【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた   作:一森 一輝

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廃城跡の殲滅戦

 翌日の放課後、俺は装備を整えて、シアと共に学外へと出ていた。

 

「儀式は、廃城跡で行います。廃城跡は知っていますか?」

 

「知ってる知ってる。ゴーレムがやたらいる場所だよな」

 

 学外禁止期間でもなければ、そこに行ってゴーレム砕いて核金取って終わりだったのだが。何の因果か、呪刀に呪いまで手に入れてしまったのが、最近の話。

 

「はい。わたくしが血統魔法でゴーレムを一掃しますので、それが完了したら城の内部で儀式を執り行う、という予定です」

 

 今回の予定を、シアは簡単に説明する。

 

「ちなみに、何で廃城跡?」

 

「……立地上、ちょうどいい場所ですから」

 

「ふーん?」

 

 何か誤魔化すような物言いだが、今更シアが妙なことをするとも考えづらい。俺は軽く聞き流しておく。

 

 廃城跡は学校からは少し遠い場所にあったから、俺たちは適当な馬を駆って、そこに向かっていた。乗馬も実家で随分やったのでスムーズだ。

 

 一つ気がかりな点があるとすれば、シアが以前のお忍びのテンションで俺を連れだしたこと。つまり、遠出するのに俺以外、ヘッダさんも誰も連れていない点。

 

 まぁ、シアも王族だけあって強い血統なのだろうが……身分を考えると、多少違和感のある行動ではある。これにも何か意図があるのか。

 

 しばらく進むと、廃城跡が見えてくる。小高い尖塔。所々に崩壊のほころびが見える外壁。

 

 森の中に顔を出す、廃城跡。そこが、俺たちの目的地だった。

 

 

 

 

 

 この廃城には、実はちょっとした怪談がある。

 

 とある、騎士と貴族の話だ。昔々あるところに、貴族に重用される騎士がいた。

 

 その騎士は貴族に忠誠を誓っていた。まるで父のように思っていたそうだ。

 

 だが、貴族はあるとき、騎士を死地に向かわせた。騎士は貴族に強く説き伏せられ、たとえ死ぬとしても父と慕った貴族のためならばと向かった。

 

 そして騎士は奮戦の末、命からがら勝利を収めた。ボロボロの体で、たった一人で貴族の元に戻ったのだ。

 

 すると、貴族は身内で酒盛りを開いており、帰ってきた騎士に気付かずこう言った。

 

『ああ清々した! 我が名誉を掻っ攫う盗人を、やっとお払い箱にできたぞ!』

 

 それを聞いていた騎士は、貴族の言葉に絶望し、貴族を始めとした城の全員を殺し、最期には自刃したという。

 

 ここにいるゴーレムは、その際に殺された使用人たちの無念が宿っているそうだ。

 

 ま、俺に言わせりゃアレだ。

 

「無念なのは騎士だろ」

 

「何か言いましたか? テクト」

 

「いや、独り言だ」

 

 馬から降りた俺たちは、徒歩で廃城跡に向かっていた。

 

 丈夫な靴で、不整地を進む。土のニオイ、草のニオイが濃くなってくると、人間の領域外に入った、という実感がわいてくる。

 

 近づくと、見上げるほどに高い城跡だと知った。かつての貴族は、中々偉い立場だったようだ。

 

 もっとも、身分に人格はついては来ないのだが。

 

「ここで良いでしょう」

 

 城に入る寸前で、シアは足を止めた。懐からハンドベルを取り出す。

 

 つまり、『幻影妃』の呼び鈴を。

 

「では、始めますわ。テクトは危険ですから、下がって見ていてください」

 

 言って、シアは鈴を振るった。

 

 甲高い鈴の音が、辺りに響く。それに呼応するように、幻影たちが現れる。

 

 以前書類整理で現れた、騎士の姿。だが、それだけではない。

 

 無数の多様な兵士たちが、続々とシアの周りに姿を現した。標準的な剣士、弓兵、槍衾を展開する槍兵、全身鎧の大柄なメイス兵など。

 

 その数、ざっと30ほど。おお、と俺は感心させられる。

 

 そして、シアは言うのだ。

 

「殲滅なさい、幻影騎士団」

 

『御意』

 

 その命令を聞くや否や、整然としていた幻影の軍隊が、一斉に飛び出した。

 

 先陣を切ったのは、やはりというか、騎士団長だった。誰よりも俊敏に砦に突撃し、その後に騎士たちが続いていく。

 

 騎士団は列をなして廃城跡に入っていく。ドドドド、と軍靴の音が前進する。

 

 それから少しもしないで、シアの幻影軍は廃城跡に呑み込まれて行った。

 

 一瞬の静寂。

 

 直後、轟音が鳴り響く。

 

「っ!? なっ、何? 何が起こってんだ!?」

 

「男の子の知らなくていいことです。男の子はみな、こういった荒事が苦手でしょう?」

 

 俺の戦闘能力を知らないのか、淡々とシアは舐めたことを言ってくれる。

 

 おかしいな。呪いの経緯を話した時にそれっぽいことを話したつもりだったのだが。先入観で、俺が戦えるって可能性を認識していないのか。

 

 城の中での音は続く。ガラガラゴロゴロと瓦解音が断続的に響く。なるほど確かに、これはゴーレムとの戦闘音だ。

 

 そう思っていたら、シアがわずかに眉をひそめて、こちらに向かってくる。

 

「テクト、怖ければ目を瞑ってください。あなたの安全は、わたくしが保証します」

 

「え? いや、大丈夫―――」

 

 キョトンと俺が答えた瞬間だった。

 

 城壁の一部が崩壊して、ゴーレムが上階から飛び出してきた。それを追うように、幻影騎士たちが追いすがる。

 

「うぉっ?」

 

 幻影騎士たちは、死も恐れないとばかり、落下するゴーレムによじ登る。ゴーレムは地面に落下し、その衝撃に頭部にひびが入る。

 

 ゴーレムの頭蓋にしがみつくのは、騎士団長だった。

 

 そのひびに、寄ってたかって幻影騎士たちは、得物を突っ込む。

 

 力任せに、まるで軍隊蟻のように、幻影騎士たちはゴーレムを倒してのける。頭部を砕かれ、核金と魔石をこぼしながら、ゴーレムは息絶えた。

 

 シアが、頷いて俺を見る。

 

「アレで最後ですね。……目は瞑らなかったのですか? 勇気がありますね」

 

「俺のことなんだと思ってんだ」

 

「……うふふっ。確かに、テクトなら物怖じなんてしそうにもありませんでしたね」

 

 貞操逆転世界だからか、勇気のある女の子、みたいな扱いをされることに、俺はむっつり遺憾の意。舐めんなよマジで。

 

 でも、だ。

 

「今日、初めて笑ったな」

 

 俺が言うと、シアは目を丸くして、口元に触れる。

 

「……そう、でしたか?」

 

「ああ。昨日からずっとむっつりしてたぞ、シア」

 

「そうです、か……。それは、失礼しました」

 

 シアは僅かばかり考えるように俯いたが、すぐに顔を上げて歩き出した。

 

「では、行きましょうか」

 

 シアの後に俺も続く。

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