【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
一週間後、グラップリングフックの試作品が完成していた。
「できたな……」
「はい、できましたね」
満足感に浸りながら、二人して頷き合う俺とウィズだ。
「テクトやばい」
一方アイギスが引いていた。何で。
「え、何であんな複雑なものが、一週間でできるのよ。しかも放課後の数時間で。数週間くらいかかるものだと思ってたんだけど。テクトやば」
「いやいや、それで言ったら、組み立てを完璧にやり遂げたウィズだってヤバいだろ」
「……テクト君には、敵いませんよ……。私は設計図通り組み立てただけですし……」
「唐突に裏切るのやめてな?」
涅槃に入ったような穏やかな目で裏切られて、俺はどんな顔をすればいいんだ。
「と、ともかく、今日はこの試作グラップリングフックで遊ぼうの回だ。みんな、拍手!」
まばらな拍手が上がる。俺はひとまず満足する。
とある放課後。場所は、以前キメラ遊びをした、下町の人気のない空き地。多少暴れても問題ない場所に、俺たちは集まっていた。
そこで、ウィズが言う。
「でも、ゴーレムの核金はないですよね? 紐の先端のカギ爪はどうするんですか?」
「試作品用に作っておいた、簡単な仕掛けがあってな。これだ」
俺は十個の仕掛け付き矢尻を取り出す。
「これは壁に刺さると、一拍おいて矢の返しが開いて、抜けなくなるような仕組みになってる。で、そこから移動するときは、紐の方を剣で切り離す」
「せっかく作ったのにもったいないわね」
「仕掛けを作っただけの矢尻だし、紐も今はただのワイヤーだからな。ずっとこれで回していくのはダルイけど、一時的なコストとしては悪くない」
紐も本来ならもっと強度のあるものを使うが、そうなると切り離す労力がバカにならない。
つまりこれは、どこまで行っても試作品、ということだ。
「じゃ、早速やってみる」
俺は宣言と共に、思わず笑みをこぼしてしまう。
こういう発明品は、試作品で遊ぶ段階が一番楽しいのだ。モノが形になりだしたタイミングというか。
俺は少し離れて、廃墟の壁に左腕のグラップリングフックを構える。
そしてスイッチを押して、発射した。
パシュンッ、とワイヤーとカギ爪が放たれる。カギ爪は壁にちゃんと刺さり、一拍遅れてガギ、という音と共に固定された。
俺は巻き取りスイッチを押す。強烈な引っ張りが発生し、俺の体は宙に浮いた。
「うぉっ、とっ、とぉ!」
迫る壁に対して腹筋を使い、何とか壁に着地する。だが、これではまともに動けないので、巻き取りのギアを下げる。
そうして、俺はグラップリングフックを使用して、地上三メートルの辺りで、壁の側面に立ち上がった。
「「おぉ~~~!」」
二人が目を輝かせて拍手してくれる。この世界の女の子は、こういうロマンが通じやすくてうれしい。
「かなりいい感じだ。ギアチェンの強度も想定通りだな」
「流石です、テクト君! いや、本当にすごいですそれ! とっても格好いいです!」
「え、いざ目の当たりにすると、ものすごく羨ましいわそれ。アタシにもやらせて?」
「いいぞ~!」
「え、ちびっこさんマジですか?」
俺は腰に付けていたナイフで、スパッとワイヤーを切る。「よっと」とくるりと一回転して、俺は着地する。
「……当たり前に、ものすごい曲芸しますよねテクト君」
「テクトだし。で、テクト、どうつけるのこれ! どうやるの!?」
「ああ、これはな?」
興味津々のアイギスの腕に取り付けて、操作方法を教える。発射はこれ、巻き取りはこれ、巻き取り強度の調整はこれ、という具合だ。
「よぉ~し! じゃあ行くわよ、そらっ!」
アイギスの腕から、ワイヤーとカギ爪が放たれる。壁の上部に刺さり固定される。
「で、巻き取りはこれ、きゃぁああああっ!? ぁがっ」
アイギスは爆速で引っ張られ、壁に顔をぶつけた。
「うわ、大丈夫かアイギス!」
俺は慌てて駆け寄る。アイギスは目を回して、腕だけで壁の上部に吊られている。
「……てく、と……。こ、これ、むずかし、すぎ……」
「マジか。シンプルにまとめたんだけどな……」
俺は腕を組んで首を傾げる。ウィズは苦笑いで、吊られるアイギスを見た。
「ぷぷっ……いや、あんな曲芸師じみた挙動が求められる道具、テクト君以外に使いこなせるわけないじゃないですか……ぷぷぷ」
「~~~っ、そう思うなら先に言いなさいよ陰キャぁっ!」
ギャー! と喚く、吊られっぱなしのアイギスを、救出が完了するまでずっと、ウィズは煽っていたのだった。
結局グラップリングフックを使いこなせそうなのは、俺だけのようだった。
「発射」
パシュッとカギ爪を放ち、壁に高速移動。スムーズに着地し、ナイフでワイヤーを切断。
からの、ワイヤーの先端に次のカギ爪を装着し、「発射」で落下しながら再びワイヤー移動。別の壁に着地。
アイギスが言った。
「テクトやばい。一回使ったからこそ分かる。テクトヤバい」
「ちびっこが失敗した挙動の、五倍くらい高度なことしてますよね、テクト君。ワイヤーもナイフで一発ですし」
「コツさえ掴めば簡単なんだけどなぁ」
「「絶対簡単じゃない」」
「そんなハモってまで否定しなくても」
地面に向けて斜めにグラップリングフックを発射し、落下ダメージを横に流す形で受け身&巻き取り。
土煙を上げながら、ズザザと着地だ。
「テクト君イケメンすぎる……!」
「使いこなすとあんなかっこいいのねグラップリングフック」
ウィズが赤面しながら歯を食いしばり、アイギスは呆気に取られている。
「ということで、試作品の完成度はかなりの満足度だ。やったね大成功!」
俺は自分に拍手する。大満足の出来だ。
「で、あとは外出禁止処分が終わるまでは暇……と」
「あぁっ、テクト君が寂しそうな顔に!」
「テクトってアレよね。ずっと作業してたいタイプよね。仕事が一番の趣味みたいな」
もうちょっと上手く行ってなかったら、その改良で時間を潰せたのだが、びっくりするくらい上手く出来てしまった。
何でだよ、ゲームでしか出てこないようなロマン武器だぞグラップリングフック。何で一発で完成するんだ。
そんな風に思っていると、ウィズは「分かります。分かりますよテクト君」としみじみ頷く。
「もうちょっと苦戦したかったですよね。完成は寂しいですから」
うんうん、と神妙な顔をするウィズに、俺は少し考えて、「ああ、そっか」と笑った。
「『失敗は楽しい』からな。成功は寂しいってワケだ」
「はいっ」
俺たちは顔を見合わせ、クスクスと笑い合う。
それを見て、アイギスが言った。
「え……? なにその合言葉みたいなの……?」
見ればアイギスが、顔を真っ青にしている。そんな世界の終わりみたいな顔しなくても。
「て、テクトが。アタシのテクトが陰キャなんかに取られそうになってる……。少なくとも二人だけの通じ合う言葉が出来てる……!」
「い、いや、アイギス。そんな大事じゃないって。なぁウィズ?」
「……ふっ。はい、そうですよちびっこさん(笑)」
「てっ、テクト~~~! 陰キャがイジメるぅうう~~~!」
「あっ!」
アイギスが俺に泣きついてくるので、俺は苦笑気味に「はいはい、元気出そうな~」と迎え入れる。俺の腹部に顔を押し付ける形で抱き着くアイギスだ。
「……テクト~……! 捨てないで~……! アタシのテクトでいて~……!」
「ぐぎぎぎぎ……! 同い年の癖に、ちびっこなのを利用して……!」
本当にショックだったらしいアイギスは、勝ち誇るでもなくシンプルにグズっている。他方ウィズは歯ぎしりをしている。楽しそうだねこの二人。
と、そんなことをやっていると、抱き着いたままアイギスが言った。
「それでテクト。必要なのって、ゴーレムの核金、だったかしら」
「うん、そうだな」
「んー……それ、なんだけど」
俺から離れながら、何かを思案するような素振りをして、アイギスは言った。
「もしかしたら学内でも取れるかもって言ったら、信じる?」
「「え?」」
俺とウィズの声が被る。何それ寝耳に水。
アイギスは説明する。
「アンタたち、学園の噂とか知らない?」
「知らないな」「知りませんね」
「友達とかから聞かないの?」
俺とウィズは揃って顔を背ける。
「……アンタら……」
「同じクラスのクソ男子が悪い。あいつウィズ以外の女子独占してんだぜ? 友達もできやしない」
「わ、私はテクト君がいればいいので……。女子の友達も、元々できるタイプじゃないですし……」
「陰キャどもが」
とんでもない罵倒である。
「はぁ……じゃあ友達の多いアタシが教えてあげるけど、色々とこの学園には、きな臭い噂があるのよ」
半分怪談みたいなね、とアイギスは語る。
「例えば、学園の螺旋階段の最奥は地獄に繋がっているとか、教員棟の防衛迷宮には秘密の秘宝が眠っているとか」
俺はそれを聞いて、思わずワクワクしてしまう。
あまり学園を歩き回っていない俺だが、螺旋階段も防衛迷宮も知っていた。
例えば螺旋階段は、驚くほど縦に長く伸びた巨大な階段で、毎日通っているのに奥底に辿り着いたことがない。
秘密の多い教員棟では、学生が悪さをしないように、一部迷宮化されているという噂がある。その全容は教員でもつかめ切れていないとか何とか。
「で、今回見てみる価値がありそうな噂はね、『史学棟の鏡は、深夜3時に王家の秘密へと通じる。その門は王命によりゴーレムが守ってる』って奴」
俺の胸の奥で、うずうずと冒険心が起こる。隣を見れば、ウィズもワクワクを隠しきれないという顔になっている。
アイギスは言った。
「『王家の秘密』とやらにはそこまで興味がないとして―――それを守るゴーレムには用があるでしょ? ゴーレムを倒すついでに、その噂の真相を暴きに行かない?」
「行こう」
俺の即答に、アイギスはニヤリ笑う。ウィズも同様に、コクコクと頷いている。
ま、流石にそんな噂が完全に本物とも思えないが―――ゴーレムだけでも本当なら、俺にとってはそれで十分。
それでなくとも、楽しい催しだ。みんなでワイワイやるのも悪くない。
その時、不意に気配を感じた。ここにいた何者かが、息を殺して去っていったような。
「……」
まぁ街中だし、と俺はスルーする。
それから十数分後のこと。
ナルシスに、ある知らせが届いた。
「……へぇ? 彼らは深夜に学園に忍び込もうというワケか。しかも、よりにもよって『王家の秘密』に、ね……。どこまで知っているのやら……」
ナルシスの言葉の裏を読み取れない女子は、その言葉にキョトンとする。
それにナルシスは気付き、肩を竦めて言い繕った。
「まったく、彼らも悪い奴だね? ただでさえ外出禁止期間中に、そんなことを」
「うんっ、だからね? その、ナルシス君が知ったら、喜ぶかなって!」
目を輝かせて報告する女子のあごを撫で、ナルシスは微笑む。
「良くやったね、良い働きだ。先生に告げ口するのは簡単だけど……今回は、彼らには僕の手伝いをしてもらおうか」
クツクツとナルシスは笑う。取り巻きの女子たちは、ナルシスの上機嫌に蕩けるような笑みを浮かべているのだった。