【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
起きると、俺は何故だか自室に眠っていた。
「あれ……? ここは……」
『やぁ、起きたようだね、テクト』
すると、ブランが話しかけてくる。
いつも通り不敵で飄々としていて、どこか違和感のあった声も元通りだ。無論、服も元通りの、ホワイトロリータ。
ついでに俺自身確認すると、いつもの制服姿に戻っていた。糸製パイルバンカーにしたはずだったが、ブランが再構築してくれたのか。
『今回は迷惑を掛けたね』
俺が考えていると、ブランはいきなり、そんなことを言った。
『ボクは「着飾った魔女」だ。つまり、着飾っていないボクは、ボクではない。だからというか、その、精神的にとても脆くなるんだ。それであんな失態を晒してしまった』
「ああ、いや、気にすんなよ。そんな状態でも、助けてくれたろ?」
大分意外な弱点だったが、一方で納得感があった。
着飾った魔女。着飾っていなければブランではない。その意味のほどは、まだ理解しきれないけれど。
『そういうワケにはいかないよ。だから、せめてものお詫びじゃないけれど、後始末の方はすでに付けておいた』
「どういうことだ?」
『あの後、瓶が吸い込んだ魔道具があの教室にあふれ出してね』
「は」
俺は言葉を失う。
『教室はゴミ山も同然の有り様だったよ。本来ならあんな愉快な自体、ボクは放置して騒動を楽しむ性質なんだけどね。今回はぬいぐるみたちに、持ち主に返させておいた』
「お、おぉ……。それは、助かるよ。ありがとな。持ち主のみんなも、喜んでくれるはずだ」
『ふん。君はそういう奴だろうからね。あとはオマケで、制服を復元したのと―――これ』
「ダイフク!」
ブランが生きたウサギのぬいぐるみ、ダイフクを取り出したのを見て、俺は目を輝かせる。
『テクトが気に入っていたようだったからね。潰れていたのを修復しておいたよ』
「きゅっ」
「ダイフク~!」
ダイフクが戻ってくるのを受け止め、俺は抱き上げる。
地味にかなり悲しかったのだ。仕方ないと思いつつ、瓶巨人に潰れたのをスルーして瓶の山に向かっていった。何せ、アレが失敗したら全部が台無しだ。
だから俺は嬉しくて、「良かったなぁ~ダイフク~!」とウサギの頭を撫でる。ダイフクは「きゅっきゅっ」と嬉しそうだ。
『にしても、今回は散々だった』
ブランが、ため息を吐く。
『見なよ。この服の有り様を。ボロボロじゃないか』
「え? 見た目は問題ないように見えるけど」
『見た目じゃないよ。魔法糸が吸い込まれる過程でボロボロにされたのさ。これじゃあまともに出先で魔法は使えない。しばらくテクトの部屋に引きこもらせてもらうよ』
よく分からなかったので、試しに暗視ゴーグルで見てみる。すると、ブランの服周りに何か毛羽立ったオーラみたいなのが見えた。これのことを言ってるのか。
「……まぁいいけどさ。あんまり暴れんなよ?」
『悪戯はもちろんするよ?』
「するな大人しくしてろ」
俺が即答すると、やっとブランはいつもの調子が出てきて、『うふっ、ふふふっ』と笑う。
「にしても、今回は大変だった……あ、武装どこやった? ここか。んー……こっちはさほど損傷ないな。ちょっとの整備で大丈夫そうだ」
不幸中の幸いだ。これで俺のパイルやグラップルも壊れていたらと思うと、ゾッとする。
そんな俺に、ブランは語る。
『そりゃあ王の試練なんだ、大変には決まっているさ。ただし、奇妙な点は尽きないけれどね』
「奇妙な点?」
『何せ、何でこの瓶が魔道具を吸い込みまわっていたのか。何故そんな事態に陥ったのか、という謎については、結局謎のままだっただろう?』
言いながら、ブランが小さな小瓶を取り出した。紐が付いていて、中に水が少し溜まった、小綺麗な小瓶だ。
『思うに、今回の事件には、犯人がいる』
「は? 何が?」
『この瓶に、こんな事件を起こさせた誰かがいる、という事さ。ほら、見てごらんよ。この瓶には、よく分からない水が溜まっているだろう?』
俺は言われて瓶を見つめる。確かに水が入っているが……。
『つまり瓶の中身は、この水が必要な何かが、最初入っていたのさ。そして、奪われた』
「だから瓶が魔道具を吸い込みまわってたって言うのか?」
『推測するにね。この事件はまだ続いている。もっと言うのなら―――これは王の秘宝ではなく、秘宝の入れ物に過ぎない、ということさ』
ブランが、俺に思わせぶりな笑みを向ける。
『さて、テクト。君はどう思う?』
翌日の昼食時、みんな失せ物が発見できたという報告を口々にして、俺はほっと一安心していた。
特に、気にかけていたリーフィの喜びようといったらなかった。
「シア様! ありました! 見つかりました! 良かったぁ……! 何よりも大切な宝物なので、見つかってよかったですぅ……!」
「はいはい。リーフィルテは大袈裟ですね。でも、見つかってよかったです」
涙ぐむリーフィに、その背中をさするシア。その光景に、俺は密かにやり遂げられたな、と考えていた。
さて、昼食はそこそこに引き上げると、背後から声をかけてくる者がいた。
「ね、テッ君。今回の失せ物事件、テッ君が解決したんでしょ~?」
「……五ねぇ」
俺はまばたきをして、意外な人物に振り返る。
「何言ってんだよ。失くしものが偶々みんな、同じタイミングで見つかった。それだけだろ?」
「またまた~。じゃあ何でメイちゃんを、最近わたしに託しがちだったの? 何かメイちゃんには見せられない理由があって、それが今回の事件だったと考えるのが自然じゃない?」
「……」
本当に、要らんところでやたら勘のいい姉である。
「ま、何があったのかは知らないけど~お姉ちゃんだけは、テッ君の頑張り、見抜いてるんだからね~!」
「はいはい。勘違いお疲れ様」
「ちょっと~! あしらい方が雑なんですけど~!」
五ねぇがぷりぷりと怒って、俺を掴んで揺らしてくる。俺はそれに甘んじて揺られながら、ふと思いつくことがあった。
そういえば、今回の瓶の事件について、なおも未解決な謎がある。
もし謎に挑むとすれば、勘のいい誰かが必要だ。俺も勘は悪くないが、謎解きに向いた知性を有する人物がいると捗るかもしれない。
「ん~? テッ君、お姉ちゃんのこと見てどうしたの~? ハッ、もしかしてテッ君も、ついにお姉ちゃんに対する熱烈な気持ちに気付いて」
「五ねぇ、ちょっと俺調べてることがあるって言ったら、手伝ってくれるか?」
「テッ君のスルー力には脱帽だよ……。それはそれとして、もちろん! お姉ちゃんはいつだって、テッ君の味方だよ~!」
テンション高くそう言う五ねぇ。その後ろから、「何か二人が楽しそうな話してる。メイも混ぜてっ」とメイが突撃してくる。
「よし、最近メイに構えてなかったからな。メイも一緒にやるか、謎解き」
「謎解き? する。名探偵メイにお任せ」
メイは何だかよく分からないポーズをとる。すると五ねぇもメイのノリに合わせて、「わたしも助手頑張るよ~!」と謎のポーズ。
そんな二人に、俺は「頼もしいチームだよ、まったく」と肩を竦めるのだった。
ブランはテクトの部屋の扉を工房につなげ、一人自らの工房に引きこもっていた。
「……」
無言のままに浮遊して移動し、そして奥にあるソファに腰掛ける。
それから、「ふくっ、ふ、うふふふっ、ふふっ、うふふふふふふっ」と笑い始めた。
「ああ、テクト、テクト……。君は、すごかった。予想以上だった。優秀だというのは知っていた。魔導工学に長け、身体能力も高くて、でも、そんなことは些事も良いところだった」
ブランの脳裏に焼き付いているのは、テクトが丸裸にされたブランに、自ら服を脱いで、着せてくれた時の記憶。
ブランは、体を抱きしめる。矮小で、醜く、着飾っていなければ誰かの目に触れるのもおこがましい、ひどくひどく劣った己の体を抱きしめる。
けれど、こんなブランを、テクトは優しく扱ってくれた。
すべてを失って何の役にも立たなくなったブランに、自らの守護の魔法一回分を容易く譲って、ブランに服を着せてくれたのだ。
「ああ、テクト……ふふ、ふふふ……♡」
名前を呼びながら、ブランはぷちぷちとボタンを外して、座りながら裸になっていく。
そうしながら、指をくいっと曲げると、工房の奥からふわりと一枚の服がブランの下に飛んできた。
それは、テクトがブランに着せてくれたもの。
ブランは全裸になって、再びシャツに身を包む。
「テクト……♡ テクトの存在を感じるよ……こんな、こんな近くに……」
すぅー……とブランは深呼吸をする。洗っても奥に居ついて離れない、テクトの匂いが鼻をくすぐる。
「ああ、テクト。ボク、ボクは君が欲しい。君が欲しいよ。王になって。ボクの、ボクだけの王に。ボクは君だけの魔女になるから、君はボクだけの王になってよ」
ブランは身じろぎしながら、テクトの服を戯れる。
「誰にもッ、誰にも渡さないから……! テクト、君はボクだけのもの。ボクだけの王。他の女には、君のものは何も渡さない。すべて、すべてボクだけの……ッ」
そして、ブランは痙攣した。
ブランは深い陶酔を得て、目をトロンとさせる。弛緩した口で息を吐き、それからゆっくりと、噛みしめるように、呟くのだ。
「だから、一緒に、世界を塗り替え直そうね……♡ ボクらの望む形に、ボクらの世界に―――」
熱い息を吐き、続ける。
「歪んだ魔女に塗り替えられた今の世界から、次なる、ボクらの世界に……ね♡」
ブランは、舌なめずりをする。
その表情は、獲物を絡めとった、悪辣な獣の顔をしていたのだった。