【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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荒ぶる小さなお姫様

 例の武術の授業以来、ナルシスが積極的に絡んでくることはなくなった。

 

 とはいえ敵視はされているようで、近づいたりすれ違いざまに、睨まれたり舌打ちをされたりする。

 

 あの野郎、自分が逃げたことも棚に上げてこの態度か。今すぐにでもぶちのめしてやろうか。

 

 そう俺がいきり立つのを、ウィズが懸命に制止した。

 

「だっ、ダメですよテクト君。気持ちは分かりますが、男の子同士で乱暴はダメです」

 

 ぐぬぬ、とむず痒い俺である。

 

 確かにナルシスの厄介なところは、社会的地位と女子の壁。隙を突いて一瞬ボコって逃げるというのも、お互いに顔が割れている以上悪手だ。

 

 そんな訳で、仕方なく俺も、通り過ぎ様に睨んだり舌打ちしたり「覚えてろよ……」と囁くので対抗である。

 

 よっ友ならぬ、チッ敵になりつつある。遭遇するたびにチッと舌打ちする敵だ。

 

 一方、対ナルシスは政治的判断で慎重にしていたウィズだが、大人しくしていたかと言うと、まったくそんな事はなかった。

 

 以前よりもずっと俺につきっきりになったし、クラスの誰かが近づくとあからさまに威嚇するようになったのだ。

 

 いやもうホント。ガルガル言ってる。ガルガル期かな?

 

 朝は俺が出てくるまで男子寮の入り口で待ってるし、夜は俺を男子寮まで見送る徹底っぷりだ。

 

 男心としては、俺がウィズを送っていく方が違和感はないのだが、それをやろうとしたら無限に理解が及ばない顔をされてしまったので、それ以来やれなくなってしまった。

 

 で、気になるのが、夜別れた後、ウィズの向かう方向。

 

「……あっち女子寮じゃないよなぁ……」

 

 ウィズは夜別れるたびに、女子寮とは別の方向に歩いていくのだ。まぁ何かやってんのかな、と思いつつスルーしていたが。

 

 ……何か、最近やたらウィズが、クラスの女子に怖がられるんだよな。それこそ、普段の軽い威嚇で「ひゃんっ」って怯えられるくらい。

 

 俺とウィズを羽交い絞めした女子たちや、あと体育教師が、やたらとウィズにご機嫌窺いしてるのが印象的だった。何したのウィズ?

 

 ともあれ、色々変化はありつつも、ウィズの助けもあってしばらくは平穏だった。

 

「……テクト君、魔法の座学、何でそんなに点数高いんですか?」

 

「え? ああ、相手の術は知っておかないと対処できないし。あとパイルバンカー造りでも魔法の知識は使うしな」

 

「確かに……あ、いえ、男子って魔法使わないので、基本的には魔法の授業は苦手のイメージがあって。流石ですねテクト君……」

 

 学園の中庭、ウィズと返却された小テストを見返していた時のことだった。

 

 ウィズは座学に強く、ほとんどの科目で満点だった。俺も前世の知識があるから、まぁまぁいい点数という感じだ。

 

 聞いた話、この世界の男子は基本バカなのだという。

 

 男に学があっても仕方ない、なんて言葉があるくらいだ。

 

 日頃、蝶よ花よとクラスの女子にもてはやされる男子を見ているので、男尊女卑なのか女尊男卑なのか全然分からない。

 

 なお俺は女並みに稼がないといけないので、勉強も訓練も大変に頑張っている。

 

 この世は不平等である。

 

「外出禁止もまだ解かれないしさぁ~! グラップリングフックも作れないしさぁ~!」

 

「ま、まぁまぁ……。下町には行けるようになったんですし……」

 

 不満たらたらの俺を、ウィズが諫める。

 

 そう。以前下された学外外出禁止処分だが……実は、俺たちに下されたのは、それだけではなかったのだ。

 

 厳密に言えば、俺たちに下されたのは、一週間の学外外出禁止処分と、一か月の城外外出禁止処分。

 

 学外の方は、つまり完全に学内から出るな、という処分だ。一方、城外の方は、下町までは出ていいよ、というもの。

 

 つまり、一週間でまた魔物狩りに行けるつもりだったのが、本当は一か月もダメなままだった、ということだ。

 

 泣くぞ。おい。泣いてやろうか。

 

「クソォ~……。仕方ない……。魔物素材以外で作れるところまでを、この一か月で頑張って作るか……」

 

「そっ、そうですよ! できるところまで頑張りましょう? ね?」

 

 不機嫌たらたらの俺を、ウィズは頑張って宥めてくれている。ぬか喜びはさせられたが……ここでへそを曲げっぱなしなのも、幼稚というもの。

 

 俺は深呼吸で意識を切り替えると、ウィズが尋ねてくる。

 

「そういえば、以前ゴーレムがどうのって話でしたけど、グラップリングフックはどうやって作るんですか?」

 

「ああ、想定だと結構ややこしいんだけどな」

 

 設計図をカバンから取り出し広げる。

 

「基本は丈夫な紐と、その射出と巻き取りをする機械で作るんだ。ただ面倒なのがこの、壁に刺さるカギ爪の部分」

 

 俺は指で、グラップリングフックの、紐の先端のカギ爪を指さす。

 

「ここがさ、壁とかに刺さってもへたらない頑丈な素材が必要で、しかも抜きたいときに抜けて、刺さってて欲しいときは抜けないような仕組みにしないといけなくてさ」

 

「……紐を通して作動する仕組みを作る……? いえ、でも紐がまず頑丈でないといけないなら、そんなものを内側に仕込むのは難しいですし……」

 

 ウィズは流石専門だけあって、俺の設計図を見るだけで色々と考えを巡らせてくれる。

 

 だが、やはり俺と同じ結論に至ったらしく、肩を竦めた。

 

「確かにこれは、魔導素材じゃないとどうにもならない感じですね」

 

「その通り。だからゴーレムの核金が欲しいんだな」

 

 魔導素材とは、ダンジョンから出土するアーティファクトにもよく用いられている、魔法の力を有する便利素材のことだ。

 

 丈夫な紐と巻き取り機械は、前世の知識と今世の修行で作れる自信がある。だが先端部分はどうしても、使用者の意図を反映するゴーレムの核金じゃないと難しかった。

 

 そこで不意に、「ガーランド君?」と俺に声がかかった。

 

 振り返る。そこにいたのは、見覚えのない女子だ。

 

「はい? 君は?」

 

「いえ、そこで先生がガーランド君を呼んでいたので、それを伝えに」

 

「え、何だろ。俺、今のところ悪いことしてないはずだけど」

 

 ちょっと不安になるも、先生のお呼びとあらば、無視するわけにもいかない。

 

 俺は奇妙そうな顔をするウィズに軽く別れを告げて、女子生徒の言う方向に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ウィズは突如現れてテクトを呼び出した女子を見て、訝しんでいた。

 

 何故か。その理由は二つある。

 

 一つは、女子の制服の意匠が、上級貴族クラスのモノであったこと。

 

 上級貴族クラスの人間は、基本的に下級貴族クラスに興味を示さない。親同士が寄親寄子の半主従関係ならまだしも、先生()()()の願いで動かないだろうという違和感。

 

 上級貴族は地位があって、むやみやたらと威嚇するわけにはいかないから、魔法でテクトにひっそりと防御の細工を施しつつ行かせたが……。

 

 もう一つは、先生と言えども女ならば、男子をわざわざ呼び出すのは、いくらかリスキーな行為であるという事。

 

 男子は数の少なさという特権性から、虚偽の告発でも女子を社会的に殺すことができる。身体を触られたとかの噂が出回れば、教師でも一発で退職に追い込まれかねない。

 

 だから、以前の事件のそれこれは、テクトが騒いでくれれば結構な大事にできたのだが、本人がケロッとしているので、仕方なくウィズが……それはさておき。

 

 そんな、いくつかの不合理性から、ウィズは半分腰を浮かせかける程度の警戒を抱いていた。

 

 結果的に―――それは正解だった。

 

「アンタ? 二つ名持ちの血統の癖に、テクトに怪我させたとかいうクソ女は」

 

「は――――」

 

 ウィズは反射で()()を回避した。

 

 それは、蹴りだった。

 

 小柄な少女から放たれた、鋭い蹴り。油断していたら避けられなかったような攻撃。

 

 その蹴りはウィズを素通りして、ベンチに突き刺さる。

 

 その直後、ベンチはまるで枯れ枝で出来ていたのかと疑うくらい、簡単に砕けた。

 

「――――ッ」

 

 粉々。文字通りの粉々である。

 

 ウィズは思わず立ち上がる。半壊したベンチがガタンと傾く。

 

 そしてウィズは、改めてその少女を見た。

 

 その少女は、極めて小柄だった。身長140センチを下回りそうな体躯。輝かんばかりの金髪ツインテール。釣り目気味の大きな瞳。

 

 人形のような可愛らしさの少女。

 

 だが今のウィズには、そんなことに感心する余裕はなかった。

 

「なっ、なん、何ですかあなたは!」

 

「へぇ、魔法使い系に見えたけど、意外に動けるのね。そんな動けるなら、何でテクトを守り切れなかったの?」

 

 少女は、極めて鋭い視線でウィズを見つめる。

 

 殺意。

 

 ウィズは、正真正銘の殺意でもって貫かれ、身を固くする。

 

 だが、ウィズとて一週間前に修羅場をくぐっている。

 

 オークに殺されかけた恐怖に比べれば、この程度のピンチで、縮こまってはいられない。

 

「質問に答えてください! 誰ですかあなたは! 何の用ですか! テクト君の関係者ですか!?」

 

「こっちのセリフ。何で怪我させたくせに、テクトの隣に堂々と座ってんの? 殺すわよ?」

 

 少女が、重心を落とす。ウィズは体術に詳しくなかったが、それが攻撃の予備動作だとすぐに気付いた。

 

 至近距離。今の動きなら、躱せない。だが、防御魔法を張る時間はある―――

 

 そんな一触即発の空間に、声が響いた。

 

「ウィズ~、先生いなかったんだけど。これもナルシスの嫌がらせか?」

 

 直後、少女は豪速で動いた。

 

「テクトぉ~~~~~!」

 

 ただし、ウィズではなくテクトに。

 

「マジックウォ、えっ?」

 

「おぉっ!? うわびっくりした姫様じゃん!」

 

「テクトテクトテクト! 何で入学すぐに会いに来ないのよ寂しいでしょ! アタシずっと待ってたのよテクトが自分から来てくれるかなって! なのに全然来なくても~~~!」

 

 少女はテクトに抱き着いて、身長差からちょうど目の前にあるテクトの腹部に、顔をぐりぐり擦りつけている。

 

「はっ、ちょっ、はぁぁあ!? セクハラ! テクト君にセクハラしないでください!」

 

「セクハラじゃないです~仲良し同士のスキンシップです~! っていうかテクト! 姫様じゃないでしょ!? アタシのことは何ていうの? ん~?」

 

 先ほどの殺意はどこへやら。めちゃくちゃご機嫌そうな様子で、少女はテクトに催促する。

 

 それにテクトは苦笑しつつ、「はいはい」とその頭を撫でる。

 

「アイギス、久しぶり。下級貴族クラスが自分から上級貴族クラス行くのはアレかなって、自粛してたんだよ。会いに行けなくて悪かったな」

 

 ウィズはテクトの態度に衝撃を受ける。

 

「あっ、頭、頭撫でて、せっ、セクハラも笑って許して、あわ、あわわわわわ」

 

「っと。ウィズごめんな、紹介するよ。この子はアイギス。アイギス・グロリア・アラゴニア。俺の親の雇い主のアラゴニア侯爵正妃の長女で―――俺の幼馴染だ」

 

「お、おさな、なじみ……」

 

 女が憧れる男の子との関係性トップ10に入り続ける関係性、幼馴染。

 

 しかも侯爵家正妃の長女。女の身分としては、これ以上ないほどの出自。

 

 そんなウィズの求めるすべてを有した極めて小柄な少女、アイギスは。

 

「べー」

 

 テクトに抱き着きながら、勝ち誇るように、ウィズに向かって舌を出していたのだった。

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