【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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パーフェクト付き人テクト君

 アイギスの推察する通り、第三王女イリューシアこと、シアは男嫌いである。

 

 というよりは、女子の何割かは、基本的に男嫌いだと表現するのが適切だろう。

 

 驕り高ぶった態度。感謝など知らない人間性。攻撃は自分だけがしていいと考える身勝手さ。

 

 そんな相手との婚活を強いられるのが、この世界の女である。当然に辟易するし、反動で嫌悪までいく者も少なくない。

 

 だからこそ―――そんなご時世の中で見つけた無防備な少年、テクトのことが、シアは気になっていた。

 

「……ぷっ、ふふ。男子が、あんな無防備で昼寝、うふふっ、うふふふふっ」

 

 男子は基本的に女子を警戒している。

 

 平民では()()()()話も度々聞くし問題になる。貴族でも、身分が高ければ見ただけで大事、なんてことはそう少なくない。

 

 その前提で言えば、男子一人での昼寝は、例え学内でも『ありえない』の一言だ。

 

 それが、あの堂々たる昼寝っぷりである。

 

 とんだ度胸の持ち主だ、と感心半分。危機感のない姿に面白さ半分で、シアはテクトのことを捉えていた。

 

 それが、テクトとの初対面。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

 次に会ったのは、その日の放課後。下級貴族男子と逢引きするという噂のあった、アイギスを諫めていた時のことだ。

 

 アイギスも根本的には男嫌いのはずと知っていたから、報告が上がってきたときは驚いた。そして向かう先でテクトが座っていたから、すぐに納得した。

 

 面白かったのはここから。

 

 なんとテクトは、女子たちが言う男子への陰口に、ウンウン頷いていたのだ。

 

 それを見ていたシアは、もう笑いをこらえるので精いっぱいだった。

 

 まるで「自分もひどい目に遭わされたもんだ……」という顔をしているのが、面白くて仕方がなかった。確かにこんな面白い男子となら、一緒に過ごして楽しかろうと。

 

 三度目の出会いは、アイギスによって連れてこられた『呪い』の一件。その解呪についてはいくらか検討しつつも、シアは考えた。

 

 他の男子とは違う男子。頭も回り、礼儀や気遣いも繊細、しかし無防備で無垢な、面白い男の子。

 

 ―――その化けの皮を、ぜひ剥がしてみたい、と。

 

 どんな素敵な殿方でも、一皮むければただの卑しい男。それがシアの信条である。

 

 だから、一皮むいてやることにしたのだ。解呪の条件に、無茶振りを繰り返すことで。

 

 

 

 

 

 テクトを付き人に迎えた翌日の朝、ヘッダに身支度を整えてもらったシアは、笑顔で食卓へと向かっていた。

 

 いつも通りの朝、いつも通りの朝食である。シアはいつも通りのアルカイックスマイルと共に「そういえば」とメイドのヘッダに声をかける。

 

「昨日に付き人の訓練を付けるように言った彼だけれど、どう? もう逃げ出してしまったかしら?」

 

 メイドのヘッダの教育は、王宮時代から苛烈で知られていた。

 

 とにかくあらゆる物事に厳しいのである。主人に出すグラスに、曇り一つ認めない完璧主義の潔癖症。それを、自他ともに求めるのがヘッダというメイドだ。

 

 女でも一日でヘッダの教育から逃げ出す、という評判すらあった。そんな鬼メイドの下では、甘やかされた男なんてひとたまりもないだろう。

 

「逃げてしまったのなら、仕方ありませんわね。解呪は恐らく危険ですし、彼自身は少し不便なくらいですから、このままで甘んじてもらいましょう」

 

 シアは一人合点してそう呟くと、食卓の扉を開けながら、ヘッダはしずしずと口を開く。

 

「お言葉ですが―――テクトさんは、昨日のたった数時間で、付き人としてワタクシが必要と考える水準を超えております」

 

「おはようございます! シア様。僭越ながら、本日の朝食は私がご用意いたしました」

 

「……えっ?」

 

 扉を開けた先で待っていたのは、料理を食卓に並べる、元気いっぱいのテクトの姿だった。

 

「……ヘッダ?」

 

「シア様。使用人相手でも礼節を疎かにせぬよう、お教えしたはずですが」

 

「えっ、ええ。……おはようございます、テクト」

 

「はい、おはようございます。では、どうぞこちらに」

 

 何故か逆にヘッダに怒られてしまいながら、シアはテクトの引いた椅子に腰を下ろす。

 

 それから食卓の料理を見て、息を飲んだ。

 

 トースト、サラダにスープ、そして輝かんばかりの丸々としたオムレツ。朝食らしい軽食ながら、丁寧な調理に輝いて見える。

 

「……ヘッダ、腕を上げた……?」

 

「テクトさん自身が言っていたでしょう? こちらはテクトさんが用意したものですよ」

 

「なるほど……」

 

 シアはごくりとつばを飲み下す。緊張と、信じられないという気持ちの両方。

 

 だが、朝の空腹の前にこれほどの朝食が並べられては、王女と言えど抗えない。

 

「……いただきます」

 

 シアは一つ言ってから、フォークで朝食を口に運んだ。

 

 そして、絶句した。

 

「っ……!」

 

 美味しい。ものすごく。

 

 ヘッダも相当に料理の腕があるはずなのに、それを超えてくるほどの味だった。朝食なんて、傍から見ている分には焼いて並べるくらいのものだったのに、ここまで違うとは。

 

「どうですか? シア様。ご満足いただけてますか?」

 

 笑顔で尋ねてくるテクトに、シアは「え、ええ」と頷きながら、パクパクと食事の手を進める。

 

 美味しい。トーストがカリカリで、噛めば噛むほど小麦の甘味が口いっぱいに広がる。サラダもドレッシングが濃厚で目を瞠るほど。

 

 だが、筆舌に尽くしがたいのは、オムレツのとろとろ具合だ。

 

 フォークで割ると、半熟トロトロの中身がこぼれだす。それにトーストを付けて食べれば、もう唸るほどおいしい。

 

 最後にスープを飲み干せば、シアは満足感に「はぁぁぁ~……」とため息を吐いてしまうほど。

 

「お気に召しましたか?」

 

「……ハッ」

 

 テクトに笑顔で呼びかけられ、シアは我に返る。

 

 それから咳払いをして、笑顔で言った。

 

「ええ、とても驚きました。お料理が上手なのですね、テクト」

 

「そういっていただいて嬉しいです。あまり料理をしない身なので、心配で」

 

「えっ」

 

「では、引き続きごゆるりと」

 

 音もなくテクトは厨房に戻っていく。シアは困惑と共に、そばのヘッダに問いかけた。

 

「これを出しておいて、あまり料理をしないって……」

 

「最初に腕前を見たら、焦がしておりました。こうするのですよ、と一度見せて教えたところ、次にはワタクシを超えておりました」

 

 感心半分、諦め半分の表情で、ヘッダは続けた。

 

「ワタクシも数十年と生きてきましたが、天才とはテクトさんのような方のことを言うのですね。男でさえなければ、育て上げて正妃付きに推したでしょう」

 

「……そうですか」

 

 ヘッダが入れた食後の紅茶を口にしながら、シアは思った。

 

 ……あのヘッダにここまで言わせるって、彼は何者なのだろう、と。

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