【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
部屋に入ると、ブランは上機嫌で跳ねるように部屋の中を歩き回っていた。
『少し待っていてね。最後の仕上げは、手でやる必要があるんだ。ほら、お前たち。出来たのなら持ってくるんだよ』
ブランが言いながらパンパンと手を叩くと、どこからともなく小さなぬいぐるみたちが現れ、ちょこちょこと散らばって働き出す。
「おぉ……」
その様子に、ちょっと感動してしまう俺だ。異世界ファンタジーなこの世界とは言え、こういうメルヘン系の光景はなかなか見られない。何だか童心に返ってワクワクしてしまう。
小さなぬいぐるみたちは、どこから持ってきたのか、真っ白な折りたたまれた布をブランの前に持ってきた。それを受け取り、ブランは満足そうに頷く。
『うん、良い出来だね。じゃあ最後の仕上げに取り掛かろうか』
ブランは純白の布を持って、機織り機の前の椅子に座った。するとパタパタと頑張って羽ばたいて、蚕蛾がブランの肩に飛び乗る。
確か、蚕蛾は体が重くて、羽では飛べなかったはずだ。だとするなら、アレは見た目通りの蚕蛾ではないのだろう。にしても、モフモフで真っ白で結構可愛いな蚕蛾。
ブランは手近な白い糸を針に通して、布にチクチクと手縫いをし始めた。とはいえ作業量は大したことはなかったようで、一分としない内に『うん』とブランは言った。
『これでボクに出来ることはすべてやった、というところかな。では、テクト』
「ああ」
俺は近づき、ブランから布を受け取る。服と言うにはだいぶ簡素なこれは……。
「これは、マントか」
『そうとも。何者にも染まりうる純白のマントだ。本来ならば色で染めて特有の能力を付与するところだけれど、君が自由に使えるように、あえて色を付けなかった』
布を広げる。ブランは、自信たっぷりに言った。
『名付けて「未完の応衣」。このマントを完成させるのはボクじゃない。君だよ、テクト。だからこのマントはまだ未完成。だからそれを示す「未完」を名に含めた』
それでなくとも、とブランは続けた。
『白はとても良い色だ。黒なんかとは違う、とてもとても綺麗な色。せっかく送るのなら、白が良いと思ってね』
「? 黒だって俺は好きだぞ?」
というか、みんな何だかんだ黒は好きなはずだ。だって黒、格好いいじゃん。
そう素朴に伝えると、何故かプランは眼を大きく見開いて、頬を赤らめた。何で?
『そっ、それは、何というか、と、ともかく! これがボクからテクトへの助力だよ! ひとまず、着てみてくれたまえよ!』
「お、おうおう、分かったって。えーと? こんな感じか」
俺は純白のマントを広げ、背につける。ブランが姿見を持ってきたから、覗き込む。
おお、俺に似合ってるかは分からんが、何か貴公子にでもなった気分だ。
『うん、いいね。よく似合ってる。さて、では早速、テクトにこの未完の応衣の使い方を教えてあげるとしようか』
ブランも同じ物を持っているのか、ホワイトロリータのポケットから、ずるりと純白のマントを取り出した。俺よりも小さな、女性向けのものだ。ブランが背につける。
『テクト、この未完の応衣にはね、「影の仮縫い」という魔法が宿っているんだ』
「『影の仮縫い』?」
『そうとも。例えば……そうだね』
ブランは歩き出し、カーテンで隠されていた部屋の一部を露にする。するとそこには、頑強な鎧がいくつかあって、「おお」と俺は感心する。
『この鎧の影を踏んで、こうしてマントで自分をくるむ。そしてマントを翻すと』
ブランが自分をマントで隠し、直後バッと翻した。
すると、ブランの服が鎧に変わる。「おぉ~!」と俺は拍手だ。
『ふふんっ、どうだい? これが「影の仮縫い」。すなわち対象のコピー魔法さ!』
俺は近づいて、ブランの鎧を指で突く。凄い、固い。鎧をコピーできている。
『「影の仮縫い」は対象を選ばない。例えば特定の人間をコピーすれば、君はその人物の能力をも写し取ることができる。中々に便利だろう?』
「これは便利だな……! 滅茶苦茶便利だと思う。かなり使い方に幅もあるし」
『だろう? とはいえ、まだ未完の服だからね。残念ながら、長時間コピーした能力を保持するのはできないけれど』
「あ、鎧が服に戻った」
なるほど……便利すぎる分、制限があるというワケか。パイルバンカーが無限に撃てないのと同じだな。つまり、使いこなす必要があるのだ。
「かなり出来ることがあるな。できすぎるくらいだ」
『だろう? さぁ、テクトも使ってみて欲しい。君はどんな風に使うんだい?』
「そうだな……」
俺は考える。
今回の目標は、
俺はじっと未完の応衣を見つめる。それから、壁に近づいた。
『?』
ブランが俺を、不思議そうな目で見つめていた。俺は壁に手を触れ―――そして自分をマントで包んだ。
そしてマントを払う。直後、ブランは目を丸くした。
『えっ!? テクトが消えた?』
どうやらこのやり方だと、払った瞬間からマントも俺同様に見えなくなるらしい。ブランが俺を見失って、キョロキョロと周囲を見回している。
それに俺は満足して、ブランの前に歩み出た。
『アレ、テクトどこ……ん? えっ、うわっ、うわぁぁあああああっ!?』
ブランが俺の姿に気付いて悲鳴を上げる。近くの姿見を見て、俺は出来栄えに満足した。
「よし、良い感じになれてるな―――壁に!」
未完の応衣の魔法『影の仮縫い』。これを使って俺は、壁の姿になっていた。
『え、あ、え、えぇ……? い、いや、テクト? あの、このコピーの魔法は、そういう風に使う物じゃ……』
そんな風に言うブランに、俺は首を振る。
「いいや! これが今一番役に立つ使い方だ! 室内でも使えるギリースーツ!
敵から見つからない。それは広範囲無差別攻撃でも喰らわない限り、ただの一度も攻撃を食らわない理想の盾も同然だ。
「多少見栄えが悪かろうと、見つからなければ逃げられることもない。反撃も喰らわない! なら俺がなるべきは、壁! 天井! どこにでもあるもの!」
『か、壁、天井……』
ブランは、体から力が抜けたのか、よろめいて近くの椅子に腰かけた。
それから自信満々の俺を、眉根を寄せて、歯噛みする。
『……悔しい~! それ、ボクが思いつきたかった! そのアイデアはなかった! 絶対悪戯に便利なのに! 悔しい~~~!』
ブランの地団駄を横に、俺は再びに壁に近づいて「うぉぉぉおおお! 全然見えない! めっちゃ同化してる! カメレオンだろ俺もう!」と大興奮していた。