【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
瓶巨人の拳を、魔道具の山に誘導する。
「キィィイイイイイイイイイン!」
誘導した一撃を躱すと、瓶巨人の拳が、魔道具の山を打ち崩した。
俺は散らばる魔道具と、瓶巨人の拳を確認する。
瓶巨人の拳はある程度一定の耐久度があるようで、数回魔道具の山に突っ込ませた程度では砕けない。一方で、互角に打ち合うと結構簡単に割れてしまうようだった。
だから俺は回避を主体に、瓶巨人の様子を確認していた。もっとも、それだけで済む相手ではない。
「っ、来る」
俺は全力で駆け出し、瓶巨人の視線を切って、応衣の擬態で隠れる。すると、瓶巨人が投げ放った吸い込み瓶が魔道具の山をいくらか吸い込み、その場に落ちた。
これだ。瓶巨人の第二の武器、魔道具吸い込み。これを食らったが最後、俺は実質的な敗北が確定する。というのも、俺の今の頼みの綱、未完の応衣が魔道具だからだ。
とはいえ、瓶巨人が瓶の山に戻るまでは、一度使った瓶の再使用はない。現在、敵のストックはマグマの両拳に、吸い込み瓶が一つ。
これらを使い切らせたり、あるいは仕留めきれない程度の大ダメージを与えると、奴は瓶の山に戻って全快してしまう。それを繰り返されると、俺も体力的にじり貧になる。
「なるべくなら、今回で仕留めたいところだな」
俺は擬態しながら、様子を窺う。それから、戦略を頭の中で組み立てる。
重要なのは、いかに隙を突いて、一回で致命打を与えるか、ということだ。
俺の手元にある攻撃手段は、応衣のコピーで使える炎の剣。これを瓶巨人の攻撃に合わせて投げれば、大ダメージを与えることはできる。
だが、致命打とはならない。これが痛いところだ。失敗すれば、瓶巨人は瓶の山に戻り全快して戻ってくる。現状を打開する手段にはならない。
が、少なくとも反撃的に瓶巨人のスタンを取れる手段ではある。
「要は、スタン中に何か別の致命打を与えられればいいって話なんだよな」
だが、それが見つからないのだ。パイルバンカーは回収されて瓶山の中。炎の剣は瓶巨人のパンチに当てないと砕けないため、パイルの回収には使えない。
他にも魔道具の山に攻撃を誘導させて色々探しているが、十分な攻撃力が望める魔道具は見つからなかった。当然と言えば当然だ。元々は学生のちょっとお高い日用品が主である。
となれば、この火炎剣でどうにか威力を出す必要がある。魔道具の山はイミテーションで、壊しても誰かの魔道具を壊すことにならないから、自由には使えるのだが……。
「……いや、それなら、手はあるか?」
リスキーではある。あるが、なくはない。ミスってもリカバリがまったく利かないというほどでもない。
俺は頷く。
「よし、やってみるか」
俺は擬態を解き、瓶巨人の前に躍り出る。
「こっちだでくの坊! 掛かってこい!」
「キィィイイイイイイイイイン!」
瓶巨人が俺に気付いて、ドタドタと駆け寄ってくる。マグマの拳を構え、テレフォンパンチが丸見えだ。幸い拳のヒビ具合は、まだ数回は割れずに堪えられる程度。
肉薄。俺の回避直後、瓶巨人の拳が魔道具の山を打ち崩す。
俺は飛び散る魔道具を回避しながら、先ほど確認した魔道具を素早く探す。
「見つけた」
それは、派手な羽ペンだった。
俺はそこに駆け、そして踏みつけた。マントで体を覆い、払う。すると俺の背中に、羽が生えている。
「よしっ、飛べぇッ!」
俺が適当に背中に力を入れると、背中に生えた羽が羽ばたき、俺の体が一気に数メートル上昇した。
ちょうど、瓶巨人を少し見下ろすような高さ。すぐに未完の応衣はコピーを解いてしまうが、十分だ。
「広がれ、パラグライダー」
俺の意思に応じて、展開パラグライダーが開かれる。俺は素早く滑空して、瓶巨人の前を飛ぶ。
「キィィイイイイイイイイイン!」
瓶巨人が再びのテレフォンパンチ。そこに向けて俺は、コピーした火炎剣を投げ放った。
激突、剣の破砕、そして爆発。瓶巨人は一部割れてたたらを踏み、俺は爆風を受けてさらに高く飛び上がる。
「さぁ、ここからだぜ」
俺はパラグライダーを仕舞い、奴の拳の上に飛び乗った。
「キンッ!?」
「ハハハハッ! お前のパンチ、ずっと見え見えなんだよ!」
俺は瓶巨人の腕の上を走り、その頭へと迫る。瓶巨人は慌てた顔になるが、爆発でスタンしている今、対処は間に合わない。
走りながら俺は、マントで体を覆い、払う。すると俺の拳が瓶巨人のそれになる。
応衣の魔法『影の仮縫い』は、触れた影、あるいはそれそのものの力をコピーする。俺が瓶巨人の腕上を走っている以上、コピー先は瓶巨人の拳になる。
あとは、トドメの一撃だ。俺は火炎剣を瓶巨人の頭に投げつける。
当然。これだけでは意味がない。爆発は、剣が砕けないと発生しない。
だが、ここには瓶巨人の拳がある。そう―――コピーした拳が、俺の手に!
「食らえぇぇえええええ!」
俺は放った拳が、瓶巨人の頭と、火炎剣をサンドイッチにする。
そして爆発が、瓶巨人の頭を襲った。
ガシャァアアアアアアアンッ!
「うぉおおおおお、っとぉ!」
俺は爆発の反動を受けながらも辛うじて耐え、吹っ飛ばされて地面に着地した。
地面の水が、足元でバシャンと音を立てる。遅れて、倒れた瓶巨人が砕けながら足元の水辺に散らばった。
「ふぅっ。これで討伐ってところか? ちょいと大変だったが、まぁ勝てないほどじゃなかったな」
あとは盗られた装備を回収して、ブランに着せて脱出か。そんな風に一息つく。
だから、その光景に、戸惑った。
「キィィイイイイイイイイイン……」
「……は?」
瓶の山から、再び瓶巨人が現れる。
それに、俺は言葉を失う。
何だそれ。え? は? どういうこと? 無限残基?
それから、思い直す。違う。そうか。俺は勘違いをしていたのだ。瓶巨人が本体で、瓶の山は回復拠点。そう考えていたが、違った。
「瓶の山の方が、本体―――」
「キィィイイイイイイイイイン!」
俺が瓶巨人を破壊したからか、新しく出てきた瓶巨人は、一体目とは比較にならないほど激怒していた。
同時に吸い込み瓶を俺に投げつけてくる。俺は駆け出し、どうにか吸い込みを回避するも、体勢は崩れ気味も良いところ。
そこに、ドタバタと不格好に、瓶巨人が突っ込んできた。そして両拳を、思い切りぶつけ合う。
起こるのは、マグマの奔流、大爆発だ。
「――――ッ!?」
服に、ブチッと糸が切れる感覚が走る。俺はマグマに呑まれ、吹っ飛ばされつつも、無傷で地面を転がった。ブランのサポート。守護の魔法。
だが、それももう終わりだ。守護の残基は切れ、瓶巨人は死んでいない。奴はマグマを足場に立ち上がり、そのままの勢いで俺に肉薄する。
マズい。マズイ! 俺は歯噛みする。体勢を立て直せ! 応衣の魔法を発動しろ! だが俺は地面に這いつくばっていて、間に合わな―――
「テク、トぉぉおおおおおおおお!」
そこに飛び込んだのは、ダイフクを抱えたブランだった。
瓶巨人の突進を受け、ブチッとブランの守護の糸の魔法が切れる。俺と一緒に吹っ飛ばされながらも、魔法は俺も守って距離を取った。
「ぶっ、ブラン!? 大丈夫なのか? だってお前、服を失くしてあんなに動揺して」
俺は素早く起き上がって、ブランを助け起こす。それにブランは、ひどく狼狽え、泣きながらも俺を見た。
「だ、だだだ、だっ、て」
ぐしゃぐしゃに泣きながら、ブランは俺に言う。
「テクト、は、ボクに、服を着せてくれた、から」
「――――」
俺は、その意味の深さを理解できない。
ブランにとっての服が何かを知らない。俺自身、服なんてさしたるものとも思っていない。
だがブランには、服に深く思い入れがあることは知っている。
「ブラン」
俺は願う。
「知恵を貸してくれ。二人で、このダンジョンを攻略しよう」
「―――うんっ」
ブランが、頷く。震えながらも、泣きながらも、ブランは立ち上がった。
なら、仲間だ。守るべき相手じゃない。共に戦う、頼もしい仲間だ。
俺は立ち上がり、瓶巨人に向かう。
「現状をかいつまんで共有する! 本丸は瓶の山! 課題は火力不足! 隠れられるし空も飛べるが、瓶の山を一気に打ち砕く方法がない!」
「それ、なら。……ボクを、コピーして」
ブランも立ち上がり、俺の袖をつかむ。
「ボクの『蚕の魔法』は、糸の魔法。布の魔法。服の、魔法。テクトの服を素材に、一撃くらい、作り出せ、る」
ブランが服を脱ぐ。震えは激しくなるが、それでも俺に託してくる。
「これ、も。っく、う、うぅ……」
「ああ、分かった。……ありがとな」
受け取る。気遣うべきではないと思った。仲間が、身を切って託してくれるのだ。その心遣いを受け取らないなんて、男じゃない。
……元々全部俺の服だなんて、そんな野暮なことは考えないでおこう。
「だい、ふく」
ブランが抱えていたダイフクを放す。するとダイフクが高速で駆け出し、瓶巨人に迫る。かと思いきや瓶巨人の体を駆け上がり、その頭に一蹴り入れた。
「おお、すげ」
「キィィイイイイイイイイイン!」
ダイフクの挑発に、瓶巨人が激怒する。ダイフクは逃げ出し、それを瓶巨人が追いかける。
そうして、俺の前に道ができた。
止める者のいない道。俺は思う。一人で戦うのと、みんなで戦うの。それだけでこうも道が開けるものか、と。
「ブラン、行ってくる。お前の魔法、借りるぜ」
ブランが、こく、と小さく頷くのを見て、俺はその影を踏み、マントで体を包み込んだ。
駆け出す。全力で。少し離れたところで、ダイフクが瓶巨人に叩き潰されるのを見る。背後でブランが怯え、震えているのが分かる。
これが最後のチャンスだ。これを逃せば次はない。だから、ここで全力を叩き込む。
瓶の山に迫る。俺は応衣を払う。魔法が発動し、俺にブランの魔法が宿る。
その時、不思議な光景が脳裏によぎった。
『お前、汚いんだよ』『何みんなに混ざってんの?』『汚い肌。水浴びもしてないの?』
俺を―――光景の主を囲う、小さな少女たち。だがその口には嫌らしい笑みが浮かんでいた。罵倒ながら、少女たちは光景の主に、容易く拳を振るった。
これは、と思う。だが、今はいい。気にするまい。ただ今は―――ブランの一撃を、俺がここに叩き込むだけッ!
「いくぞぉぉおおおおおおおお!」
俺の意思に従って、未完の応衣以外の服が、シャツとズボンが糸に解かれ、俺の腕にまとわりつく。それは俺が慣れ切った拳の形。理不尽を打ち払う炎の魔導回路。
糸で出来ても、魔力がこもっているなら強度に問題はない。内燃機関に炎が吹き荒れる。杭に膨大な圧力がかかる。
あとは、存分に解き放つだけだ。
「パイルッ、バンカーァァアアアアアア!」
パゴォオオオオオン! と音と共に、糸で出来たパイルバンカーが、瓶の山を打ち砕く。
「キィィイイイイイイイイイン!」
瓶が粉々に砕かれ、吹き荒れる炎に歪んで割れていくと共に、俺に迫っていた瓶巨人が断末魔の叫びをあげた。
振り返った先で、瓶巨人が瓦解していく。俺の足元に倒れ、割れ砕け、何も残さなかった。
俺は瓶の山に振り返る。そこには不自然なくらい露骨に、俺の武装やブランの服が無傷で、割れた瓶の上に残されている。
そしてその奥で、輝く小さな、紐の付いた小瓶が吊るされ、揺れている。
「……これか?」
俺は歩み寄り、瓶を掴む。すると、空気が動き出した。
最奥の真逆。入り口の方に、空気が向かっている。吐き出している? と思っていると、風の流れがどんどん強くなっていき、立っていられないほどになる。
「ちょっ、これっ、まっ、マジかっ!」
「て、てく、てく、とぉ……っ」
風に逆らって、ブランが地面を這ってくる。俺もしゃがむが、無駄だった。
マントとパンイチの俺の体が宙に浮く。同時に、全裸のブランも。ふわりと浮いて、そのまま風の流れに任せて、飛んでいく。
「うわぁぁあああああああ!」
「ひ、ひぃぃぃいいい……!」
俺たちは抵抗も出来ずに、風と共に飛び、意識を失った。