【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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深夜、学園にて

 深夜、俺たちは示し合わせて、学園の建物の片隅に集まっていた。

 

 ウィズが、「ふふ、ふふふ……」と微妙に不気味な笑みを浮かべて呟く。

 

「日付も回った深夜二時……女二人、男一人、何も起きないわけもなく……」

 

「まぁ何かは起こってるだろ、現在進行形で」

 

 深夜の学園に侵入するんだから、そりゃ何かは起こっている。

 

 俺のツッコミに合わせて、アイギスは言った。

 

「陰キャキモ」

 

「ドストレートな悪口止めてください! ちびっこの癖に!」

 

「同い年なんだけど!」

 

 そして二人は相変わらず言い合っている。

 

「はいはいそこまで。二人とも装備は大丈夫か?」

 

「はっ、はい! ローブに杖各種! 完璧です」

 

「アタシは装備召喚用の指輪だけね。んふふ♡ テクト、リーダー役も堂に入ってるじゃな~い? えいえい、この有能~!」

 

 アイギスがツンツン俺を突いてくる。ウィズが「血薔薇の」と胸元からバラを抜こうとする。だからやめなさいそれ。

 

「俺も装備は揃ってるな」

 

 剣、弓矢、パイルバンカーにグラップリングフック試作品。すべてそろっている。

 

「じゃあ行くぞ」

 

 俺は昼間に鍵を開けておいた窓の近くにグラップリングフックを発射する。

 

 カギ爪が刺さり、固定する。それから、俺は二人を抱え、

 

「えっ、てっ、テクト君に抱っこされるんですかっ? あ、あの、お、女としての矜持と言うか、それ以上恥ずかしすぎるというか……!」

 

「あっ、そう? じゃあテクト♡ 陰キャは嫌みたいだから、アタシたち二人で行こ~♡」

 

「テクト君、よろしくお願いします!」

 

「お前らワンアクションに無限にワチャワチャするね」

 

 深夜なのに元気すぎるなこいつら。

 

 少し考えて、そうか、となる。移動手段が俺しかいないとはいえ、貞操逆転フィルターを通すと、女の子が男二人を抱える、みたいな話になるのか。

 

 まぁちょっと微妙な気持ちになるのは分かるが、それ以外ないのだから仕方ない。

 

 俺は問答無用で二人を抱きかかえる。

 

「ひゃっ、わ、て、テクト君がこんな近くに……!」

 

「きゃんっ♡ はぁ~役得~……♡」

 

「……」

 

 こちらこそです。女の子を抱きしめてこの反応、大変助かります。いい匂いするし、柔らかいし。

 

 貞操逆転のいいところを存分に味わいながら、俺は巻き取りスイッチを押した。

 

 三人相手でも、俺の設計した強力巻き取り機は機能する。瞬時に俺たちは窓辺脇に辿り着く。

 

 俺は壁に着地。「ウィズ」と名を呼ぶと、「はい。ん、しょ……開きました!」とウィズが窓を開け放つ。

 

 俺は二人を注意深く窓に誘導し、最後に侵入した。

 

 窓を閉め、鍵を閉める。これで、見回りの先生に見つかりでもしなければ、痕跡も残らない。

 

 ……いや、窓の近くにぶっ刺したカギ爪の痕跡は残るけど。二階だしバレないバレない。

 

「じゃあアイギス、案内頼む」

 

「はいはい。史学棟はこっちよ」

 

 ライト、と魔法で光源を作り出しながら、アイギスは歩き出す。

 

 

 

 

 

 このコンスタンティン王立貴族学園は、非常に巨大な学園だ。

 

 六年制の長期教育機関で、すべての貴族が通う学校だ。それは騎士の子女も例外ではない。結果、学園に通う生徒の数は膨大なことになる。

 

 それに従って、学園は広大に、さまざまな学問の知識を蓄えることとなった。

 

 史学棟とは、その一つだ。王国や世界の歴史を押さえるだけの史学でありながら、様々な研究が行われその知識が集積され、たった一つの学問でありながら棟が立った。

 

 無論、他の学問においても同様だ。領地経営学、魔導技術学、魔法生物学。その他様々な学問の一つ一つの、すべてに棟が立っている。

 

 注目点は、そのすべてが増築によってなされたという事。

 

 ツギハギだらけの建築は、誰も知らない秘密を隠す。人は歴史の中に真実を受け継ぐことなく去っていき、巨大な学園は秘密と噂のるつぼとなった。

 

「そして、その一つがこの噂ってワケ」

 

 アイギスが光源の魔法で照らした先には、この史学棟で最も大きな姿見があった。

 

 俺たちが見上げるほど巨大な姿見である。巨人でもその全身を映すことができそうな、巨大な鏡だ。

 

 時間は深夜2時58分。少し話していたら、ちょうど3時になるだろう。

 

 ジャストタイミングすぎるな、と思いながらみんなで鏡を見ていると、ウィズが呟いた。

 

「……何でこんなサイズの鏡が作られたんでしょうね?」

 

「どうなのかしらね」

 

 二人は揃って首を傾げている。俺も「ううむ」と姿見を覗き込んだ。

 

 一見すると、古びた巨大な鏡にしか見えない。

 

 が、深く覗き込むと、少しわかることがある。

 

「アイギス、そのライトもう少し手前にしてくれるか?」

 

「えっと、こう?」

 

「助かる」

 

 光の加減で、俺の疑念が正しいと悟る。ウィズが俺に聞いてくる。

 

「テクト君、どうしたんですか?」

 

「ん、ちょっと気になることがあって……うん、やっぱりだ」

 

 俺は指さす。ウィズがそこに目を凝らす。

 

 一拍おいて「あ」と気付いた。

 

「何よ。二人だけで秘密共有しないでよ。テクトに冷たくされたら、アタシは引くほど泣くわよ。すでにアタシ涙目よ」

 

「可愛い脅し止めような。教えるから。っていうか今なら見たら分かるだろ?」

 

「え~? ……あ、これ、魔法文字?」

 

 遅れて理解するアイギスに「そうだ」と俺は頷く。

 

「これ、いわゆる魔鏡って奴だな。鏡づくりの過程で、細工して作る奴。一目見るだけじゃわからないように、魔法文字を刻みこんでるんだ」

 

 俺が解説すると、アイギス、ウィズの順に、ポツリと言う。

 

「……ってことは、さ」

 

「そう、ですよね」

 

 二人の声色が固くなる。俺も、同じ気持ちだ。

 

 だって、この魔法文字はつまり……噂に信憑性があることを示しているのに、他ならないから。

 

 俺たちは、本当に噂を信じて忍び込んだのでは()()。何だかんだ「結局噂は噂だったな」と笑って帰る、肝試し的なお遊びのつもりだった。

 

 それが、あまりにもすんなりと本丸に辿り着けてしまって、正直困惑が勝っている。

 

「……アイギス。噂ってさ、こういう感じなのか? こう、割とみんなガチというか」

 

「……そう思ってる子は、少ないはず、だけどね。王家の秘密なんて、そんな簡単に手に入るわけないって思うのが普通、でしょ?」

 

「ですよねぇ……」

 

 俺たち三人は、同時にごくりと、唾を飲みくだす。

 

 魔法文字の起動のさせ方は分かっている。基本的には手でなぞるだけだ。

 

 だが、本当にやってしまっていいのだろうか。

 

 この先にいるかもしれないゴーレム。ゴーレムの守る王家の秘密―――そんなものに、本当に触れて良いのだろうか?

 

 そう、俺たちが逡巡しているその時だった。

 

「おい! そこにいるのは誰だ!」

 

「「「!?」」」

 

 遠くから、俺たちを呼びかける声。照らす光。

 

 よりにもよって、このタイミングで見回りの教師に見つかるか!

 

「どっ、どどどど、どうしますっ!? どうやって隠れますか!?」

 

「あちゃ~……学校への不法侵入って、停学処分ものかしらね。これは捕まったらマズイかも」

 

 俺は周囲を窺う。まだ見回りとの距離は遠い。隠れられたのなら、誤魔化せる可能性もある。

 

 だが、隠れる場所がない。この場は開けていて、鏡も壁に埋め込み式だ。

 

 となれば―――選択肢は、ただ一つ。

 

 俺は、魔法文字をなぞる。

 

「っテクト君!?」

 

「一旦鏡の中に避難しよう! 安全な場所への転移の魔法文字だってことまでは解読済みだ!」

 

「この一瞬でそこまで読んだんですか!?」

 

 俺がなぞった魔法文字を中心に、光がともり始めた。鏡の全面が魔法文字の形に輝き、鏡面が波打つ。

 

 その波打つ鏡面に触れると、まるで吸い込まれるような力が発生した。

 

「テクト君ッ!」

 

「テクトっ!」

 

 ウィズが、アイギスが、吸い込まれる俺を捕まえる。それから逡巡して、アイギス、ウィズの順に、鏡の中に飛び込んだ。

 

 鏡の中はまるで呼吸できる水に満たされているようで、俺たちはゆっくりと沈んでいく。

 

 その、鏡の中から入り口の鏡面を見ると―――そこには、ニヤリと笑ったナルシスたちの姿があった。

 

「な―――」

 

「ガーランド君、今回は好都合だから、君を僕の露払いにしてあげるよ」

 

 直後、強烈な眠気が俺たちを襲い、俺は耐えきれず目をつむる。

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