【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
見慣れない石畳の上で目を覚まして最初に聞いたのは、アイギスの怒りだった。
「は? 落ちる寸前で見たあいつらナニ? 殺すわよ?」
「アイギス、二言目には殺すって言うのやめような」
「テクトも起きてきたわね。陰キャは……残念、起きてるじゃない」
「起きてなかったら何するつもりだったんですか」
俺に続いてのそり起きるウィズに、アイギスは肩を竦めた。
俺は立ち上がり、周囲を見回す。床も壁も漆黒の石畳。妙な場所だ、と俺は眉をひそめる。
「みんな、一旦諸々確認しよう。まず怪我とか問題はないな?」
「はい、無いです」「こっちも無事よ」
「よかった。次にこの場についてだ。妙な空間だけど、何か分かる奴いるか?」
「すいません、私はさっぱりです……」
「んー、噂通り、ゴーレムが守ってる空間、なのかしらねぇ」
アイギスは言うが、今のところゴーレムらしき姿はない。
この先に進めば、ゴーレムが待ち受けているのか。はたまた。
それは行けば分かることだろう。今は置いておく。
「了解。あともう一つ―――俺たちが落ちてきた時、ナルシスたちが俺たちを見てたよな?」
俺はウィズに確認する。ウィズは頷き、アイギスも「あのチャラチャラした奴、ナルシスって言うの?」と恐らく同じものを認識している。
すると、ウィズが険しい顔で言った。
「露払い、って言ってましたよね……。何か、この鏡について知ってるんでしょうか?」
「どうだろうな。言葉だけ聞くのなら、俺たちが先に進んで脅威を取り除いて、満を持してナルシスが来る、みたいな風に聞こえたが」
沈黙。ややあって、俺は言った。
「今は何もないし、連中が来たのを襲って聞き出さないか?」
「賛成」
「二人とも!? だっ、ダメですよ! 男子に乱暴は、流石にダメです!」
俺が提案し、アイギスが乗り、ウィズが慌てる。
そんなウィズに、アイギスがため息とともに首を振った。
「はぁ~……陰キャはこれだから。良い? 男子にもね、可愛がってしかるべき男子と、殴って立場を分からせるべき男子がいるのよ?」
「言いたいことは分かりますけど! 痛いほど分かりますけど!」
ウィズでも痛いほど分かるんだ。恨まれてるなぁナルシス。
「まぁ可愛がってしかるべき男子なんか、テクト以外に見たことないけど」
「それも同感ですけど!」
「お前らどんな地獄見てきたの?」
そして俺は可愛がられてるの? いや、過ぎるくらい親切にされてるな、とは日々感じてるけど。
俺はそう、しきりに首を傾げていると、奥の方で、ズシン……、と地面が揺れるような音が響く。
「っ? 今のは何でしょうか……?」
「アイギス、動けるか?」
「動けるわ。どうする?」
「ウィズを抱えてくれ。物陰に隠れるぞ」
「了解。ほらっ、陰キャ! 掴まんなさい!」
「えっ、ちょっ!?」
アイギスが素早くウィズを抱え、俺は周囲を探って素早く駆けた。
この場は石造りで出来た開けた空間だったが、少し奥に進めば、どこかに繋がりそうな道があることには気づいていた。
俺たちはそこに飛び込み、息を潜める。
すると、奥から巨大な影が現れた。
「っ、な、あ、あれ、あれあれあれっ」「黙って陰キャ」
半ばパニックになり始めるウィズの口を、アイギスが強引に塞ぐ。俺は物陰から顔を出し、「おいおい、アレはデカいな……」と口端を引きつらせる。
それは、館ほどの大きさもありそうな、巨大なゴーレムだった。
ゴーレム。標準サイズでも、全長3メートルは当たり前の、石や土くれで出来た魔法生物。
だが、あれは全長二十メートルに届きそうな超巨大サイズだ。一発殴られたら、まとめて俺たちは死ぬだろう。
ゴーレムとは聞いていたが、あのレベルは想定していなかった。
俺は二人に目配せする。
「一旦逃げよう。勝てる算段はないでもないが、闇雲にぶつかって怪我人を出したくない」
「かっ、勝てる算段あるんですか?」
「その話は追々な。ひとまず、移動しよう」
俺たち三人は、忍び足でそっとゴーレムから離れて移動する。
隠れて移動すると、俺たちは気付けば、奇妙な広間に出ていた。
先ほどの空間よりは狭いが、それでも開けた場所だ。中央には泉があり、最奥には鍵穴のついた扉がある。
石造りの床や壁も青みがかっていて、それが泉に反射して幻想的な空間になっていた。
「わ、キレイ……だけど、こんな状況だと素直に楽しめないわね」
苦笑交じりに言うアイギスは、後ろの方を気にしている。
俺たちを一方的に殺せるようなゴーレムは、俺たちに気付いているのかいないのか、ひとまずこちらに近づいてくる様子はなかった。
なかった、というか、ゴーレムが動けば地響きがするから、止んでいる以上動いていないはず、という程度の推測でしかないのだが。
「それで、テクト君。勝てる算段って言うのは何ですか?」
ウィズに質問されて、俺は答える。
「別に秘策みたいなのがある訳じゃないんだけどさ、ここ、ちょっと迷宮っぽいから、魔石を調達できればパイルバンカーを撃てるし、それであのゴーレム倒せるんじゃないかって」
俺が言うと、ウィズ、アイギスが揃って渋い顔。
「私としては、テクト君には安全なところで見ていて欲しいんですが……」
「陰キャに同感。そのパイルバンカー、アタシが使うのじゃダメなの? アタシ、テクトより頑丈だし、その方が安心できるんだけど」
「揃って過保護にしやがって。危険なのは男に任せておけばいいだろ」
「それ女の話ですよ」
「テクトの物怖じしないところは、女なら美徳なんだけどねぇ……」
二人でため息を吐く。俺はぐぬりながら、ちゃんと説明した。
「ま、感情的な理由はさておいても、俺じゃないとダメなんだよ。っていうのは、グラップリングフックを使えるのが俺だけだから」
「あ、なるほど。適当にパイルバンカーを撃つって話じゃないですもんね」
「……どういうことよ」
ムスッとするアイギスに、俺は言う。
「ゴーレムの弱点は頭なんだよ。そこに核金と魔石がある。だから頭を砕く必要があるんだけど、グラップリングフックがないと頭まで行けないだろ?」
「あー……理解したわ。あの大きさだとそうね」
グラップルを使ってゴーレムをよじ登り、その頭にパイルバンカーを叩き込む。これが俺の想定する、ゴーレムへの勝ち方だ。
そして、グラップルを使えるのは俺だけ。だから俺がやるしかない、という話。
「……、……っ、……~~~! もう! 分かったわ! 確かにアタシはグラップリングフック使えないし、そこは譲る。けどね!」
ビシッ、とアイギスは俺に指さした。
「そこまでの万難は、アタシが排除するわ。テクトはアタシが守る。それは覚えておきなさい」
「はいはい、頼りにしてますよお姫様」
俺は笑って、アイギスに答えた。するとアイギスは「わ、分かればいいのよ……」と赤面して顔を背ける。