【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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犬猿の二人

 俺とアイギスとの関係は、幼少期にまで遡る。

 

 当時大暴れしては勲章をもらっていた母は、雇い主の城主とも仲が良かったらしい。

 

 その関係で、親子そろって場内に招かれることも多かった。

 

『テクト!』

 

 基本的に女の子は、男に接する機会が少ないが、貴族の子女は輪にかけて少ないと言われている。

 

 その影響か何なのか、俺はやたらアイギスに懐かれていた。

 

『テクト! 一緒に木登りしない!?』

 

『テクト! この滝飛び込んだら気持ちよさそうじゃない!?』

 

『テクト! 魔物が出たわ! 殺るわよ!』

 

 振り返って思うに、アイギスはとんでもないやんちゃ姫だった。

 

 っていうか、最初は俺以外の姉妹も、アイギスと一緒に遊んでたんだよな。んでじわじわ減っていった。

 

 最後まで一緒に遊んでいたのは、俺くらいのものだ。

 

 アイギスは昔からとにかく力が強くて、華奢な細腕でよく魔物を蹴散らしていた。

 

 血統が代々、そういうタイプなのだという。つまり魔力による身体補助が魔法抜きでも相当に強くて、その分体つきは華奢になりやすい、と。

 

 その上、魔法は身体強化が得意と言うのだから、それはもう小さいだけの巨人ではないか、と思ったものだ。

 

『小さい巨人じゃないわよ。アタシの血統は「小さな要塞」。間違えて覚えちゃダーメっ』

 

 違いは分からなかったが、ともかく、そういうことなのだそうだ。

 

 アイギスは特に、アラゴニア侯爵家の実権を握る正妃の第一子でもあったから、それはもうアラゴニア侯爵家でも可愛がられて育っていた。

 

 その所為なのか、家族で登城すると、アイギスは名指しで俺を招き、よく俺の姉妹が『権力によるテクトの占領を許すな!』とブチギレていたものだ。

 

 最近は、アイギスも忙しくなったとかで会えていなかったが……。

 

「まさか、首席合格だとはな」

 

「えへへっ、でしょ~? 会えない間に女を磨かなきゃって、頑張ったんだから」

 

 積もる話に花が咲き、俺はついアイギスと歓談してしまう。

 

 その一方で、虚無になっている人物が一人。

 

「……」

 

 ウィズは虚無の顔で、俺をじっと見つめている。

 

 その、何というか、この絶妙な居心地の悪さは何なのだろうと思う。ウィズもアイギスも友達なのに、何というか、それで済まない緊張感がある。

 

「と、とまぁこんな感じでさ、アイギスは俺の幼馴染なんだ」

 

 俺が言うと「……ソウデスカ……」とウィズは今にも朽ち果てそうな様子で相槌を打った。

 

 ……大丈夫かな。ウィズがあまりに元気がないので心配になる。

 

 と、そこでアイギスは言った。

 

「で、婚約者なのよね~♡」

 

「ブフォッ」「はぁああああああ!?」

 

 その話に、俺は噴き出し、ウィズがブチギレ立ち上がった。

 

「なっ、ななっ、なななななな」

 

「どうしたの陰キャちゃ~ん。そんな流行遅れの歌みたいなこと言って」

 

「陰キャじゃないですけど!? っていうか挨拶しましたよね! 私はウィズです! ウィズ・デルフィア! 覚えてください!」

 

「え~? 二つ名持ちの癖に男の子を守り切れなかった、クソザコ陰キャ女の名前なんて、覚えてられないんですけど~」

 

「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!」

 

 煽るアイギスに、歯ぎしりをして睨みつけるウィズ。

 

 何となく思っていたが、この二人めちゃくちゃ相性が悪いかもしれない。アイギスはこの通り根明だし、ウィズもまぁ陰寄りなのは確かだし。

 

 っていうか、さっきまで俺たちが座ってたベンチぶっ壊れてるし。

 

 ウィズがやるとも思えないので、多分アイギスがウィズにケンカ売るがてらぶっ壊したのだろう。昔から女に厳しい奴だったし。

 

 そんな訳で、俺たちは隣のベンチに座っているのだが……隣のベンチのこと聞かれたら知らんぷりしよ。

 

 ひとまず、俺はウィズを擁護する。

 

「アイギス、怪我の件をどこで知ったのかは知らないが、俺も戦闘中に気付かなかったようなかすり傷だ。しばらく保健室にいたのは、みんなが過保護だからでしかない」

 

「テクトは頭から血が噴き出ててもかすり傷って言うから、信用できないわ」

 

「擁護してもらって何ですが、あの怪我は普通に大怪我です。入院は正しい判断です」

 

「何で俺、一瞬で四面楚歌になったの?」

 

 おかしい。俺が援護したウィズが俺の敵になった。

 

「っていうか、婚約者って何ですか! どういうことですか!」

 

 肝心な話題は聞き流さないとばかり、ウィズは指摘する。

 

 それにアイギスは得意げに語った。

 

「婚約者は婚約者です~! アタシたちはね、将来を誓い合った愛し合う二人なんだから」

 

「ぐがっ、ぐががががががが」

 

「ウィズが壊れかけのロボットみたいに……」

 

 俺は好き勝手言うアイギスに咳払いして、ウィズにちゃんと説明する。

 

「子供の頃の話だ。身分差もよく分かんなかった時の、可愛い約束事だよ。あんま真に受けないでくれ」

 

「え~~~! テクト、アタシのこと嫌いなの!? 結婚してくれないの!?」

 

「気持ちの問題じゃないっての。侯爵家生まれの名門血統と騎士の息子が結婚できるわけないだろ」

 

 身分差がありすぎるんだよ。俺とウィズでさえほぼナシなのに、アイギスに至ってはさらにありえないくらいの身分差がある。

 

「む~~~! そんな意地悪言うテクトには、こうよ!」

 

「うぉ」

 

 アイギスは、俺の膝の上に飛び乗ってくる。

 

 魔力で身体能力はものすごいことになっているが、アイギスの体重は見た目通り。だから、かなり軽い。

 

「ふふん、特等席」

 

「おこちゃま姫め」

 

 満足気なアイギスに、俺は肩を竦める。まぁこのくらいは気にすることでもないか。

 

「な、ん、ぇ……」

 

 と思っていたら、何かウィズが衝撃を受けている。

 

「……ウィズ、どうかしたか?」

 

「どっ、どどどっ、どうかしたかって、どうかしますよ! なんっ、ななな、何でちびっこが膝に乗ってるのに何にも言わないんですか!」

 

「まぁ、このくらいは良いだろ」

 

 軽いし。可愛いし。

 

 一方アイギスは、ドヤ顔でウィズに言う。

 

「さっきまで男を独占して、まるで先輩の王女様の百合ハーレムみたいなモテモテ気分だったのかもしれないけど~ごめんなさいね~? テクトはアタシのテクトだから~!」

 

「血薔薇の」

 

「待て待て待て」

 

 胸元からバラの杖を取り出そうとしたウィズを諫める。

 

「ウィズ、ダメだろそれは。兵器を出しちゃダメ」

 

「このちびっこ小さいので、血薔薇の杖ならゴブリンみたくプチッとやれます」

 

「やれちゃダメだって話だぞ?」

 

「は? 『小さな要塞』舐めてんの? ゴブリン倒せる程度の攻撃力でアタシのこと倒せるって? 笑わせるわね」

 

「アイギスもケンカに乗るな」

 

 女子二人がバチバチに睨み合っていて、俺は大変に所在がない。

 

 せめてこれで話を逸らせないか、と俺はため息を吐きながら、ポッケにしまった設計図を取り出し見る。

 

 すると、アイギスが反応した。

 

「あ、それ前に見た設計図じゃないわね」

 

「ああ、前に見せたのはもう完成したからな。これは次の奴」

 

「完成したの!? ああ、なるほど、オークの森ってそういうこと」

 

 アイギスが得心いった反応をすると、ウィズがそれに食いつく。

 

「このちびっこ、パイルバンカーを知ってるんですか?」

 

 俺が答えようとしたら、アイギスが割り込んで答える。

 

「知ってるも何も、高純度魔石以外の他素材の取り寄せの出資者はアタシよ。っていうかテクト、この陰キャにも発明品見せたの?」

 

 不満そうな視線が二対、俺を見つめる。俺は針の筵を感じながら、そうだ、この流れで全部持って行ってしまおうと考えた。

 

「……アイギス、次の発明でも手を貸してもらっていいか? そっちの進捗、今ほぼゼロなんだよ」

 

「もちろんいいわ! たくさん頼ってくれてもいいのよ、テクト♡」

 

「えっ、て、テクト君?」

 

 得意げなアイギスに、狼狽えるウィズ。

 

 俺はウィズにも頼み込む。

 

「ウィズにも、今まで通り手伝って欲しい。設計図通り組み立ててもうまくいかないときでも、ウィズなら色々分かるだろ?」

 

「はっ、はい! 全力でお手伝いしますねっ」

 

「……何、その陰キャ。思ったよりデキるの?」

 

 涙目で笑顔になるウィズに、むすっとウィズを見るアイギス。

 

 俺が両者に要請するのを二人に見せることで、ウィズとアイギスの間で微妙な緊張感が走る。

 

 それから、二人は言った。

 

「分かりました。このちびっこが関わるのは遺憾ですが、発明品の出資者なら無下にはできません」

 

「はぁ~……。ま、アタシにはテクトの発明品の仕組みが分かんないのは、その通りだしね。陰キャが必要なら、テクトの邪魔はしたくないわ」

 

 二人が譲り合うのを確認して、俺は大きく頷いた。

 

「よし、じゃあ早速今日の放課後から動き出そう。まずは鍛冶場を押さえるところからだ」

 

「はいっ」「おっけ」

 

 二人は同時に頷き、それから一瞬睨み合ってから「「ふんっ」」と顔を背け合った。

 

 まだまだ犬猿の仲だが、ひとまずの落としどころができたというところだろう。

 

 俺はアイギスを下ろして、立ち上がる。

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