【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
とりあえず接近すると、意思があるのか何なのか、瓶は口から空気を大量に噴出し、高速で逃げ出した。
「はぁっ!? マジ、何なんだあの瓶!?」
不可視だし意志を持っているかのように飛び回るし、極めつけは魔法がかかったものを無差別に吸い込むし!
そんなワケで、全力で俺は廊下を駆けながら、逃げる瓶を追っていた。通りすがりの女子にキョトンとした目で見られるが、今回ばかりは仕方ない。
もう少し人目のない場所に出れば、グラップルで移動できるんだが、と俺は歯噛みする。流石にあんな武器、人前では使えないから。
『ふーむ、どうやってこちらを認識してるんだろうね、あの瓶。吸い込んだ内側の魔道具の力を行使している……?』
そんな俺について飛びながら、ブランは考えている。ならば思考はブランに任せて、俺は走り抜けるだけだ。
「―――よしッ! ここからはほとんど人がいないぞ!」
逃げる瓶は定期的に空気を吐き出してジェット噴射の動きをしながら、廊下を抜け、職員室横を抜け、ひょいひょいっと階段の方に飛んでいく。
学園名物、巨大階段。一番下には誰も行ったことがない、とすら囁かれる、学園の不思議の一つだ。
「観念しろ、グラップルッ!」
俺が左腕からグラップルを放ち、瞬時に逃げる瓶に距離を詰めると、逃げる瓶は慌てたように空気を噴射し、上へ上へと飛び上がる。
「ハッ、その程度で逃がすかよっ!」
俺は空中でグラップルを外し、くるりと反転して再び上へとグラップルを放った。
最近あまりに空中戦が多い俺である。ちょっとジェット噴射で瓶が逃げようと、その程度で撒ける俺ではない!
そう思った瞬間、瓶が内側から、何かを吐き出した。
「っ?」
それは、魔法のかかった矢のようだった。自動追尾性能が付いた奴だ。俺は舌を打ち、右腕を構える。マシンクロスボウで素早く対応すれば、この程度―――
そこで、気付いた。
「あ、今メイ、五ねぇに預けてるわ」
『え? もしかしてピンチ?』
自動追尾で俺に飛び来る数本の矢。俺は「しくったなぁ、まさかいきなり戦闘になるとは思ってなかったから」と左手のボタンを押し込む。
「だから、このくらいしか用意がないぜ?」
グラップルに電流が走る。それを振るって、俺は矢を電撃で無力化しながら巻き取った。持ち主に返すためにも、腰につけておく。
『……テクト、君、多才だねぇ』
「いいや。残念だが、今回は俺の負けだ」
空中でグラップルを巻き取ってから、近くの地面に放ち直して、そこに移動、着地。
見上げると、瓶は遠くに飛んでいき、そのまま上階のどこか消えていった。
「非常時の武器としては合格だが、電流グラップルを使うと、グラップルを移動手段として使えないのが欠点だな。
とはいえ、学園でこんな戦闘になるとは思っていなかったのが、一番の敗因だが。
うーむ、と考える。とブランと動く場合、メイが居ないから基礎戦闘力が落ちるな。かといって、ブランをメイに紹介できるかというと、うーん……。
「なぁ、ブラン」
『何かな? テクト』
「ブランのことってさ、他の連中に紹介とかってしていいか?」
『えー……してもいいけど、ボクは逃げるよ。どうせ見えないし』
「……じゃあ、やめとく」
メイから見たらどうしたって、俺がおかしくなってしまったようにしか見えない。
となると、メイが武装から外れるのか。痛いな。明鏡止水にマシンクロスボウと、近~中距離のメインウェポンがなくなることになる。パイルバンカーは室内だと使えないし。
そこで、ブランが言った。
『武装の方はさほど考えない方がいい。あの秘宝は、どうやっても瓶になるからね。下手に切りかかったら、割れてしまうよ』
「ああ……確かにな。じゃあ、そもそもこんな派手に追いかけっこをするのが間違いってことになるのか」
戦闘能力が万全だったとしても、俺と逃げる瓶の機動力はほぼ互角。グラップルでさえそうなら、
となると、残るは
「立地が悪いな。森の中ならともかく、学校だと隠れられる遮蔽物が少なすぎる」
というか、俺は見つけるための武装は有していても、見つからないための武装は有していないのだ。実家には自作のギリースーツがあるが、持ってきてないし。
蛍火デコイで目を引けるかどうかも怪しいしなぁ、あの瓶。あれは追手の目を引いて隙を作る武装だから、こちらが追手だと効果は限定的だ。
それで俺が頭を捻っていると、『ん、今このタイミングか。悪くないね』とブランが言う。
「ブラン? どうかしたか?」
『テクト、君の現状基礎能力がどの程度あるのか、見せてもらったよ。であれば、ここからはボクの番さ。助力すると言っただろう? その契約を果たす時が来たのさ』
随分と芝居がかった物言いをしながら、ブランはふわふわと飛んで、階段を下りていく。俺は訝しみながらついていくと、そこには変哲もない扉があった。
『もっとも、ボクの助力は、君を無条件で助けるようなものではない。あるいは、君が持つ力を増幅するような、そんな道具になる。つまりは、やはり君次第だという事さ』
ブランはそのドアノブに触れ、開く。すると中には、学園の教室とは到底思えないような、飴色の板張りが印象的な、木造の部屋があった。
目立つ要素としては、どこを見ても服や布、糸巻があることだ。服飾職人でも、ここまで服飾尽くしな部屋には早々ならないだろう、と思わせられる。
その中心には、大きな機織り機が置かれていた。その上で、真っ白な蚕蛾がゆるやかに羽を揺らしている。
「……アレ、何か」
どこかで、見たような気が……?
そんなデジャブを覚えていると、中に入ったブランが『さぁ、入りたまえよ、テクト』と俺に手を伸ばした。
『準備は、ついに完了した。君への贈り物だよ。どう使い、どう目的を果たすのか。君の本当の力を、見せてくれるかい?』
俺はまばたきし「そう言われたら、期待に応えないわけにはいかないな」と、部屋に足を踏み入れる。