【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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アイギスの天敵

 翌日の昼過ぎ、俺は偶々ウィズともアイギスとも一緒にいなくて、大あくびをかましながら中庭のベンチで寝ころんでいた。

 

 春の陽光穏やかな日で、絶好の昼寝日和だと思ったのだ。

 

 二人がいれば、こんな油断だらけの行動、耳にタコができるほど叱られたことだろう。が、その日は俺一人自由の身。周りに人もいなくて、俺は悠々自適に寛いでいた。

 

 だから、姦しい複数の気配が近づいてくるのに気付いて、億劫さを覚えたものだ。

 

 その気配は、少なくとも四人以上のものだった。何でそんな推測調なのかと言えば、俺は目をつむって見ないようにしていたから。

 

「それでですね、イリューシア様っ。彼女ったら、『私、いくら食べても太らない体質でして』だなんて言いだして」

 

「うふふっ、可笑しいこと。……あら? 今日は先客がいらっしゃいますのね」

 

 姦しい気配が俺を見つけたのを確信して、俺は完全に眠った振りを決め込むことに決めた。もし何かされようとも、その時飛び起きればいいだけだから。

 

「うげ、男じゃないですか……。ん? アレ? 男? 何で男が女に囲まれずに、一人のんきに寝てるんですか?」

 

「本当ですね。見たところ、下級貴族クラスみたいですが……ご存じの方は?」

 

「私は知らないです」「私も」「私もですわ」

 

 覗き込まれている気配があったが、俺は頑として狸寝入りを敢行する。俺は知らん。何も知らん。中庭で眠るのは全生徒に認められた権利なのだ。

 

「下級貴族クラスの男なんて、普通一番調子に乗ってる存在ですよね?」

 

「多少難のある性格の方もいらっしゃるイメージがありますわね」

 

「多少、だなんて、イリューシア様は寛容すぎます! あんなの驕り高ぶった猿ですよ、猿! いえ、猿の方がまだ動き回ってるだけ健康的です!」

 

「うふふっ、まぁまぁ、あまり興奮なさらないで? でも、それで言えばこの方は、標準的な男子よりもしっかりした体格ですわね。肌も焼けていて」

 

「ごくっ……い、いえ! 男なんて全員ろくでもありません! イリューシア様が危険です! 即刻ここから離れましょう!」

 

 そうして、姦しい気配はワチャワチャと言葉を交わしながら、俺の方から去っていった。

 

 それに、俺は満足して、狸寝入りからしっかりと寝入りにかかったのだ。

 

 だが、そうして意識を手放す寸前で、こんな言葉を聞いた気がした。

 

「にしても、連れ合いの一人もなしに、無防備に昼寝だなんて……ふふっ、面白い男」

 

 そんな言葉を聞いたか聞いてないか、俺はその日、ぐっすりと昼寝に興じたのだった。

 

 

 

 

 

 さて、そんなおぼろげな記憶を抱えた放課後である。

 

「え、ウィズ今日は忙しいのか」

 

「はい……。私も本当に、本当に! テクト君と開発に勤しみたかったんですが、血統絡みのそれこれで呼び出されてまして……」

 

「ああ、それじゃあ仕方ない」

 

 俺は苦笑して手を振る。

 

 女子、特に二つ名持ちの血統の女子において、血統の問題とは最重要タスクに等しい。

 

 歴史ある一族の本家の呼び出し、みたいなニュアンスになってくるのだ。こうなると、周りがどれだけわがままを言っても通らない。

 

 昔それが分からなくて駄々をこねる妹が、母親にとんでもなく叱られていたっけ……、と懐かしい思いをする。

 

「じゃあ、今日はアイギスと進めてるよ。また明日な」

 

「うぐっ、ちびっことテクト君が二人きり……! ……うぅ、はいぃ……また明日ぁ……」

 

 涙目のウィズはものすごく嫌そうに、俺の方を度々振り返りながら去っていく。その様子を、俺は苦笑気味に見送った。

 

「となると、仕方ない。一人でアイギスを待つか」

 

 俺は教室を離れ、一人で待ち合わせ場所に移動する。

 

 移動先は、今日昼寝をした中庭だ。中庭は上級クラスと下級クラスのちょうど真ん中で、集合にちょうどいい。

 

 一人で行こうとするとウィズからお叱りを受けるが、今日はいないし、と俺は中庭に辿り着き、設計図を眺めながら軽く制作過程で見えた課題を書き記す。

 

 そうしていると、上級貴族クラス側から、アイギスの声が聞こえ始めた。

 

「だーかーらぁっ! 余計なお世話って言ってるでしょうが!」

 

 怒り心頭、という調子で、何かを振り切ろうとする歩調で、中庭にアイギスが現れる。

 

 俺がキョトンとしつつも声をかけようとしたら、遅れて数人の女子がアイギスに続き現れた。

 

「そうは言いますが、アイギス様! アイギス様は今年度の首席なのですから、模範となる行動をしていただかないと」

 

「そうです! それが下級貴族クラスの男子と逢引きだなんて……! 上級貴族クラス全体の品位に影響しますよ!?」

 

 複数の女子に言い募られ、アイギスは唸るように言い返す。

 

「何度も言ってるわよね!? テクトはアタシの幼馴染で、そんなちゃらんぽらんな関係性じゃないって! 分かったら消えてくれる!?」

 

「ですが!」

 

「ですがも何もないって言ってんのよ!」

 

 なおも食い下がる複数の女子たちに向かって、アイギスは足を踏み鳴らした。

 

 直後、足が地面を砕いた。細かく破片が飛び散り、石造りの床がちょっとしたクレーターのようになる。

 

「「……っ!?」」

 

 それを見て、女子たちは流石に黙った。

 

 アイギスは、基本的に強靭な女子たちの中でも、特に強靭だ。俺たちの学年で、アイギスと腕相撲をして勝てる人間はいない。

 

 そんなアイギスの怪力で脅され、女子たちはたじろぐ。そのままなら、捨て台詞の一つも吐いて立ち去りそうな雰囲気になる。

 

 だが、その奥から一人、遅れて中庭に現れる者がいた。

 

「アイギス? あまり脅かしては可哀想ですよ?」

 

 とても、目立つ少女だった。

 

 ピンクのブロンドを長く伸ばし、縦にロールさせている。垂れ目気味の目が、優しそうな雰囲気を醸し出している。

 

 俺は、その姿を知っていた。主席のアイギスに並んで、入学式に挨拶をしていた少女。

 

 この国の姫君が一人。イリューシア・ファラーチェ・コンスタンティンだ。

 

「……高みの見物みたいなスタンスで、よく言うわよね……! アンタが気に食わないってだけの話を、さも正義面して……!」

 

 アイギスも主君たる王家の人間に、穏やかに言われてはそう激しく威嚇もできないのだろう。言い返しはするものの、その語気はいくらか弱い。

 

 そんな様子を遠目で見て、俺は目を丸くしていた。

 

 そうか。アイギスも侯爵家とかいう大貴族の人間。とするなら、王族とも親交があっても不思議ではないのだ。

 

 しかも、アイギスは学年主席の上級一号クラス。王女様もそうだから、同じクラスのはず。

 

 となると、あのアイギスですら頭が上がらない相手が、すぐそこにいるのだ。と俺は極めて新鮮な気持ちになる。

 

 そんな俺の驚きを横に、王女様は言った。

 

「何のことでしょう? わたくしたちがしているのは、品位の話にすぎませんよ? 身分差のある交友は、秩序を乱す品位なき行動だ、というだけのこと」

 

「よく言うわよ! 男嫌いの女を侍らせて、百合ハーレムみたいなことしちゃって! バカバカしい!」

 

 アイギスはギロリと睨んで、王女様に言う。

 

「アンタはただ、男が気に食わないだけ! アンタが言いたいのは、『男どもを調子づかせるような真似はやめろ』ってことでしょう!?」

 

 アイギスの言葉に、王女様の取り巻きたちが、揃ってギクリとする。

 

 一方俺は、なるほど、と納得だ。俺は婚活に必死なので比較的謙虚でいるよう心掛けているが、他の男どもは図に乗りまくってカスもいいところ。ナルシスとか。ナルシスとか。

 

「気持ちは分かるけどね! 確かにその辺の男どもは図に乗っててクソみたいだから、どうにかして懲らしめてやりたいのは分かるけど! それとこれとは別なのよ!」

 

 アイギスは王女様たちに喝破する。

 

 そりゃああんなのと結婚しなきゃいけないと言われても、やってられるか、と投げやりになるのも無理はないだろう。

 

 俺は共感のあまり、腕を組んで、遠巻きにウンウン頷いてしまう。

 

 それから、半分やじ馬根性で事の成り行きを見守っていたら―――王女様と目が合った。

 

 えっ。

 

 何で王女様ともあろう尊いお方が、俺のことなんて見てるんですか。

 

「……ふふっ」

 

 そして謎の笑い。本当に何?

 

「そうですか。それだけその殿方のことを信頼しているのですね」

 

「そうよ! テクトをその辺の男と同じにしないでよね!」

 

 アイギスは腕を組み、「ふんっ!」と鼻を鳴らす。

 

 王女様はそれに、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「承知しました。であれば、今回は大目に見ておきましょうか」

 

「えっ?」「いっ、イリューシア様?」

 

 取り巻きたちが動揺する中、王女様はくるりと踵を返す。

 

「では、アイギス。その殿方と仲良くしてくださいね」

 

「ハッ! 言われるまでもないわ!」

 

 王女様たちが去っていく。アイギスはもう一度「ふんっ」と鼻を鳴らして振り返り、俺を見つけて停止した。

 

「……て、テクト? 何でそこに、え、も、もしかして、見てた?」

 

「え、うん。ごめん見ちゃダメだった?」

 

 俺がキョトンとすると、アイギスは「~~~っ! 大人しく引き下がったと思ったら、そういうこと!」と悔しがる。

 

 よく分からないが、アイギス的にはしてやられた判定らしい。俺は頭に疑問符を浮かべる。

 

 にしても、初めて間近に見た王女様だったが……穏やかそうに見えて、中々底の知れない人物らしい、という気持ちになる。

 

「テクトの反応を見てアタシの説得が不必要だって判断したってワケ……!? 舐められたものね!」

 

 アイギスは歯を食いしばっている。

 

 そんな姿に、俺は「アイギスにも天敵なんているんだな」とカラカラ笑いながら、今日も二人で鍛冶場へと歩き出す。

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