【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
見てしまったからには
ある放課後、ブランが『そういえばダイフクが逃げ出したから、捕まえに行ってくれる?』とか言い出したので、俺は学園中を探し回っていた。
「おーい、ダイフクやーい」
ダイフク。ブランが瓶中のダンジョンで作り出した、ウサギの編みぐるみである。ウサギ同様の速度で動く、ブラン謹製の魔法生物(?)だ。
特に餌とか要らないのだが、創造主のブランが放置気味で俺が世話している関係で、どうも俺に懐いているのが可愛い奴だった。
それでブランを差し置いて、俺がこうして探し回っている、という具合だった。
まぁブランは来ているホワイトロリータ服の魔法糸がズタズタで出られないとか言ってたから、そういうのもあるのだろうが。
ともかく俺はダイフクを探して歩き回っていると、ふと学園の校舎裏に差し掛かっていた。
「……そういや、こんなところに来たの初めてだな」
もしかしたらダイフクがいるかもしれない。そう思って、俺は校舎裏に近づいていく。
すると、どうも剣吞な雰囲気のする声が聞こえ始めた。
「あんたなんかの取り巻きなんかッ、するんじゃッ、なかったッ!」
「あのクソは、何を血迷ったか出家してさぁッ! お蔭でアタシの将来設計はッ、滅茶苦茶よッ!」
「偉そうに命令なんてしてくれてさぁッ! そのツケがこれだって言うんだから、笑っちゃうわよねッ!」
「うごっ、ごぉっ、ぐぅっ」
罵倒と、うめき声。俺は曲がり角に差し掛かってそれを聞き、うげ、と顔をしかめた。
ちらと角から状況を覗き見る。そこに居たのは、四人の女生徒たちだ。三人が囲んで蹴りを入れ、その中央で一人がうずくまっている。
嫌なものを見てしまった、と思う。女子同士のイジメとは。
何が嫌って、この世界の女子は力が強いから、下手な介入は危険という事だ。貞操逆転世界だからな、ここは。いわばヤンキーのいじめに絡む女生徒のような力量差になるのだ。
とはいえ、見てしまったからには仕方ない。
「今日は偶々メイが昼寝してて助かったな」
お子様は俺の部屋でぐっすりだ。お蔭でイジメなんていう、見せたくないものを見せずに済んだ。
俺は角から進んで、イジメの現場に近づいていく。するとイジメ女子の一人が俺に気付いて、「あ? アレ……」と周りに伝える。
「そこの男子! アンタには関係ないんだから、すっこんでなさい!」
「そうよ! 下級貴族でしょう!? 身の程をわきまえなさいよ!」
近づく俺に、そう威嚇する女子たち。何というか、威嚇で済ませようとしているのが分かってしまって、こんなところでも男は優しくされるんだな、と苦笑してしまう。
だが、俺は止まらない。手を伸ばせば触れられるくらいにまで近づいて、声を掛ける。
「まぁまぁ、上級貴族クラスのみなさん。イジメなんて良くないですよ」
「はぁ!? だから、男は黙ってろ、って言ってんのよ!」
イジメ女子の一人が、俺に手を振るおうとする。平手。ビンタの一つでもして追い払おう、という考えなのだろう。
とはいえ、武術の力量差でその平手が俺を打つことはない。俺は身じろぎ一つでビンタを交わし、そしてその手首を掴む。
「っ?」
「はい、じゃあ」
俺は笑顔でこう言った。
「ビリッとしますよ~」
「キャアッ!」
イジメ女子は弱めの電流を流され、驚いてすっ転んだ。それを「どうしたの!?」「男相手に情けないわね」と言いつつもフォローに入る。
「あっ、あいつ! 雷魔法を使ったわ! 男の癖に!」
「魔法!? 男が使えるワケないでしょ。何言ってんの?」
「でも、ビリッとしたのよ! ホントよ!」
言い募るイジメ女子に、二人の仲間は呆れたため息を吐く。
「男にしてやられたからって、魔法を使っただの何だのと……。もういいわ、行きましょう? あと、そこの男子。今日は引き下がってあげるけど、調子乗らないこと」
「うっす」
「ほら、撤収するわよ。起きなさいバカ」
「ホントだもん!」
そんな言い合いをしながら、イジメ女子たちはその場を去っていった。
さて、と俺は地面にうずくまる女子を見下ろす。
その女子は、赤髪をポニーテールに纏めた少女だった。
やはり上級貴族クラスの制服を着ていたが、散々蹴られたからか服の表面は土でボロボロ。顔にはいくらかのアザと絆創膏があり、今だけのイジメではないと見て取れる。
「大丈夫か? あいつらはもう行ったぞ」
俺が呼びかけると、「たす、かった……」と震える声を漏らした。
「すまな、かった。まさか、男子に助けられるなんて、思わなかった……」
「いいや、困ってる時は男も女もないって。ほら」
俺が手を差し伸べると、赤髪ポニテの少女は、俺の手を取って立ち上がる。そうして、初めてその少女と目が合った。
整った顔立ちだ、と思うより前に、俺はその顔に見覚えを感じた。同様に少女も俺を見て見覚えがあったのか、眉を顰め、一拍おいてから激昂と共に俺の手を払った。
「きっ、貴様! 何故ワタシを、どういうつもりで、くっ、う、うぅ……ッ!」
少女は顔を顰め、イジメられている時でも流していなかった涙を目ににじませ、この場から走り出す。
その様子を見て、俺はハッと思い出した。
「……あいつ、どこかで見たことがあるなって思ったら、プライダスの元婚約者だ」
プライダス。以前セラフィを無実の罪にかけ、俺とセラフィが必死に試練に挑み、退けた公爵家嫡男。今はセラフィの聖魔法で心を現れ、出家したという。
そして今飛び出していったのは、その婚約者―――元婚約者である少女だった。俺とセラフィが乗るバイクを、馬車で追い回した連中の一人。
アイギスやシアに、教えてもらった。名門血統を背負う同学年の一人。名を―――
「ランスベル・フォン・ウィンチェスター、だったか」
俺は事情を理解して、後ろ頭をかく。
かつては学園カーストでも上にいただろうランスベルが、いじめられっ子にまで凋落した。それは恐らく、俺の所為だろう。
つまりはこういう事だ。俺はセラフィのためとはいえ、プライダスを撃退し、プライダス陣営の人間を総じて失脚に追い込んだ。ランスベルはその中の一人だ。
そしてそんなランスベルがイジメられているのを、よりにもよって俺が助けてしまった……と。
「そりゃあ、あんな顔もするよなぁ」
ランスベルだって、俺にだけは助けられたくなかったはずだ。ランスベルがイジメられるようになったのは、俺の所為でもあるのだから。
とはいえ、俺が悪いことをしたとは思っていない。プライダスが全部悪くて、ランスベルもそれに加担した以上、その責任を問われてイジメを受けているという見方もできる。
できるが、見ていて気持ちのいいものではないのも確かで。
「何だかなぁ……あ、ダイフクみっけ」
俺が何とも言えない気持ちになっていると、草むらの中から、編みぐるみのダイフクが顔を出した。俺はひとまず、ダイフクを捕まえに走り出す。