【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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吊り橋効果

 最初の謎解きをクリアした後も、続く道は迷路のように入り組んでいた。

 

 高い足場に飛び乗ったり、落ちる床を駆け抜けたり、また小さな謎かけがあって解いて進んだり。

 

 幸いにして、俺とアイギスが動けたから、アスレチックっぽいのは俺と二人でウィズを支え、シンプルに知識の必要な場面はウィズが活躍した。

 

 何というか、いかにも訪れる者に試練を与える内容というか、来訪者の資質を問うような障害が続く。

 

 まるで……ゲームで、伝説の武器が隠された特別なダンジョンのように。

 

「次はこの吊り橋か」

 

 俺たちはそれぞれにある程度疲弊しながらも、次の障害に辿り着く。

 

 目の前には断崖絶壁。そして掛けられる、か細い吊り橋。

 

 いかにも橋が落ちるタイプの罠ですと言わんばかりだが、はたして、と俺は腕を組む。

 

 ウィズは俺よりも注意深くて、吊り橋を掛ける土台の部分に触れ、入念に確認している。

 

 対照的に、誰よりも早く吊り橋に足を踏み出したのは、アイギスだった。

 

「? 何よ二人して二の足踏んじゃって。早く行くわよ?」

 

「ちびっこは軽いでしょうから気にしないのかもですが、こんな脆そうな吊り橋は、普通警戒してしかるべきなんですよ」

 

「アタシとテクトだけ渡ったら、アンタごと吊り橋落としてやるわ」

 

「はいはい仲良くしろ。んー……パッと見、罠とかはなさそうに見えるが」

 

 俺が言うと、ウィズも頷く。

 

「少なくとも魔法系の罠は確認できませんでした。警戒は必要ですが、渡ってもいいと思います」

 

「ほら~! 言ったでしょ? さっさとこんなの渡った方がいいのよ。最悪でも、テクトが危なかったらアタシが助けるし」

 

「ウィズが危なくても助けてやってくれよ?」

 

「善処するわ」

 

 ぜってー助けねぇこいつ。

 

 俺はアイギスに続いて歩き出しながら「適当なこと言いやがって」とアイギスの頭をワシワシと撫で揺する。アイギスは「きゃははっ」と楽しそうだ。

 

 そんな俺に、落ちないように支えるためか、後ろからウィズが歩み寄ってきて、俺の体に触れない程度に手を添えてくる。

 

 やっぱり何か過保護なんだよな、と思いながら、俺はウィズの手を取った。

 

「何だよ、不安なのか? 安心しろ、アイギスはアテにならないけど、ウィズが落ちたら絶対俺が助けてやる」

 

「っ……! ひゃ、ひゃい……」

 

「アタシを撫でながらイチャつくなー!」

 

 そんな風にして、俺たちはワチャワチャと吊り橋を渡る。一歩進むごとに、足元の木の板がギィギィと音を立てる。

 

 そうやって、真ん中くらいに辿り着いた時だった。

 

「おやおや、ガーランド君たち。随分危ない橋を渡っているようじゃないか。―――文字通り、ね」

 

 そう言いながら、俺たちの後ろから現れたのは、ナルシスたちだった。

 

「ッ! おまっ、ついに来やがったか!」

 

 俺は歯噛みしてナルシスを睨む。

 

 というか、あの巨大ゴーレムはどうした! 無事スルーしたってか! クソ、こんな時に。

 

 ナルシスは、勝ち誇るように朗々と語る。

 

「君たちが『王家の秘密』に触れようと考えていることを、偶々耳にしてね。まったく、取るに足らない騎士家だと思ったら、侮れないものだよ、君は」

 

 ナルシスが指を鳴らすと、背後に控えていた女子たちが、吊り橋の支えへと走り出す。

 

 ―――吊り橋を落とすつもりだ。

 

 その意図が分からない俺たちではない。俺は「アイギスッ、走れ!」と言いながら、ウィズの手を引いて駆け出した。

 

 ナルシスだけが、ゆったりと続ける。

 

「耳ざとく、そして強欲。どこでこんなことを知ったのか……。だが、残念ながら僕の方が、ここについてよく知っている」

 

「何の話をしてんだよ、ナルシス! お前、マジでクラスメイトを殺すつもりなのかよ!」

 

「君のように、この期に及んでしらばっくれるような奴は、早々に消えて欲しいとは思うよ。そして、君になびくような変わり者もだ」

 

「ナルシスくんっ! 準備終わったよ! いつでも落とせる!」

 

 女子がナルシスに報告する。俺たちは必死で吊り橋を渡る。

 

 あと、あと少しだ。俺とアイギスの脚力なら間に合う。ウィズだって俺が手を引いている。だから、あと少し―――

 

「落としたまえ」

 

 そう思っていたのに、ナルシスの命令により、俺たちは一気に落下した。

 

「ぁ―――」

 

 俺はウィズと共に、吊り橋の落下と共に宙に浮く。もがきながら、懸命に地面の木の板に手を伸ばす。

 

 だが、脆くなっていた足場の木の板は、そこに限って、掴むだけで崩れるほど老朽化していた。俺とウィズの二人分の体重に、耐えられなかったのか。

 

 俺の手の内で、バキッ、と音を立てて板が割れる。俺は掴む先を失って、更に落下する。

 

「落とさせ、ないッ!」

 

 そこで、アイギスはただ一人跳躍によって、対岸へとたどり着いていた。すかさず反転し、俺の腕を掴んでのける。

 

 結果として、俺たちは命拾いした。アイギス、俺、ウィズの順に手をつないで、どうにか崖の淵で耐え忍んでいる。

 

 大笑いを上げたのは、ナルシスだ。

 

「ハーッハッハッハッハ! 今のを耐えるとはね! いやぁ、涙ぐましい努力じゃないか。男に助けられるデルフィアさんにはガッカリだが、二人を支える小柄な女子には感心だよ」

 

「はぁ……!? 何よ、アンタ、アタシのこと知らないの……!? これでも学年主席なんだけどねぇ……!」

 

「へぇ、となると上級貴族クラスかな。なら申し訳ないね。男子と言うのは、上級貴族クラス一つ分よりも少ないから、女子のことなんて覚えていられないんだよ」

 

「へぇ……! そりゃ、可哀想なこと……! テクトとは違って、敬意を払う事の大切さも教えられず、人間未満の育てられ方をしたのね……!」

 

 俺たちを細腕で助けながら、ナルシスと言葉でやり合うアイギス。歯を食いしばり、血管が浮き出るほどの力を込めて、俺の手を掴んでいる。

 

「ふぅん……? 思ったよりしぶといね。みんな、斉射の用意を」

 

「「「はい! ナルシス君!」」」

 

 ナルシスが言うと、女子たちが並んで、俺たちに杖を向けてくる。

 

「おいおいマジかよあいつら……! アイギス! もういい! お前だけでも逃げろ! あいつら本気だぞ!」

 

「テクト君!? ダメです! ちびっこ、いえ、アイギスさん! テクト君だけでも助けてください! 私は、私はもう良いですから!」

 

 言いながら、ウィズが掴む手を弱める。俺は必死になって、ウィズの手を掴む。

 

「ダメだ! ウィズ一人で落ちるなんて! お前を犠牲に助かるなんて嫌だ!」

 

「一緒に落ちても死人が一人増えるだけです! いいから、放してください! テクト君を巻き添えに死ぬなんて、死んでも死に切れません!」

 

 暴れるウィズに、それを意地でも離さない俺。ナルシスたちの詠唱は淡々と行われ、杖の先に色とりどりの魔法が宿る。

 

 そんな最中で、アイギスはウィズを見て、目を丸くしていた。

 

「……驚いたわ。アンタ、そんな覚悟の決め方してんの? テクトのために、迷わず命を捨てるようなこと言うなんて、思ってなかった」

 

「何を悠長なことを言ってるんですか! いいですか、アイギスさん! 私は今から落ちますから、テクト君のことは任せましたよ!」

 

「ふざけんな! 俺は落とさないからな、ウィズ! 絶対にこの手は離さないぞ!」

 

 三人でギャーギャー言い合う間にも、ナルシスたちの魔法は完成していく。

 

「まったく、死に際まで賑やかな人たちだったね。……では、斉射」

 

 ナルシスが腕を振るう。女子たちが一斉に魔法を放つ。

 

 俺はそれを見て、アイギスとつなぐ手から力を抜き、ウィズとつなぐ手に限界まで力を込めた。

 

 ウィズは俺に一歩遅れて、力を抜いた。しかし俺が全力で力を込めていたから、落ちなかった。

 

 そして、俺も同様だった。アイギスが俺を掴む力が強すぎて、俺は落ちることができなかった。

 

「っ、最悪だ。これじゃ、全員殺される……!」

 

 俺は歯を食いしばる。魔法が一斉に向かってくる。その魔法の数々が、俺たちに突き刺さる―――

 

 その瞬間、アイギスが言った。

 

「アンタ、本気でテクトのために死のうとしたわね。いいわ、覚えておいてあげる、()()()

 

 直後。

 

 俺とウィズは、アイギスの膂力一つで、空中数メートルの高さまで投げ上げられた。

 

「え?」「ひゃっ?」

 

 俺たちは宙に舞い、真下を襲う魔法の数々から逃れる。だが、寸前までそこにいたアイギスは避けられない。

 

 しかし、俺は見た。アイギスの不敵な笑み。嵌められた指輪を親指で撫でながら、こう呟くのを。

 

「来なさい、リトルフォートレス」

 

 魔法が、アイギスに殺到する。

 

「――――アイギスッ!」「アイギスさん!」

 

 魔法が爆ぜる。空中にいる俺たちですら、余波に目をつむるほどの衝撃。もうもうと膨らむ煙。

 

 その煙を盾で打ち払い、それは現れた。

 

 それは、まるでゴーレムだった。四角形の整然としたものではなく、人間の子供サイズの岩石が、そのまま屹立しているような、そんな姿。

 

 その両手には、武器が握られていた。

 

 左手には、ゴーレムの全身を覆って余りあるほど巨大な、岩塊めいた大盾。恐らく俺なら持ち上げられもしないようなサイズだ。

 

 逆に右手には、巨大なハンマーがあった。これまた俺の体よりも大きな、石で出来たハンマーだ。

 

 そのハンマーを軽々肩に担いで、岩石は言う。

 

「この姿だと、抱きとめてあげられないわ。でも、テクトなら受け身くらい取れるでしょ?」

 

 その言葉のすぐあとに、俺は地面に手をついて受け身を取った。無事着地だ。ウィズは「マジックウォール!」と杖を振るい、防御魔法で安全に着地する。

 

 困惑するのは、ウィズだ。

 

「え……? い、今の声、この雑なゴーレムの化け物みたいなの、まさか、ちびっこですか……?」

 

「そうよ陰キャ。雑なゴーレムの化け物で悪かったわね」

 

 頭の辺りにいくつか穴が開いていて、その部分をガシャリと上げると、アイギスの顔が現れた。

 

 俺も一瞬疑ったが、これマジでアイギスじゃん。

 

「あ、アイギス、さっきの魔法だけど」

 

「この通り無傷よ。この鎧はね、あの程度じゃビクともしないんだから」

 

 アイギスは、鎧の顔覆いを下ろす。それから、ナルシスたちを見た。

 

 ナルシスは、同様に目を剥いていた。全身を震わせ、「な……! そんな……!?」と呟いている。

 

 アイギスは、ハンマーを掴む手に力を込めながら、話し始めた。

 

「そういえば、アタシの血統の詳しい話、テクトたちにしてなかったわね」

 

 アイギスは、ハンマーを振りかぶりながら語る。

 

「アタシの血統、『小さな要塞』はね、代々コンスタンティン王国の大将軍を務めてきた名血統。二つ名の由来は、『要塞を小さくしたような防御力があるから』―――じゃないわ」

 

 巨大なハンマーを握る腕に、力が込められているのが分かる。アイギスの腕が、ぶるぶると震え始める。

 

()()()()()()()()()()()()()()。だからアタシたちは『小さな要塞』。この違い、分かる?」

 

「……か、彼らの様子、何かおかしいぞ。おい、魔法の準備を……」

 

 そこで、アイギスの予備動作に、ナルシスたちが気付き始める。

 

 しかしアイギスは、構わず続けた。

 

「小さいから侵入できず、小さいから攻撃を当てづらい。なのに機能は要塞そのもの」

 

「……ッ。いや、ダメだ、間に合わない。戻るぞ君たち! その扉を、は!? 開かない!?」

 

 ナルシスたちが、状況の逼迫を察して慌てだす。だが戻ろうにも、ここに繋がる入り口の扉が開かないらしい。

 

「要塞同様の防御力を持ち、要塞同様に砲を放って軍に穴をあける。もっとも、アタシは次世代次席だから、このハンマーはレプリカだけど……」

 

「早くっ! 早く扉を開けろッ! 僕には分かる! 彼らは、彼らは本当に、僕たちを殺すつもりだ!」

 

 そして、アイギスは力を貯め終えた。

 

「投げれば、大砲一発分くらいの威力は出るわ」

 

 アイギスが思い切り、対岸にハンマーを投げつける。

 

「うわぁぁあああああ! 開けろッ、開けろぉぉおおおおおお!」

 

「「「きゃぁああああああ!?」」」

 

 ナルシスたちが叫ぶ。恐らく俺の何倍もありそうな巨大な石のハンマーが、とてつもない勢いで飛んでいく。

 

 着弾。

 

 巨大な瓦解音と共に、土煙が対岸に舞った。ナルシスたちの姿が見えなくなる。ウィズが、「え、ま、マジですか? ちびっこ、本当に殺しちゃったんですか?」と顔を青くする。

 

 アイギスは鎧の顔覆いを上げて、呆れた顔をした。

 

「バカね、するワケないでしょ」

 

 煙が晴れる。するとそこには、対岸の地面を深々とえぐるハンマーが、ナルシスたちの足元に迫っていた。

 

「あ、あぁ、あぁぁ……」

 

 ナルシスは命の恐怖にさらされて、助かったことで緊張の糸が切れたのか、情けない顔で泣きながら失禁した。そのズボンが、濡れて黒く染まっていく。

 

 それを見て、アイギスは鼻で笑った。

 

「あんなダサイ男じゃ、アタシの初殺人(はじめて)は捨てらんないわ」

 

 アイギスの言葉に、ナルシスが歯を食いしばる。

 

 それからアイギスは踵を返して、岩石ゴーレムの姿で俺たちに言った。

 

「ほら、二人とも立ちなさい。本丸は、あいつらとは比べ物にならないんだから」

 

「……そうだな。先に進もう」

 

 俺はウィズを助け起こして、立ち上がる。

 

 そこで、ナルシスが吼えた。

 

「ぼっ、僕に恥をかかせたな! こんなっ、こんなみっともない姿を晒させて、許さない! 君たちのことは絶対に許さないぞ!」

 

「……うわ、この期に及んで出てくる言葉がそれ? ホント、テクト以外の男って……」

 

 アイギスがドン引きの目でナルシスを見る。だが、ナルシスは自分を殺しかけたアイギスを見てすらいない。

 

 奴はずっと俺を見ている。

 

 どこまでも俺をこそ、敵対視しているのだ。

 

「……それで? どうするつもりだよ、ナルシス」

 

 俺がすごんでみせると、ナルシスは「うっ、く、撤退するぞ、君たち!」と言って、入り口の扉に取り掛かる。

 

 すでにある程度準備が終わっていたのか、扉はすぐに開き、ナルシスたちは消えて行った。

 

「あっ、逃げられた! どっ、どうします!? 追います!? アイギスさん、あのハンマーで今度こそ連中を」

 

「落ち着きなさい、ウィズ。吊り橋は落ちたし、ハンマーは対岸に突き刺さってる。そもそもハンマーだけあっても殺しちゃうでしょうが」

 

 慌てるウィズの頭を、ぽんと叩くアイギス。ちょっと仲良くなったのが窺える。

 

「でも、どうしようかしらね。あいつら、あの感じだとまた襲ってくるかもしれないわ。でも、殺すわけには行かなかったし……」

 

 警戒と共に呟くアイギス。

 

 それに俺は、こう言った。

 

「気にすんな。アイギスはできることをしてくれた。そもそもあんな武器で、良く殺さずに済んだもんだ。この落ちた橋越しには、連中を無力化する方法は俺たちにはなかった」

 

 ナルシスたちはすぐに戻ってきそうだが……それも仕方のないことだ。

 

 何せ俺たちはどこまで行っても学生で、ここは学園であって戦場ではないのだから。

 

 意見の割れる二人に、俺は言う。

 

「だから、あいつらがまた襲ってきたら、また叩きのめしてやろう」

 

 俺が言うと、二人はパチクリとまばたきしてから、クスっと笑った。

 

「そうですね。次も負けないよう頑張りましょう!」

 

「そうね。その時は、陰キャのお手並み拝見ってところかしら」

 

「陰キャ呼びに戻ってるんですけど! このちびっこ!」

 

「同い年なんだけど!」

 

 二人のやり取りはいつも通りツンケンしていたが、しかしどこかに信頼関係の芽生えが見て取れた。

 

 俺はそれに肩を竦め、「よし、じゃあ先に進もう」と歩き出す。

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