【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
瓶の口が近くにあったから近づこうとすると、ものすごい風が吹き込んでいて、とてもじゃないが近づけそうになかった。
「うわぷっ! ゴホッゴホッ! ふぅ……これは、強硬手段での脱出は無理筋か。グラップルでも巻き取り性能で敵わないし、パラは逆効果だし」
吹き込む風でグラップルごと吹き飛ばされ、水浸しの地面を俺は転がる。
滅茶苦茶考えれば何か策はあるかもしれないが、一旦良いだろう。俺はブランに振り返る。
『ふぅむ……やっぱり君もそう思うかい?』
ブランはいつの間にか指先に蚕蛾を乗せて、話しているようだった。真っ白でもふもふの蚕蛾は、お尻をちょこちょこ動かしながら、ふわふわの羽を揺らしている。
それから、ブランが俺を呼んだ。
『テクト、ちょっといいかい? 今後の方針を話しておきたくてね。……何でびしょ濡れになってるの?』
「物理的に頑張れないかなって色々試してた」
俺は少しだけ入り口に近づき、風を浴びる。強風が俺の服を乾かしていく。残暑にちょうどいい涼しさだ。
『なるほどね。じゃあ早速本題に入ろうか。この瓶の中について』
ブランは指先の蚕蛾を、頭の白薔薇に乗せる。蚕蛾は白薔薇の中に入って見えなくなる。
『まず確定情報から。ここはボクらが追っていた、あの瓶の中だ。そこに山積みになったり壁になってるのは、瓶が吸い込んだ魔道具たちだね。見れば分かるだろうけど』
「気にすんな。認識はすり合わせておいた方がいい」
『そして、ここからが推測情報。どうやらここは、大量の魔道具を吸い込んで、疑似的なダンジョン、迷宮のようになっているらしい』
「へぇ……?」
俺は口を曲げる。
『魔道具に掛かった大量の魔法と、この瓶自身の性質が複雑に絡み合って、ダンジョンのようになっているみたいなんだよ。ちなみにテクトは、ダンジョンに入ったことは?』
「王の試練の偽物を攻略したことなら」
『試練としては偽物でも、ダンジョンとしては本物だろうね。なら、基本的には同じ認識で良い。つまり、この空間は攻略が可能、というワケさ』
ブランは笑う。悪い笑みだなと俺は思う。
『ダンジョンには三つの法則がある。まず魔物など侵入者に敵対的な存在が蔓延っていること。最奥にはダンジョンボスがいること。そして―――ボスが守る秘宝があること』
「秘宝、ねぇ」
『恐らくはこの瓶に主と認められるとか、そういう効果がある何かになるだろうね。そして主と認められたら』
「ここからも脱出できるようになる、と。なるほど、分かりやすくていいな」
そして瓶も確保できて一挙両得というワケだ。俺はニヤリと笑う。
ブランは俺を見て『威勢は十分だけど、そう上手くいくかな?』なんてクスクスと笑う。
さて、となれば、脱出に向けて一直線だ。俺は歩き出す。
「じゃ、早く行こうぜ。いつまでもこんな場所に居られないしな」
『いいのかな? テクト。ここがどれだけ危険なダンジョンかも知らないのに』
「その辺の学生の私物を吸い込み過ぎて出来たダンジョンが、危険なワケな……ん?」
歩いた先で、俺は妙な物体と遭遇した。
それは、何というか、手乗りサイズの付喪神みたいなのだった。インク瓶の顔に、ペンの束が手足。胴体は筆箱である。
それがオレを見つけると、腕を俺の方に向けてから、インク瓶の頭を叩く。
キィィイイン……、と音がする。俺は意図がよく分からず、というか存在がもうよく分からず、しばらく成り行きを見守る。
その時だった。
俺たちの頭上に、影が掛かった。見上げる。するとそこには、何やらぐつぐつと煮えたぎる真っ赤な液体を内側に秘めた、巨大な瓶が浮かんでいて。
『……えぇ?』
「……おいおい、誰だよこんなヤバい魔道具持ち込んだのは」
俺は口を引きつらせながら、咄嗟に拳を構える。
ともあれ、分かったことは一つある。先ほど俺を見つけた珍生物は斥候。侵入者を見つける度に、このマグマを蓄えた巨大瓶を呼び寄せる。つまりは、
「中でも、見つかったらアウトの
瓶にヒビが入る。ブランが『まずっ』と俺を助けに入ろうとする。
だが、自分のヘマくらい、自分でケツを拭けなきゃあ格好悪いからな。
「パイルッ、バンカーァァァアアアアアア!」
パゴォォォオオオン! と軽快な金属音が鳴り響く。
構えた拳で、俺はパイルバンカーを放っていた。杭を超えて、豪炎が噴射される。
同時、瓶がひとりでに爆発した。
砕けた瓶から、豪速で欠片が四散する。周囲の魔道具の山を簡単に打ち砕く。だがそれだけではない。
遅れて煮えたぎる赤い液体が、マグマのようにあふれ出す。それは周囲の魔道具たちに飛散して、ドロドロに溶かしていった。
無事なのは、パイルバンカーで爆発を押しとどめた俺だけになるだろう。俺は素早くブランを引き寄せ、腰を抱いて俺の背後に隠す。
『ふぇっ?』
そして、瓶の爆発範囲にあったものは、俺とブラン以外全滅した。俺は「ふぅ、危なかった」と息を吐く。
『わ、わ、わ、て、てく、テクト、ち、ちか、近い、よ……?』
「ん? ああ、ごめんな。助けるのに必死で、そこまで考えが回ってなかった」
『い、いや、迷惑って話じゃ、ないんだ、けど』
赤面して俯くブランを解放しつつ、俺はガシャコン、とパイルバンカーの杭を再装填。
「大体分かった。その辺に歩いてる魔道具生物に見つかったら、今の爆弾瓶を呼ばれるのか。かと言って、魔道具生物は誰かの宝物だ。壊せないし壊しちゃいけない」
逆に、壁となっている魔道具の山は、イミテーションのようだ。壊れた端から再生していく。本物と偽物があるのかね。
俺を発見した魔道具生物は、爆弾瓶が爆発したことで満足したのか、またテクテクと歩き去っていった。俺は「うーむ」と考え、呟く。
「敵は破壊NG。見つかれば爆弾瓶が襲ってくる。パイルバンカーがあれば爆発は相殺可能でも、パイルの残弾魔石数には限りがある……」
ボス戦でのメインウェポンは、パイルバンカーになる。となれば、補充できそうにないこの環境では、これ以上のパイルバンカーの使用はご法度だ。
俺は首を回し、「要件は分かった」と笑う。
「上等だ。攻略してやろうじゃねぇの。困難な条件だが、不可能なワケじゃあない」
あとは、そうだな。この瓶も、入手した暁には、かなり有用な道具に転用できる気がするし。「ぼちぼち頑張ってみますか」と俺は歩き出した。
そんな俺の背後から、ブランは『あ、ま、待っておくれよ』と追いかけてくる。