【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
解呪方法
俺、ウィズ、アイギスの三人は、『王家の秘密』の鏡から脱出後の翌日昼に、人気の少ない裏庭に集まっていた。
そんな俺たちの前に、地べたに正座するのは、ナルシスと代表の女子が二人ほど。
その従順な姿は、俺の昨晩から明け方にわたる、ガーランドブートキャンプの賜物である。
「それで? 結局どういう事だったのよ、アタシ達が襲われたのも、テクトが呪われたのも」
「……何でこの僕が、高位貴族とはいえ女子なんかに説明しなきゃならないんだ」
「はぁ!?」
アイギスの促しに反論するナルシス。アイギスはもちろんブチギレだ。
それに、俺は言う。
「腕立て伏せ十回」
「はいっ! やっ、やややや、やらせていただきます!」
ナルシスはビクゥッと肩を跳ねさせて、その場に腕立て伏せの体勢になる。女子も同様に腕立て伏せの体勢を取る。
俺は手を叩いて、リズムを取った。
「イチ、ニー、サン、シー、ニー、ニッ、サン、シー」
「うわ、リズムの回数だけ上下させられてますよこれ……」
「これ十回って言ってるだけで、実質二十回ね」
ナルシスが一回半(実質三回)でつぶれる。俺は言う。
「ナルシス! まだ一回半しか終わってないぞ! どうなってる!」
「教官! むっ、無理ですぅ! 僕には腕立て伏せ十回は無理ですぅっ!」
「甘えるなこの新生児未満が! 俺の家じゃみんな生まれて三日で、腕立て伏せの百回や二百回は余裕でこなしてたぞ!」
「それはテクト君の家がおかしいですよね」
ウィズのツッコミをスルーして俺は続ける。
「じゃあできなかった分はどうする! いつ誰がやってくれる!」
「そ、その、この二人が」
「あ゛ぁっ!?」
「ひぃっ! あ、明日の! 明日の僕が責任を取ります! 今日より筋肉の付いた明日の僕が!」
「一日でそんな筋肉つくワケねぇだろ!」
「そっ、それでも! それでもやります! やらせてください!」
「よし! じゃあ明日に残りの腕立て伏せをしろ!」
「はい!」
俺は腕を組んで頷く。ウィズとアイギスが「いや、すごいですねこれ……」「良くもここまで躾けたものよね……」と感心半分恐怖半分で言う。我が家の基本的な訓練なのに。
「で? 改めて聞こうかナルシス。『王家の秘密』っていうあの鏡について、一通りな」
「はい! 話させていただきます!」
腕を地面につきながらまったく起き上がれないナルシスを、女子二人が支えてやっと、ナルシスは起き上がる。
「その、ガーランド君が蝕まれたのは、先代のオルヴィエート家が、王家の試練を模して作った罠であり、呪いになります」
「……順を追って話せ」
「はい。事の起こりは、先代王家の実権争いにあります」
ナルシスは、コンスタンティン王家の歴史についてを語った。
それは、なんて事のない権力争いの話だった。
現王家正妃とて、最初から正妃だったわけではない。権力争いに勝利して、王子を生み正妃となった。
その過程で、正妃が王から嫌われるように仕向けたりだとか、そもそも正妃の命を狙おうとする暗殺騒動だったりなんかも、頻繁に起こったそうなのだ。
「『王家の秘密』とは、僕の母親……先代オルヴィエート家が、現王妃の政敵である妃に依頼され、作り出したものなのさ。学生の時点で優秀だった正妃を呪うものだった」
だが結局、当時それが使用される事はなかった。
そのまま放置された『王家の秘密』は学校の怪談となった。というのも、巨大ゴーレムが侵入者を始末しては被害者の記憶を奪い、結果ぼんやりとした情報ばかりが広がったから。
だが詳しい者が見れば、誰がどんな意図で作ったのかが分かってしまう。そうなれば、ナルシスのオルヴィエート家の没落に繋がる。
「だから、僕は在学中にこの『王家の秘密』を処理する必要があったんだよ。呪い発動前には鏡は破壊できないから、呪いが無効化されるオルヴィエート家の手で解く必要がね」
つまり、過去の身内の尻拭い。それがナルシスの本当の目的だったのだ。
そんな話を一通り聞き終えて、俺は言った。
「王家の秘密じゃなくて、お前ん家の秘密じゃねぇかバカヤロ―――――ッ!」
「ぎゃぁああっ!」
俺はナルシスを盛大に蹴り飛ばした。ナルシスは叫びながらぶっ飛ぶ。
「ナルシス君!」「大丈夫っ? ナルシス君!」
補助の二人の女子が、ナルシスを助け出す。俺は頭を抱える。
「何かいかにも過ぎると思ったんだよなぁ! ちょっと考えれば何とかなる程度の難易度だったし! 好奇心猫を殺すってのはこういうことかおい!」
確かにあの難易度だったら、ちょうどよく障害を乗り越えて、伝説の宝ゲット! みたいな感じになるわ! 油断するわ! 俺だってしたんだもの!
「い、いや、ガーランド君が乗り越えた試練の難易度は、本当の王の試練通りというか、内容丸パクリと言うか」
「私もちびっこも結構困るくらいには難易度ガチだったと思いますよ」
「陰キャはずっと水面の古代文字と睨めっこして、水底に全く気付かなかったものね」
俺が嘆いていると、いつのまにかナルシスがわたわたし、ウィズとアイギスが取っ組み合いのケンカをしている。どういう状況だよこれ。
俺は咳払いをして、ナルシスに聞く。
「で、この呪いは結局何なんだ? ちょっと痛くはあるけど、それ以外の体調の変化はないぞ」
わずかな鈍痛だけなので、昨日は放置して寝てしまったほど。起きても変化とかなかった。
それに、ナルシスは目を泳がせて、言った。
「……分からない」
「は?」
「いやあの、ほ、本当に分からないんだよ! 僕が解いて鏡を壊して回収するだけのつもりだったから! とはいえ、無関係の人が死ぬような呪いではないって聞いてるけど」
俺が握りこぶしを掲げてナルシスの襟首を掴むと、ナルシスは首をぶんぶん横に振って弁明だ。
この感じだと、本当に知らないらしい。
俺は腕を組む。無視できるとはいえ、鈍痛は鈍痛で不快なのだ。
「どうしたもんかなぁ……」
「うーん、ちょっと見せてもらえますか? 模様の感じで、魔法の種類が特定できるかも」
腕をまくり、ウィズに見せる。俺の腕に触れながら、じっと見入っている。
「……すいません、分かりません。魔法ではないことしか、私には分からなかったです」
「は? 陰キャアンタ役得だけして役に立たないとかふざけてんの? アタシもテクトの腕に抱き着くわよ?」
「私の行動より過激になってるんですけど! じゃあ私はテクト君の胴体に抱き着きますよ!?」
「はぁっ!? じゃあアタシは今度こそテクトに、ほっぺにチューしてもらうから!」
「俺へのセクハラで競い合うな」
こいつらちょっと仲良くなったと思ったら、何か違う競い合い方してないか?
すると、「うーん……まぁ、じゃあ、アタシのツテを当たってみる? あんまり借りを作りたくない相手だけど」とアイギスが提案する。
「アイギスのツテ?」
「そうよ。偶然にも、同じクラスにいるし」
「誰が。呪いの専門家が?」
首を傾げる俺に、アイギスは首を横に振った。
「違うわよ。っていうか、テクトもチラッと見たことあるでしょう? アタシが言ってるのは―――」
アイギスは、驚きの名を口にした。
「テクトの呪いの、本当のターゲットの関係者。現王妃、その娘の王女殿下に、よ」