【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
放課後、アイギスが俺たちを連れてきたのは、とある鍛冶場だった。
所狭しと武器が並べられる木製の店部分に、奥の石造りの鍛冶場。建物は年季が入っているが、よく掃除されているのか落ち着いた雰囲気があった。
何となく鍛冶の師匠の鍛冶場を思い出していると、奥の方から声が上がる。
「おー、アイギスお嬢様! 友達に……おっ♡ 男の子連れじゃないか~! 入学早々に婚活もいいスタートを切ったみたいだね」
俺たちに声をかけたのは、ロリドワーフの鍛冶師だ。何か見たことあるな、という気分で俺は苦笑する。
鍛冶師に、アイギスが答えた。
「この男の子はテクトよ、アンタの姉の弟子の」
「あー! 姉さんからの手紙で書いてあった、あの変わった男の子だね! となると、今回はウチの鍛冶場を使いに来たって感じだ!」
「そうね。テクト、良かったわね。話が一瞬で通って」
「マジで一瞬でビビる」
似てんなと思ったら血縁かよ。そういや師匠からもそんな話聞いたことあったな。
と、そんな初対面を果たしつつ、俺たちは挨拶を交わす。
「姉さんが世話になったみたいだね。あたしはフレア。よろしくね」
「どうも、よろしくですフレアさん。プロテクルスです。テクトって呼んでください」
学園の鍛冶屋の主、フレアと握手をする。これまたロリ体型の癖に、前掛けエプロンだけの際どい格好だ。
地元にいるときから、噂には聞いていた。俺の鍛冶の師匠アイラに、その妹フレア。鉄に火。何とも鍛冶師らしい名前だ。
「姉さんから腕前は聞いてるよ! 鍛冶場は自由に使いな!」
「助かります。ついでに、ここの素材買って良いですか?」
「もちろんだよ! 身内だし安くしておくからね」
鍛冶師フレアは、ニッと笑った。姉譲りの気前の良さを感じさせる。
「ま、お金出すのはアタシだけどね」
「アイギスお嬢様に置かれましては大変な感謝を」
「今度デートしてくれたら、それでチャラにしてあげる♡」
「毎度対価が安すぎる」
アイギスは甘え上手というか、正直妹みたいなものなので、むしろこっちから構いたいくらいなのだが……。それを口実に金まで出してくれるのだから、頭が上がらない。
が、文句がある人物が一人。
「そっ、それなら私が半分出します! そ、そしてあの、で、でででで、デート、あの、わ、私も、その」
「は? テクトのパトロンはアタシ一人で十分なんだけど。余計な茶々入れないでもらえる?」
いっちょ噛みしようとするウィズに、制するアイギスだ。
その光景に俺は困惑する。貢ぐために競おうとしないで欲しい。
アイギスが腕を組み、ウィズに問う。
「っていうか、デルフィア家って子爵家でしょ? そんな金あんの?」
「あっ、ありますっ。発明品を売って得たお金が、多少は……」
「ちなみにこの設計図通りのものを一通りそろえるのに、どのくらいかかる? フレア」
鍛冶師のフレアがアイギスに呼ばれて、俺の設計図をまじまじ眺めて言う。
「これは中々愉快なもんを作ろうとしてるね。えーと? この感じだと普通の紐じゃ強度が足りないし、あとはアレとアレが必要になるから……」
フレアは空を向いて試算し、言った。
「銀貨五十枚とかじゃないかい?」
「ごじゅっ……!?」
ウィズが言葉を失う。アイギスはニヤリと笑う。
「そうよね~子爵家にはお高い買い物よね~! いいのよだって子爵家だもの! 地方の中規模領主の娘に、そんなお金ポンと出すのは難しいわよね~!」
「うぎぎぎぎぎ」
「ってことで、ここの代金はアタシ持ちね。デートもアタシだけ~」
アイギスは俺の腕に抱き着いて、ウィズに舌を出して煽っている。ウィズは涙目で、小動物のようにプルプル震えている。
俺は言った。
「いや、ウィズにも世話になってるし、デートの一つ二つ喜んでするけど」
「テクト君! やっぱりテクト君ですよ! テクト君しか勝たん!」
「えっ、はっ!? ……テクトの浮気者!」
「二人とも楽しそうだな」
一周回って仲良く見えてきた。あとアイギスは、拗ねを口実に俺のお腹に顔を擦りつけるの止めろ。腹筋を吸うな。
俺はアイギスに買ってもらった素材を抱え、鍛冶場に移動する。
設計図を脇に広げる。ウィズとアイギスが覗き込んでくる。
「で、テクト。ここからどうするの?」
「まず機械部分の素材を作る。で、組み合わせて発射巻き取り機にする」
「ふーん、こうなるとアタシは役に立てないわね」
「テクト君。私、機械の部品ができたら組み立てられると思います」
「お、マジで? じゃあ任せてもいいか?」
「はいっ、もちろんです! ……ふっ」
「っ!? テクト! テクトこの女、今アタシを鼻で笑った! 性格悪いわよこの女!」
「なっ、何を!? さっき散々私のことを煽っておいて!」
「はいはい始めるぞー」
まだ二人なのに姦しい、と思いながら、俺は作業を開始する。
この中世ヨーロッパ風な世界で、機械の部品を作るのは難しい。剣を打つのと、機械の精密部品を作るのでは作業難易度が違う。
だから、俺は極限まで集中する。非常に小さい部品を打つために、少量の鉄を精密に変形させていく。
鉄を赤熱させ、細かく、しかし大胆に金づちを打ち込むのだ。
「え? ぶ、部品ってそんな小さいんですか? そんな小さなものを作ろうとしてたんですか?」
「ねぇ陰キャ。テクト、すごいことしてそうって思ってたけど、やっぱりすごいの?」
「陰キャじゃないです。……いや、すごいなんてもんじゃないですよ。この十倍のサイズを想定してました私。こんな細かい作業前提の発明品だったんですか?」
俺の背後で、二人が何か言葉を交わしている。だが、俺は部品作りで過集中になっていて、周囲の雑音がまったく耳に入らない。
「おっ、やってるねぇ。だいぶ鍛冶の難易度が高そうだったが、どんなもん……ん、んん? テクトは何やってるの、これ? は?」
「やっぱりそうですよね!? 本職の人が見てもおかしいことしてますよね!?」
「……姉さんから、免許皆伝の弟子がそっちに行く、とは聞かされてたんだ。あの、自他ともに厳しい姉からね。男の子だからって甘く見てんだろうなって思ってたんだけど……」
整形した歯車を、ハンマーで最後に形を整えて、水につけて冷やす。
「まず一つ」
「「「っ……!」」」
俺は組み立てをウィズに一任して、機械の部品を一つ一つ作っていく。
「……なるほど、いつもの奴ね」
「いつもの奴って何ですか? ちびっこさん」
「同い年なんだけど? ……ま、いつもテクトはこうなのよ」
「いつも?」
「そ」
一拍おいて、アイギスは答えた。
「
「二つ目」
部品を冷やして、組み立て台に置く。三つ目に取り掛かる。
「「「……」」」
不思議な沈黙が落ちる。俺は気にもせず淡々と作業する。
「思えば、テクト君って不憫ですよね。戦闘も鍛冶も、多分他のことも才能があるのに、男の子に生まれてしまって」
「で、男としても、騎士家の生まれだから結婚にも困る訳よ。貴族子息のハーレムの義務ね」
「……何とかしてあげたいですね」
「珍しく気が合うわね。……偉くなって法律変える?」
「私は、学術系の血統なので、法律は中々厳しいものがあります……」
「アタシも軍事系の血統だからねぇ……。軍事なら発言力あるんだけど」
二人は難しい顔でため息を吐く。
俺はそれにも気付かないまま、カァンッ、とハンマーを振り下ろした。