」
俺の胸元に飛び込んでくるので「はいはい、災難だったな~」とあやしておく。それでアイギスは「うぅ~、……まぁ買い直せばいいわよね……」と落ち着いた。
それから続々と他の面々も、中庭に現れる。シアによってアイギスが剥がされケンカしているが、ひとまず放置しつつ他の面々の話に混ざる。
「え? セラフィも失せ物があったのか?」
「そうなので……。大したものではないんだけど、育った孤児院の友達に貰った思い出の品で。いつも部屋に置いてあるんだけど、昨日なくしたことに気付いてちょっと凹んでて」
何でもない、と言う様子で語りつつも、セラフィはだいぶ凹んでいる様子だ。
俺はセラフィの背中をさすりながら、「気の毒にな……」と慰める。
「それで、何を失くしたんだ?」
「……それは、えっと、まぁ、思い出の品なので」
「ん? うん。ん……?」
回答になっていないセラフィの答えに、俺は首を傾げる。
そこで、俺の横で話を聞いていたブランが、こそっと俺に囁いた。
『聖女候補ちゃんだけどね、昨日自慰にふけろうとして箱を漁っている時に、ちょうど目的のブツがないと気付いたみたいで、それでしょぼくれてるんだよ』
「ブフォッ」
「? テクトさん?」
「い、いや、何でもない……」
俺はセラフィに誤魔化しつつ、クスクスと面白がるブランを睨む。何で知ってんだよとか、知ってたとしても言うなよとか、色々思う所はあるが。
ミステリアスでガーリーなブランとはいえ、この辺りをポロッと話して笑っている辺り、貞操逆転世界の住人なんだなぁ、とか思う。悪い意味で。セラフィの顔しばらく見れん。
……にしても、あまりに身の回りで、失せ物が多すぎるな。
「メイは失くしものはないか?」
どうやら五ねぇを気に入って、昼食時はいつも絡んでいるメイに聞くと、メイは「ん~」と考えてからこう答えた。
「そういえば前にシアに貰ったハンカチ失くした」
「はぁっ!? あの魔導刺繍の入った高い奴か!? メイお前、だからほっぼらずに仕舞っとけって言ったのに!」
「ひぃ、ご主人が怒るぅ~……!」
メイが五ねぇから離れて、シアの後ろに隠れる。それを受けて、シアが俺を宥め始める。
「ま、まぁまぁテクト。子供なんて失くしものばかりですから、そう目くじらを立てずに」
「シアはその辺り大丈夫か?」
「ええ、多分大丈夫のはず……? あっ、そういえばわたくしもハンカチが一つ見当たらないような」
「メイと並んで説教」
「えっ」
俺は娘二人を並べて、「お前らは日頃から注意散漫というか、仕舞うべき場所に物を仕舞わない悪癖が」と叱り始める。シアもメイも半泣きで「「はい、はい……」」と相槌だ。
「……最近何か、テクトのパパっぷりに堂が入ってないかしら」
「アイギスさんもそう思う? でも、そういうところ込み込みで頼りになる気がするので」
「将来テクトは、嫁を尻に敷くんでしょうねぇ。……悪くないわね」
「……尻に敷いてくるテクトさん……アリなので……」
そんな俺を見て、チビッ子ながらにしっかりしたアイギス、セラフィが何か言い合っている。何か視線がじっとりしている気がしてちょっと嫌だ。
するとそこで、五ねぇが「にしても」と話しかけてきた。
「何でテッ君、失くしものをみんなに聞き出したの? っていうか、確かにみんな、やたら失くしものをしてるような……?」
「ああ、いや、別に何となく聞いただけではあるんだけどさ」
昨日の放課後でも、失せ物が頻発していた。そして今日だ。思う所はある。
「ちなみに五ねぇは?」
「わたしは失くしものがあったら、見つかるまで訓練終われないから無いよ☆」
「そうだよな。俺たちはそうだもんな」
小さな部品一つでも失くさないように実家で訓練されたので、失くしものはない。それがガーランド家である。何か、弾一つ失くせない自衛隊みたいなことしてるな、俺たち。
そこで、遅れてリーフィが中庭に現れた。
「お、来たなリーフィ。残るはチャミーたちだけか」
「お兄様たちは、今日は執務だそうで来られないと聞いていますわ」とシア。
「あ、そうなの? なら―――」
そんな会話をしていたから、俺たちは気付くのが遅れた。
リーフィが、今にも泣きそうな顔をしていることに。
「っ、どうした? 何があった?」
俺がリーフィに近づくと、「だ、大丈夫、です。あの、イリューシア様」とシアに近づいていく。
「―――ごめん、なさい。シア様いただいた誕生日プレゼントのブレスレット、失くしてしまって」
言い切るなり、リーフィがグズグズと泣き出してしまう。
慌ててシアも立ち上がり、リーフィに近づいていった。
「まぁまぁまぁ……リーフィルテ、そんなに悲しまないで。ブレスレットくらい、また差し上げますから」
「違うんです……ッ! イリューシア様からいただいた、大切な宝物を失くしてしまうような自分に、嫌気がさして、申し訳なくて、悔しくて……ッ!」
シアが抱きとめ、リーフィがその中で涙を堪える。その様子が、あまりに痛々しくて。
俺はリーフィの慎重な性格を知っていたから、人知れず中庭を離れて、口を開いた。
「ブラン」
『何かな、テクト』
ブランが、ふわりと浮いてついてくる。そこには、ニンマリと不敵な笑みがある。
「今回の失せ物続き、偶然じゃないよな」
『……ふふ、そうかもね。偶然と言うにはあまりに起こりすぎているかもしれない』
「けど、人間の盗みで出来ることとも思えない」
『だろうね。学園内限定ではあるけれど、それでも被害範囲は広範だ。人間なら一クラスに留まるところだろうさ。つまり、下手人は人間ではない』
「もしかして心当たりがあるのか?」
どこか訳知り顔で語るブランに、俺は聞く。
ブランは、俺を流し目で見て、続けた。
『この学園には、古いものが堆積している。その古いものが、時に突然動き出し、持ち主もなく暴走することは、きっとこの学園ではそう珍しくはないはずさ』
そして、とブランは言った。
『それが本来、秘宝と呼ばれうるものであることも、この学園ではきっと、そう特筆すべきことではない―――かもしれないね?』
「秘宝、ね」
つまり、ブランは人知れず眠った秘宝が、主もなく暴走した結果、こんな事件を起こしているのだ、と考えているのか。
普通ならそんなワケはない、と一蹴するところだろう。だが俺は知っている。
この学園には歴史があり、様々な不思議と噂が蔓延っていることを。そしてそれらは、えてして真実である可能性が高いことを。
俺は言う。
「ブラン。俺が王の試練に挑むって言ったら、俺に力を貸してくれるか?」
『無論だよ、テクト。ボクも大概ふざけているけれど―――君が試練に臨むのなら、存分に力を貸そうじゃないか』
「なら、この事件の解決に協力してくれ。みんなの失せ物をとり返したいんだ。その後なら、王の試練にだって挑んでやるさ」
『うふふふっ、良いだろう。ならば契約だよ、テクト。ボクは君に助力し、君は王の試練に挑む。そういう、魔女との契約だ』
ブランが、小指を差し出してくる。俺はそれに、自分の小指を絡ませた。