【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
一時間後、赤面の残るブランは一通りの準備を終えていた。
『えー、こほん。テクトが変なことをし出した所為で一悶着あったけれど、とりあえず作業は終わったよ』
「お疲れ様。変なことなんて俺したか?」
『テクトには今度、男子の貞操観念をコンコンと説教する必要があるみたいだね……!』
ジロリと睨まれる俺である。ああ、そういう? でも俺は屈しないぞ。天地がひっくり返っても俺は、裸になったら「キャッ」とか言って体を隠したりするような男にはならん。
というか、ブランは悪戯っ子の割に、こっちの方向性はNGなのか。まぁ実際、着させられることはあっても脱がされることはなかったが。
という事で俺は、ブランが仕立てた服三つを身に纏っていた。
『まず、君に施した防御の魔法について』
ブランが説明を始める。
『君の上着、ズボン、下着の三つにそれぞれ防御の魔法を掛けた糸を仕込んだ。それぞれ一回まではあの爆発を食らっても、無傷で居られるはずだよ。だから、計三回だね』
「夏だったのが悔やまれるな。冬だったら一枚一回でも、六回までは行けただろ」
『ないものねだりをしても仕方ないさ。次に』
ブランは、手の上に小さな手縫いのぬいぐるみを取り出す。
それは、ウサギの編みぐるみだった。白兎で、ピンと耳を伸ばしている。
『これが君の相棒を務めてくれる、今しがたこしらえたウサギの編みぐるみだよ。その場しのぎの出来だから、強力には作れなかった。ただ、速度は出せるはずだ』
ブランに白兎の編みぐるみを渡される。編みぐるみは俺を見上げて、きょときょとと首を傾げている。
……可愛いなこのぬいぐるみ……。
「ブラン、こいつ名前とかって」
『え? 特にはないけれど。付けたいなら勝手につけて良いよ』
「おっ、おお。そうか。ええと、じゃあどうしようかな」
しろうさ、いや安直すぎるか。もこもこだなこいつ。じゃあもこ太……ちょっと可愛すぎるか。白いし、シロ……これも安直。あとは、ええと、ええと。
「大福に似てるし、ダイフク……。よし。お前はダイフクだ! よろしくなダイフク!」
「きゅいっ」
「ぐっ、ぐぁ……!」
『テクトは何のダメージを食らってるの?』
鳴いた大福があまりに可愛くて俺が悶えていると、ブランが不思議そうに俺を見ている。何でそんな淡泊なんだブラン! お前の新しい子どもだろうこいつは!
「にしても、この短時間で良くできてるよなぁ。ブランの部屋にあった服も、全部よくできてたし」
『そ、そう? 改めて言われると、ちょっと照れるね』
「いや、ホントによくできてるよ。ブランはよっぽど服が好きなんだなぁって思ったけど」
俺が褒めると、ブランはどこか照れた様子だ。赤面気味にそっぽを向いて、口をもにょつかせている。
『そうだね。ボクの場合、二つ名が「着飾った魔女」なくらいだから』
「服とか、縫物にハマった理由とかってあるのか? 分野は違うけど、俺の武装作りに近いものを感じるって言うか」
俺が何の気なしに聞くと、ブランは急に口を閉ざし、静かになる。
「ブラン?」
『……ボクが服に入れ込むようになった理由、か。やっぱり、うん、そうだね』
ブランがダイフクを手に取って、持ち上げる。首を傾げるダイフク越しに、過去を覗き見るように上を見る。
『元の自分を捨てて、新しい自分になれるから、かな。人間は、着る服に規定される。服は役割で、地位で、性格で―――あるいは、人間以上に人間だから』
俺は、ブランの言葉にまばたきをする。するとブランはハッとして『ごめん、妙なことを言ったね。忘れて欲しい』と目を伏せた。
俺はその意味がよく分からなかった。何を着ていても、俺は俺だ。ブランもそうだろうに、と思ったのだ。
ともあれ、これで準備は万全というところだろう。
「じゃあ十分休んだし、外に出て先に進むか」
『そうだね。行こうか』
俺は扉に手を掛ける。一応外に聞き耳を立てて、爆発瓶を呼び寄せる魔道具生物がいないことを確認する。
「よし、いないはずだ。開けるぞ」
俺は扉を開ける。やはりいない。頷いて先に出ると、ブランが遅れて出てきながら、俺に告げる。
『それだけ注意深くするなら、ボクを先に行かせればよかったんじゃないかな?』
「一瞬思いついたけど、何か嫌だったから……」
『何か嫌……? そもそも、女は男の前に立って男を守るもの。気遣いは無用だよ』
「でも居なかっただろ? 俺の危機察知能力は伊達じゃないぜ」
『そういう問題なのかな?』
軽く会話しつつ、変身のために魔道具の山に近づく。そして触れてマントを纏う―――その瞬間だった。
魔道具の山の中から、複数体の魔道具生物たちが飛び出してくる。
「ッ!?」
『何だって?』
俺は咄嗟に退く。ブランも目を剥いて、歯を食いしばる。
魔道具生物は三対。それも、山の中に隠れていて、俺たちをすでに認識している。
それぞれの魔道具生物が、俺たちに向けて腕を伸ばしてくる。先ほどは気付かなかった『見つけたぞ』のポーズだ。すぐにでも連中は、何らかの手段で爆発瓶を呼ぶ。
だから、止めるのは今しかない。呼ばれたら貴重なパイルバンカーの残弾か、ブランに仕込んでもらった防御を一枚失うことになる。
だが、強行すれば魔道具生物が―――つまり、誰かの宝物が壊れてしまう。流石に命には代えられないとはいえ、それは。
その時、ブランが飛び出した。
『っ、とりゃぁあ!』
ブランは魔道具生物に組み付いて、強引に動けないように押さえつけた。すると魔道具生物は相当に力がないのか、それでほとんど動けなくなる。
だが、まだ二体残っている。そう思った時、俺の背後から飛び出すものがあった。
それは、ブランが生み出した魔法のウサギの編みぐるみ、ダイフクだった。
ダイフクは俊敏に動き、魔道具生物に蹴りを食らわせた。「あっ!」と俺は叫ぶ。
だがその程度では、魔道具は壊れなかった。魔道具生物としては破綻しバラバラになったが、魔道具一つ一つには傷がついていない。
それで、俺は理解する。そうか、単純な話だったのだ。
「なんだ。魔道具そのものよりも、お前らは脆いのかよ」
ならば、と俺は左腕を振るう。放つはグラップル。だが直接放つのではない。ただ長さを確保するために、空に向けて撃つ。
「ブラン! そいつこっちに投げてくれ!」
『―――ッ、分かった!』
ブランは、押さえていた魔道具生物を掴み、こちらに投げてくる。同時、最後の魔道具生物も自分で音を鳴らそうと動く。だが、させない。
そして俺は、手加減してワイヤーを振るった。
二体の魔道具生物が、同時にバラバラに散らばった。だが、それは魔道具同士をつなげる糸だったり何だったりが解けただけの事。魔道具一つ一つには、傷一つ入っていない。
「こいつら、力加減すれば倒して進めるんだな。これで、大分やりやすくなった」
俺はニヤリと笑う。さぁ、ここからはサクサク行こうか。