【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
放課後、メイを五ねぇに預けた俺は、ブランの講釈を聞いていた。
『恐らくだけど、秘宝は「王の試練」で得られるものじゃないかな? 現象に心当たりがあるんだよね』
「……そうなのか?」
例によって教室。ブランがふわふわと浮きながら『うん。そうだよ』と首肯する。
『恐らく、ボクが試練に狙っていた物の一つだと思う。その一つの暴走と、ボクは見てるよ』
「……もしかして今回の事件の元凶って、ブラン、お前か……?」
俺は、普段のブランの悪戯っ子ぶりに、もしやすべてブランが仕組んだのでは、と疑う。
するとブランは、こう言った。
『確かに! うわ、ボクがやればよかった! 先を越された! うわぁ~! 悔しい~!』
「ああ、うん。じゃあお前じゃないのか」
まさか『悔しい』が飛び出るとは思わなかった俺である。こいつ悪戯に本気過ぎだろ。
「っていうか、狙ってた奴って何だよ。『王の試練』って複数あるのか?」
俺が言うと、『そりゃあそうさ』とブランは言う。
『王の試練というのは、様々な王侯貴族たちがその時々の思惑で、莫大な資金を用いて、秘密裏に用意するものだ』
「その時々の思惑、ねぇ」
『そうとも。己の子孫がより上の貴族の嫁に行けるように嫁入り道具としてだったり、子孫の人脈を測るためだったり、中には王の試練に見せかけた罠を作る者すらいる』
知ってる。すでに引っかかった。
が、じゃあ好き勝手貴族たちが「王の試練」を作ってるってことか? それに意味があるのか? と思ってしまう。
そんな俺の思考を先読みするように、ブランは続けた。
『重要なのは、試練そのものよりも、隠された秘宝なんだよ。その秘宝こそが力を持ち、その力を振るうことそのものが、王たる資格となる。そもそもの話をすれば―――』
ニヤリ、とブランは嫌らしい笑みを浮かべた。
『大抵が困難な障害のある「王の試練」を、どうやって魔力のない男だけでクリアできると思うんだい? 女の協力ありきでしょ、あんなのさ』
「……まぁ、そりゃそうだが」
試練を突破する能力が資格になる、みたいな話ではないのは分かった。分かったが、言い方ってものがあるだろ。
そこで、ブランはムスッとして、『ま、いいや、色々まとめちゃえ』と言い出した。
『テクト。今回は諸々、手間を省く形で進めよう。どうせ「王の試練」の一つなんだ。今回の事件解決でもって、「王の試練」もクリア扱いにしてあげるよ』
「そりゃあ楽だけど……それでいいのか?」
『いいとも。だってボクは、君が王の試練を前にして、どう考えどう動くのかを知りたいだけなんだからね。それさえ見守れれば、ひとまずは満足というものだよ』
思ったより無欲なのか……? と疑いつつ、俺は「分かった」と了承する。
『で、助力だけれど、君に贈りたいものがあるんだ。……ただ恥ずかしいことに、君がこうもいきなり提案を受け入れてくれると思ってなかったもので、準備がまだでね』
「ああ、うん。いや、良いよ全然」
『悪戯用の服なら数十着は作ってあるんだけど』
「ふざけんなお前」
どこに労力回してんだこいつ。それだったら話は変わってくるだろ。
俺に睨まれ、ブランは気まずそうに続けた。
『だから、準備が終わるまで、先に色々済ませてもらってもいいかな? 一応裏で動かしているから、君の傍にはついていられるし』
「準備に専念してくれた方が、悪戯を警戒せずに済むからいいんだが……。ま、ボチボチ動きますかね」
俺は立ち上がる。それから、教室を見回した。
「まずは聞きこみからやってみるか。それで失せ物の共通点を絞って、次の目標を盗みに来たところを捕まえる感じか?」
現状高価なものがターゲットになっている、というのは何となく掴んでいるが、人間以外の仕業であるなら、それ以外の共通点があるはずだ。
すでに手元に、ある程度失せ物の情報が揃っている。さらに聞き込みをしてそれらと通ずるところがあれば、ビンゴだ。
そう考える俺に、ブランがポツリ。
『想定よりもずっと頭が回るね、テクト。君はかなり肉体派だと思っていたよ』
「男で魔力がないんだ。俺の土台は頭脳だっての」
言いながら、俺は荷物から手帳を取り出した。
まず、手近な席の盗難被害者に、俺は声を掛ける。
「ちょっといいか? 昨日の盗難事件の話を聞きたいんだが」
「え? ……どうしてガーランド君が?」
「身内でも失せ物が出ててさ。解決してやりたくって」
「え……? だ、男子がそんな風に動いてくれることあるの……?」
何故か動揺の目で見られている。確かにナルシスとかは、女子に解決を丸投げしそうではあるが。
俺が半眼で見ると、「ああ、ごめんごめん」と女子は苦笑して話し出した。
「ええと、何を盗まれたのかとか、そういう話を聞きたいんだよね?」
「ああ。あとは、盗まれたタイミングはいつかなとか、分かる範囲で聞かせて欲しい」
「おっけ。えっとね、私が盗まれたのはペンなんだけど、これものすごく高くてね?」
話をメモに纏めるに、ペンには特徴があるらしかった。
まず、高額な品。思い入れがあって、長年使っている。あとは使い勝手を良くする魔法がかかっていると。
「分かった、助かるよ」
「ううん、聞いてくれてありがとう! ……ガーランド君、変に目立ってるけど、思ったよりいい子だよね」
「俺は極めてまじめな優等生だが」
「またまた~」
冗談を一つも言っていないのに、冗談扱いされてしまう。遺憾だ。
すると俺たちの会話を聞きつけて、他の被害者たちも寄ってくる。
「え、ガーランド君、聞き込みしてるの? 探偵じゃん」
「私たちも盗まれたんだ。調べてるなら手伝うよ」
「助かる。ひとまず話を聞きたくてさ」
二人の話も聞き出す。物品とそれにまつわる情報をリストにしていく。
そして、三つもあれば、手元の情報と照らし合わせるのにも足りてきていて。
「……ありがとう。ちょっと見えてきた」
「本当に!? じゃあ頑張ってね!」「応援してるよ~」
女子たちが離れていく。俺は頭を掻きながら、目を細める。
『どうだい? テクト。捜査に進捗はあったかな』
ブランに尋ねられ、俺は無言でリストの共通項に下線を引いた。
ブランが、ふふ、と笑う。
『なるほど、なるほど。盗まれた品物には、すべて「魔法がかかっていた」のだね?』
俺は小さく頷く。それからまばらになった教室を見回し、他に近寄ってくる被害者はいないか、と荷物をまとめて教室を出た。
思うに、事件の元凶は、魔法や魔力に反応して、モノを盗みまわっている。思えば身内の失せ物も、全部魔法が掛かっていた。
しかし、それだと範囲が絞り切れない。何せ魔法がかかった品物なんて、貴族ばかりが通うこの学園においては、珍しいものではないからだ。
考えながら廊下を歩く。その時だった。
「どうしたもんかな……ん?」
『おや、どうかしたかい?』
そこで俺は、ふと違和感を覚え、ブランを置いて廊下から空き教室の方を見た。
一見、変哲もないただの教室だ。夕焼けが差しこみ、部活などに行った生徒たちの私物が、まばらに残されている。
この警戒心のなさは貴族ゆえか、と見つめていると、急に手前の物が一つ姿を消した。
「はっ?」
目を凝らす。確かに今、そこにあった品物が消えた。何だと思うと、また別の品が消える。
それで俺は悟る。今そこに、見えない何かがある。
「―――暗視ゴーグルだ」
俺は懐に手をやり、暗視ゴーグルを取り出した。
この暗視ゴーグルは、この世界の魔導物質を使用しているだけあって、元の世界の暗視ゴーグルそのままの動きはしない。
その例の一つとして、不可視の魔法の一部を見ることができる。
グリーディアが放った重力魔法も、そうやって対応した。だから今回も行けるかもしれない。そんな考えと共に暗視ゴーグルを被り見る。
すると、そこにあったのは―――
「……え? 何だアレ」
『どうしたのかな、テクト。何が見えたというんだい?』
可笑しそうにブランが問いかけてくる。それに俺は、こう答えた。
「何か、飛び回る瓶が、スポスポ物を吸い込んでる」