【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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ウィズの発明哲学

 ウィズが所用だった数日後。今度はアイギスが休みなのだという話だった。

 

「え、そうなんだ」

 

「はい。そういうことなので、確かに伝えましたよ」

 

 以前アイギスとの再会のちょっと前に俺を呼んだ女生徒(アイギスの友達らしい)から伝聞されて、俺は「ううむ」と腕を組んだ。

 

 というのも、今日追加で欲しい素材があったのだ。

 

 何とも頼りない話だが、今回のグラップリングフック開発は、アイギスという大蔵省なしでは成立しない。

 

 素材一つくらいなら自腹で……とも考えたのだが、悲しいかな俺の家は、しがない騎士家。お小遣いに回せる金を持ち合わせていなかった。

 

 学外に出られれば魔物狩りで小遣い稼ぎもできたのだが、というのは歯がゆい話だ。

 

「そっ、それなら今度こそ、私が出しましょうか!?」

 

 赤面気味の笑みで提案したのはウィズだ。

 

 しかし、俺は渋い顔。

 

「い、いいのか……? アイギスにも正直申し訳なさが先立つんだけど、ウィズはさらに持ち合わせ少ないだろ……?」

 

「いいんですいいんです! 是非買わせてください!」

 

 ニッコニコのウィズに「でも結構値が張るぜ……?」と値段を耳元でささやいた。

 

「……。……すいません、その、私の実力不足で、はい……」

 

「いやいいよ。謝ることじゃないって」

 

 俺は苦笑気味に慰める。

 

 あんまり貢がれると恐縮しちゃうからな。友達との間にあんまり金銭関係作りたくないし。アイギスは手遅れだけど。

 

「となると、放課後は暇になるな。新素材がないと手が進められないし」

 

 俺がそう呟くと、ウィズが、「でっ、では!」と提案する。

 

「その、ま、魔法具店で素材買って、作りたいものがあるんですが、つっ、付き合ってもらえませんかっ!?」

 

 ウィズは赤面のまま俯きがちに言った。その大声に俺はキョトンとしつつも、肩を竦めて笑みを返す。

 

「いいよ。つーかウィズ、肩ひじ張りすぎだって。そのくらい、いつでも付き合うからさ」

 

 俺が軽く笑って言うと、「はっ、はいぃっ。やっぱりテクト君は私の天使ですぅ……!」と何故かウィズは、泣き笑いみたいな顔になるのだった。

 

 いや天使て。

 

 

 

 

 

 さて、放課後である。

 

 俺たちは二人で、ウィズが気になっていた魔法具店に赴いていた。

 

 二人で街並みを歩いている間のウィズは、何だかずっとガチガチに緊張していて面白かったのだが、いざ店につくとすごかった。

 

「その素材俺知らないな。何に使うんだ?」

 

「はい。これはトカゲの丸焼きですね。爬虫類系の魔物に食べさせてから〆ると、取れる素材の質が良くなるんです。費用対効果がいいんですよ」

 

「これは?」

 

「そっちはブラッドオークの心材ですね。頑丈なので杖を作るのによく使います。血にまつわる魔法の効果が上昇するので、実は血薔薇の杖の素材の一つなんですよ」

 

 ほー、と俺は感心だ。俺もいろいろ作る身だからこの手の素材には詳しいつもりだったが、ウィズはさらに詳しいらしい。

 

「……うわ、素材の質がいい……でも高い……」

 

 そんなウィズは、じっと高額素材と睨めっこして唸っている。

 

 清楚系正統派美少女の癖に、中身はまるっきり機械いじり系オタクなのだから、ウィズも何というか、ズルい属性だよなぁとか眺めていて思う。

 

「そういえばさ、ウィズは何が作りたいんだ?」

 

 聞いてなかったな、と思って尋ねると「え」とウィズは硬直して俺を見た。

 

「……どした」

 

「ああえっとあのその違くてあの、べっ、べべべべ、別にそのデートしたいから適当に理由つけて誘ったとかそういう事じゃなくてあの」

 

 何かめちゃくちゃ慌てている。

 

「きっ、キメラを作りたくて!」

 

 そしてすごいことを言い始めた。

 

「……キメラ……?」

 

 俺は渋い顔で首を傾げる。

 

 キメラ。ダンジョンでも出てくる魔物。同時に、一部の魔法使いの間では召喚獣代わりに作られることもある存在でもある。

 

「はっ、はい!」

 

 目をぐるぐる回しながら、ウィズは続ける。

 

「そっ、その、先日の血統評議会でも指摘されたのですが、次の発明品は何か、とツツかれてしまいまして! それで! あの! そういう、その、何というか、ごめんなさい……」

 

「ウィズ、自信もって」

 

 何を謝っちゃったんだろう今の。

 

「でも、そうか。キメラ、キメラか……」

 

 俺は言葉を反芻しながら考える。

 

 キメラ。興味のない分野、とは言えない。むしろある。興味バリバリだ。

 

 が、同時に思うのが一点。

 

「その、ウィズ? キメラ作りって命を扱う分野だろ? 倫理観とかってどうなってるんだ?」

 

「……りんりかん……?」

 

「あっ、倫理観って言葉知らない?」

 

 異世界だからそういう概念がないのかな、と思って聞くと、「いえ、その、存在は知ってるんですが」と微妙そうな顔で、ウィズは続けた。

 

「血統の方針で、『倫理観は横においておけ』という訓示があるんです。なのであんまり気にしたことがないと言いますか……」

 

「そうだ、ウィズって先祖代々マッドサイエンティストだった」

 

 俺は思い出して、眉間を押さえる。

 

 先祖代々マッドサイエンティストって何だよ。あんまりマッドサイエンティストが子々孫々繁栄することないだろ。

 

「き、キメラ遊び、楽しいですよ! やってみませんかっ? 理想のモンスター、作るの楽しいですから! 解剖すると、意外なことが分かったりもしますし!」

 

 ちょっと必死な様子で、いたずらに命を生み出して遊ぼうと提案するウィズ。俺は静かに『とんでもない奴だな』と思う。

 

 まぁ口に出して言わないものの、つまる話、この世界は先祖代々キメラ作ってそうなマッドサイエンティスト娘が存在する世界なのだ。

 

 なら、キメラも遊びで作って良いのかもしれない。

 

 俺は頷き答える。

 

「まぁ、うん、じゃあ、そうだな。キメラは俺も全然分からない分野だし、やろうか」

 

「ほっ、本当ですか!?」

 

 俺が言うと、パァアアッと顔を輝かせてウィズは顔を近づけてくる。うっ、顔がいい。自覚のないタイプの美少女め。マッドサイエンティストの癖に。

 

「ほ、本当本当。キメラってどうやって作るんだ?」

 

「えっと、ベースとなる動物の肉を用意して、そこに組み合わせたい魔物の素材と魔力を捧げる、みたいな感じでしょうか」

 

「へー、シンプルなんだな。どうなのがいいとかある?」

 

「そうですねぇ……」

 

 ウィズは考えて、ひょい、と適当な素材を取る。ぱっと見は蛇の抜け殻だ。

 

「キメラと言えば、尻尾が毒蛇、みたいなのはよくありますよね」

 

「なるほど。そういう感じか」

 

 となると、と俺も選ぶ。

 

「こういう、ユニコーンの角の粉末とかも素材にすると、ユニコーンの強さみたいなのにあやかれる、とか?」

 

「あっ、そうです! そういう感じですっ。テクト君、良いセンスです!」

 

 こくこく、とウィズは頷く。褒められて、俺はちょっと得意になってしまう。

 

「じゃあ他には、スライムの粘液で防御力アップとか」

 

「いいですね! じゃあ私は……電気ネズミの棘で、スライムの粘液を帯電させます!」

 

「おおっ! それめっちゃ強いんじゃね? なら俺は、シンプルに強そうな、このよく分からん甲殻類の殻で行くぜ!」

 

「なるほど! では次は……あっ! サラマンダーのうろこがこんな安い! これ買いですよ買い! 超お得です!」

 

「よっしゃそれも入れよう!」

 

 俺たちは何か楽しくなってしまって、予算の許す限りで思い思いに素材を買った。

 

 そうして時間は過ぎゆき、夕方。俺たちはほっくほくの気分で下町を歩き、キメラを呼び出しても大事にならなさそうな空き地を発見した。

 

 俺たちのテンションはもう爆上がりしていたので、ここしかない! と早速儀式を開始した。

 

 ウィズが魔法陣を描き、俺がその中にうまく素材を並べていく。準備完了後は、ウィズが神妙な顔でキメラ生成の呪文を唱える。

 

 魔法陣の中心で、魔法の煙が立つ。その中で魔法発動を示す電気が、バチバチと駆け巡る。

 

 どんなキメラが出てくる。俺たちの選んだ最強の素材で、どんなキメラが誕生する!

 

 そうして煙が晴れ、満を持して現れたのは―――

 

「もっこす」

 

 何か変な鳴き声の、奇妙なキメラだった。

 

「「……」」

 

 俺とウィズが、揃って虚無の顔になる。

 

「……ウィズ」

 

「……何でしょう、テクト君」

 

「これ……何……?」

 

「さぁ……」

 

 キメラの姿は、奇妙の一言だった。

 

 何かもう、何が何だか分からない。粘液と毒液にまみれて、自壊していっていることだけが分かる。

 

 マジで何だこれ。俺たちはなんてものを生み出してしまったんだ。

 

「……ええと、ウィズ。その、失敗はしちゃったけど、気を落とさないで……」

 

 俺が、せめて、とウィズをフォローしようとすると、「えっ?」とウィズは目を丸くする。

 

「な、何で慰められたんですか、今……?」

 

「え、だって、せっかく作ったキメラが、こんな失敗作で」

 

 俺がそう説明したら、ウィズはかぶりを振って言った。

 

「違いますよ、テクト君! こういうのは、()()()()()()んです!」

 

「え?」

 

 俺はポカンとしてしまう。するとウィズは、「見てください!」とキメラに近づいて、近くの木の棒を拾ってキメラの細かい部分を指し示す。

 

「このキメラ、全体としてはスライムの粘液が占めてるじゃないですか。そこに、蛇の頭が出てて、そこから毒液が出てますよね?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 ウィズの説明に頷く。確かにそんな感じだ。ちょこんとスライムの中から顔を出した蛇の頭の牙から、でろでろと毒液が漏れている。

 

「なんですけど、そこから生える角。多分ユニコーンの角に触れて、毒液の一部が浄化されて水になってます。つまり、毒液を出す素材はユニコーンの角と相性が悪いんです」

 

「おぉ、確かに」

 

 ユニコーンの角には、浄化作用があるというのはどこかで聞いた。だが、目の前でちゃんと見るのと伝聞では、実感が違う。

 

「で、残った毒液がスライムに触れると、スライムの粘液が溶けてます。スライムは毒液に弱いことが分かりますよね」

 

「確かに……スライムって毒を含んでるのもあった気がしたから、相性は良いと思ってたけど」

 

「多分、電気ネズミ素材の帯電要素がスライムと結合したからだと思います。スライムって、複合属性を持つのは難しいので」

 

「へぇ~……! で、その帯電部分に浄化された水がかかって、ショートしてると」

 

「何ならサラマンダーの火も水で消されてます」

 

 つまり、何もかもダメなキメラという事だった。

 

「もももももも……」

 

 そうして、自我の欠片も見つからない謎生物は、スライムの粘液が毒で溶け切ってしまい、必然的に他の部分も散り散りになって息絶えた。

 

 それに、ウィズは満足そうに頷く。

 

「この通り、考えなしに要素をぶち込むと、ダメダメキメラができるんですね。でも、ただ失敗したワケじゃないはずです」

 

「確かに、この失敗一つで結構な情報量があったな」

 

 興味深い、と思う。魔物の素材の相性、という観点から見れば、俺の武器はまだまだ強化できる。そういう学びのある失敗だった。

 

 そう思うと、俺の頭の中で、色々と試したいことが増えていく。発想が膨らんでいく、という感覚が、確かにある。

 

 それは知的好奇心が刺激される喜び。じわじわと、俺の口角がつり上がっていく。

 

「そっか、なるほど。確かに。……キメラ作り、楽しいな……!?」

 

「テクト君、この楽しさを分かってくれますか……!」

 

 ちょっとほの暗いというか、あんまり褒められた趣味じゃない手応えはものすごくしたのだが。

 

 想像以上に、知的好奇心が刺激される遊びだ。これは定期的にやってしまうかもしれない。

 

 ウィズは頷く。

 

「だから、『失敗は楽しい』んです。倫理観は横においておけ、という以上に、これは『魔導博士』の血統において、重要な訓示なんですよ」

 

 自壊して死んでしまったキメラを、いっそ愛おしそうな目でウィズは見つめている。

 

 そんなウィズに、俺は言った。

 

「またキメラ作ろうぜ。今度はしっかり考えよう」

 

「はい! やりましょうやりましょう!」

 

 夕暮れの中、俺たちは賑やかに言葉を交わしながら、帰路につく。

 

 まだ短い付き合いながら、また少し、ウィズのことが分かった気がしたひと時なのだった。

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