【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
ブランは俺の部屋にふわりと浮かび、こう語った。
『この瓶には謎がある。何故魔道具を吸い込みまわっていたのか。それはこの瓶の中に入っていた真の秘宝が奪われたからだ。じゃあそれは誰が奪ったのか? 宝は今どこにある?』
ブランの手には、小瓶があった。
前の冒険の戦利品、魔法の吸い込み瓶。その中には、ちゃぷ、と僅かに水が溜まっている。
ブラン曰く、これこそが、瓶が本当の秘宝の入れものであった証拠であると。
『テクト。君の「王の試練」は、まだ終わっていない。君はこの瓶の中の、本当の秘宝を手に入れなきゃならないんだ。だが厄介なことに、それは瓶を残して失われてしまった』
手掛かりは、この瓶だけだ。そうブランは告げる。
『とはいえ、この瓶から分かることはある。魔女たる魔法の第一人者のボクから見れば、この魔法はどんなもので、どんな効果があるのかまで、見通すのは簡単なことさ』
「例えば?」
『この吸い込み瓶の魔法は、ダンジョンに変貌している時は拡張されていたけれど、本来は大きめの教会でいっぱいになる程度の吸い込み容量だった』
そうなのか、と思う。大きめの教会……セラフィの聖教会みたいな感じかな、と想像する。
『そして、中に不自然に溜まった水……。この水はね、この瓶からなくならないものに設定されている。つまりは、本当の秘宝には、この水が必要なんだよ』
ブランは続ける。
『そう言った情報を重ね合わせると、見えてくる。水が必要な、大きな教会大の建築物。それがこの瓶に本来入れられていた秘宝だ。とするのなら―――』
ブランは、指を立てて、俺に告げた。
『秘宝は、きっと船だろうね。この瓶は、本来ボトルシップだった、というワケさ』
「船……!」
俺は想像する。この小瓶の異空間の中に大きくそびえる、巨大なガレオン船を。
『だが、分かるのはここまでだ。秘宝の船がどんな力があるのかは分からないし、今はどこにいるのかも、何があったのかも分からない。じゃあどうするか』
「瓶が元々あった『王の試練』を見に行きたいな。そこで色々あったから、今こうなってるんだろ? なら、得られる情報も多いはずだ」
俺が答えると、ブランは嬉しそうに笑みを浮かべる。
『話が早くて助かるよ、テクト。君が見て取れる情報があるならそれでいいし、分からなくともボスの一部を持ち帰れれば分析に役立つ。是非行ってみると良い』
ボスの一部、と俺は反芻する。秘宝はすでにないが、代りの目標物というワケだ。
『あとは、「王の試練」の場所だね。瓶は逃げると「王の試練」戻る習性があるから、それを追えばたどり着けるけれど……』
そこまで語ってから、ブランはサラサラとメモを書いて、指で魔法を掛けてから俺に渡した。
『それでまた瓶に何かあっても面倒だからね。魔法の術式から、場所を割り出しておいたよ。あと入るための魔法鍵もね』
「ありがとな。助かるよ」
ブランって、『王の試練』関係だと変なことしなくなるよな、とちょっと見直す。
『他に、何か欲しいものはあるかい? 付いて行けないなりに、協力したくてね』
「そうだな……それなら、学内で武器を持ち歩くことになるし、いざという時顔が分からないような魔法がかかった装備が欲しいな」
『そのくらいなら喜んで用意しよう。フード付きの外套を、人数分でいいかな?』
「助かる」
ブランは素直に了承してくれる。
『テクトの外套には、裏地に王冠マークの刺繍をたくさん入れておくからね♪』
「それは要らない」
前言撤回。油断も隙もないこいつ。
そんなやり取りを経て、俺はメモで指し示された場所に向かっていた。
翌日の放課後。集まった場所は大階段の前だった。
前回の反省を生かしてのフル装備である。そして、ブランがいない分助っ人を呼び出している。
まずは忘れてはならない、俺のメインウェポン。
「ん! 久々の冒険頑張る! ご主人の敵皆殺しにする!」
謎に殺意をみなぎらせる愛刀、明鏡止水こと白髪黒浴衣美少女メイ。
次に、俺の前回の冒険を見破って見せた、勘の良さから大抜擢。
「お姉ちゃんも準備万端だよ~っ! お宝ザックザク! 大金持ち~!」
嫋やかな外見の癖に金銭欲丸出しな実の姉、亜麻色の髪をしたヴィーこと五ねぇ。
今回の冒険は、この二人をお供に進める予定だった。
それに俺は、一言。
「山賊?」
身内が野蛮すぎる。誰だこいつらを集めたの。俺か。俺だわ。
俺は早々に後悔しかけたが、とはいえ今回集められたメンツはこの二人だけ。
何故なら、何だかんだみんな忙しかったためである。
三人寄れば文殊の知恵ではないが、他にもメンツを見繕おうかは考えていた。が、どうも上級貴族クラスでは、今重要なカリキュラムが進んでいて、放課後は空いていないのだとか。
そこにまだ公欠が終わらないウィズともなれば、動けるメンツはここに居る二人くらいのもの。
おかしくない? 俺下級貴族クラスなんだけど。何で友達の大半が上級貴族クラスなんですかね。
が、文句を言っても始まらない。俺はブランのメモを取り出して、二人に連絡事項を話始める。
「まず、今回は俺の手伝いに集まってくれてありがとな二人とも。今回の冒険は、失われた秘宝を探せ! ドキドキ! ダンジョン調査の旅~、というワケだが」
「沢山殺す! 魔物の生き血いっぱい飲む!」
「ひゃっほー! これでわたしもお金持ち!」
「驚くほど趣旨が伝わってないので、何とか頑張っていきたいと思いまーす」
それで何でこいつらやたらテンション高いの? テンションの上げ方も怖いし。
「さて、俺たちが向かうのは、魔法学棟の地下だ。大階段をここから50階分下がってから、魔法学棟の方に向かう感じだな。それともう一つ」
俺は今朝にブランから渡された、顔隠しのローブを三つ取り出した。フード付きの奴だ。
「ちょっとした伝手から、ローブを用意してもらった。魔法がかかってて、フードを被れば顔を知られずに済む。ま、先生にバレないようにって奴だな。今回は特に重装備だから」
これを着てフードを被れば、自分の顔が他者から分からなくなる、という優れモノだ。一瞬顔を見られても、一瞬であればフードを被れば忘れてくれるという。
欠点としては、結局ブランは俺のローブの裏地にだけ、王冠マークがやたら入った布を使ったことだろうか。着ざるを得ないので放置である。フードを被ると王冠マークが見える。
「わ、テッ君ありがと~! わたし先生に目を付けられてるから、助かるよ~!」
「切実だな……まぁ役立ててくれ」
「ご主人、ご主人。メイのは? メイのもある?」
「もちろんあるぞ。ほら、これだ。着てみてくれ」
「おー、ご主人の愛を感じる」
「そんなもん込めてない」
「込め直して。今」
「今?」
何だかんだ気に入って着てくれる二人である。俺もそれに倣って着込んでおく。
「ま、ざっと俺からはそんなところだな。他に何か質問は」
「ご主人」
「はいメイ」
「歩くの面倒くさいから指輪になってもいい?」
「さっきのやる気どこ行った?」
「変身」
俺の反論をまったく聞かず、メイはキラキラと光を伴って、俺の指に指輪として収まった。
左手の薬指に収まりやがったので、俺は無言で右手中指に付け替える。
「はい! テッ君、はい!」
「何でそんなやる気なんだ……はい五ねぇ」
「メイちゃん指輪になったし、二人きりだね……♡」
「何言ってんだ」
くねくねしながら言う五ねぇを半眼で見る。するとメイが、指輪から人間の姿に戻った。
「んー! 許すまじヴィー。ご主人はワタシのもの。ここで雌雄を決する」
「ふっ、武器は大人しく人間に振るわれてればいいんだよ~!」
「じゃあ出発しまーす。ついて来ない奴は置いて行くぞ~」
「あっ、待ってよテッ君~」「ご主人おいてっちゃダメ。メイは相棒。いつでも一緒」
俺が歩き出すと、五ねぇ、メイの順に慌ててついてくる。
そうして、しばらく階段を下り続けた。かなり長く下りることになって、途中で疲れたメイが俺の指輪に収まった。俺と五ねぇは問題なく下りきる。
それからブランのメモに従って歩くと、俺たちは巨大な扉に辿り着いた。
「……ここか」
俺は懐から、吸い込み瓶を取り出した。それから手の上において反応を見る。
「ほら、お前確か意志があったろ。ここはお前の古巣か?」
俺が問いかけると、瓶が内側から、仄かに光を発した。恐らくは正解、という事なのだろう。この瓶は内側の船? を失って、取り戻すために飛び回っていた。
俺は頷き、瓶を仕舞う。
「間違いない。俺たちが探してたのはここだろうな」
「じゃあ、早速入っちゃお~!」
ハイテンションの五ねぇに「はいはい」と俺は答えて、メモを翳す。
すると、ゴ……と動き出す気配がする。それに俺は、ブランも伊達に魔女をやっているわけではないな、と感心した。
ゴゴゴゴゴゴゴ……! 鈍く低い音を立てながら、扉がひとりでに開き始める。
「わっ、テッ君すご~い!」『おぉ~!』
五ねぇと指輪のメイが、一人でに動く扉に感心する。
そんな二人に俺は少し得意になって、前に進みながらこう言った。
「じゃ、行こうぜ二人とも。秘宝の謎を解き明かす冒険の始まりだ」