【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
幼少期に、母親に鍛えて欲しいと頼んでから、数年がたった。
「ふぅ、ラストの一セットおーわりっと」
「はぁ、はぁ……! テクト、速すぎ……!」
「魔力って持久力にならないのおかしくない? それともあたしの魔力操作が下手?」
「お兄ちゃんが体力オバケなだけでしょ……」
走力訓練を終え、姉も妹も揃ってバテている中、俺は「はい飲み物」とみんなに配って回る。
「ありがとうテクト~~~! お姉ちゃん感動で泣いちゃう。全力で抱きしめたい」
「姉ちゃんに全力で抱きしめられたら俺死ぬ」
「おにいちゃん。贅沢言わないから、抱っこしてよしよししながら飲ませて?」
「贅沢言ったらどのレベルのおねだりになんの?」
飲み物を配りながら、俺はたくさんの姉妹からイジられる。
さすが男女比1:30の世界だけあって、俺は十一人姉妹(兄弟)の唯一の男だった。俺の上には姉が五人、妹が五人いる始末だ。
とんでもない多産だが、母親はケロっとしており、父親は度々げっそりしている。魔力は出産なんて大仕事をも支えてくれるらしい。
「走力訓練終わった? あーあー、テクト以外まだまだね。女の癖にだらしない」
「母さん! 間違えた、師匠! テクトが速いだけで、私たちも全然頑張ってると思います!」
「訓練中に母さんと呼んだわね? あんた訓練量倍」
「うわぁぁああああああ!」
失言した姉がぶっ倒れる。それでなくとも、全員疲労でダウンしているようだ。
「まったく、仕方ないわね。回復したら剣術訓練場に来るように。テクト、あんたは母さんと剣術訓練よ」
「訓練中に自分のこと母さんって呼んだな師匠」
「あ、仕方ないわね。じゃあテクトにつける訓練量を倍にしなくちゃ」
「アレ? 俺、自分の首を絞めた……?」
軽口を交わし合い、俺は母親と移動する。
とはいえ、俺は訓練が好きなので、別に量を倍にされたからって嫌だとは思わない。
剣術訓練場で、バテている姉妹たちから離れたところで、俺と母親は木刀を手に向かい合う。
母親は東方の剣術を学んだようで、剣よりも刀を好んだ。その関係で、日本の剣道に近い剣術を俺は習っている。
故に、正眼。俺と母親は、静かで、ヒリヒリするほどの緊張の中、対峙する。
風が流れ、木々が揺れる。もう何年も母を師事しているが、何度相対しても、慣れる事はない。
気配が、動く。
「やぁぁあああああああああ!」
母親が凄まじい気迫と共に、俺に打ち込んできた。俺はその気迫に打ち負けないように、「あぁぁぁああああああ!」と叫び返し前に出る。
振りかぶられた母の剣を、俺は必死に受けた。まるで巨漢の大剣を食らったような衝撃に、俺は吹っ飛ぶ。
だが、それも慣れたもの。
「がっ、くぅっ、とぉ!」
俺は素早く受け身を取って立ち上がる。俺が習得した技の一つ。何度吹っ飛ばされたか分からない攻撃に、傷一つ負いはしない。
そして、それを知る母も、手を休めることはない。
「油断は早いわよッ!」
「望むところだッ!」
母の猛攻は止まらない。瞬く間に無数の大鉈のような攻撃が迫りくるが、そのすべてに俺は立ち向かう。
弾き。
捌き。
俺は母との訓練で身に付けた技で、どうにか対応する。
大威力の剣戟でも、力を受け止めなければいいだけのこと。俺は力がないなりに、技術で母に対抗する。
「うわー……お兄ちゃんやっぱすごー……」
「師匠の攻撃、私受け切れないんだけど。女なのに」
「すでに学園卒業して騎士やってる一番上の姉ちゃんでも、師匠の相手はかなり厳しいと思うよ。テクトはマジで天才」
母は、俺が訓練を頼みこんでから、一度だって修練の場で俺を甘やかしたりしなかった。
その甲斐もあって、俺はかなりの腕を磨くことができたと思う。
剣はもちろん、弓に走り、狩りなんかも。
誰よりも切迫した状況の俺は、誰よりも努力した。きっと才能もあった。剣も弓も走りも狩りも、すべて俺に微笑んだ。
だが、だからこそ、誰もが口をそろえてこう言った。
「テクトも、男でさえなければねぇ……」
姉の一人の言葉を聞きながら、俺は母の猛攻を捌き、隙を見出す。
そして、駆け抜け一閃した。
良い手応えだった。もろに入った。完全に決まった。
だが、母は言うのだ。
「テクト! これで敵は倒れないわよ!」
「~~~っ!」
振り返る。さらに攻め込もうと肉薄する。
しかし母親は、ついに剣を捨て、俺に掴みかかってきた。
捕まえられる。抱き上げられる。もう俺よりも小さくなった母親に、いとも簡単に。
「はぁ……父さんに似て、男前に育っちゃって」
「くっ、このっ、くそっ!」
俺は必死に抵抗するが、抱擁一つ剥がせない。
非力。
前世と感覚の変わらない体。思うように動く男の体だ。
なのに、この世界の女相手では、ここまで役に立たないものか!
「……ああ、チクショウ! 降参!」
「はい。剣術はやっぱり最高レベルね。技巧ならウチの騎士団で敵う者はもういないわ」
降ろされる。スタミナを鍛えた俺は、息一つ切らしていない。母親は少し息が荒いのに。
だが、それでも、この試合は圧倒的に俺の敗北だ。
「魔力防御固ぇよぉ!」
俺は地面に手を突き、ぐがー! と悔しがる。
おもっくそ木刀で切りつけたのに、母さんは痛み一つ感じた様子がない。
これが魔力を十全に纏う成人女性だって言うのか。強すぎる。
不貞腐れる俺の頭を、母親は屈んで撫でた。
「ごめんね、テクト。女に産んであげられなくて。女にさえ生まれてたら、テクトに敵う奴はいなかった。そのくらい、テクトは強くなったわ」
「……気休めはいいよ、師匠」
「母さん、よ。日頃実感してなかったけど、男女でこんなに力の差があるなんてねぇ……」
複雑な顔をする母親だ。それに俺も、ぐ、と不貞腐れてる自分が恥ずかしくなる。
そうだ。誰も意地悪なんてしていない。これがこの世界というだけだ。男がここまで弱い、この世界。
だが、と考える。
もうハッキリした。男の腕力では女の防御を破れない。これを筋力で上回ろう、というのは不可能だ。
だから、こだわりを捨てる。
人間は別に、筋力だけの存在じゃない。道具を使い、知恵で立ち回るのが人間だ。
であれば、と俺は口を開く。
「母さん、お願いがあるんだけど」
「なになに!? テクト、おねだり? 母さん何でも聞いちゃうわよ!」
先ほどとは打って変わって元気になった母親に、俺は言う。
「武器、作ってくれる人紹介してくれない? ちょっと変わったものでも作れる、腕のある人」
確かに俺は、この世界じゃ弱い存在だよ。ああ、認めようじゃんか。
だがよぉ……俺には前世知識っていうチートがあるんだよオラァァアアア!