【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
俺はまず、現在の未完の応衣を用いて、どこまで進めるかを実践で確かめることにした。
つまり、壁にぶつかるまでは既存のやり方で進んでしまおう、ということだ。
なので俺は、まず魔道具の山の影を踏み、体をマントで包んでから払う。
すると俺の体が、魔道具の山のように彩色された。やっぱほぼカメレオンだな。大体壁や天井の時と同じ具合だ。それで魔道具の山を沿うように移動する。
流石の迷彩効果で、目の前の敵も気付く様子がない。動かなきゃマジでバレないなこれ。
その繰り返しで、俺たちは淡々と迷宮の半分くらいまで進んでしまう。すると魔道具の壁にドアが埋まっていたので、試しに開けてみると、敵のいない小部屋があった。
「ちょうどいい。ここで休憩していこうぜ」
俺はブランを伴って、中に入る。敵の魔道具生物は小柄で、ドアがあっても開けてはいることは困難だろう。ここで一休みできる、というワケだ。
それでちょっと豪華なソファに腰掛けると、ブランが難しい顔をして、机越しで俺と対面する椅子に、ふわりと腰かけた。
「ん? どうかしたか、ブラン」
俺が問いかけると、ブランは思案顔で答える。
『先ほどは、助けられてしまったね』
「あー……気にするなよ。ほら、俺はその分、未完の応衣でかなり動けてるし」
というか、この応衣がなかったら、相当ハードな攻略になっていたはずだ。既存の装備は欲に立つ場面が少ないし。
考える俺を置いて、ブランは続ける。
『ボクは王の試練に立ち向かう君に、助力する魔女としてここにいる。なのに君に助けられているようでは、逆も良いところだ。ボクの沽券に関わる』
「なる、ほど……?」
よく分からないが、ブランなりの矜持があるらしい。そう思っていると、ブランが言った。
『方針変更だ。ここは下手をしたらボクも危ないくらいの場所である以上、思わせぶりに悪戯している余裕はない。ここからは、ボクも出来る限り君をサポートしよう』
「おお、そりゃ助かるけど……」
『ただ、一つだけ念押しさせてほしいのが』
ブランは、気まずそうな顔で言った。
『今さっき分かったのだけど、今は「工房」にアクセスできない状況にある。ボクの武器はほとんど工房に安置しているから、ボクに出来るのはサポートが限界だと思って欲しい』
「工房?」
『昨日案内した、あの衣装室だよ。ボクは普段戦うとなると、あそこから服やぬいぐるみ、状況次第では機織り機を出すこともあるくらいでね』
「理解した。武装って数が多くなると、持ち運びをどう解消するかって問題に当たるよな」
俺もメイの収納能力に結構頼っているから、割と今は手持ちが少ない。それでも、大半は持ってきているが。
そしてそれは、ブランも同じだったという事だろう。というか、そうか。あの部屋にアクセスできるなら、あの部屋を通して別の扉から出れば脱出できるもんな。
『油断したよ。正攻法で脱出できずとも、工房を通せばいいと思っていた。まさか外界と遮断されるほど強力な結界になっているとはね』
ブランは眉根を寄せて横を向き、小さな声でこう続けた。
『君を、命の危険に晒すつもりはなかったのに』
「……」
ブランを見る。ブランは口元を袖で隠しているものの、その奥では下唇を噛んでいた。
俺は言う。
「じゃあ、二人で協力して、外に出よう。俺とブランで、全力を出して」
『テクト、何で笑ってるの? 状況は、かなり切迫しているはずだけど』
「何でもない。それでブランには、何を任せればいいんだ?」
『そうだね。ひとまずボクは君以外には透明に見えるから、敵の隙を突くためにボクが動いてもいい。他には――――』
ブランは服のポケットから、木糸巻を取り出した。そこにくっつけられた針を取り出し、糸を伸ばす。
『ボクが使う、魔女の糸。ボクの魔法の触媒だ。これさえあれば、ボクの魔法は十全に使える。もっとも、これだけで大掛かりなことをするのは、時間がかかりすぎるのだけれど』
「というと、その糸さえあれば未完の応衣をもう一着作ることもできるのか」
『理論上はね。でも今から指編みで作ろうとしたら、一睡もせずに一日半ほど作業することになる』
にしたって大分早くね?
「じゃあ現実的なラインだとどうなんだ?」
ブランは僅かに思案し、こう答えた。
『君の服に縫い付けて、魔法を付与することができる。例えばあの爆発瓶の攻撃を、何回か耐えられるようにするとか』
「おお! それは助かるな。現状だと、一撃で死にかねなかったし」
『あとは、そうだね。工房のぬいぐるみには劣るけれど、君と一緒に戦う簡易的ぬいぐるみを、一つくらいなら編めるかもしれない』
「それもありがたいな……」
戦闘は何だかんだ数である。やり方次第ではひっくり返せなくもないが、基本的に数が多い方が戦闘は勝つ。
「よし、じゃあ早速頼んでいいか?」
『分かったよ。じゃあ、服を貸してくれるかな? 花も恥じらう
「え? もう脱いじゃったんだけど」
『うわぁぁぁああああああ!? テクトっ! テクト、君、何を考えてるんだっ!』
ブランが赤面して飛び上がる。俺はキョトンとして、上裸で首を傾げる。
「っていうか今ブラン、変な事言わなかったか? 何だオトオって。……あ、乙女の逆転版か!? 大分ワードがキショくね?」
『なっ、何を言ってるの君はっ!? きっ、着て! 以前といい今回といい、君はすぐ脱ぎ過ぎだよ! 自分を大事にしなさい!』
滅茶苦茶に慌てて服を着ろと言うブラン。それに俺は、神妙な顔をしてしまう。
「色んな相手に『男の子なんだから恥じらえ』とか『男の子なんだから身だしなみはちゃんとしろ』とか言われるが……もう俺は決めたんだ」
『な、何を……?』
袖で自分の目を隠して俺の上裸を見ないようにするブランに、俺は言う。
「日本男児たる者!!! 己の裸に恥じ入るような貧弱な輩にはならないと!!!!」
『いいから服着てよぉぉおおおおおおお!』
ブランが叫ぶから、仕方なく俺は物陰で脱いで渡すことになった。面倒くさい。