【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
何がアレって、ダイフクが有能だった。
「きゅいっ!」
視界は草食動物特有の広さを持ち、速度は本物のウサギ据え置き。放つは魔道具生物退治にぴったりな、ソフトタッチキック。
本物のウサギ据え置きの速度。これが一番すごいところだ。ウサギってめちゃくちゃ速いんだよ。最高速度時速80キロ。しかも急停止急旋回可能で、とても小回りが利く。
つまり、俺たちが魔道具生物に遭遇した時には、すでにダイフクが狩っている。
「きゅっ!」
「あ、またダイフクが倒した」
気付いた時には魔道具生物がダイフクによって倒されていて、俺はシンプルに感心するばかりだ。ブランに向けて言う。
「これをサクッと作っちゃうのスゲーな……」
『い、いや。この程度で褒められると困ってしまうのだけれどね。ボクが本気を出せば、工房で道具を引っ張り出してきて、もっとすごいのを作れるのだし』
「マジかよ。いやぁスゲーわブラン。そりゃグリーディアがしばらく野放しになるワケだわ。こんな有能が背後に居たら、誰も手出しできないわな」
俺がしみじみ感心していると、ブランは『あの、その、何というかだね、うん……』と照れ照れである。普段悪戯ばかりだからか、褒められ慣れていないのだろうか。
ガラスのドームの、ほぼ最奥近くでの会話だった。
アクシデントで吸い込まれてしまったものの、中に入ってからはいたって順調なダンジョン攻略という感じだった。ヒヤリとする場面はあっても、ケガも物資の消費も少ない。
だから、後は全力でボスを倒して脱出するだけ。
「多分ここ……だよな」
俺は、先ほどの休憩室のように魔道具の山に埋もれた扉――――いかにもボスが控えて良そうな大扉に触れ、呟いた。
『そのはずだよ。ダンジョン化しているなら、自然の摂理でこういう造りになる。つまり、最奥にはボスの潜む部屋があり、その前には堅牢な門がある、というね』
俺は頷く。それから「じゃあ、心の準備はいいな?」と声をかける。
『テクト。準備も何も、ここを突破しなければボクらはここで飢え死にさ。ただ、警戒は十分にね。出会い頭の一撃で、なんてやめておくれよ?』
「ははっ! それだけ言えれば大丈夫だな。よし、行こう」
俺は扉を押し開ける。そして大きく解放して、中に進む。
中にあったのは、変わらず水浸しのガラスの床だった。周囲は魔道具の壁に覆われていて、今までの道同様に、魔道具の壁が視界を遮って入り組んでいる。
だが入り口から一番奥、瓶底の壁に至るまでは、ほとんど遮るものがなかった。そしてそこには、魔道具ではなく、透明なガラス瓶の山が。
「……」
俺はパイルバンカーを構えながら、じりじりと前に進む。
すると、不意に地面が揺れ始めた。『来るよ』とブランが言い、「ああ」と俺が頷く。
そして、それは現れた。
ガシャァァアアアアン、と瓶の数々の砕け散る音が、奥で激しく鳴り響く。
それは、ガラス瓶の山の中から立ち上がった。巨大な瓶の巨人。多数の巨大な瓶が連なって人型の姿になっていて、特に両こぶしの瓶は、煮えたぎるマグマを秘めた爆発瓶だ。
頭の瓶には凹凸で顔が描かれていて、どうも激怒しているように見える。なるほど、やる気満々というワケだ。
とはいえ、難敵とは感じなかった。何せ全身が瓶で出来た、脆い体だ。パイルバンカーを一撃ぶちかませば、それで終わる相手。油断はしないが、敵じゃない。
俺は左腕を構える。そしてグラップルを放つ―――
その瞬間だった。
瓶の巨人が、俺たちに向かって両腕を振るった。飛び道具か、と警戒にパイルバンカーを構える。恐らくはあの爆発瓶。ならば、パイルバンカーで対応できる。
飛来物は見立て通りの巨大瓶。俺はパイルバンカーの魔導回路を起動し、すぐにでも撃てるように準備する。
接近。まだ。まだだ。もう少し。さぁ、今ぶちかませ―――
その時、ブランが『アレ?』と呟いた。
『ボクらに投げつけられたの、爆発する瓶じゃなかった?』
「え?」
一瞬奥を見る。瓶の巨人。だが、両こぶしの爆発瓶は健在だった。俺は疑う。
じゃあ俺たちは、何を投げつけられた?
その瞬間だった。
飛来物が俺たちにぶつかる寸前で、ピタリと空中で動きを止めた。中に何も入っていない、シンプルな巨大空き瓶。それが二つ。
俺は飛来物を撃退する気満々で、パイルバンカーを放ちかけていた。拳は突き出していたし、状況によって回避も必要になると、グラップルも露出させていた。
それが、いけなかった。
巨大な空き瓶が、ものすごい勢いで吸い込みを始める。俺は慌てて逃げ出し、ギリギリで自分が吸い込まれずに済む。
だが、吸い込みを這う這うの体で回避した後に、気付くのだ。
両腕の武装が、無い。
パイルバンカーとグラップルを、奪われた、と。
「――――ッ」
ハッとして振り返る。巨大空き瓶の中には、俺の武装が入っていた。パイルバンカー、グラップリングフック。
『テクトっ! 危ない!』
「っ!」
攻撃手段を丸々奪われて呆然とする俺を、ブランが突進するようにして庇った。我に返って見ると、俺自身を吸い込もうとして、二つ目の巨大空き瓶が接近していた。
だから、敵の吸い込みは、ブランを対象とした。
「ブラン!」
巨大空き瓶の吸い込みで、ブランはたちまち丸裸にされてしまう。俺の時とは違う挙動。それで理解する。こいつらは逃げる瓶と同じ効果を持つ瓶。つまり、魔力に反応するのだ。
恐らくは、吸い込み範囲にいた相手が持つ魔道具を、無条件で奪うことができるのだろう。だから差し向けていた両腕の武装を奪われた。ブランの服も、同様に。
「あ、あ、嘘。え」
「ブランっ! ここは逃げるぞ!」
俺は全裸で地面にへたり込むブランを抱えて、全力で駆け出した。幸いにもここは、魔道具の山があるから隠れやすい。
それで俺は、敵を撒くようにして複雑に動き、それから気配が遠ざかったのを確認して、ブランを下ろしつつ、音を立てないようにその場にしゃがみこんだ。
「……マジか……!」
マズい。過去最高にマズイ。抵抗手段を失った。学内の冒険だから、実家から持ってきた刀も帯びていない。本当に抵抗手段がない。
あるのは蛍火デコイがいくつかに、暗視ゴーグル、展開パラグライダー、未完の応衣だけ。見事に戦闘用の武器が失われた。
幸いにして防御面は固いが、それだけだ。ブランが縫い付けてくれた防御の糸三回分。それをすべて失う前にどうにかしなければ、俺たちは人知れずに、瓶の中で生を終える。
「……落ち着け。落ち着くんだ、俺。よし、よーし……」
深呼吸して、精神を鎮める。逆に考えろ。まったくの丸腰でないというのはデカイ。少なくとも
それに、俺は一人じゃなく二人だ。「ブラン」と声をかける。まずは二人で知恵を絞って、どうにか敵を倒さねば、と。
だが、ブランは普段通りとはいかなかった。
「あ、あぁ、う、うぅぅ、うぅぅぅぅううう……!」
「……ブラン?」
普段とは、何だか耳ざわりの変わったブランの声に、俺は戸惑う。
この世界は貞操逆転世界だ。だから、この世界の女の子は前世日本の男のように、多少裸を見られても、過敏に恥ずかしがったりすることはない。
だが、ブランは違った。
「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、ボク、ボク、ごめんなさい……!」
ブランは顔を蒼白にし、涙を目に溜めながら、謝罪の言葉を繰り返していた。裸を覆い隠すように小さく縮こまり、両腕で自分を抱きしめて。