【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
翌日放課後。俺は装備を揃えて深呼吸していた。
「すぅー……はぁー……」
心頭滅却。
学校を歩き回って数十分。暗視ゴーグルを付けて校内を練り歩いていた俺は(目が光でやられかけたので要改良)、ようやく逃げる瓶を捕捉していた。
『さて、初の「未完の応衣」実践使用。お手並み拝見だね』
そんな俺を見て、気楽にそんなことを言うブラン。俺はふと気になって問いかける。
「っていうかさ、ブランは俺以外には見えないんだし、ブランが行って確保すればよくね?」
『え~? ヤダ。ボクはテクトが頑張って足掻く姿を、後ろでご満悦に眺めていたいんだよ』
「後方腕組み魔女面したがってんじゃねぇよ」
未完の応衣以外で、こいつの助力を当てにするのは間違いか、と俺は納得する。
俺は目をつむる。もう一度深呼吸。目を開く。心が凪いでいる。
「行ってくる」
『うん、行っておいで、テクト』
ブランに見送られ、俺は未完の応衣を背中につけて、壁に触れた。
自分を覆う。マントを払う。それで俺は、壁と同化する。
そして俺は、逃げる瓶が好き勝手吸い込みまくる教室の中に侵入した。中に生徒は誰もいない。静かに俺は進む。
瓶は空中でジェット噴射をして飛び回りながら、教室中にある魔道具を吸い込んでいるようだった。この教室は特に大量らしく、何とも言えず瓶が上機嫌なように感じる。
俺はそれを横目に、壁沿いを歩いて瓶に接近した。
距離は数メートル。跳躍して飛び掛かっても、瓶を逃がしてしまう絶妙な距離。
俺は鍛えてはいるが、それは道具の使用に耐えられる程度。身体能力だけですべてを解決できてしまう、女子上位層のような動きはできない。
だから俺は、あくまでも道具に頼る。
「グラップル」
口の中で呟きながら、俺は天井にグラップルを放ち、天井に張り付いた。直後、瓶が発射音に気付いたのか、俺が立っていた壁の辺りに瓶口を向ける。そこが目なの?
俺はすぐさま天井に触れながら自分をくるみ、そしてマントを払った。一瞬のタイムラグを経て、俺は天井に同化する。
すると一拍遅れて、瓶が口を俺が居る天井の辺りに向けた。俺は息を殺し、高鳴る心臓の音に食いしばる。しばしの硬直。
瓶は少しの時間をおいて、再び飛び回り、別の魔道具を吸い込みに動く。
「―――フー……」
危なかった。が、同時に確信した。未完の応衣。この隠密性能は、かなりのものだ。結構な近距離でも、十分迷彩として活用できている。
無論、それは油断できるという事ではないのだが。俺は天井に引っ付きながら、また少し離れてしまった瓶を見つめる。
俺の作戦はこうだ。瓶が俺の真下を通ったその瞬間に落下、飛び掛かって、押さえ込みにかかる。傷つけないように、未完の応衣を風呂敷代わりにして包み込むのだ。
だが教室はこういう状況だと中々広く、そして音にアレだけ敏感となると、再びグラップルで移動するのはリスキーでできない。
だから俺は、じっと待つ。瓶が俺の真下を通るその時を。
『……うふふっ』
そう思っていたら、ブランがふわりとこの教室に舞い込んできた。
何だ、と俺は思う。そんな俺を、ブランはニンマリと笑って見上げている。
「……」
どうしよう。ものすごく嫌な予感がする。そう思っていると、ブランが話し始める。
『テクト……ボクはガッカリだよ。せっかく背景に紛れるだなんて、ボクも想像しなかったような使い道を思いついてくれたのに、やることが隠れて奇襲だって?』
はぁ~、とわざとらしく、ブランはため息を吐いて首を振る。
『シャバい。シャバいよテクト。シャバシャバだ。まるで水を入れすぎたパンケーキのようなシャバさだよ』
何が何だよ。
『そんな様では、ボクは君を王と認められない。ボクの王となる者、もっと華やかで優雅で、大胆でないと。それこそ、このドレスのようにね』
ブランはスカートのすそを掴んで、くるりとその場で回転した。俺が渋面で見下ろしていると、ちょうど瓶がブランの方に飛んでくる。
そしてブランは、瓶に向けてハンカチを払った。
ファサッ、と。
俺はそれに、目を丸くする。同時、瓶は過剰に反応した。
「――――ッ!?」
瓶がものすごい勢いで、周囲にぐるぐる回り出す。それは、今自分に触れた何者かを探すような動きで。
『さて、テクト。このままでは、パニックになった瓶は逃げて行ってしまうよ?』
クスクスと笑って、ブランは言う。
『さぁ、この窮地で、君は一体どうするのかな?』
―――こんの悪戯魔女が! 俺は歯噛みし、すぐさま動かざるを得なくなった。
どうする。俺は考える。まだ瓶は、俺の真下というには若干遠い。だが、落下エネルギーを味方につけられないほど遠いワケではない。
ならば、勝負に出るだけだ。
「蛍火デコイ」
口の中で呟きながら、俺は懐からデコイを放った。夕方のほの暗い教室の中では、蛍火デコイはまるで人魂のように怪しく揺れる。
「ッ!?」
それに、瓶は驚いたように硬直した。俺はニヤリと笑う。
先ほどの動きで、この瓶に意思のようなものがあるのは分かっていた。だから、こういう奇襲は効果がある。意識を逸らせれば、こっちのもの。
「だっしゃぁあああああ! 行くぞぉぉぉおお!」
「!?」
天井に張り付くグラップルを外す。大声で叫ぶと、瓶は驚いたように口を俺に向ける。
蛍火デコイで気を引けるなら、威嚇でも硬直時間を伸ばせる。後は、叩くだけ。
俺はグラップルを瓶の先の地面に放ち、重力と共に強襲した。未完の応衣を外して、瓶に向けて広げる。
そして俺は、逃げる瓶を一息にマントで包み込んだ。
「っしゃあ! これで捕まえたぞ!」
俺は瓶を包んで勝ち誇る。これで事件解決だ。あとは瓶をふん縛って、吸い込んだものを吐き出させるだけ。
俺は、無事に終わってやっと一息を付けるような思いだった。これで面倒ごとが片付いて、またしばらくは自由に過ごせる―――
だがそんな油断は、そう長くは続かなかった。
「……ん?」
ひゅぼっ、という独特の音がして見ると、いつのまにか瓶を覆っていたはずのマントが、瓶の口の中に吸い込まれていた。
「え、ちょっ、うぉっ!?」
俺は慌ててマントを引きずり出そうとするが、瓶の吸引力の方がずっと強い。次第に俺まで引きずられ、俺の腕が瓶の中に入り始める。
『っ!? テクト!』
そこに、ブランが慌てて寄ってきた。俺を救おうとして、俺の手を掴む。
だが、ブランの抵抗も丸ごと、瓶の吸い込みには無意味だった。
俺たちは二人まとめて瓶の中に吸い込まれる。視界が真っ黒に染まる。
こんなこと前にもあったな、と思いながら、俺はすぐに意識を取り戻し、直後謎の空間に投げ出されていた。
「っ、とぉ! ふぅ、あぶね」
『おわぁっ! ふ、ふぅ……! 自分の浮遊魔法にこれほど感謝する日が来るとはね』
俺は何とか受け身を取り、ブランはいつもの浮遊魔法で九死に一生を得る。
それから周囲を見回して、俺たちは困惑した。
そこは、巨大な透明ドームのようだった。周囲には魔道具の山が積まれていて、足元には薄く水の張ったガラスの地面。それを透明ドームが覆っている。
そしてドームの向こうには、先ほどの教室があるのだ。だが、ここに立つ俺たちから見ると、教室のサイズはまるで天を突くような巨人サイズのそれに見える。
つまり、これは、アレか。
「……俺たち、瓶の中に居る、のか」
俺は呟く。ブランは腕を組み、それから呟いた。
『秘宝を追っていたら、秘宝じゃなくてダンジョンだったとはね。一本取られたよ』
「……」
俺は沈黙の後、「そう簡単に行かないよなぁ……」と立ち上がった。