【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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巨大ゴーレム攻略記

 俺がどう攻めるかを考えていると、真っ先に動いたのはウィズだった。

 

「クラスの女子は任せてください。―――啜れ、滴れ。そして、花開け。血薔薇の杖(ブラッド・ローズ・ワンド)

 

 ウィズはゴーレムの背後、この空間の入り口に立ち、杖を構えていたクラスの女子たちに駆け寄りながら、胸元のバラの杖を取り出した。

 

 バラの棘を強く握る。茎から血が滴る。

 

 その血の一滴を、ウィズは腕を振るって、少しでもクラスの女子たちの方へ飛ばした。

 

「はっ、デルフィアごときに何ができんのよ!」「非モテ男子捕まえて悦に浸っちゃってんの?」「確かにアンタにビビる奴はいるけど、今日は臆病者は呼ばれてないのよ!」

 

 女子たちは勝ち誇って言うが、意味はない。

 

 ウィズのあの杖の威力は、俺が知っている。

 

「第一の花言葉、『あなたしかいない』」

 

 ウィズの放った血の一滴は、地面に落ちるなり魔法陣を広げた。

 

 それに、クラスの女子たちの半数が捕まる。魔法陣から生える血茨が、その足を捕らえ締め付ける。

 

「きゃぁっ、いったぁい!」「何よこれッ!」「動けな、くっ!」

 

 女子たちの足から血が垂れ、そこからさらに魔法陣が展開される。

 

 それを確認してから、ウィズは背後を向いて、俺たちに言った。

 

「彼女たちは私一人で十分です! テクト君とちびっこは、ゴーレムに集中してください!」

 

「ナイスだウィズ!」

 

「陰キャの癖にやるじゃない!」

 

 女子たちによる遠距離攻撃を気にしなくていい。その事実は、俺たちにとってかなり大きな後ろ盾だ。

 

 とはいえ、それでもナルシスの乗るゴーレムは、俺たちにとって脅威に違いない。

 

 俺は深呼吸をし、ゴーレムを見据える。それから、呟いた。

 

「落ち着け、程度問題だ。いつだって俺は、自分よりも強い奴と戦ってきた。今回も同じだ。真剣勝負(ガチンコ)は最後の手段。情報戦(かくれんぼ)機動力戦(鬼ごっこ)で勝ちに行け」

 

「テクト?」

 

「アイギス! お前の防御から、俺の攻勢に入る。俺のことを守ってくれるか?」

 

 俺が問うと、アイギスは満面の笑みで答えた。

 

「やっと素直に守らせてくれるのね! 女冥利に尽きるわ!」

 

 俺たちは頷き合う。俺は素早く身を転じて、アイギスの背後に隠れた。

 

 それに、ナルシスが笑う。

 

「ハハハハハッ! そうだよねぇ! 男なら女の影に隠れる! それが当り前さ! 何を、女を守るだのとおかしなことを言っていると思ったら!」

 

 それに俺は反論したくなるが、我慢する。油断してくれているのなら、それが一番いい。分からせるのは、その後だ。

 

「しかしねぇ! そんな小さな女に、一体何が守れるというのか分からないよ! さっきの間違いを、今度こそ正してあげようじゃないか!」

 

 どうやらナルシスは、先ほどのアイギスの防御を何かの間違いだと認識しているらしい。

 

 だから、ゴーレムはとても素直に拳を振りかぶり、放ってくる。アイギスの盾のど真ん中を目がけて。

 

 それに、アイギスは言うのだ。

 

「にしても、あいつバカなの? さっきの飛び込み防御でも防ぎきったのに、腰据えてタンクやってる今、負けるワケないじゃない」

 

 激突。ゴーレムの拳が、アイギスの盾にぶつかる。

 

 果たして結果は―――

 

「ほら、この通り」

 

 轟音、衝撃、吹き荒れる風。しかしアイギスは、欠片も揺らがなかった。岩のような姿で、微動だにせずその場に屹立していた。

 

「……っ! バカな! そんな! 館一つ分もある巨大ゴーレムだぞ!」

 

 ナルシスは動揺する。その隙を突くべく、俺は深く息を吸う。

 

「じゃあ、テクトの戦いはここからかしら?」

 

「ああ。行ってくるぜ、アイギス」

 

「行ってらっしゃい! お礼はほっぺにチューでどう?」

 

「アイギスママに『あんまり娘をたぶらかさないで』って怒られるから、他ので頼む!」

 

 俺はナルシスの死角がどこか計算してから、駆け出した。

 

 左手を、ゴーレムの脇に向ける。グラップリングフック射出。そこからダッシュを続けながら、引き寄せを開始する。

 

 俺は、ダッシュの移動エネルギーとグラップルの引き寄せが重なり、遠心力で浮き上がる。

 

 だが、それでは足りない。頭には届かない。だから途中で、ナイフによってグラップルの紐を切断した。

 

 俺の体が宙に浮く。素早くグラップルのカギ爪を交換しながら、ギリギリのところでゴーレムの側面に手を掛けた。

 

 崖登りの要領で、俺はゴーレムをよじ登る。

 

「くっ、もう一度だ! ゴーレムの一撃が防がれるなんて……ん? ガーランド君はどこだ」

 

 そこで、ナルシスが異変に気付く。しかしもう遅い。

 

「まずは一発叩き込む!」

 

 魔法回路を起動する。パイルバンカーの周囲に火花が散る。高圧のエネルギーの奔流が、パイルバンカーの内側で荒れ狂う!

 

「パイルバンカーぁぁああああ!」

 

 俺がゴーレムの頭に向けてパイルバンカーを叩き込もうとしたその時、その声は響いた。

 

「ナルシス君! ゴーレムの後頭部!」

 

「っ!?」

 

 その声を上げたのは、ウィズの拘束をギリギリで逃れて戦う、クラスの女子の一人だった。

 

 俺の目の前に、ゴーレムの巨大な腕が現れる。俺はすでにパイルバンカーを叩き込む姿勢に入っていて、止まれない。

 

 パイルバンカーが炸裂する。ゴーレムの腕が木っ端みじんに砕け散り、俺は衝撃で吹っ飛ばされる。

 

「なっ、なぁぁああ! ゴーレムの! ゴーレムの腕が!」

 

「うぉおおおおおっ!? 反動えっぐっ!」

 

「テクト君!?」

 

 俺は投げ出されて前後不覚になったところを、駆けつけたウィズに抱きとめられる。ウィズがほっと息を吐いてから、悔しげに歯を食いしばった。

 

「ごめんなさい、テクト君。まだ拘束が終わってなくて―――第四の花言葉、『死ぬまで気持ちは変わりません』!」

 

「んむぐっ!」

 

 血茨が、ナルシスに助言した女子を拘束する。今回は念入りに、口まで茨で覆っていた。痛そう。

 

「陰キャ! テクトは無事!?」

 

 そこに、アイギスも駆けつけてくる。俺が「無事だ!」と答えると「テクトの『無事』は信用ならないのよ!」と言われる。理不尽。

 

「無事です! ギリギリで助けられました!」

 

「良かったわ! それで、ゴーレムだけど」

 

 三人でゴーレムを観察する。

 

 ゴーレムは、パイルバンカーを防いだ左腕が、粉々に砕け散っていた。威力には何ら問題はない。頭部に叩き込めば、確実に砕くことができるだろう。

 

 しかし、それ以外は微妙だ。腕を一本失ったものの、ゴーレムの駆動には何も問題がないらしく、機敏に動いている。

 

 強いて言うなら、ナルシスが呻いているだけだ。

 

「このぉぉおおお……! 君たちは! 一体どれだけ僕をコケにすれば気が済むんだ!」

 

「お前だお前! お前が先に手を出してきたんだろ! やり返されて文句言うな!」

 

「ガーランド君! 君は騎士家の生まれなんて言う、平民同然の矮小な存在なんだぞ! 何故反抗するんだ! 僕に殴られたからって、僕に殴り返して良いと思っているのか!」

 

 とんでもないことを言うナルシスに、俺たちはもう呆気に取られてしまう。

 

 このレベルなのか。

 

 殴っておいて、殴り返されるような状況はありえちゃダメ、っていう考えなのか。

 

 俺は次の魔石をセットしながら、二人に言う。

 

「あのバカに地獄を見せよう」

 

「賛成。ドデカイ花火を咲かせて来なさい」

 

「……いや、もう、いいです。男子だからって庇うの疲れました。分からせましょう」

 

 二人から賛成を得たので、俺はニンマリと笑って、両腕を振るう。

 

「陣形はそのまま! ウィズはクラスの女子たちを完全に無力化して、ナルシスに情報も届けさせないようにしてくれ! アイギスは―――ちょっと考えがある」

 

 俺は素早くアイギスに考えを伝える。アイギスは「はっ? いや、テクト、正気?」と戸惑ったが、俺の目を見てため息を吐いた。

 

「分かったわ。ホント、男の子にしてはやんちゃが過ぎるけど……この場を打開できるのもテクトだけだしね。仕方ないから手伝ってあげる」

 

「ありがとな!」

 

「代わりに、ほっぺにチュー、マジで考えといて」

 

「そんな本気なの? ―――来たぞ!」

 

 ゴーレムが拳を振りかぶる。アイギスが前に出る。

 

「嘘だッ! ゴーレムの拳が人間なんかに防げるわけない! 僕のゴーレムは最強なんだぁ!」

 

 ナルシスが血走った目で喚く。ゴーレムの拳が迫る。

 

 だが、アイギスは変わらない。

 

「『小さな要塞』、舐めんじゃないわよ」

 

 激突。アイギスの防御は、やはり微塵も揺らがない。

 

 その激突と同時、俺は駆けだした。

 

 今度は、あえてナルシスから見えるように。するとナルシスが「ガーランド君! また君は何か企んでいるのか!」とゴーレムを操る。

 

 ゴーレムがこちらに向く。ゴーレムが拳を振りかぶる。

 

 その、振りかぶる拳の付け根、肩目がけて、俺はグラップリングフックを放った。

 

 巻き取り。俺の体が、強烈な力で浮き上がる。風圧と遠心力で、俺はゴーレムの拳スレスレを飛び上がった。観衆から悲鳴が上がるが、そんなの気にしない。

 

 俺は魔法回路を起動する。パイルバンカーに火花が散る。

 

 しかし、その程度の動きになら、ナルシスも対応できる。

 

「背後から失敗したのなら、今度は正面からというワケかい! なんて君はバカなんだ! そんな正々堂々な方法で、正面から負けに来てくれるなんて!」

 

 ゴーレムは、俺を正面から叩き落とそうと腕を振るう。俺はパイルバンカーを構え、ナルシスにこう言った。

 

「ああ、そうだよなナルシス。お前はバカだから、バカな手で行ったら、そのまま騙されてくれるよなぁ!」

 

 俺はパイルバンカーを振るう。杭が、火炎が炸裂する。

 

 ただしそれは―――空中で、だ。

 

 俺はパイルバンカーの反動で、爆発を推進力に、ゴーレムの頭上を通り越して落下する。

 

「なっ、くっ、目が焼かれる……!」

 

 空中で炸裂したパイルバンカーの閃光に、ナルシスの視界が潰される。俺はクルクルと空中を回転しながら、着地地点寸前で態勢を整える。

 

 そうしながら、告げるのだ。

 

「ナルシス。お前が今負けたのはな、機動力戦(鬼ごっこ)だ。機動力戦に負けた奴は、次の戦いを真剣勝負(ガチンコ)情報戦(かくれんぼ)か、決める権利を失う。そして」

 

 ―――情報戦にも負けたお前は、奇襲権をも奪われる。

 

 着地。だが、地面にではない。

 

 打ち合わせ通りに駆けつけた、アイギスの盾に、俺は着地した。

 

「テクト! いいのね!? やるわよ!?」

 

「ああ、やってくれ! 思いっきりな!」

 

 俺はアイギスの大盾の上で屈みこむ。岩のごつごつとした踏み応え。

 

 直後、アイギスの腕力で跳ね上げられ、俺は再び高らかに跳躍した。

 

「うぉおおおお!」

 

 魔石をセットしなおす。これが最後の魔石。最後のパイルバンカー。

 

 先ほどゴーレムに飛び上がったグラップルは、まだ外さずにいる。だから飛びすぎることはない。誘導は完璧。

 

 グラップルの巻き取りを始める。俺は急速にゴーレムの肩へと、その頭部へと引き寄せられる。

 

「ナルシスぅっ! お前にはドデカイの一発ぶち込んで、矯正してやるよ!」

 

「なっ、バカな! 君はさっき見当はずれの場所に撃って落ちたんじゃ、くっ、クソ! 何も見えない!」

 

 ゴーレムはナルシスの命令を受けたのか、やたらめったらに腕を振り回す。だが俺は、その上空、真上から襲ってきている。

 

 これこそが奇襲権。

 

 どれだけデカい一撃でも、ガードなしでぶち込める機会(チャンス)そのもの!

 

「やめろッ! やめろォッ! 僕は子爵なんだぞ! 子爵嫡男なんだぞ! 君ごとき騎士家の息子なんかに、負けて良いワケがな―――」

 

「パイルッ、バンカーぁぁああああ!」

 

 巨大ゴーレムの脳天に、俺は右腕を振り下ろす。

 

 そして、パゴォォオオオオオン! と軽快な金属音が響いた。

 

 杭と火炎が直撃して、ゴーレムの頭部がはじけ飛ぶ。「あふんっ」と声を上げて、破片と共にナルシスが落下する。

 

 その中に、俺は目的のモノを見つけた。スライムのようにふにょふにょと形を変える金属。ゴーレムの核金を。

 

「ちょうどよかった。これは貰っていくぜ」

 

 おれはグラップルの先端を素早く切り落とし、核金を掴んでカギ爪に交換した。

 

 核金が、俺の意思を汲んでカギ爪状に変化する。俺はひとまず頷いて、グラップリングフックを地面に向けて発射した。

 

 地面に突き刺さり、ガキンッ、と固定する。斜めの角度で俺は引き寄せられ、落下の勢いを横に流して、土煙を上げながら足で地面を擦った。

 

 腕を振るう。狙った通りのタイミングで、グラップルのカギ爪が地面から抜ける。

 

 俺はグラップルを完全に巻き取り回収して、満足しながら言った。

 

「最高の出来だ……! これぞグラップリングフック!」

 

「テクトぉぉおおおお!」

 

 そんな俺に、アイギスが駆け寄ってきて、魔法で瞬時に学生服に戻りながら、俺に抱き着いてきた。

 

「あんな! あんな危険なことして! ホントにもー! いっつもアンタは、アタシを心配させてばっかり!」

 

「はははっ、悪かったって。でも上手く行ったろ?」

 

「上手く行ったけど! でも、ホント、もー!」

 

「あはははっ」

 

 達成感に笑ってばかりいる俺に、アイギスは不満げに「む~っ」と唸ってから、ボソッと言った。

 

「ご褒美にほっぺにチュー」

 

「……いや、その」

 

「ご褒美。約束。した」

 

「し、してはない、と思うんだけど、あの」

 

「……~~~っ! じゃあもう、こうよ!」

 

 俺の肩を掴んで、アイギスは飛び上がる。それからぎゅうと抱き着いて、無理やり俺の頬にキスをした。

 

「っ、あ、アイギス……!」

 

「んふ、ふふ、えへへっ。ちょっと強引だったけど、これで約束は守られたってことで」

 

 赤面がちに、ニマニマとアイギスは笑う。

 

「煮え切らない態度のテクトが悪いんだからっ。べーっ♡」

 

 そう言って、アイギスは悪戯っぽく舌を出すのだった。

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