【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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お忍びデート

 這う這うの体でシアの寝起きの世話を終えると、隣で歩きながらシアは言った。

 

「にしても、テクトはウブですわね。うふふっ、まさかちょっと女の裸を見た程度で、ああまで狼狽えるだなんて」

 

「っ!? おまっ、全部覚えて……!?」

 

「うふふふふっ。男の子の胸板に触れるわけでもないのですから、ブラジャーくらい淡々と付けてしまえばいいですのに」

 

 貞操逆転世界だけあって、王族でもその辺りに何の抵抗感もないのだから恐れ入る。

 

 貞操逆転フィルターで考えるなら……王子の着替えにめちゃくちゃ照れるメイド、という感じか。胸板で慌てふためく様子は、確かに可笑しかろう。ガッデム。

 

 クソ、理不尽だ。適当なタイミングで胸板押し付けて慌てさせてやろうか、と俺はジロリとシアを睨む。アレだけ世話を焼かせておいてこいつ。

 

「でも、驚きました。まさか休日まで、来て下さるなんて思っておりませんでしたので」

 

 淑やかにシアは言う。俺は肩を竦めて答えた。

 

「ヘッダさんからも『休んでいい』とは言われてたんだけどな。偶々友達が揃って用事だって言うから、こっち来たんだ」

 

 ウィズもアイギスも、ものすごく申し訳なさそうな顔で断ってきた。代わりに明日は遊ぼうという話になっている。何か特別な用事があるらしい。

 

 そうして暇を持て余した俺は、それならば、と今日もバイト感覚で付き人に赴いたワケだ。

 

「そうですか……。あの二人とは、仲がいいのですよね?」

 

「うん、そうだな。数少ない俺の友達だ」

 

「男子で友達が少ない……?」

 

「何だよ」

 

 俺がシアを見ると、「い、いえ。お気になさらず」とシアは誤魔化す。何やねん。

 

 ま、それはいいか。俺はシアに問いかける。

 

「逆に、シアは今日何するんだ?」

 

「特にこれと言った予定はありませんが……。何もない日は基本的に勉強で一日を終えますね。社交ダンスや楽器、外国語や魔法に、乗馬や護身術など、内容は様々ですが」

 

「え……?」

 

 遊び盛りの若者が、休日を勉強で……?

 

「……何ですか、その信じられないという目は」

 

 ぷく、と頬を膨らませるシア。俺はシアについて考える。

 

 王族で有能で腹黒で、と考えていたが、思ったよりも可哀想な面が目に付くようになってきた昨今である。

 

 朝は弱くて叩き起こされるし、休日は勉強漬けだし。

 

 だから、俺は言った。

 

「なぁ、シア。……お忍びで、街に行かないか? ヘッダさんの目を盗んでさ」

 

「えっ?」

 

 俺の提案に、シアは目を丸くする。

 

 

 

 

 

 という事で、俺たちは示し合わせて、ヘッダさんの目を盗んで寮を抜け出していた。

 

 やったことは簡単だ。二人で勉強会をする。集中しているから入ってこないで、と告げて、窓から抜け出すだけである。

 

 幸いにして屋根伝いに降りるルートが出来ていたので、グラップリングフックの活躍はなかった。順当に地上に到着だ。

 

 そんな訳で、シアは素性を隠すフードの服を羽織って、俺と一緒に街に繰り出していた。

 

「わぁ……!」

 

 目を輝かせて、シアは人の行きかう街並みを見つめている。

 

「てっ、テクトっ。人がいっぱいです! 下町ってこんなに人がいるんですねっ」

 

「え、あ、うん。……シア、もしかして初めて?」

 

「は、はい。すいません、はしゃいでしまいました……」

 

 シアは照れて目を伏せる。

 

 そんな様子が何ともくすぐったくて、俺は笑ってシアの手を取った。

 

「じゃあ、楽しめるように案内しないとな。ほら、こっちだこっち!」

 

「わっ、ちょっ、テクトっ?」

 

 俺はシアの手を取り、軽やかに歩き出す。

 

 シアは本当に下町のそれこれが初めてだったと見えて、何事にも目を輝かせていた。

 

 例えば、出店の串を渡すと、目を丸くした。

 

「こ、これは……」

 

「焼き鳥。まさか鶏肉を食べたことがないとは言わないよな?」

 

「は、はい。あります。あの、パーティで出される丸焼きですよね?」

 

「それ七面鳥じゃない?」

 

 俺がツッコミながら食べると、シアもそれに倣って、一口目を頬張る。

 

「っ! ~~~!」

 

 シアはお気に召したようで、嬉しさを隠しきれない、という顔で咀嚼している。

 

「すごいっ。テクト、味が、味が濃いです! 下町にはこんな味が濃い食べ物があるのですね!」

 

「表現だよな」

 

 もっと何かあるだろ、と思うが、日頃のヘッダさんの料理とか、それに合わせた俺の料理は、確かに味付け薄めだ。

 

 味を濃くすると、ヘッダさんに怒られるんだよな。あの人毒味でちょこっと食べるから、勝手なことをするとバレるのだ。

 

「ん、ぁ、んん……」

 

 と思っていると、シアは二口目をどう食べて良いものかと、焼き鳥串と格闘し始める。

 

 ……ああ、そうか。初めて食べるから、深く刺さった具をどう食べていいのか分からないのか。

 

「こう食べるんだよ」

 

 俺は串を横にして口でスライドさせるようにして食べる。

 

 するとシアは怪訝そうに言った。

 

「……口元汚れませんか?」

 

「拭け」

 

「ど、どうやって拭いたら」

 

「ああ、じゃあもういいよ! 俺が拭くよ!」

 

 本当にどうしていいか分からない様子だったのでそう言うと、シアは安心して焼き鳥を食べ始めた。

 

「ん~♪ 味が濃くておいしいですねぇ」

 

 口元を汚しながら食べるシア。最初のイメージと違って、手のかかる妹みたいな奴だな、と思いながら、俺も焼き鳥を食べる。

 

 揃って食べ終えると、シアの口元がベッタベタに汚れていたので、ハンカチで拭いてやる。シアはされるがままに唇を突き出している。

 

「よし、拭けたぞ」

 

「ありがとうございますっ」

 

 ニッコニコのシアである。俺は、日常生活が疎かな奴だなぁ、と苦笑する。

 

 そこで、聞き慣れた声が聞こえた。

 

「ちびっこさん、目当てのものが買えてよかったですね」

 

「そうね、陰キャ。代わりに結構値が張ったけど」

 

「金貨一枚をぽんと払うんですから、大貴族ですよね~」

 

「あ、ウィズとアイギス」

 

 俺が発見した直後、シアが俊敏に動いた。

 

「うぉっ?」

 

 物陰に連れ込まれる。壁に押し付けられ、胸元が俺のみぞおち辺りに押し付けられる。柔らか―――そうだこいつ、今日ブラしてない!

 

「ちょっ、し、シア。胸、胸当たって」

 

「しっ、ししし、静かに」

 

 しかしシアは極度に緊張した面持ちで、俺の耳元に囁いた。なになに。何なんだ。

 

「……そ、その、あの二人は遭遇する度に『テクトの付き人はまだ終わらないのか』って睨まれるので、み、見つかるとややこしいことになりそうで」

 

「あー……」

 

 あの二人、喧嘩っ早いからな。よく俺をダシにケンカしてるし。

 

 アイギスは身分的にも普通にケンカを売るし、ウィズも閾値を超えると誰が相手でも杖を抜く。確かにここは、隠れるのが適切かもしれない。

 

 そんな風に思っていたら、シアが目をぐるぐるさせながら、こんなことを言い出す。

 

「ばっ、バレたらどうしましょう? こんな密着したところを見られたら、アイギスはわたくしを当然のように殴るでしょうし、もう一人も平気で杖を抜くはずです」

 

「ああ、うん。そのくらいはやるかもな。ひとまず、静かに」

 

「そっ、それどころかアイギスはわたくしの四肢を引きちぎったり、もう一人はわたくしを魔法の実験台にしたりするかも……!? いっ、今なら奇襲で勝てますかね!?」

 

「落ち着け。シア、思ったよりテンパり屋か?」

 

 あとウィズの名前を覚えてやれ。

 

 俺はシアが暴れないように押さえておく。するとウィズとアイギスの二人は、楽しそうに言葉を交わし合う。

 

「でも、載ってるといいですね! テクト君の呪いの解呪方法!」

 

「そうね。明日はテクトと一緒に遊ぶ予定だし、そこで試しましょ」

 

「はい! これで解呪出来たら、やっとテクト君が私たちのところに戻ってきますね!」

 

「ええ。頑張るわよ~!」

 

 二人は頷き合って、去っていく。

 

「二人とも、俺のこと考えてくれてるんだな……」

 

 俺はちょっと感動してしまう。

 

 っていうかあの二人、俺がいないとケンカしないのな。何でだよ。俺の前でも仲良くしろ。

 

「……よし、行ったな。もういいんじゃないか?」

 

 俺はシアに言う。しかしシアは俯いて、じっと考え込んでいる。

 

「シア?」

 

「……そうですよね。これだけ尽くしてくれているのですから、解呪に動かねばなりませんよね」

 

 ポツリと、シアは呟く。

 

 それから、顔を上げた。

 

「テクト、来週の休日までに、解呪の準備を整えておきます。あの二人の解呪は成功しないでしょうが、長くともそれで付き人は終わりです」

 

「え? お、おう。そっか……」

 

「はい。では出ましょ―――」

 

 そう言いながら、シアが顔を下げた時だった。

 

「っ!? ちっ、ちかっ。ごめんなさい! こっ、こんな胸元の近くに顔を寄せて! あっ、あの、そっ、そんなつもりじゃ!」

 

「えっ、何? ……あっ、胸板!?」

 

 シアが俺の胸板が眼前にあったことを今自覚したらしく、顔を真っ赤にして仰け反る。

 

「わっ、わわわわわ、わたくしったら、殿方とこんなちっ、近くにっ、あっ、あの、大変申し訳なく、そのっ」

 

 両手を上げて降参のポーズをするシア。

 

 それに俺は、半眼で言った。

 

「シアの方がずっとウブじゃねーか」

 

 胸板なんていくらでもくれてやるわ、こんなもの。

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